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6-15 魔王の封印 刻まれぬ時計の針

 お久しぶり。僕の身体。

 体感で1年半、この世界の時間で21年ぶり。元気にしてたようで良かったよ。ちょっと元気すぎたけど。


「何だこれは? どういう事だ!」


 可愛い顔、いやハコネと同じ顔だけど、その顔でそんな言葉遣いはいけません。ジョージB、いやサクラBさん。

 ところで、このままの状態で逃げられたりしたら大変まずい。使える魔法は身体じゃなく精神に引っ張られるようだから、サクラBが飛行魔法を使えるようになってて逃げられる心配は無いだろう。僕よりも強力な魔法を知ってる可能性はあるけど、今の僕はそれを跳ね返せる装備を身に着けてる。

 そして、手には女神をも貫くヘイヤスタの剣。準備は整った。


「女神は死なない。しかし永い眠りにつくことはある。おやすみなさい、サクラB」


 ヘイヤスタの剣を構え、突撃! そのダメージを追った身体に、トドメのこの1撃!



 あっさり避けられる。あれっ!?


「なんだ、その構えは」


 Uターンして再度。ひょいっと避けられる。


「馬鹿かお前は」


 突進してきたサクラBに腕を取られ、投げられると同時にどこかへ飛んでいくヘイヤスタの剣。


「ダメじゃ、サクラは基本的に、戦うということに慣れておらぬ。武器が良かろうと、当たらなければどうにもならぬ」


 そういえば、武器を持っての戦いってしたこと無い。レベル差でただ殴るとか、魔法とか、そんなのばかり。今の僕は高レベルだけどプレイヤースキルが無いゲームキャラ状態。そして、相手はレベルも高く、プレイヤースキルもある。

 サクラBが雪原に転がるヘイヤスタの剣を拾おうとするのを、飛行魔法の構成要素、物を動かす見えざる手、マジックハンドで剣を引き寄せる。


「そう、剣だからって気にせず、得意な方法で戦えば良いだけ」


 手に持って戦うので無く、マジックハンドで剣を動かして戦う。縦横無尽に動くヘイヤスタの剣。この方が操作がうまく行くって、身体なんて飾りですってか。


「さあ、封印の時間だ」


―――


 知らなかった。我のことを小馬鹿にしておるサクラが、実はこんな場面でやらかす大馬鹿だったとは。

 目の前のサクラ(男)は、剣が動かなくなって焦っておる。それはそうじゃ。今のお主、魔素補給を阻害するフルアーマーのヘイヤスタの鎧を来て居るのじゃ。無駄に魔素を消費して、もう魔法が使えぬ状態じゃろう。

 これは我が手を出すしか無い。


「サクラ、後は我に任せるのじゃ。お主は休んでおれ。倒されたらどこで復活するかも分からぬから、面倒じゃ」

「ごめん……」


 これからは我を頼り、そして崇めるのじゃ。これが我がお主を召喚した際の、本来のあるべき姿。


「サモンユクシ!」


 女神サクラの身体はレベルが我よりも上じゃったからのう。最善を尽くさねばならぬ。


「お主ら、下がるのじゃ。巻き添えを食らうぞ」

「僕の方はこの鎧があるけど、みさきちは下がって!」


 うっかり巻き込もうとか考えておらぬぞ。良く考えたら、元の身体に戻ったサクラ(男)とアシカガの女、同郷だとも言うし、お似合いではないか。我の事業は人材をいくらでも欲しておる。サクラ(男)がこの世界の者と子をなしてアリサやマリの様な逸材を生み出すなら、あちらの世界の者同士が成した子はどうなるか。ぜひ試して貰いたいものじゃ。それがこの地に繁栄をもたらすことを期待せざるを得まい。


