7-10 女神新時代 カウント
途中からハコネも呼んで、ハチオウジの元神官シモンから話を聞かせてもらった。結局シモンさんもハチオウジさんがどこに居るか分からないという以上の情報を持って無く、何か分かった事があったら知らせて欲しいと頼まれてしまった。シモンさんは西にある湖畔の村に住んでいるそうで、ギルドで湖畔のシモン宛と郵便を頼んでも連絡出来るそうだ。どこに居るか探すのは、手紙配達クエストを受けた駆け出し冒険者が頑張る。
そろそろ時間かなと、4人が取った部屋、表向きは6人が使う2階の部屋に移動して、ハコネが扉を召喚。2人でみさきちの所へ。
「ちゃんと来たわね。今日は何処まで進めたの?」
「まだこの街に居るよ。気になることがあってね」
「我らの不在の間に、女神はどうしてしまったのじゃ。女神達は役目を捨てたのか?」
部屋の時計は9時50分。初日から遅刻はしないで済んだ。
みさきちからは、食事が豪華な和食だった話やら、城の規模の割には人が少ない事、代官の伊勢さんは魔王軍との前線と城を行き来して両方を監督してるため夕食後すぐ前線に向かったなんて話。僕の方は、城門での話、酒場での話をするも、首をひねるみさきち。
「女神が城に? まだ初日だから会ってないだけかも知れないけど、明日にでも聞いてみるわね」
「ハコネが知らない間に守護の役目からから外れてたみたいに、女神の立場が以前と違うかも知れない。それが分かったら、僕らもどうすれば良いのか参考になると思う。城の中の事は、お願いするね。僕らは明日には予定通り、街を出るよ」
「道中、他の女神達にも聞いてみるとしよう。ハチオウジの件は、お主が調べでおくのじゃ」
僕らが城の中をうろつくことは出来ないけど、みさきちは本来ここの主なんだし、情報集めは容易だろう。ハチオウジさんの件はこの城で本人を探す事からとしたら、みさきちに任せるのが良い。僕らは他の場所で情報を得よう。
「東に敵対する魔王、西に信用できない武田。2つの列強に挟まれたこの地域はどうすべきか。この地域を武田と魔王が戦う戦場として荒れ果てたままにして置くのか。武田を魔王と戦う用心棒だと思うのは間違いだ。魔王と同じく、この地域を害する者と考えるべきである」
酒場兼宿屋に戻ると4人はまだ部屋に居らず、1階の酒場に降りると、首相改めオットーが語るのを酔っ払い達が聞いている。あとの3人は、順番待ち?
「何やってるの?」
「4人が時局にどうすべきか話し、誰の意見が良いかを投票で決める。1位は4位に奢られる約束だ」
まあ良いけど、相手は酔っ払いだし、まともは判断なんて出来るんだろうか?
それに、オットーの名はビスマルクに因んだのなら、多数決を受け入れるってのはどうなの? 多数決じゃなく鉄と血で解決するんじゃないんだっけ?
