零ー7 武器選びは大切です
「ルイさん、まず指南書を出してください」
「わかった」
俺はセティさんに連れられて、外に来ていた。
そして言われた通りに指南書をポーチから取り出す。
「やる前に聞いていい?」
「何ですか?」
「木が邪魔なんだけど」
「大丈夫ですよ、すぐ無くなりますので」
「……斬るの?」
「まあそんな感じです」
「へぇー」
そんな気はしてたよ、うん。
でもなぁ。木、太いんだよなぁ。俺、刃物とか包丁くらいしか使ったことないんだよなぁ。それなのに斬れってなぁ。何時まで掛かると思ってんのかなぁ。
「なあ」
「さっきからなあなあと何ですか。声に出ていましたよ」
「ごめんなぁ」
「……もういいです。武器はどのような物がいいですか? 剣とか斧とか弓とか色々ありますが」
武器……か。
「――剣にしてみるかな」
「そうですか。じゃあこれとこれとこれとこれと……」
――ガシャンッ
――ガシャンッ
――ガシャンッ
「――ねえセティさん」
「はい?」
「そんな物騒な物、落とすのは止めない? 偶に刃がこっち向かっていてるんだけど」
「大丈夫ですよ。死にはしません」
「怪我はするけど」
「怪我くらいスレクが来たら沢山する事になります。気にするだけ無駄です」
「……」
また新たな神と思われる名前だな。というか、ここに来る人って神以外いないだろうし。
それに怪我くらい、くらいって言った。怖いなー何するのかなー死ぬのかなー。ニーシャ様に殺られる前に? 何か嫌だわ~
「お手柔らかに、とお伝えください」
「……無理だと思います。さ、どれにするか選んでください。時間は有限ですから」
「はぁ、まあいいや。じゃあ……」
剣と言っても色々あるな。
ゲームでは大剣とかを好んで使っていたけど、ここはゲームでは無く現実。
要するに、一つのミスが人生終了に繋がる可能性もある。現在進行形で死へのカウントダウンが始まっている今、この武器選択に生死が掛かっていると言っても過言じゃあない。
だがやはり一日本男児として刀は外せないよな!
「な、何ですかっ。刀見詰めながらニヤニヤしないでくださいよ! 正直気持ち悪いですから!」
「ごふっ」
しょ、しょうが無いだろ!? 男の性なんだよ! ちょっとくらいは多めに見てください!
――ごほんっ。ま、まあそれを女性であるセティさんに話しても変な顔されるのが目に見えてるな、うん。
武器は刀で、予備としてはやっぱり小刀か? ……いや、それは普通すぎて何だかつまらないような。
とにかく刺突として使える武器なら何でもいいか。
「――刀とこれで」
「刀とスティレットですか、ふむふむ? ――分かりませんね。男の転生者の方々は、よくその刀を選びますが何故でしょうか……?」
「男の性だよ、ははは……」
「どうしてそう遠い目を?」
ですよね、先達方。やっぱり日本男児は刀ですよね。でも女性には理解されないんですよね。何処か虚しくなるんですよね。分かります。それでも選ぶのが男ですよね。ええ、ええ……
「いい加減始めますよ。スティレットは仕舞ってください」
「分かった」
言われた通りポーチに仕舞う。
「私は刀の使い方は分からないので指南書見てください」
「……えっ? あ、ああ分かった」
おっとそれは予想外、てっきりセティさんが教えてくれるものだと。
まあ指南書あるしいっか。
14ページね。どれどれ……
「ふーん、そう。なるほどなるほど――」
うん。中々面白いものを見た気がする。
特別版、特別版かぁ……ははは。特別だわ、うん。
片面に大きく刀って。そしてもう片面に書かれていたのが
「――"刀は斬ることに特化しているな! 後は分かるだろう? では頑張れよ、以上!"って……説明する気ねえだろおい」
型も書いてない、握り方すら書いてない、必要そうな事何も書いてない。よく見ればどの武器にも同じような事しか書いてない。
これはあれか、我流でやれってことだよな? な?
「ああ、ああ、いいだろう。やってやろうじゃないか……ハハッ。もう、全部――
――我流でやってやんよぉぉぉぉぉ!!!」
「そうですか、では《インパクト》」
「っ――――かはっ……」
何が起きた!? セティさんが何か喋ったと思ったらいつの間にか木に叩きつけられていた。
骨も折れて……ない? 5メートルくらい吹き飛ばされたはずなんだが……身体はめちゃくちゃ痛いけど。
「凄いですね……」
「な、にが……ごほっ」
痛い、普通にしてても痛いのにさらに痛くなった……。泣きたい、今すぐ泣きたい、痛い。
でも、泣いたら負けな気がする。それにまだこれ以上にやられるだろうし。だから今は泣けない。堪えなくてはぁぁ……
「私、今ルイさんの骨を砕こうとしたのですが。まさか無意識裏に身体強化をするとは……あれ? それにしては魔力の流れが不自然なような気がします。ルイさん分かります?」
「それ、どころじゃ、ない……」
「ああ、すみません《ヒール》」
今のは回復魔法か。といっても全部回復させてくれるわけじゃないらしい。
まだ少し痛むけど動いても支障は無そうだ。
「っと。少なくとも俺は何もしてないはずだぞ。何かが身体の中を回ってる感じがしてゾワッとはするが」
「ルイさんは何もしてない、と。そうですねぇ……。昨日ユキちゃんに魔力をあげましたね?」
「ああ、手紙にも書いてたし寝る前にあげたぞ」
「そうですか、ならユキちゃんのお陰ですね。ルイさん、感謝した方がいいですよ? ユキちゃんがいなかったら今頃もっと大変なことになってましたよ? 大変なことに」
なんで2回も言ったんだよ。
ユキはいつの間にか俺から降りてたのな。危機察知能力とやらか。
そして身体を回ってる感じがする何か、これのお陰で助かったんだよな……
「ありがとな、ユキ。護ってくれて」
『――別に』
素っ気なく答えているがカードは白である。ははは、愛いやつめ
「ルイさんが感じてるそれは魔力ですね。契約によってユキちゃんがルイさんの魔力を直接動かせるようになってたみたいです。ルイさんがゾワッとすると言ったのは魔力が循環しているため。骨が無事なのはそれによって起こる身体強化、特殊魔法ですね」
「特殊魔法は選択肢に無かったけど?」
「まあ魔法と言っても特殊魔法は技術ですからね。魔力さえあれば誰にでも使えます」
技術ねえ。生まれたばかりなのにそれをユキが使えるって凄いよな。本能的に理解出来てるのだろうか?
「さて、予定は早まりましたが魔法の練習をすることにしましょう――」
そろそろ主人公の生い立ちですね(次回とは言ってない)