プロローグ
都内の某駅前ロータリーのすぐそばにはビル群がある。割かし大きな駅内の喫茶店を横目に歩いていくとある古めかしいビル郡だ。大きいビルもあるのだが,中には意識をしないと見落としてしまうくらいの小さいビルもある。その中で,僕と親友は性質の悪い集団に警棒を持って追いかけられていた。
「待たんかコラァッ!!」
白いシャツを着て黒いズボンをはいた,はげ頭の体格のいい男が警棒を振りかざしながら逃げる僕たちに迫ってきていた。
小さいビルには廊下と呼べるようなものはないので,各部屋から各階のロビーに出て,階段を上がって逃げるのだった。
「今の聞いたかい,中村?ああいう輩って本当にあんな台詞を吐くんだね。君の趣味にしている作文にもぜひ書いておくといいよ。」
「ここから生きて出られるんだったら僕の今日の下着の色だって書いてやるさ。」
息を切らしながら階段を駆け上がり,上のフロアで何か武器を調達しようかと辺りを見回した瞬間,僕の目の前でさっきと同じような男がナイフを振り上げてきた。
「てやっ」
振り上げた男の腹に親友は一蹴りいれ,男は壁際で大きく伸びてしまった。
「下の階だけじゃなく上もダメなのか!おい中村,階段に戻るぞ。屋上に行く!」
「屋上に行ってどうしようっていうんだい?捕まるくらいなら一緒に心中でもするのか?今すぐ戻って事情を説明したほうが絶対にいい。」
「僕を信じて。きっといい考えがある。」
そう言って親友はもう一人隠れていた男が襲いかかるとこれも拳で黙らせた。
「行こう。」
再び階段を駆け上がるが,下から2、3人ほど追いかけてくる音がした。
「この国の銃刀法違反が機能していてまったく助かった!僕の拳も鉛球の前では豆腐も同然だからね。」
「へえ,鉛球で楽に死ぬのと警棒で頭を殴られながら死んでいくのとだったら僕は圧倒的に前者が良いけどね。」
「大丈夫まだ助かるさ。そおら屋上の扉だ。」
鉄の扉を開けるとそこには小さい屋上があった。下には通勤途中の人々の姿がみえる。
高さはそこそこだが,打ち所が悪ければ確実に死ぬ。もし彼の考えがここから飛び降りて脱出する。というものだったら生きて地上に降り立てる確率はほぼないだろう。だったら今からでも降参して敵に事情を説明した方がはるかに生存率は高い。
「ねえ,やっぱり戻って話そう。例え生きて帰れたとしても毎日患者さんに『どこの具合が悪いですか?ところで,今日は私を暗殺しに来たのですか?』なんて聞かなきゃいけない生活なんていやだからな。」
「大丈夫さ,きっとここからは生きて脱出するし,君の偽者の患者から暗殺されるという恐怖からも開放してやるさ。だからほら,はやく飛び降りるぞ。」
「ほらやっぱり!ただ飛び降りるだけで助かるんだったら僕だってこんなに駄々こねたりしないさ!」
「誰がただ飛び降りるだけなんて言ったんだい?それにね中村。」
そういうと彼は両手を僕の肩に置き,真剣な表情で僕の目を見つめた。
「俺たちはこれからいろんな冒険をしていくんだ。君が体験したことのないような面白い世界をきっと僕が見せてあげよう。そのためにここで死んでなんてやるもんか。」
その言葉ですべての決意が固まった。
こいつはいつだって僕に嘘はついたことがない。きっと彼を信じよう。
こちらの決意がわかったのか,彼もにやりと笑い,
「今だ!」
そう言って思い切り僕を突き飛ばした。