7-14 女神新時代 転向か浸透か
西アイハラ村を出て、左に丘陵、右に川という道を進む。行き先はこのまま道を進んだ先にあるというアイハラ村。西アイハラ村からアイハラ村に進むということで、東へ進むことになる。
丘陵の向う側にある八王子より雪は少なかった様で、向こうでは道の横に除雪した雪山があったのに対して、ここにはそう言うものがない。道の近くを流れる川に投げ込まれたんだろう。
真っ直ぐの道に対して川は蛇行して道と付いたり離れたりしており、しばらく離れていた川が再び道沿いに来た時には深い谷底を流れる川になっていた。川向うにも同じ高さの台地が見えるけど、川は台地を深く抉っていて、そのためか橋がない。この地形のせいで、川を越えた行き来が少なく、結果として領土の境界線になっているんだろう。
「秦野に向かうならこの川を渡って近道、町田に行くんならこの道を進むんだけど、見学も良いか」
「軍事技術がどこまで進んだか見ておくべきだろう。いつか倒さねばならない相手だ」
そもそも、これまで遭遇した魔物との戦いでは、剣と魔法の世界だった。それが魔物と軍事技術で戦うってのは、あまり想像できない。イメージする魔物が違うんだろうか。
「マチダでどの様な魔物と戦っておるのか、誰も話しておらぬな。お主らもどこかで耳にしておらぬか?」
「余は聞いていないぞ。そもそも、ハコネやサクラと外で別行動したのはハチオウジだけではないか」
4人が居なかった期間は、二日酔いでハコネの空間に居ただけだった。情報源は特に無い。
そんな話をしつつ、アイハラ村に到着。村付近には川を渡る橋や丘陵を越えて北へ行く道があるそうで、門前で西アイハラ村同様のチェックがあった。魔法使い組が宣誓をして、無事入れてもらった。
西アイハラ村では、門前の騒ぎに弓と斧を持った一般人らしい人が出て来たけど、アイハラ村では同じ装備で固めた3人の兵士を見掛けた。装備と言っても鎧ではなく、白地に薄い茶色の斑が入った服、いわゆる迷彩服のような物を着て、頭には白いヘルメットを被っている。武器らしきものは見当たらず、手にはスコップ。雪用の先が真っ直ぐなものでなく、土を掘るような先が尖ったタイプだ。見ていたら気付かれたので、「好奇心旺盛な子」の振りをする事にして、色々聞いてみることにした。
「面白い情報は得られたのか?」
「大した事じゃないけど」
聞けた話は、あの服はやはり雪山で目立たなくする迷彩服で、着ていると結構温かいこと。スコップは魔法の道具になっていて、スコップとしての使用以外に先から炎を出すことが出来る。炎を出すのはエーテルを消費して使う魔法だけど、使用者は魔法の技能が無くて良い。そんな話だ。なぜここに居るのかは、任務の事は話せないそうだけど、村に危険が迫ってるわけでは無いから安心して欲しいとの事だ。3人は町田の出身で、故郷が戦場になってしまい兵士になる事を志願したそうだ。先祖から伝わる畑が魔物との戦場になってしまった地域の人は、生活のために兵士になった人が多いのだと。
「あと、美味しいオススメの店も聞いたから、夕食はそこに行こう」
教えてもらった店は、見事な唐揚げを出してくれた。下味に醤油を使うという和風なチキン。そういえば以前は醤油を見掛けなかったけど、この前八王子で食事した際には有ったから、僕らが不在の間に食文化が浸透してきたんだろう。人の移動も盛んになっているのだろうし。
夜はみさきち定時連絡。ハコネも聞きたい事があるというので同行。
「相原か。ちゃんと人並みの速度で移動ってのは時間かかるものね」
「飛んで行けばすぐだけど、魔法が禁止されてる地域があるみたいで、それを守ると遅くなりそう」
連邦の誓約の話をすると、政治情勢の話を色々聞かせてもらう。八王子も連邦に誘われている事、賛成派と反対派が家中に居てまとまらない事。連邦が八王子を取り込みたいのは、さらに北への拡大に旧足利勢力の最南端にあたる八王子が重要な事。そして連邦は神奈川県相当のエリアから相模原、横浜、秦野を除いた地域で、連邦非加盟の領邦に武力で加入を迫るような事はしない。魔王軍との戦うための連邦が人類間の戦いをしてはいけないという考えが主流だかららしい。
「ハチオウジの件はどうじゃ?」
「新九郎さんが不在で、他の人は知らないって言ってる。ごく一部の人としか接点がないのかも」
「そんな状態では、いつだかの我と同じくらいの力しか無かろう。なんとかしてやりたいのじゃが」
いつだかのハコネは、信者どころか住民は誰も居らず、信仰の力を集めることは出来ない状態だった。ハチオウジさんもシモンさんの様な人を除けば、信者は居なくなってる可能性がある。そうなると……それでも人間よりは強いのかな?
異端審問官という存在についても説明する。そういえば八王子にも関連する人が居るはずなんだっけ?
「服部丹波って人がいる? 武田の異端審問官だったって話を聞いたんだけど」
「え? それ、うちの家老と同じ。軍務担当の新九郎さん、内政担当の丹波さん、その2人が大体のことを決めてるんだけど、その丹波さんかも知れない。でも前の仕事が何でも、それを咎めることは無いし、そんなに武田寄りの意見を言う人じゃないから、問題は無いと思うんだけど」
一応、念のためにおかしな話が無いかは調べてくれるそうだ。元の仕事が嫌になって来たのかも知れないし、女神を排除する考えを持つ人とも限らないけど、もし女神を排除する考えを持つ人が内政のトップに居るとしたら、心配ではある。
翌日は朝早めに宿を出て、村を出てすぐ川を渡り、相模原領に入る。道はすぐに森の中に入り、少し暗い。道はかなり平坦で、馬車が2台すれ違うことも容易な幅を持って切り開かれている。僕らより遅くアイハラ村を出た商人の馬車が追い抜いて行く。
「昨日もそうだったが、魔物に遭わないな」
「レベルアップの機会がない。我らも前線で魔物狩りでもしないか?」
ルイとヨリトモが魔物狩りを主張するけど、軍隊が戦ってるところに入って行ったら巻き込まれて狩られるんじゃない? 魔物扱いされて。
戦場見学が出来るという話は聞いてるから、その一環で1日前線体験とかあればその位は参加しても良いけど、正体発覚の原因になったりしそうだから、余計な事はしたくないのが正直なところ。目的を果たして余裕があったら、また来たら良い。
そして森の道を歩き続けて、相模原の門が見えた。ここまで中間くらいに休憩場所があった以外、ひたすら森だった。こんな広大な森が続いてるなら、道から外れたら迷って出て来られないんじゃなかろうか。森に囲まれた国という背景に、八王子で聞いていたある情報で、相模原に対する期待感が高まる。
相模原の門番は、久しぶりに見たエルフ。門番に魔法について問われることもなく、そのまま街に入れた。八王子で得ていた情報では、魔王の脅威で逃げてきた人族の難民を多く抱えるけど、本来はエルフの国。そのためか、街にいる人は人族が多いけど、門番や門に詰める兵士は全員エルフ。軒を貸して母屋を取られるとならない様に、治安に関係する部分はエルフが担当しているのかも知れない。
西アイハラ村で聞いた情報によると、相模原は魔法使用は問題なし。エルフたちが魔法を使うなという決まりを嫌って連邦加盟を拒絶したと言われているけど、本当の理由が公表されているわけではない。
そして、この街には女神が居ると言われていた。この時代で最初に話を聞ける女神。どんな情報が得られるだろうか。




