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始まりはよくあるパターン?






 キラキラと輝く音の洪水。


 流れる水の様な滑らかな肉体の動きに、雷に打たれた様に息を呑む。


 マグマの様に抑えた気持ちも激しく発火しそうに湧き上がり、心だけでなく身体も興奮で高揚する。


 大いなる跳躍は時を止め、着氷はまるで瞬風を間近に届ける様に鋭い。



 素晴らしい演技を見ていると、美しくも切なく、目は離せないのに何故か隠れて泣きたくなる時がある。

 それは自分の過去の努力の成果や、異常に混乱した時の記憶や、焦り、死にたくなる様な孤独と辛さ、恥ずかしさや切なさ、追い詰められた現実、そして過去を思い出して、突き詰めると気持ち悪くなりそうだ。


 今までの私は、地に足を着ける為にやれるだけ頑張ったが、結局仕事は見つからなくて、昔お世話になり、今でもいつも気にかけてくれていた近所のバレエの先生、ピアノの先生に頼った。

 その縁が無ければ、お金を貯める事も出来なかったし、総じてこの美しい氷の舞台や明日のバレエを見る事は出来なかったかも知れない。



 切なくも、その重苦しくも苦しい感情は高音から降りてくる軽やかな旋律に払拭され、身体はほっと弛緩する。


 まるで希望や光の様に美しく暖かな旋律になっていた。

 間奏から戻って来た主題である三拍子のワルツは、今迄の人生の縁を繋ぎ合わせる様だ。


 暗く辛い重くなる様な気持ちを時折思い出しもするが、曇り空でも晴れ渡った時の様に清々しくも楽しい心地を、この美しい演技と曲は思い出させてくれるし、忘れちゃいけない大事な事も思い出す。


 あぁ、家族はみんな歌も踊りも音楽も楽器だって大好きだったなぁ、と。


 今日のアイススケートの出場選手の中には、母と姉そして弟が物凄く応援してた選手がいたのもあって、今回リハビリの様に見る事にしたのだ。

 元々私はバレエとその音楽の方が専門だったのだ。以前家族が言ってた様に、素晴らしいあのポジション(姿勢)のまま滑るってかなり筋肉鍛えてなくちゃ出来ないと常々比較されて、バレエ馬鹿にすんなとは勿論言わなかったが、兎に角喧嘩もした。しかし、別の驚きも色々あって、私も一緒に魅了された。


 私の中での今回の休日の大事な本番は、明日のバレエ公演でもあるのだったが、本当に見に来て良かったと思う。

 お世話になってる先生と帰りを待っている叔父さんに感想教えてあげなきゃな。



 私はその時、本当に感動と共に楽しくて嬉しくて幸せだった。

 本当に夢の様な時間はあっという間で、幸せってこういうのもありだよな、と奇跡の様に過ごして。



 だけどまさか、その帰り際に私は何も無かった様に誰の気を引く事も無く、飲酒運転の車に引かれて死ぬなんて思いもしなかったのだ。









 不意に涼やかな男の声と元気な明るい男の声が聞こえた気がしたが、瞼が動かなくてまだ寝ていたい気分になる。

『本当にその子でいいんですか』

『なー、考え直そうぜー、もっと良い奴いるだろー』

『この子で良いのよぅ。つか、あんたこの後また辛い日常に戻すのも酷でしょぅ?』

『私気に入ってたんだから意地悪しないでよね』

『する訳ないでしょぅ、私の救世主なのよぅ』

 女の子の声と所々微妙に野太い声も混じって聞こえた気がしたけど、やはり眠くて目も開けられなかった。






「まあ、まあ、まあ、申し訳ないわねぇ」

 目が覚めて、一瞬目の前も頭も真っ白になった。


 いや、全体的に真っ白な場所だった。

 霧が濃くて1メートル先も見えないけど、実は爽やかな朝の時間帯みたいな。

 あぁ、今日晴れるんだ気持ちいいね、ここに居たいな、と思わせる様な明るさと花の香り。

 お、足元よく見たら小さな白い花が咲いてる。


「良いかしらぁ?」


 野太い声のした方を向けば、その雰囲気にそぐわない、筋肉ムッキーな………………オカマさん???


 足元の花もよく見ないと見えない霧だったのにって、何で目の前の人は見えるんだろう?

 掃除機?除湿機?

 いやいや、それはない。


 それは兎も角、今迄、私の周りにここまで筋肉ムッキーな死んだ知り合いもいなかった筈である。


 父方のじいちゃんは細かったし、母方のじいちゃんは確かに骨太だったらしいから、ありといえばありなんだけど白金髪の外人じゃなかった筈。


 誰なんだろう?

 いや、小説等のお約束ならアレだと分かってはいるが、ぶっちゃけ自分は物凄く現実逃避をしたいのだ。


 彼女(?)は言葉程、申し訳なく無さそうではある。というのも、ニコニコ笑って言ってるのだから。


 あぁ、ここはどことか言うよりも、納得しなければいけない様な感じだ。

 白い場所、これってあれじゃね?ラノベとかに良くあった死後の世界じゃね?と。



「ピンポンピンポン正解でーっすっ!!あぁん嬉しいわぁ」


 何だろう、何が嬉しいんだろう? 訳分からんこの両手を口元で合わせてクネクネ左右に腰が動いてる彼女(?)は。

 いくら何でもオカマさんにしてはちっとも声も作ってないみたいな、声が女性寄りでもなく、思った以上に低すぎてやたら腹に響きそうだ。


 その神様は困った様に眉尻を下げた。

「オカマさんじゃないのぉ。

 芸が付く全てに通づる、芸、芸事、芸術、芸能全てを統括する、芸能の神様改めゲイノーの神様なの〜」

「…………何故改名したし」


「これには深い事情があってぇ」

「…………神様の事情、なにそれ怖い」


「芸能と武道と戦争と鍛冶の神様って、結構会う機会が矢鱈目ったらあってねぇ。まぁ、男が多いってのもあるんだけれど、結構つるむ事が多いのよぅ。

 そしたら他の女神様達が『もしかして……?』って、黄色い腐った様な悲鳴上げるものだから、ゲイじゃないのよっ、と、ゲイノーの神に改名してみたのぉ」

「いや、改名関係なくね? 意外としょうもなかっ!?いや切実なのか!?」


「冗談はともかく」

「冗談なんかい!?」


「流石のツッコミ芸。私の見る目があったわ。はっはっは」

「ツッコミじゃないっつーの! いや何の見る目??」


 満足そうに、うんうん力強く頷く神様に、私は思わず深い溜息を吐いた。


 な、何か一気に疲れたんだ…………許してくれ。





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