当て馬は男装の麗人です!!
男装の麗人大好きです。
そして、ヒロインがデートしてたのがめっちゃイケメンで格好いい女性の先輩だったって展開も好きです。
こちらをぎっと睨み、何も言わず少女の手を取り去っていく少年。申し訳なさそうにこちらを見ながら、それでも頬を赤く染め嬉しそうに手を引かれて行く少女。
そして、取り残された、さっきまで少女とデートしていた私。
私は周りの好奇に満ちた視線をものともせずにこやかに少女に手を降り、別の方向に歩き始めた。
「うーん、今日もいい当て馬が出来たなー」
ぐーんと伸びをして、爽快な達成感に顔をほころばせながら。
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私は自分で言うのもなんだが、イケメンだ。爽やかで優しそうと誉め称えられる顔面に、適度な筋肉のついた身体。スポーツ全般が得意で、よく女の子から声援をもらう。
ただし、性別は女。たとえ制服のスカートが絶望的に似合わなくても女なのである。
そんな私は今、当て馬を嗜んでいる。きっかけは、些細な事だった。
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「あーっ!もう、じれったいっ!」
高校の昼休み、私の席に来るなり頭をかきむしり叫んだのは、私の友達である奈津子だ。人の恋路を見守るのが大好きで、よくこんなカップルが出来てたよーと楽しそうに話してくれる。
そんな彼女が今大注目してるのが、同じく友達のしのぶちゃんだ。横の席なのに奈津子の大声にも動じず、ぼんやりお弁当を出し食べ始める彼女は別にマイペースというわけではなく、重度の恋わずらいをしているのだ。
彼女には別のクラスに幼馴染の男の子がいて、登下校を一緒にしたり、お弁当を作ってあげたりしているものの、付き合ってはいない。どう見ても両想いなのだが、当事者は気付いていない。まぁ、見ててじれったくなる気持ちもわかる。
「落ち着いて、奈津子。鈴のふるような可愛い声とはいえ、叫ぶと他の人の迷惑になるよ?」
「また息をするように口説くぅ……。優月マジ王子様度高いよぉ……」
少しからかうと狙い通りクールダウンしてくれたようだ。ちなみに優月というのが私の名前で、初対面で私服で名乗るとまず間違いなく男と思われる。
はふぅ、とため息をつく奈津子はちらりとしのぶちゃんを見た。私もちらりと見ると、どうやらお弁当を食べながら出来を見ているようだ。
「今日はきんぴら美味しく出来た……。卵も、大丈夫」
どうやら今日は彼にもお弁当を渡したらしい。健気なことだ。大人しく可愛らしい女の子であるしのぶちゃんは何かきっかけがないと告白出来ないだろうと思われるので、奈津子はまたしばらく悶えることになるだろう。
「あー、なんかイベントが起こればなぁ……。一気に進むと思うの……」
「イベント、ねぇ……。文化祭とかはとうぶん先だよ?」
「そういうのもいいけど、そうじゃなくてぇ……。例えばどちらかが誰かに告白されたり、言い方悪いけど当て馬がいればぐっと進むと思んだよねぇ」
ぶつぶつ言ったあと、自分のお弁当を取りだし食べ始める奈津子。私も自分のパンを取りだし食べる。うん、今日も牛乳が美味しい。カレーパンも最高だ。
しばらくもくもくと食べていると、パッと奈津子が顔をあげた。そのままこちらをじーっと見つめてくるので、微笑んでみる。瞬間、かっと目を見開いた。
「イケメン……!!そうだ、優月が当て馬してくれない!?」
「ん?」
また不思議な事を言い出したものだ。首をかしげると、大興奮らしい奈津子が立ち上がって話はじめる。
「当て馬っていってもふりでいいの!しのちゃんとラブラブしてるとこを幼馴染君に見せつけて、嫉妬させるの!これは告白間違いなしの大イベントになるわ!間違いない!!」
