6-14 魔王の封印 創造主の刃
「今は登録のある者しか入れる訳にいかん。登録したくば、明朝来るのだ」
昼食のために立ち寄った厚木で、城門の衛士にそう追い返される。入るための登録は、今は鑑定魔法を使える者が居ないから今は出来ないと。
ジョージBがチガサキ軍を壊滅させてしまった事、それにより茅ヶ崎では人材の大募集中。しかし怪しい人物を取り立ててはならないと、鑑定の魔法を使える者が近隣から掻き集められた。その結果、この街で入市者の新規登録を担当する鑑定士が不足。多い日は半日で魔素枯渇により営業終了。以降は登録のある者しか入れない。
風が吹いたら桶屋がみたいな感じで、回りまわって帰って来たとも言う。
わざわざ明日まで待つほどこの街に用事があるわけでもないので、一旦僕の部屋から箱根に戻り昼食。観光地化し始めているので、軽食屋も出来て来ている。
「ハコネ、まだ反応はない?」
「特に無いのう。そもそも来る気がないかも知れぬ」
鹿肉のハンバーグを食べながら不機嫌なハコネ。みさきちの策で上手く行かれるのがそんなに口惜しいのか。
僕はどこか遠くに行っても、扉を介した行き来の相手はハコネ以外に選択肢がないのだから、みさきちに付いて行く事があっても、年中会うことに変わりはないだろうに。そもそも僕の扉とハコネの扉、両方揃わないとみさきちの目的にはそぐわないのだし。
「ん? この匂いは?」
「ついにこの街にもやって来たのじゃな!」
カレーの匂い。聞くと、三島で習ってきた料理人が、交易で小田原まで出回るようになった香辛料を使ってカレーを作ってみたらしい。店の外まで匂いが拡がり、お客を集める。
遠方との交易は、この街にも色々なものをもたらすだろうけど、最初に気付いたのがカレーってのが何とも。
「これからはいつでも食べられるのだし、次回にしよう」
「まあ、そうじゃな」
午後は相模原まで移動、夕方箱根に戻った際、ハコネはちゃんと次回を消化したのは言うまでもない。
翌日の昼過ぎ、ついに八王子に到着した。いや、八王子、通過するのかと思った。位置的には僕の知る八王子中心街じゃなくて、多摩川に近い北の方だったから。あとで知ったけど、ここは日本では滝山城という後北条氏の城があったらしい。戦国時代の城は守りやすい場所に作られたとして、この世界でも同じ発想でそこに城が造られるのは妥当なんだろう。空から見ると細長い丘の上に城があり、麓に細長く街、その先は多摩川だ。川の向こうは、冬で葉が落ち幹と枝ばかりの林が広がっている。
先頭を行くみさきちに続き、僕らも直接城の中に着陸する。城はここでの戦いが激しかった事を示す破壊の爪痕が門にも塀にも残ってる。
「無事ご帰還の由、祝着に存じます」
「まずは荷物を下ろしたいわ。待ってるのでしょう?」
すぐにフ族の青年が駆け寄り、城の下段へみさきちを連れて行く。その先は柱と屋根と申し訳程度の板を周囲にめぐらしただけの建物。門に近い場所だから、一時的な物資の置き場だろうか。そこにみさきちが物資を置いていく。
「公方様は何と?」
「それは広間で話しましょう。皆を集めてもらえるかしら」
僕らは一応部外者なので、みさきちについて行かずに城の外を見に行こうとする。門をくぐろうとしてハコネが居ないのに気付き振り返ると、
「来た。ゴテンバ方面からじゃ。今、山を降りてきておるところじゃ。センゴクバラで迎え撃つか?」
「そうしよう。まだ少し時間があるけど、ハコネは戻って、仙石原に扉を開いてくれない?」
「アシカガの女を連れて、追いかけてくるのじゃぞ」
「当然見届けに行くわ。さっさと勝って、ここに戻れば良いのよ」
