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7-11 女神新時代 街道の商人と白騎士

 街を出て始めは東に、その先で南の相模原、東の江戸方面に道が分かれる所で、人の流れも分かれた。東に向かう人は魔王が居る江戸へ向かう訳ではなく、北の諸領に向かう道も途中までは東への道を通るからだそうだ。街で人々がどんなルートで何処へ向かうのかは、おおよそ聞いてある。

 僕らは南へのルート。丘を上ったらまた下って川を渡り、それからまた丘を登るなど、アップダウンがある道。道は林を切り開いた土地の道路で馬車がすれ違えるくらいの幅。雪が両脇に避けられているけど、昨夜また降った分が10センチ位積もっている。既に街から5キロ位歩いてるけど、除雪がしてあるなんて、インフラに手間を掛けてることが分かる。道を外れると50センチ位積もってる様だから、この努力は旅人にはありがたい。


「前にこうやって2人だけで雪道を歩いたのはいつだったかな」

「我がお主の身体に封じられた頃以来じゃろうか。それ以降は、誰か一緒に居ることが多く、2人だけというのは記憶にないのう」


 他の人より少し早足くらいで進む。人は多くなく、他の人を追い抜くのは1時間に2~3度。馬に乗った人に追い抜かれるのは朝から2度。馬に乗っているのは、街道を警戒する兵士らしい。馬に乗った兵士が見回りをしているけど、その兵士は魔物と戦う訳ではない。魔物の発生状況を調べて、旅人に対処できない規模の場合にまとまった数の兵士を連れてくるためだ。旅人は少々のことは自主防衛が求められる。




 3時間ほど歩いて、下ればサガミハラ領に入る峠に到達する。ここで一休みするための広場になっていて、切り出した丸太を使った半円形の囲いが道の両側にある。転がしてある丸太はベンチ代わりだろうか。そこで数組の旅人と馬車を引く商人らしき人が休んでいる。


「嬢ちゃん達、2人だけかい? 危ないから無理するんじゃないぞ」

「俺達は南へ行くんだが、一緒に行くか?」


 普通の旅人として振る舞うべく怪しげな装備は持たない僕とハコネ。見た目10代半ばの少女の姿というのは、保護欲を掻き立てるらしい。善意(多分)が集まる。これが人通りのない奥地だったら、善意のふりをした悪意に警戒するところだけど、そもそも僕らの場合は特に心配は不要。同行されると話せない事が多くなるから、やんわりとお断りするも、それでも心配だという人には手加減した腕相撲でそれなり(・・・・)やれますよ、という所を示して納得してもらう。


「東に魔王が湧いて以来、街道付近にも魔物が流れてくるようになったからな。まあ嬢ちゃん達なら、流れものは問題ないだろう」

「たまにだが、大物が現れることがある。人の背丈の何倍もある熊の魔獣や、人を丸呑みできそうな虎とかな。そういうのが危ないんだ」

「いや、ここらは大物は出ないさ。大物が人のいる場所に出る前に、白騎士が狩ってくれるだろう」


 大物に警戒を呼びかけたのが、厚木から来て八王子に向かうという若手の商人。これから僕らが向かう方向だから、大物が出た時の事は考えておこう。倒してしまって良いのかどうか。あるいは中身が分からないような全身鎧を着込んで、正体を隠して戦ったり?

 そして白騎士という謎の存在について語るのが、中年の商人。昭島の商人で相模原からの帰り。この辺のことに詳しいとは本人談。


「白騎士ってのはそんなに強いのかい?」

「城の兵士で手に負えない大物を専門で狩る、八王子お抱えの戦士だと言われている。隊商ルートに大物が来る前に狩ってしまうので、俺達商人が出会うことはまず無いだろう。隠されているそうだが、飲み仲間の兵士が一度だけ見たそうだが、寡黙で人間離れ(・・・・)した実力の戦士なんだが、意外なことに小柄で女じゃないかという噂もあるそうだ。そんな奴も居るおかげで、八王子近辺では他よりは安全に旅が出来る。だからこの歳になっても、まだ隊商をやってるわけだ」


 僕が考えるような、正体を隠して戦う戦士だろうか。


「魔王が出るまでは、狼と出会うくらいで、同じルートの商人はライバルだった。今や協力しなくては生きていくのも難しい」

「その白騎士が魔王を倒してくれたら良いのにな」

「それが出来るなら、お願いしたいところだな。だが白騎士が魔王に敗れると、俺も廃業を迫られるかもしれん」


 魔物が出没するようになり、商人も戦う場面が増えた。護衛を雇ってまで成り立つ商売はそれ程多くなく、同じルートの商人たちは隊列を組むことで実質的に商人同士のパーティーを結成し、何かあったら共同で対処する。他の旅人もそれと同行することが多いから、僕らのような2人だけというのは余程実力があるか、物を知らないかどちらかだとか。




 2時間ほど歩いた所に村があることを教えてもらった。彼らは今朝、そこから来たらしい。僕らは休憩場所を抜けて、また相模原を目指す。


「さっき聞いた白騎士って、もしかしたら」

「ハチオウジの可能性があるな。城に雇われておるなら、ミサキに調べさせれば良かろう」


 白騎士が正体を隠す理由は何だろう? 女神が戦ってますで良いような気もする。城に雇われた戦士という姿で正体を隠すと、何か都合が良いことがある? あるいは、誰に都合が良い?

 

「女神が活躍するという事を嫌う何かがあるのじゃろうか。女神としては、信仰を集めるにはぴったりな場面なんじゃがな」


 本人に聞いてみるのが一番だが、果たしてみさきちも会えるのかどうか。というのは、城の人々の間で白騎士なんて話は全然出て来ておらず、ハチオウジの元神官シモンからもそんな話は聞かなかった。さっきの商人は酔ってうっかり口を滑らした兵士から聞いたんだろう。八王子に定住する人には語られず、八王子の外で活動する人に語られる存在。隠すならば、人目に触れる街を出入りしなくていい場所、城以外を拠点にしているかも知れない。

 まだ戻ってまで調査しようとは思わないけど、夜の情報交換で得られる情報によっては、会いに行く事も考えよう。


「ところで、うちの酔っぱらい共はどうするのじゃ? やつらも途中で目撃されず、突然街に現れたら怪しまれるのではないか?」

「僕がネクロマンサーって事で通すから、召喚できるっていう設定でどうだろう?」

「召喚のう。聞いた事はないが、誰もありえないとまでは言い切れぬから良いか」


 みさきちが装備や道具を収納するのに使うストレージは、生き物を入れることは出来ないそうだ。それと比べて、僕やハコネの方は何だって入る。前者は人が使うもの、後者は神族が使うものという差があるのだとしたら、生き物を出し入れしたら正体がバレる。


「生き物じゃないという設定は?」

「アンデッドは死んでおるな。ミサキにも何かアンデッドを入れる実験をさせて、上手く行ったらその説明で良いじゃろう」


 この件はその後みさきちに却下されたのだけど、魔法の解析が大好きな某エルフにトライしてもらった所、アンデッドも収納できないという結果だった。つまりアンデッドは死んでるけど生き物扱いという不思議なことになっている。生き物が入らないのではなく、違う仕組みがある。


 そんな四方山話をしている間に、隊商たちが昨夜泊まったという村が見えてきた。そろそろ大丈夫かと酔っ払い達を呼ぶと、一応全員復活してた。6人の旅人という体で、村の入口に向かう。


「やあ、旅人さんマチダへようこそ。マチダに入る手続きをさせてもらうぜ」


 そんな横を走り抜けた物。雪の道を走り抜けた物。思わず二度見。


「ジープ?」

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