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7-13 女神新時代 その鎧は……

 店に入ってきたのは、さっきの2人。店内を見回し、空いていた僕らの隣の席に座る。さっきまで野菜自慢をしていた店主を呼び、注文した様だ。

 大部分の客は気に留めないようだが、視線が合わない様に横目でチラチラ見る客が居ると思ったら、さっき門で斧を持っていた男性だ。


「この村に居らず、村の者も知らぬとなれば、既に領外に出たと報告するしか無かろう」

「領内に入ったが村には入って無いとなれば、捕らえる程の理由にはならないな」

「なら、仕事は終わりだ。食ったらさっさと帰るか」


 僕らは4人組に当たり障りの無い話をさせつつ、僕とハコネが聞き耳を立てる。領内に入ってきた何かを探しに来た様だけど、具体的に何なのかは聞こえてこない。その後の話も食べ物の話やどこに美人が居たとかそんな事だったけど、気に留めるような事はない。


「お前達は、門の所に居た連中か? そこの4人は足利の兵か? こんな所で何をしている!」

「おお、これはいい鎧だ」

「そう、その鎧だ。足利の兵が使う鎧。足利の兵がマチダに入り込んだとなれば、事情を聞かねばならん」


 しまった。鎧がまだみさきちに借りたやつのままだ。そうなると、足利の鎧って事になる。何事だろうと他の客の注目が集まる。斧の男性、「なんならやっちゃう?」みたいな期待を込めた目で見ないで欲しい。


「待て待て、これはかなり古い型の鎧。ほら、この装甲小片を見ろ。本物のドラゴンの革でスケイルアーマーなんぞ今時造らん。もっと耐久性の高い金属があるだろう? この鎧は今となってはお宝的にとても価値がある物で、俺も博物館にあるのを見たが、こんなに状態が良い物は初めて見た。少なくとも兵士が着けてるものじゃない。こんな物、どこから持ち出した?」

「兵士でないなら、良いか。お前もそう言うの好きだな」


 危ない状況だったけど、片割れは鎧マニア? それとドラゴンの革って、飛龍? 箱根に戻ると飛龍にも遭うかも知れないけど、これ着けてたらまずいだろうな。騒ぎの方向が変わって来て、俺にも見せろと近づいてくる斧の男性。ドラゴンと聞けば血が騒ぐみたいな人? あと兵卒の鎧だって言ってた八王子の防具屋、あれはちょっと価値低めに言われてたって事か。今分かって良かった。


「僕らは兵士ではないですよ」

「八王子の西、湖畔の村から来た。相模原に向かっている。鎧は祖父が遺した物だ」


 実際に兵士でないので、僕は嘘は言ってない。とっさに湖畔の村から来たという作り話をするオットー。シモンさんの話をしてあったのが役立った。


 怪しまれたのをなんとか躱し、異端審問官だという2人と話せる状態になった。異端審問官というのは“魔王に与する異端”を探すのが仕事だが、その異端には女神信仰も含まれるという。魔王と女神は共に人とは異なる不死の存在。女神も魔王も本質的に変わるものではなく、人に都合の良いことをしたか、都合の悪いことをしたかの差でしか無い。人の信仰によって力が高まった女神が魔王になられてはかなわないから、女神への信仰は危険だという。

 本業はそれだけど、今は町田に派遣されている武田軍の偉い人から命令を受けある人物(・・・・)を探しているそうだ。


「お前達は女神を崇めては居ないか?」

「崇めてはいません」


 崇めるものじゃなく、そのものだから嘘じゃない。少なくとも、ハコネは崇める対象じゃないことは確かだ。


「お前達が連邦の住民でなく旅人なら、たとえ女神を崇めていても我らがそれを咎めはしない。ただし、連邦内で女神の信仰を広めようとするなら、それは認められない」

「社会の変化について行けず古い時代に戻したいと思う者は存在する。女神信仰がそこに入り込もうとしている。その様な者たちとは蔓まない事だ」


 この先、その連邦に含まれる地域を通ることもあるだろうから、この様なことを知っておいて損はない。武田側としては女神と人間の分断によって自分たちの目的に障害となるものを弱めたいんだろう。倒してその力を得るなんて話もあるし。


「ところでハチオウジを通ってきたなら、服部丹波殿をご存じないか?」

「昔は俺達と共に働いた男だが、大きな仕事が出来たと言ってハチオウジに行ったきり戻ってこない。手紙も寄越さないから、元気で居るのかも分からん」

「聞いたことがないですね。八王子の住人ではないので……」


 異端審問官として働いた人が八王子に? 転向して女神がいる場所に行った? でも八王子も女神は蔑ろにされてる方だし。武田方とつながりがある人物が居るということなら、みさきちには伝えておくか。


 他に得られた情報も色々。魔法の使用が制限されている理由はテロ対策。以前は要人を魔法で襲撃というのもあったらしいが、長年の使用制限で使える人が減ったこと、対魔法装備で防御側の対策も進んだことで、要人襲撃は10年以上起きていない。対魔法装備は一般には出回っていないから無差別テロの危険は無くなってない。無差別テロが起きるとしたら、民衆が政治を動かす地域。連邦だ。

 連邦についても話が聞けた。50年以上前に武田軍により多くの町が占領された。それらは先の戦争に参加して“1ターン休み”になった女神の居た町、それと箱根。それらは連邦という大きな枠組みの中に置かれ、武田の保護下にある。この連邦の名目上の主目的は魔王と戦うための枠組みで、武田軍を主体として各都市も参加する連邦軍が魔王軍と戦っている。魔王と戦うのは勇者の役目ではなく、勇者が率いる連邦軍の役目だ。

 残ったのは藤沢、あとは先の戦争に出てない秦野、横浜、相模原。平塚は武田の占領下には置かれなかったが自主的に連邦に参加し、それと引き換えに東西を繋ぐ交通の要地という立場を得た。もし西に行きたいなら、相模川を下って平塚に行けばそこからは鉄道があるのだとか。

 交通手段として一般向けには鉄道がある。蒸気機関でも電気でもなく、エーテルを使って走る鉄道。つまりヨコハマさんがやってたのと同じ原理だ。また、彼らはジープらしきもので移動してきたが、あれは最先端だそうで一般向けではなく軍関係でのみ使われているそうだ。


「もし連邦の先端技術を見たいなら、マチダの戦場を見学すると良い。後方には見学者のための施設があり、案内してもらえる」

「女神に頼るのを止めた我々がどれだけの進歩を手にしたか知る良い機会だ。行ってみると良い」




 町を出て、街道を相模原方面へ向かう。今日は次のアイハラ村に泊まり、明日相模原に着く予定だ。


「技術が発展すると女神の助けは不要になる。創造主の時代、人々は女神に救いを求めてはおらぬ。その頃に戻ったとも言えるのじゃが、たった60年でそこまで変わるとはのう」

「僕の知る世界も、発展したら宗教は力を失ったから、そういうものなんじゃないかな」


 人々の信仰で力を得るこの世界の女神には辛い状況だけど、女神の力を借りなくても人々が自分で色々な問題を解決出来る様になることは進歩だ。悪い事とは思わない。ハコネもこの世界の女神の中では信仰で力を得たことが少ないから参考にならないけど、他の女神の心境はどうだったんだろう。


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