零ー14 それは神が魅せた災害
「……こほんっ。風魔法についての説明はこれくらいです。後は独学で頑張ってください」
意外と早く立ち直ったセティさんはこれで終りといった感じだ。
「随分と単純だな」
「ルイさんは早くに身体強化を使えるようになり、それに伴い魔力操作を覚えました、後は魔力を集めるだけでしたからね。通常、魔力操作は覚えるのに中々時間が掛かるものなんですよ?」
ということは、ユキがいたのは結構幸運な事だったのか。
そうじゃなかったら今頃魔法なんて使えてなかっただろうし……。
「っ、丁度いいですね……。ルイさん、今から風魔法の発展系を見せます。今はまだ使えないでしょうけどしっかり覚えておいてください」
そう言うとセティさんは木々に向けて手を出した。といっても周りが全部木だから方向なんて分からないけど。
「《吹けよ風-鳴れよ雷-其は全てを破壊する暴風なり-其は全てを貫く轟雷なり――――」
「っ!?」
セティさんが詠いだすと、途端に俺は背筋に悪寒を感じた。
これはセティさんへの恐怖……なのか?
なんでだ? セティさんはただ詠っているだけなのに……
『ギュアアァァァァァッ!!』
「っ、木で見えないけどなんかいる!?」
――大気が震える
――それは獣の咆哮
――言い知れぬ恐怖
――自らを鼓舞するかのように
――しかしその咆哮は慈悲無き死刑宣告にも等しい詞に拒まれる
「――――二つ合わさりし時-それは全てを無に帰す災厄になりうるだろう-雷雨の大嵐》」
轟ッ――――
それは唐突に起きた。
否、現れた。
次々に木々を薙ぎ飛ばす見た事も無い巨大な竜巻。
その中にいる黒い何か対して、雨の様に降り注ぐ雷。
その有様はまるで世界の終わりを表すかの様。
そんな光景を見た者は皆、畏怖し、絶望を覚えると俺は思う。
それでも俺は、この現実では起こりえない全てを破壊するそれに対し、ただ純粋に美しい、そう思った。
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「――うっわ……。何も残ってないな……」
「少々気合が入りすぎましたね……」
あれだけあった木が全て薙ぎ倒された散々な光景に、思わず声が漏れてしまった。
「……今の……何? 風と雷? いや、選択に雷は無かったけど……」
「純粋な風魔法ですよ。雷は風魔法の1種としてあり、単体としては出せませんが、詠唱の中に詞として組み合わせることで使うことが出来ます」
雷が風魔法の1種……ね。
天候操作とかの魔法があれば、それで雷だろうと風だろうと出せそうだけど風魔法は何か違うよなぁ。風で雷が起こるわけじゃ無かった気がするし。まさに異世界魔法の不思議だな。
「でも何でこれだけ強い災害みたいなのが起きたのに風がそこまで来なかった? それに木が折れていたりするのも前方だけだし」
風は確かにあった。
それでも身体強化をしていたせいか、強風と言われる風でも全く問題無かったけど、普通ならあれだけでかい竜巻が近くにあったら風ももっと強く、近くにいる俺とか木は普通に飛ばされていた気もするけど……。
「お気づきかも知れませんが、私の魔法で必要な分だけ相殺しました。完全に相殺してしまうと、こちらにも被害が生じたと思いますので、必要な分だけ、です」
「なるほど」
お気づきではありませんでした……
「――それにしても、魔法を詠唱までして使ったのは久しぶりでしたので疲れましたね〜」
「じゃあなんで詠唱をしてたんだ?」
詠唱というのは恐らく詞の延長上の物だろう。それに俺とて元男子高校生だ、それくらいは分かってしまう。
「んー、ルイさんに見せたかったっていうのも理由の一つですけど。一番はこれくらいやらなくてはここの魔物は倒せないから、でしょうか」
「……何なのここ?」
「魔境ですね。神が創りし、神に匹敵する魔物が闊歩する森。ルイさんのハードというのは、ここを出たらすぐに死んでしまうからというのもあります」
「ここに転生させたのはミーシア様だよな?」
「はい」
「……馬鹿じゃねえの?」
ミーシア様は俺を殺す気か? セティさんがいなかったら確実に俺は死んでたよな?
「いじけてたらしいですよ。自分の思い通りにいかず、神と名乗ったにも関わらずすぐに納得されて」
「子供かっ!!」
「まあ今のミーシア様は確かにまだ子供ですね」
「……今の?」
「いえ、気にしないでください」
まあ俺にはあまり関係ない事だろ。というか、納得させるような容姿が悪いんだよミーシア様は。思い通りにいかなかったってのは謎だが。
『……ギュ…………グァァ……』
「おや? 雷龍でしたか」
「うっそ……。さっきので生きてるとか……」
竜巻によって倒木した木々の中心部に黒い何かが弱々しい鳴き声をあげながらその巨体は起き上がった。
「でかっ、あれが龍……? 二階建てのアパートくらいあるよな。何処にいたんだよ……」
「《風刃》」
「あっ……」
起き上がった龍の首がボトリッと落ちた。
「容赦なすぎ……」
「しっかり止めを刺さないとこちらにも被害が出たかもしれませんので」
いや、確かにあの巨体が襲ってきたらって思うとゾッとするけどあれは……
「まあいいや」
「……? では持ってきますね」
「雷龍って黒いのな……」
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「――蛇?」
セティさんが片手で連れてきたそれは巨大な蛇であった。
というか、セティさんが切ったのって首じゃなくて胴体だったのか。
「これでも雷龍、風竜の上位種ですから飛べるんですよ? と言いましても龍は岩龍以外は全て飛べますけどね」
「この馬鹿みたいにでかいのが飛ぶって……」
近くで見たらよりデカさが分かるというか、15m超の胴にパッと見200mはある長さの蛇龍とかなんか……
「きもい」
「…………仕舞いますね。あっ、食べます?」
「誰が食うか!?」
「ですよね……」
たとえ食べられるとしてもこれは食べたくないな。食べようと思えば食べれるかもしれないけど。
「――これで魔法の事に関しては以上です。剣はスレクが来た時に実戦形式で学ぶ事になると思いますが頑張ってくださいね」
「分かった。いや、分かりたくないけど分かった……」
「私はこれからも偶に来ますので修練に励んでくださいね。では」
「ああ、ありがとう。また」
「はいっ」
そしてセティさんは消えた。
「……消えた!? ていうかあの龍何で殺したんだろ?」
まあいいや。
「ご飯にしよ」
???「セティ様。何故空白の森の破壊を?」
セティ「うっ...そ、それには理由がーー」
???「給金から引かせていただきますね」
セティ「そんなぁ...」




