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7-8 女神新時代 鍵なき籠の鳥

 門番さんに連れられ城に戻り、昼前に入った本殿に連れて行かれるのかと思ったら、入口を入らず右手奥へ。松が植えられている庭を過ぎ、行く先に見えるのは本殿から渡り廊下で繋がった離れと言うべき家屋。ちなみに、4人はギルドで説明を聞くということで置いてきた。

 離れの戸を開け玄関で門番さんが声を掛ける。玄関は土間に沓脱石、上がり(かまち)と祖父の家で見たような形式。玄関ホールに当たる場所も畳で、靴を脱いで上がらざる得ない作りだ。この中でそう言うのに慣れていないのは……居なかった。ハコネも僕の部屋で靴を脱ぐ習慣を身に着けさせたし。

 待つと、奥からセミロングの黒髪を結んだ20代くらいの和装の女性が現れる。和風メイド?


「お待ちしておりました。美咲様がお待ちです」


 美咲? 政綱って名になってるんじゃなかったっけ? 玄関で話すような事でもないので、それは後回しにして順に靴を脱いで上がる。


「こちらです」


 和風メイドさんは玄関部屋の右手にある襖の前に移動。僕らの準備が出来るのを待ち、中に声を掛け襖を開ける。

 襖を開けると、畳に障子、床の間の立派な和室。そこに「どこの姫様ですか?」と言いたくなる格好で出迎えるみさきち。


「呼び出して悪いわね。城から出してもらえなくて」


 服装がそもそも外出するような物で無くて、外へは出しませんと言わんばかり。案内してくれた和風メイドは、身の回りのことをしてくれる人だそうだ。買い物を口実に出ようとしたら、代わりに行きますと行かせてもらえなかったそうだ。


「抜け出そうとしたが出られなくて困っておる、という事じゃな。城の者も長くお主を待っておったのじゃ。しばらくは城に居てやれば良かろう」

「そのしばらくって間に、面白い事を全部済まされちゃうでしょ」


 面白い事と言うか、4人が冒険者の身分になり、これから秦野に行こうとしてる件。掻い摘んで説明すると、「もう面白そうなことをやってる!」と憤るけど、僕らに怒ってもしょうがない。


「そっちの事情は自分で何とかしてもらうとして、たまにはここに来て何があったか説明するよ」

「たまにはじゃなく、毎日来るの! ちゃんと情報収集はしておいてあげるから」


 毎日って…… まあ、扉を1つここに維持していれば可能だけど、不都合が出るまではそうしようか。僕の扉は元の城にあるからそれを呼んで、箱根にあるハコネの扉を移動先に出すって事にしようか。でもその前に、まだ箱根に出たらダメなのか確認かな。


「毎日帰ってくるなら、僕の扉はどこに出したら良いかな?」

「秘密にしたいなら、私の部屋にしましょう」


 襖を開けると、案内してくれた女性が控えていた。聞かれたかな?


「サツキさん、部屋の中で話していた事を……」

「姫様が抜け出さない限りは、どなたにもお話しません」




 和風メイドのサツキさんは、みさきちが抜け出さないために見張る事は指示されているけど、それ以外についてはみさきちが命じることが優先だそうだ。そんな話をしながら、みさきちの私室へ向かう。


「ところで、美咲って呼ばれてたけど、政綱って呼び名じゃないの?」

「まだ私が帰ってきたって、一部の人にしか知らせてないの。武田家の反応が心配で、対応は協議中ってところ。しばらくは偽名で過ごすようにって事だから、偽名として美咲を名乗ることにしたのよ」


 偽名が実は本当の名で、本名と思われているものが実は偽名。いや、ここではどっちが本名? まあ、美咲と呼べるのだから、便利ではあるかな。

 でも対応を協議って、無事行方不明の姫が帰って来たんだから、堂々と迎えたら良いんじゃないの? 現公方を倒せるかも知れない実力の持ち主にして、前公方の妹。旗印にしたら勢いづくだろうに。