「うーん、よくわからないけど、とりあえずご飯中に立つのははしたないよ?食べ終わってからその話は聞かせてもらおうかな」
「あっハイ……ごめんなさい……」
大人しく座りもそもそと食べ始める奈津子ににこりと笑ってから、しのぶちゃんに目を向ける。お弁当を食べ終わったしのぶちゃんはまだぼーっとしている。最近こういう状態が増えて、少し心配だったのだ。彼女が幸せなるなら、当て馬というのをやってみてもいいかもしれない。
「で、結局当て馬というのはどういうものなんだい?」
お弁当を食べ終わり、まったりしている奈津子に聞くと、まってましたとばかりに目を輝かせた。
「当て馬っていうのはね、物語を盛り上げるのに欠かせないスパイスよ!大体ヒロインかヒーローが好きで、色々アプローチするんだけど二人の絆を深めるだけで終わっちゃうの」
「ふぅん……?そのふられ役を私がすればいいの?」
「そう!好きな幼馴染の女の子に近付く優しそうなイケメン!あいつは俺のだという独占欲!嫉妬!そして気付く自分の気持ち!!これぞ王道だわ!」
「また声が大きくなってるよ?落ち着いて」
「あっハイ……」
しゅんとする奈津子に微笑む。なるほど、嫉妬させて気持ちを自覚させ、そして告白まで持っていくのか。それなら、あのどう見ても両想いな二人ならくっつく可能性は高い。奈津子の提案は中々冴えた物に思えた。それに、私の大事な友達を悩ませる男へのお灸にもなるだろう。うん、これは面白そうだ。
「なるほど……、それはいい提案だね。そうと決まればしのぶちゃん?」
「………………え、はい。なんでしょう?」
ぼーっとしていたものの気付いてくれたしのぶちゃんに、飛びきりの笑顔を向けた。
「私と今度の日曜、デートしない?」
「はぇっ!?」
びっくりするしのぶちゃんの顔は、とても愛らしかった。
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「てなわけで、今度の日曜しのぶちゃんとデートすることになった」
帰り道、腐れ縁の男友達である蔵人に成り行きを話すと、なんとも言えない顔で固まった。少し面白い。
蔵人は昔から男勝りだった私のよき遊び相手であり、親友といっていい存在だ。
なにかの武術をやってるそうで、鍛えられた身体に精悍な顔つき。中々モテそうだと思うのだが浮いた話を聞いたことがない。まぁ、彼女ができたら遊びに誘うのも気を使わねばならないので私としては別にいいのだが。
「……はぁ。意味がわからんが、まぁいつものことか」
「まぁ、君は日曜遊べないってことだけ知っててくれたらいいよ」
家も近いため、休日はもっぱらお互いの家でゲームなどをして遊んだり、近場に出かけたりしているのだ。約束はしていないとはいえ、一応断っておくべきかと思い話をしたのだが、蔵人はなんだか渋い顔をしている。もしやこいつ私以外の友達いないのだろうか。
「…………蔵人は友達いるよね?」
「は!?いるわ!なんでそうなったよ!!」
「いや、私以外遊ぶ人いなくてひまだから渋い顔してるのかなーって」
「あー……そうくるかよ……」
がしがしと髪をかく蔵人は本気で心外そうである。別に人当たりが悪いわけでもなし、まぁ友達位いるか。悪いことを聞いてしまった。
「てか待て。お前、その出かけるの幼馴染の野郎にも伝えるんだよな?」
「勿論。伝えなかったら意味がないからね。ばっちりだよ」
そこら辺は抜かりなく奈津子が手配してくれているはずだ。ぐっとサムズアップして見せると不機嫌そうに眉をしかめられた。なんだ?
「…………俺も行く」
「は?君しのぶちゃんと会ったことないだろう?…………もしや、しのぶちゃんが好きだったのか!?彼女は好きな男がいるぞ!?」
「違うわ!!このボケェ!!」
なんだ。違うのか。よかったー、ほっとした。
……ん?ほっとした?
