46億 中本登場
この物語を読んでいる皆さんは「土下座」と言うものをされた経験がおありだろうか?
俺は証券会社の仕事柄、株価が大暴落した時なんかに顧客の前で土下座した事は何度でもある。
しかし今回は初めて「される側」を経験したのだ。
田主社長の指示どおり翌日の3時、新神戸駅に約束通り俺は中本と会うために向かった。
お互いの特徴や服装は事前に伝えてあるから会えばわかるはずだ。
予定の新幹線がホームに入ってきてドアが開いて中本と思う人間が俺に近づいてきた。
てっきり一人で来るものと思っていたら奥さんと思しき女性もそばについていた。
いきなり中本が挨拶してきた。
「失礼ですが、太田さんですか?」
「はい、そうです」
と言うと中本夫妻は人がたくさん往来しているにもかかわらず、いきなり土下座をしたのである。
これは目立つ。
もちろん周りは、乗り降りする客でいっぱいなので、何が起こってるのかみんな怪訝そうな顔で通り過ぎていった。
「まーまー、中本さん。土下座はとにかくやめてください。立って立って。さあ話ができる場所に移動しましょう」
と言うことで、俺たちは新神戸駅の近くの中華レストランに入った。
「太田さん、改めて自己紹介します。私がベット・ヨーロッパ社の中本で、これがうちの家内です、今後ともよろしくお願いします」
「はい、太田です。こちらこそよろしくお願いします」
と互いに名刺交換をする。名刺にはベット・ヨーロッパ株式会社 極東支配人という肩書が書いてあった。
「田主社長には本当に今回はお世話になりました。先日1億円の着金は確認しております」
「え?あのオッさん、既に1億円払ったのか?」
と心の中で驚きながら「じゃあ今日の俺の仕事はいつたい何だ?」と考えた。
「で、今後の打ち合わせをしたいと思います」
「今、1億の送金が終わったと聞きましたがそれなら打ち合わせの必要はないですよね」
「はい、手付け金としての一割をいただいたまでです」
瞬間、俺はゴールが10億の話だと理解した。
要するに奴等は600円持っている人から10円を毟り取ろうとして、先に1円をゲットしたところである。
「まずは太田さんに我々の会社の内容からお話ししたいと思います」
と中本はパンフレットを出してきた。
「ヨーロッパではいろんなスポーツや競技に掛け金を張ることができる会社があることをご存知ですよね」
「ああ、よく知ってる。サッカーなんかで賭けに負けた連中が大暴れするのは有名だからな」
「そうです。賭けの胴元はベッティング会社といまして、サッカーだけでなくF1やテニス、オリンピック各種目、日本の相撲なんかも『賭けの対象』としてます」
「相撲もありか?なんかすごいな」
「そればかりではありません。王室で次に生まれる子供が男か女かみたいなものにも金をかける連中なんです」
「へー」
「もちろん全て合法です」
「なるほど。日本で合法的な博打はは競馬、競艇、競輪ぐらいしかないからな」
「はい、それが我がベット・ヨーロッパ社では初めて日本上陸を試みることになりました。日本でも同じようにスポーツにベットできるようになります。その加盟金が10億円なんです」
「10億ですか。結構な金額ですね」
「はい、しかしこの10億は将来的に100億や1000億になります」
なんか俺は、自分が株を勧めている客の心境がわかる気がした。
「田主社長にはすでに1割の1億円を手付け金としてお支払いしていただています。太田さんの承諾と後の細かい条件が揃えば残りを支払うと言ってますので、今日のこの会議になってます」
「なるほどな。オッさんは俺に全部の判断と責任を委ねようとしてるわけだな」
俺は心の中で思ったが、その割には隠し事が多いのが気にかかった。
「分りました。じゃぁ御社の会社概要を教えて下さい」
中本はカバンの中から分厚い説明用の資料を取り出した。
「こいつの今日の仕事は、俺をなんとか落として田主社長から残りの9億を毟り取り『任務完了』と言ったところだな」
よし中本、来るなら来い!