 以前ここで行われた戦いをサクラBは見ておったと言う。ならば、我が呼び出したこの扉が何なのか、知っておるということじゃ。それを見た反応は、当然撤退。全速力で逃げるが、所詮雪原を走る者が大して速いはずもなく、そして今から放つ我の魔法は、走った所で逃げられるものではない。幾人もの女神を葬ったあの時よりレベルも上がった。


「ホーミングフレイムアロー! ホーミングフレイムアロー!  ホーミングフレイムアロー!」


 最期の瞬間、何かを叫んでおったのが見えたが、読唇術は持っておらぬ。残念じゃ。




 無事終わったことをサクラのサクラに知らせ、エドに言伝を頼んだ。呼び名がややこしいから、サクラのサクラはサクラAとしよう。サクラAは問題の解決を喜んでくれたが、うっかり倒されるでないぞ。エドが倒されるよりはマシなのじゃろうが。


「さて、帰るとするぞ。ところでサクラを元の身体に戻すのに最も貢献したのは、我であることに依存は無かろう?」

「ここまで呼び出せたのは誰のおかげだと思ってるのよ。私が6、あなたが4よ」


 扉を開けて中に入る。後ろをついてくる2人。役立たずだったことが不満なのか、サクラが無口じゃ。まあ旨いものでも食えば、すぐ元通りじゃろう。いや、元通りよりはすこーしばかり、我を敬う気持ちを足してくれて良いのじゃぞ。


 そういえばあの剣、忘れてきておらぬか?


「サクラ、剣を忘れておるぞ。取りに戻るのじゃ。あんな物騒な物、今度お主の空間に封印に行くとしよう」

「分かった。取ってくる。先に行ってて」


 しかしあのいきなり手に剣が現れる術、本当にあの剣でしか女神に効かぬのかのう。今は試す相手が居らぬが、オダワラが復活したらその辺の剣で試させてもらおうかのう。


―――


 謀事多きは勝ち、少なきは負ける。

 勝ったのだ。あの女神に。


 強大な魔法が向かって来るその瞬間、天に祈った。第3の願いを叶えよ。再び俺の身体を入れ替えろと。

 魔法が届く前に、願いは届いた。驚いた事だろう。俺が驚いた様に。何も出来ない状況に。


 剣はそこに落ちていた。このまま逃げるか? いや、奴らは飛べるから、すぐに追いつかれる。それならこの剣で、油断している女神と公方の妹、奴らを倒せば良い。


 扉を抜けると、そこは白い空間だった。その中に、俺の家と同じ作りと思われるマンションのバルコニーが見える。そしてそのバルコニーに入るための梯子。バルコニーの中に奴ら2人が変な姿勢でいる。あの女神がバルコニーの中に、公方の妹がバルコニーの手摺を跨いだ所に。あの女神は梯子を無視してジャンプで手摺を越えたのだろうが、そこで止まっている。


 近くで見ると、2人共止まれると思えない姿勢で止まっている。何かおかしい。そこだけ時間が止まっているかの様な。

 嫌な予感がして、最初に使った刀を投げる。刀はバルコニーの手摺を越え、空中で止まる。こんな事は起こり得ない。


『女神は死なない。しかし永い眠りにつくことはある。おやすみなさい、サクラB』


 あの時奴はそう言った。そう、死なないけど長い眠り。復活できない。死んでおらず、時が止まっているだけだから。


「落とし穴を仕掛けて自分で嵌まるか。馬鹿な女神だ」


 俺は刀は諦め、来た場所へ戻る。扉を抜けると、元の雪原。振り返ると扉があるが、閉めると消えた。永遠に眠れ、愚かな女神と、巻き込まれた公方の妹よ。


「だが、女神サクラ討伐の証拠がないじゃないか。いや、俺が倒したわけじゃないが、俺の策で倒したのは俺の功績にはならないのか? まあ良い。また機会はあるだろう」


 雪原を越え、来た道を戻る。女神の仕組みは、一度名古屋の女神に聞いてみよう。第3の願いを使った事も報告しておかないとな。


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