…………親友が横恋慕に苦しまなかった時の反応として正しいか。うん。
あーと言いながらまた蔵人が頭をがしがしとかく。やり過ぎるとはげるぞそれ。
「お前ほんっと……。……まぁいい。昔からだ。今に始まったことじゃない」
「さっきからなんだいそれ。私は君より成績いいぞ?」
「ちげぇ……。そうじゃなく、危ねーだろお前。その幼馴染の野郎には間違いなく嫉妬されるぞ」
「そうだね?」
「最悪の場合、喧嘩になるかもしれねぇ。そうなったときお前だけだと危ないから、こっそりわからねーよう着いてってやるっつってんだよ」
「え……」
考えてなかった。しのぶちゃんから相手の男の事を聞いたことがあったが、優しい人だと言っていた。だから、暴力にはしる可能性は全く考えていなかったのだ。
その事を蔵人に伝えると、ため息をつかれた。
「お前ら男の嫉妬なめてんな。惚れた女が目の前で持ってかれそーになったら、頭に血がのぼってもおかしくねーだろ」
「そういうものか……」
「そういうものだ」
盲点だった。確かに攻撃された場合困ったことになっていただろう。口喧嘩なら男相手でもひけはとらないとは思うが、肉体言語を使われた場合は……
「…………相討ちならなんとか」
「だからついていくっつってんだろうがぁ!!」
「いや、蔵人に迷惑をかけるのは本意ではない」
「迷惑っつーならこれ聞いて連れてかれねーほーが迷惑だっつーの!聞いたからには意地でもついていくからな!!」
「むぅ……」
確かに、もし喧嘩になった場合、蔵人がいてくれればお互い無傷で終わらせられる確率はぐっと上がる。
私では頑張って相討ちにしかならないので、しのぶちゃんを泣かせる事になるかもしれない。それを考えると受けていた方がいいのだが……。
ちらり、と蔵人を見るとじろりとにらみ返された。これは譲る気が無いときの顔だ。いいのだろうか、迷惑かけて。
「……休日がつぶれるが、いいのかい?」
「いいっつってんだよ。大体、お前がいないとつまんねーし」
目をそらしながら言われた台詞に少し胸が高鳴る。
昔から、私が困っていたり、困りそうになっていたとき助けてくれたのは蔵人だった。本当に、良い奴だ。
だが口をついてでたのは感謝の言葉ではなく、可愛いげのない言葉だった。
「やっぱり君、友達いないんじゃ……」
「だからちげーわ!!!こんのボケが!!」
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迎えた日曜、しのぶちゃんとの待ち合わせ場所に蔵人と向かう。
私は当て馬をするので男に見えるようジーパンにTシャツ、その上に少し洒落たシャツという簡素な服装だ。といっても私服は大体こんな感じなのだが。胸は、まぁ、問題ないとだけ言っておこうか。
蔵人も似たような格好で、おそらく周りからは男友達同士で出かけていると思われてる事だろう。
ちなみにデート場所は少し離れた駅前の繁華街だ。雑貨屋やカフェなどがあり、ちょっとしたお出掛けには最適の場所だ。
待ち合わせ時間の少し前についたが、しのぶちゃんはもう待ってくれていた。さりげなく雑踏に紛れる蔵人をちらりと確認してから、しのぶちゃんのところに向かう。
「やぁ、ごめん待たせたね」
「あ、いえ、私が早く着きすぎちゃったので……」
デートの定番っぽいやり取りにふふっと笑うと、しのぶちゃんが顔を赤くした。
可愛らしいワンピースを着た彼女は愛らしく、デート出来るのは役得といっていいかもしれない。
「じゃあ、行こうか」
さりげなく手を取って歩き出す。
少し慌てたしのぶちゃんの耳元に口を寄せると、さらに赤くなって可愛らしい。
「今日の服、可愛いね?」
「あ、ありがとうございます……。優月ちゃんこそ、その、すごい格好良いです……」
「ありがと」
電車の中で、奈津子ちゃんから幼馴染君と一緒につけてるというメールをもらっていたのだ。なので、なるべく親密そうにデートする事にした。はたして幼馴染君の我慢はいつまでもつか、見物だ。
ちなみにしのぶちゃんには幼馴染君の事を伝えてなかったりする。固辞されるのは目に見えていたからね。
それからはしのぶちゃんに似合う髪飾りを見たり、カフェでお茶したり、普通に楽しくお出かけした。お茶を飲みながら談笑してると携帯が鳴った。画面を見ると、どうやら奈津子から電話がきているようだ。
しのぶちゃんに断ってから、少し離れて電話にでる。
「どうかしたかい、奈津子」
『あ、優月?幼馴染君、すっごいイライラしてる!いい感じだよー!!あと一押しで、幼馴染君しのぶちゃんのとこ行くと思う!!』
「ふーん……。一押しってどんな感じ?」
『定番だとキスとかだけどー、さすがにそこまでやれって言えないからなぁ。仲良さそうなことなにかやってみて!』
「……うーん、わかった。考えてみる」
