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7-1 天上の楽屋裏 敗者達の記憶

新しい章に入ります。

「今度は何事だ? 消えるやつ、意識を失うやつ、見かけないやつ。どうなってる?」


 何が起きた? 僕はジョージBと入れ替わり、倒そうとしたら元に戻されて、倒された。僕が身体の入れ替えを願う様に、きっと彼もそれを願い、元に戻されたんだ。彼も召喚され、願い事をストックしていたんだろう。

 そして、あの戦いの最中、封印の儀式は成功していた。そうすると、僕が封印された事になる。


 その結果が、目の前にある訳の分からない状態。そこに居るのは、さっきの言葉を話したのを含め、僕の顔をした(・・・・・・)誰かが5人。さらに寝てるのが1人。それも僕の顔。同じ顔が6人て、なんとか松じゃあるまいし。

 寝てるの含め、5人は頭に天使の輪みたいなのが載ってる。1人は天使の輪の代わりに、お札のようなのが付いてる。


「口がきけぬか?」

「いや、喋れるよ」


 何が起きたのか。落ち着いて周りを見ると、ここはハコネの部屋のように真っ白な空間。床面は光を反射して僕の顔を写す。映る僕はサクラの姿だ。そして、僕の頭上にもお札がある。

 そして、どこにも出口がない。そこはハコネの空間と違う所。


「ん? どこじゃここは? ジョージBじゃと!?」

「いや、中身はサクラの方だよ。身体を戻したのに、ジョージBがもう一度戻してしまったんだ」


 扉を開けて現れるハコネとみさきち。ハコネは中身がジョージBのままと思ってるから、撃たれる前に否定しておく。中身が僕な証拠は、出会った頃のハコネの残念エピソードをストップが掛かるまで話した。証拠はまだまだ引き出しがあるけど、次の機会に取っておこう。

 ハコネ達が出てきた扉は、僕の扉だ。どんどん分からない事が増える。


「失敗じゃったか…… それで、これはどういう事じゃ? ジョージC以下6人じゃと?」

「お主達は何者だ その扉は何だ? まさかその扉は外に続くのか!?」


 ジョージ(?)2人が僕らを押し退けて部屋に駆け込む。そして、


「朕の部屋に相違ない」

「余の部屋だ…… 久しいな」


 いや、君らのじゃない。僕のだ! 顔は他人の空似よりは似てるけど、部屋は他部屋の空似だ。


 ハコネとみさきちは、ハコネの扉から僕の部屋に入ったら後ろに居たはずの()が見当たらず、探しに引き返そうとしたら扉が無かったそうだ。そこで僕の部屋を抜けて来たら、ここへ来たと。僕の今の状況が封印下であるとしたら、僕の部屋に入ったハコネとみさきちは封印に巻き込まれたのだろうか。

 僕も確認のために部屋を抜けハコネの空間で外に出る扉を探したけど、無い。




 すぐに出られそうにないので、とりあえずお互い誰なのか確認を始める。


「我はハコネ、隣はサクラ、そしてそっちのがアシカガマサツナだ」

「我々も紹介しよう。お初にお目にかかる、お嬢様方。朕はジョージ皇帝モデル、隣がジョージ魔王モデル、そっちが順にジョージ国王モデル、ジョージ首相モデル、ジョージ将軍モデル、寝てるのがジョージハーンモデルだ」


 ダメだ、自称ジョージの見分けがつかない。見た目は全く同じ。お札が魔王、寝てるのがハーンは覚えた。

 見せた部屋が僕のだと主張した所、僕の顔をした全員、ただし寝てるのを除くが、自分の部屋だと言う。


「その部屋について余が言ったことは、嘘ではない」

「我らは全員同じ記憶を持っている」


 顔も形も同じ、クローン? いや、クローンは記憶まで共有するわけじゃない。あくまでも別人として存在するんだから。


「根源の記憶は同じくするが、ある時を境に我らは別々の記憶を持つ。この世界の一員となった時からだ」

「朕は創造主の時代に文明を率いて戦った。数千年の時を戦い、破れた結果、ここにいる」

「全員がそれぞれの文明を率いて、その戦いに参加した。日本人武田丈二の記憶を持つ我々は、この世界で文明を率いる者になり、それぞれ異なる道を歩んだ」


 武田丈二って僕から言わないのにその名が出るって、本当に僕と同じ記憶を持つって事か?

 でも実は、彼らが武田丈二を自称するのは知っていた。戦術ビューで全員の名前が「武田丈二」だったから。


 怒涛の怪情報で大混乱だけど整理すると、

 ・僕は封印されたらしい

 ・ハコネとみさきちは封印された僕の部屋に入り、封印に巻き込まれた(予想)

 ・ここにいる元の僕と同じ顔の6人は、この世界に来るまでの記憶は僕と同じ。僕のコピー?

 ・それぞれこの世界で創造主の時代から何千年も文明を率いて戦い、敗れた結果ここに送られた


「ここに居る5人、そこのハーンを含めれば6人だが、我らと同じ姿と記憶を持つ者は、さっき(・・・)まで居た。消えてしまい今は居ないが」

「そいつは酋長と言ってな。我らの名と同様、個性に合わせて我らの間で名付けただけだが。そして俺は思うのだが、お前は姿は変わったが、酋長なのではないか?」


 酋長? 入れ墨入れたおじさんのイメージだけど、僕の姿で酋長ってのがいたのか。皇帝が居たり酋長が居たり、どこかのゲームの難易度設定みたいだ。で、僕が酋長って?