「武田への手伝いで南に兵を送るなどは無駄。足利がやらるべき事は、自らのために兵を動かすこと。戦うべき戦場は、南でなく北である」
「魔王と戦う中、人間同士の争いを起こし足を引っ張るなど、魔王の手先のすることだぞ」
聞いてる酔っぱらいが案外真剣。戦術ビューでこっそり見ると、職業が侍大将なんてのが混ざってる。見た目はただの酔っ払いだけど、城の人が混ざってる。僕らが2階に上る前にはそんな人達は居なかったから、仕事が終わって一杯やりに来たとかだろうか。
「人間同士の争いをするのではない。武田が相模の諸領を助けるという名目で傘下に置いたように、魔王と戦う北の小勢力を援助するのだ。そして足利の旗の下、第3勢力を作り上げる」
北に小勢力? ここでの情報収集でそんな情報が得られたのか。確かみさきちが以前切り取った地域がここから北だけど、それらが独立したってことなのか、あるいは別の地域のことだろうか。オットーの意見にはそこそこ賛同する人が居るようだ。
「そろそろ良いかな? 次は……」
「ハコネ、上に戻ろう」
なんだか何時までも掛かりそうだから、放っておくことにしよう。僕は僕の方で、懸案を1つ解決したい。
「ハコネに聞いておきたいことがあるんだけど、システム的なことで」
「システム的? どういう事じゃ?」
聞きたい案件、それはターンのこと。
”Turn 894” これが今のターンだそうだ。その表記は今でもログにあるし、以前から戦略ビューでも読む事が出来ていた。以前はそうだった。
ところが、その戦略ビューの表記は、僕がこの世界に戻ってから一部変わったのだ。
”Turn 894/900”
それを紙に書いて、ハコネに見せる。
「我も戦略ビューは見えるが、その900というのは付いておらぬな。お主のみに加わったか、我以外には加わったのかは、他の誰かに会わぬと分からぬが」
その他の誰かにちょうど良い地元の女神は不在。この件も他の女神にあって聞きたい案件だ。それに、この894/900というのは、嫌な予感がする。
「世界が終わる、なんて事は聞いたことはない?」
「世界の終わりか。知らぬな」
900で終わりってのは区切りも悪い。そんな大事じゃなく、そのタイミングで何かが起こってしれっと901ターンに行くような気もする。1999年に恐怖の大魔王も来なかったし。この世界には魔王来てるけど。
翌朝、扉を出て4人が寝る部屋に入ると、なんか酒臭い。まさか朝近くまで飲んでた?
「さあ、起きよう。今日は街を出るよ」
「待ってくれ。頭が……」
アンデッドが二日酔いになるの? アンデッド扱いだけど僕と同じ身体だから、なるとしても仕方がない気もするけど、それで出発できませんなんてのは困る。いや、手はあるか。
「じゃあもう半日時間をあげよう。ここで寝てるのはダメだから、あっちで」
食堂に6人分の朝食があるけど、4人は食べられないということ降りてこない。朝食はパンとサラダにスープ。僕らはしっかりそれを頂いて、4人にはパンを裂いてサラダを挟み、テイクアウト。それを持って、2階に上がる。
かろうじて起きた4人を追い立ててチェックアウトをさせて、宿の外へ。
「結構積もったようじゃな」
まだ朝早いため、街に人はまばら。街の出口までに見知った人に会うことはなく、街の出口で警備をする兵士の人に挨拶した以外に話をする相手もなし。でも誰に見られているかも分からないから、僕ら一行が街を出る所は目撃されるものとして6人で行動する。
「人目につかぬ場所までの辛抱じゃ」
「うい」
昨日のいい感じが何処かに行ったオットーがかろうじて返事をするけど、4人の歩みはゾンビの如し。まさにアンデッド。
街の外に出て、人目がない所でハコネの扉を出して4人を中へ。ハコネの空間は何もない、床面もただ白い何か分からないものだから、何かあっても汚れを掃除するのは簡単。僕の部屋だとそうは行かないから、ハコネの空間の方でよろしく。僕の部屋に出入りの必要がないように、水は1.5Lボトルに入れて4人お近くに置いとく。
「昼には呼ぶから、それまでは寝てて良いよ」
「それは助かる。すまないな」
街の外に出て、丘陵のアップダウンを避けて右に左にと曲がりくねっった道。道以外は雪に覆われ、4人をノロノロ歩かせるのも、時間掛かるからね。そんな訳で、4人はハコネの空間に収容。僕とハコネで進む。
「それで次の女神がいる街は?」
「サガミハラじゃな。街はここから南に60キロ。普通は徒歩2日じゃ」
普通はというのは、今回は僕らの全力でなく、人並みに進もうという話になってるから。女神の立ち位置が不明だし、ひとまずは目立たず行動したい。飛べる人や人間離れした走りをする人は、ほとんど居ないようだし。
「今日はハコネと雪道か。昔を思い出すね」