『よろしくー!』
電話を切った後、少し考える。さて、どうしたものか。とりあえず席に戻ろうかな。
「あ、おかえりなさい」
「ただいま。そろそろ出ようか。どこか行きたいとこある?」
「私は特に……」
「じゃあ公園でちょっとのんびりしてみる?」
一押し、一押しか……。
キスは、さすがに躊躇われるし、他に何かないだろうか。
公園はあまり人がいなかった。まぁこれから修羅場がおこるかもしれないので、その方が有り難いのだが。
なるべく人気のない方にしのぶちゃんを誘導する。ちょうどよく、木陰にポツンと佇むベンチがあった。周り人気がないのもポイントが高い。
二人してそこに座り、さりげなく辺りを伺う。すると、少し離れた場所に蔵人がいた。どこで買ったのかクレープを食べている。ああ見えてわりと甘党なのだ。まぁ、楽しんでるようで何よりである。
そこからまた離れた場所に奈津子がいた。横でしかめっ面をしてるのが、幼馴染君か。どうやらまだ動く気はないらしい。どうしたものか。
「優月ちゃん……?」
「ん?なに?」
「いえ、キョロキョロされてたので……。なにかありました?」
「んー、何か面白いものでもないかなって。でも特になにもないかな」
「そうなんですか……」
くすり、と笑ったしのぶちゃんの髪がさらりと揺れる。髪……。あ、そうだ。さっきしのぶちゃんは髪飾りを買ってたっけ。
ひらめいた。
「しのぶちゃん、さっき髪飾り買ってたよね?つけてあげるよ」
「え、いいですよー。櫛もありませんし」
「いいじゃないか。私がつけてるの見たいんだ。お願い」
「えぇ……?わ、わかりました」
戸惑いながら、しのぶちゃんが袋を渡してくれる。中に入っていたのは桜の飾りがついたピンだ。
そっと、しのぶちゃんのサラサラな髪を指ですき、耳の上辺りにつける。こっそり顔を近付けるのも忘れない。
「……おい、なにしてるんだ」
ちょうどつけ終わった時にかけられた声に振り向く。
先程確認した幼馴染君が、怒りに顔を赤くしながら立っていた。
「え、た、達也くん!?」
驚いているしのぶちゃんを背に庇い、にこりと笑って見せる。確かに、思ってた以上に怒りを一身に受けるのは迫力がある。だが、そばで蔵人が見守っててくれると思えば不思議と恐くはなかった。
「なにって、見てわからない?デートだけど?」
「……デート?しのぶとか?」
「そうだよ?しのぶちゃんとは前から親しくさせてもらっててね。デートの誘いにやっとこの前頷いてくれたんだ」
嘘はついてない。しのぶちゃんとは前から友達だし、デートしようと誘って頷いてもらったしね。
目の前の幼馴染君の顔は蒼白になっていた。ふふ、お弁当まで作ってもらっているくせに告白の一つもしない男にはいい薬だ。
「君こそ、しのぶちゃんのなんなんだい?」
「……幼馴染だ」
「ただの幼馴染君に、デートに口出しされる謂れはないんだけど?」
ぐっと押し黙る幼馴染君に冷ややかな目線をおくる。さぁ、どう出てくる?
「え、これは……どういうことなの……どうなってるの……?」
オロオロしているしのぶちゃんの頭を撫でると、幼馴染君の顔がまた赤く染まった。そう、幼馴染のままだと君の位置はそこだ。しのぶちゃんが好きなら、ぜひ動いてもらいたいものだ。
挑発するように幼馴染君に笑いかけると、さらに顔が赤くなった。
「確かに……俺はただの幼馴染だけど……」
「だけど?」
「…………俺は、しのぶのことが好きだ!昔からずっと!!お前なんかより、ずっとしのぶの事を愛してるんだよ!!」
「……へ?へぇっ!?」
「よし、よく言った!!」
真っ赤な顔のまま告白した幼馴染君を褒めるとポカンとされた。まぁ、当たり前か。ライバル宣言したと思ったら、そのライバルから褒められるのだ。意味がわからない事だろう。
気にせず立ちあがり、しのぶちゃんにまた明日学校でと笑いかけた後、固まったままの幼馴染君を軽く押してしのぶちゃんの横に座らせる。ここまでお膳立てしたのだ、後はくっついてくれる事だろう。
真っ赤な顔の二人が固まっているうちに、速やかに公園を出る。
携帯を確認すると、奈津子からメールが来ていた。馬に蹴られる前に撤退しまーすという文面を見るに、すでに帰ったのだろう。奈津子は好奇心旺盛だがいい子なので、さすがに告白シーンまで見守る事はないようだ。
「…………結局、君の杞憂だったね?」
「なんもねー方がいいだろ」
いつのまにか後ろに立っていた蔵人に話しかけると、ブスッとした声が返ってきた。まぁ、確かにそうなのだけど。
「明日、しのぶちゃんからの報告を聞くのが楽しみだよ」
「そうかよ」
横に並ぶ蔵人はもうクレープを持っていない。早くも食べきったようだ。ちらりと時計を見ると、まだ帰るには早い時間だった。
「君がさっき持ってたクレープってどこで買ったんだい?私も食べたい」