「納得していない様だな。我らが知る酋長は」

「好戦性の欠片もない平和を愛しすぎた男」

「自らを僕と言う」

「戦わずに負ける男」


 酋長さんのことを言われてるはずなのに、僕を馬鹿にされてるような気になってくる。特に最後のお札貼られた魔王、性格悪い。個体識別できてるのが魔王のみだけど。


「それ……」

「サクラの事じゃろう?」


 何言ってるかな、みさきちもハコネも。


「お主が理解できない理由は分かる。魔王の2度目はそうであった。下界への召喚は、武田丈二という根源の記憶以外、全ての記憶を失うのだ。下界に1度行ったのみの朕は、創造主との戦いも覚えているが、魔王は再召喚でその記憶を失い、根源の記憶以外は再召喚以降しか覚えていない。そうだったな?」

「ああ。気付いた時は異世界に連れて来られた日本人、武田丈二であると思った。お前もそうであろう? 何故今の姿になったかは分からぬが、最初は余と同じ姿であったのではないか? お前が酋長とすれば、再召喚で根源の記憶以外を失い、下界での僅かな時の記憶のみを持って、ここに戻ったことになる。その様な状況ではないか?」


 今のは皇帝と魔王。どちらも創造主の時代に戦った記憶を持ち、敗れた後はここに居る。魔王は創造主の時代に敗れここに居たが、再度あの世界に戻った時にそれまでの記憶をリセットされた。その流れはわかったけど、それが僕もそうだって? まあ僕に確かめる術はないけど、そんな出来すぎた話が……

 お前はここに居たのだ、その記憶は失われたが。違うと思っても、否定する根拠は「そう思うから」しかない。


「受け入れようと受け入れまいと構わぬ。お前の頑固さはいつも通りだ。こうだ(・・・)と言ったら変えない所が、お前らしい」

「そうか、サクラは私の知ってる丈二じゃなく、丈二と同じ記憶を持つこの世界の人(・・・・・・)だったのね」

「な、何言ってるの、みさきち……」


 勝手に納得しないで欲しい。そして僕を何か別の世界の住人のように扱わないで欲しい。違う。そんな筈無い。


「じゃが、辻褄が合うのじゃ。我が使った転移は何故か(・・・)安上がりじゃった。いや、候補の中で、安上がりなのを選んだらサクラじゃった。遠い異世界からでなく、ここから連れて来る時は安上がりだとしら、辻褄が合うのじゃ」


 みさきちに続き、ハコネまで僕がここに居た存在だという話に納得してしまってる。ハコネにとっては、実は僕が同世界人だったという事になるのだろうけど、僕はそれには納得しない。


「並行線な話はやめだ。折角酋長が戻ったのだ。何を見て、何をして来たか、聞こうではないか」




 僕のこの世界での記憶を説明する。ハコネが誇張した説明をしてみたり、みさきちが西方の情勢を説明したり。

 魔王を除く4人のジョージも創造主の時代に戦った思い出を語る。皇帝は京都、国王は静岡、首相は鹿児島、将軍は仙台が根拠地で、長い戦いを経て創造主の勢力に倒されたそうだ。皇帝は鉄器の時代、国王は銃器の時代、首相は鋼鉄の時代に倒されたそうだ。この世界にそんな時代があって、それが再び鉄器の時代まで衰退しているという事が残念でならない。


「我は1度目の戦いの記憶はない。2度目は創造主が去った後であった様だ。江戸にて再臨し、我と同じく創造主去りし後の諸勢力と戦いを続けた。銃も鋼鉄も退ける魔法の力を得て、大陸全土をあと一歩で統一する手前であったのだが、テロリストに破れこのザマだ」


 エドさんの言ってた魔王と勇者を彷彿とさせる、いや、多分、別視点から見た同じ出来事だ。


「そしてお前、酋長は、1度目の戦いでは本当に消極的でな。拡張もしないから進歩もしない。周りが鉄器の時代に棍棒を持った戦士のみで、槍兵さえ持たない。挙句の果てに、狼の群れに襲われてその戦士さえ失い、村を荒らされたんだったな」

「だからそれは僕じゃないって」


 そんな事を言いながら、僕はこの5人の話を聞くのが楽しくなって来ている。ハコネも創造主の時代中盤からは記憶にあるらしく、思い出を語っている。ハコネの親分の創造主と激闘を演じたのは国王だったらしい。甲府と箱根ならそうなるか。

 この5人と僕は同じ存在だったかもしれないという事を、受け入れても良いかなと思い始めた。ここから来た存在という事なら、”日本に居た僕”というのは作られた記憶という事になる。


「あれっ……」


 なぜか泣いていた。

 嬉しい? 悲しい? 何かわからない。


「お主のその思い、朕も通った道だ。帰る場所は我らの足下(・・)にある。すぐに戻る機会はあるだろう。酋長は、その希望を我らに伝えてくれた。共に帰ろう、我らの大地に」



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