小一時間して出てきたみさきちは、やはり僕と来ると。みさきちの心配事は勝ち負けではなく、僕が元の身体に戻った際にこの楽な移動手段が無くならないかという事だそうだ。でもあの部屋は元々僕のだし、入れ替わりの願い事以前から部屋を使える様になっていたのだから、扉もきっと使えるだろう。
「今どこに?」
「もうすぐじゃ」
ハコネの扉を出たら、そこは僕がこの世界で最初に見た時と同じ、雪原。ここに第一歩を示し、ここで龍神に襲われ、ここで女神達と戦った。何かと大事な場面で縁がある場所だ。
「ハコネ、外交でサクラさんに」
「そうじゃったな」
佐倉のサクラさんに、僕を封印するための儀式を始めてもらう。この儀式は距離は関係ないそうで、佐倉に居ながら実施できる。だからここに居ないサクラさんに外交を通じて儀式の開始を頼むのだ。この方法なら、儀式が邪魔される心配もない。
雪原を歩いてくる者が1人。戦術ビューに反応する範囲まで到達。間違いなくジョージB。
「依頼人の妹まで一緒にいるってのはどういうことだ? これでも達成したら報酬は出るんだろうな」
「達成できたら、兄様は応じて下さるはずよ」
「邪魔はするなよ」
ジョージBが何かを呟くと、鎧と刀が出現する。何それ便利。装備品どこから出てきた? 装備コマンドとか実装? それがあるから鎧に加工したがってたのか。
鎧は全身を覆うプレートメイルに、腰から下を厳重に護るべくタセット付き。刀も鞘もなしで突然出現した。
「さあ、女神サクラ、どうせ倒されても復活するんだろう? 1回俺に倒されてくれ」
「僕が仕掛けた罠だって思わなかった?」
「罠だろうが、役立つものなら利用する。死なない身体なら、失うことを恐れず戦えばいい」
死と生。どちらも同じ意味になったとしても、その狭間が同じ意味ではないこと、ここに示そう。そして、この世界の僕の生活に、もっと平穏を。
「ファイアボール!」
まずは制圧して、動けないところを封印儀式の完了を待つ。眼鏡のお陰で外さなくなった魔法がジョージBに当たるかに見え、跳ね返される。やっぱりそうか。
「その鎧は」
「ああ、あの金属だ。魔法を弾く面白い素材だったんで、ありがたく使わせてもらった」
遠距離の魔法がダメでも、この素材の扱い方は僕がよく知ってる。懐に飛び込んで無理やり変形させてしまえば、鎧としての機能を果たせなくなるはず。
「おっと、そうは行かない」
刃が僕に向けられるも、その刃を掴み払い除ける。たかが僕の身体がレベルを上げた所で、元から強い女神がさらにレベルを上げた状態の僕には効かな……
「痛っ!」
払い除けた刀と違う刃が僕に刺さっている。柄を握ったジョージBがニヤリとする。そんな剣どこから出た? いや、さっきの、鎧や刀を装備した時と同じ。出現したのか。装備完了時に僕に刺さってる位置で。
「この素材は女神を作り出すほどの存在、創造主の力で造られたものなのだろう?」
そうか、剣はヘイヤスタで造ったのか。
耐久力は半分以上持って行かれ、さらに低下中。猶予はない。
「リカバリー!」
ダメだ。回復しても低下中。なら一か八か、掴んで引き抜く!
「ぐっ!」
めちゃくちゃ痛い。さっきの回復分を持って行かれたけど、低下は収まった。でももう1回やられたらアウトだ。急ぎ距離を取る。しかし距離を取ったということは、こちらも手がない。
だけど、解かったことがある。僕の今の身体、人間からの物理攻撃効くんだ。
「お前の魔法は効かず、近付けば先程の通りだ。さて、どうする? おっと、答えはいらない。終わらせる」
「サクラ! 完了じゃ!」
何が? 言うまでもない。
瀕死のこの身体をあげよう。この身体を倒せる武器と交換だ。
第4の願いよ、天に届け。入れ替えた僕の身体を元に戻して下さい!