「あぁ?見てたのかよ」
「まぁね。君は見つけやすいから」
体格がいいからね。すぐに目に飛び込んでくる。
そうかよ、と呟いた蔵人の頬は少し赤く、クレープを見られたのがそんな決まりが悪いのかと思うと少し面白い。
「じゃあ今から行くか。俺ももうひとつ買う」
「君は本当に甘党だなぁ。じゃあ、違う味を買ってシェアでもするかい?」
「…………おう、いいぜ」
やはり蔵人と喋るのは楽でいい。怒りをぶつけられ、少し緊張していたのが解れていく。
結局、その後は蔵人と遊んで帰った。
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「その、二人のおかげで付き合える事になりました……」
「おめでとー!!!」
にこにこと笑うしのぶちゃんは本当に嬉しそうで、よかったと心の底から思う。
月曜の昼休み、しのぶちゃんから報告を受けた私と奈津子はお祝いの言葉を告げていた。幸せそうなしのぶちゃんから告白の詳細を奈津子が根掘り葉掘り聞き、私が止める。骨を折った甲斐のある、幸せな風景だった。
「私二人に心配かけてるの気付かなくて……ごめんなさい。本当は、ずっと好きなのを言えない自分が嫌で、でも言えなくて、ずっと悩んでたんです」
なんとなくそれは察していた。しのぶちゃんはこの頃ずっとぼうっとしていて、辛そうだった。奈津子もそれもあって少し強引な作戦を考えたのだろう。
「二人がきっかけをくれなかったら、私きっと言えませんでした。あの後私からも告白出来たのは、本当に二人のおかげです」
「役に立ててよかったよ。私は可愛いしのぶちゃんとデート出来て、役得だったしね」
「わ、私も優月ちゃんとのお出かけ楽しかったです!」
「あー、いいなぁ。優月ぃ、今度私ともデートしよぉ」
「勿論、構わないよ」
三人で楽しく話していると、しのぶちゃんがおもむろに何かを取り出した。見ると、かなりいいところのチョコレートだった。
「これ、私からのお礼です」
「え、いいよぉ。これ高かったでしょ?」
「いえ、気持ちなので!受け取ってください!!」
普段控えめなしのぶちゃんが頑として引かないのは中々迫力がある。
どうしたものか、と奈津子と目線で相談した後、受け取ることにした。せっかくの好意、あまり断るのも悪いしね。甘党な蔵人と山分けする事にしよう。
そして、しのぶちゃんの恋は実った。
するとそれを聞き付けた他の両片想いカップルや周りの人から、私は頼られる事になった。具体的に言えば、女の子とデートしたり、いちゃいちゃしてみたり、告白するふりしてみたり。まぁ、当て馬活動をすることになったのだ。報酬は甘いものと彼女達の笑顔だ。
それからは頼まれたら当て馬として活動して、冒頭で去っていった二人は何組目だったかな。
「当て馬活動も中々面白いね」
「……お前調子のってきてねぇか?」
蔵人も、毎回こっそりつけてきてくれている。
今回も二人と別れたらすぐに合流してくれた。幸い、今まで肉体言語を駆使する場面になったことはないのだけどね。
「さーて、今度はどんな甘い話と甘いものがもらえるかな?」
「聞けよ」
「聞いてる聞いてる。蔵人は何がいい?この間のパウンドケーキは美味しかったよね」
「…………クレープ」
「へ?」
クレープを貰ったことはないし、第一あれは足が早い。お礼として貰える可能性はおそらく低いだろう。
「クレープは多分無理じゃないかな?持ち運びも大変だし」
「ちげーよ。お前と食べるクレープが一番うめーっつってんだよ」
「へぁ!?ば、君それ口説いてるみたいに聞こえるよ?気を付けなよ?変な人に惚れられても知らないよ?」
「これだよ……鈍すぎだろ……」
ぶつくさ呟いている蔵人を無視して、パタパタと顔を扇ぐ。多分今赤くなってるはずだ。まったく、蔵人はたまに心臓に悪いことを言ってくるから困る。
ちらりと蔵人を見る。なんだかんだ面倒見がいいし、ぶっきらぼうだけど優しいし、顔立ちだって悪くない。きっと、可愛い彼女が出来ることだろう。
だけどそれは今ではない。それまでは親友として、私が並んで歩くくらい構わないだろう。
「じゃあ、クレープ食べに行くかい?」
「……おう」
二人で並んで歩き出す。
男らしいとよく言われる私は、きっと友達にしかなれない。それでいいのだ。気づく必要はないことからは目をそむけておこう。
「それにしても、本当にいつも私と一緒にいるけど……」
「……けど?」
「本当に友達いるのかい……?」
「しっつけーなてめぇは!!!」
男装の麗人が格好いい話だと思った!?
残念、男装の麗人が恋をしてるけど、自分の男らしさを気にして必死に自覚しないよう努力するモダモダ話でした!!
……マジでごめんなさい。最初はイケメンにするつもりだったんです。