「呂布が実は漢王朝の血筋で、劉備軍に加わったみたいな立場?」

「私が呂布? それは褒めてるのかしら? 貶してるのかしら?」


 この地方に拠点を築いた張本人。ジョージBに並ぶ“地図を書き換えられる存在”だから、警戒されるか。

 到着したみさきちの部屋には、机と座布団、机の上には和風の部屋に似合わないランプ。このランプは輸入物で魔力を使って光る仕組み。そして、目についた珍しいものが。


「時計!?」

「武田の方からの輸入品よ。腕時計もあるけどそれは売ってもらえないみたい。軍隊とか特定の職業専用で、出回らないそうよ」


 アンティークな振り子時計。文字盤の下で重りが左右に揺れている。この世界で造られた時計を見るのは初めてだ。この世界の時間が僕らを残して進んだことの象徴かのようだ。

 ランプと時計以外は、これと言って挙げるものがない、ミニマリストのような部屋。


「何もない部屋って思ったでしょう。ストレージから出す必要もないからね。これからいくらか物は増えるでしょうけど、兄様と京に居た時も似たようなものだったわ」


 人族の家はもっと物がごちゃごちゃしてたけど、あれは飾る文化なんだろう。


「今日まで使ってた装備は?」

「取り上げられたけど、もしもここが戦場になった時は必要だから、サツキさん預かりになってるの」


 この離れだって防衛上の拠点として築かれた城の一部だから、戦場になる可能性がある。ここがなるくらいなら、落城寸前だろうけど。

 明り取りの障子を通して外の光が入ってるから開けてみると、その先は本殿に面していて、渡り廊下を警備する兵士の姿が見えた。警備は万全だ。侵入者を見張るんじゃなくて、みさきちを見張る警備。


「見ての通り、警備も万全よ。見張るって言っても、逃げられないようにじゃなくて、逃げたら分かるようにって程度だけどね」


 飛ぶ魔法を使えるみさきちを逃さないなんて強制は出来ない。だから「見てますよ。逃げられたら私達困りますよ」というアピールだけだそうだ。信頼という鍵をかける、的な話。

 ちなみに本当に飛んで逃げたら、数少ない飛べる人が追いかけざるを得ず、そんな人は普段から大活躍だから、過労にさせたくなければ逃げるな、って事になる。


「扉はここの奥にしてね。少し手前に屏風を置くことにするわ。来客がある時に扉が出ても、来客に気付かれる前に引っ込められるでしょ」


 扉を出して、どれだけの高さの屏風を探すか決めてから、僕らは一旦撤収。扉を出すタイミングは、来客が無いはずの夜10時以降にした。僕の方は部屋の時計が参考になるから大丈夫。


「あやつ、そもそも願い事で姫にしてと願ったと言うのだから、大人しく姫で居れば良かろうに」

「みさきちが説明した願いと、実際になってみた状況が違ったとか?」


 顧客が本当に必要だったものってネタがあったけど、まさにそれか。僕の方は本当に必要だったものが僕にも分かってなかったわけで、願い事を伝えるというのは難しい。そんな事を話しながらふと気がついた。この街の女神に会ってないって。


「八王子の女神に会ってないけど、居るんだよね?」

「それは居るじゃろう。ここはジョージBの侵略も受けておらぬようじゃから、務めを果たしておるのではないか」


 折角だし会っておこうか。他の女神に関する情報も得ているだろうし。ギルドで4人と合流するのは、その後で良いか。




「女神様にお会いできるのは、代官の伊勢様に許しを得た方のみです」


 城を出る際に女神の事を聞くと、門番にそんな事を言われた。庶民との接点が無いって、信仰力が貯まらなくて力を発揮できないんじゃない?


「難しいことは私には分かりませんが、魔王の復活以来その様になっています。以前は街の(やしろ)に願い事を捧げると女神様に届いていたのですが、魔王への対応で精一杯なのだと聞きます」


 これまで会ってきた女神達は、街の信仰が薄れてた三島は別として、街に神殿があって一般の人が訪れてた。領主だけが願いを叶える様な事はなかった。魔王への対応ってのがどれ程の事か分からないけど、面会謝絶ってのはどうした事だろう。


「何かおかしい。調べてみたほうが良さそうじゃな」

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