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6-12 魔王の封印 年の終わりと時代の始まり

 1年の最終日、貴族と神官、官民の要職にあるものが女神の神殿に集められ、彼らに女神が語る行事。オダワラさんや近隣の女神はやってたそうで、ハコネがそれを真似てやると言い出した。その結果、ハコネ男爵城にかなりの人が集まってる。オダワラさん、アタミさん、ミシマさんが不在の分、合同でやろうって話になったから。

 男爵城の大きなホール、その1階にテーブルが並び、来客が並んび座っている。ホールは吹き抜けで、ハコネは上の階で人々を見下ろすようなテラスに立ち、語りかける。


「創造主が造り給うた2つの都市、海に近い方がオダワラ、山に囲まれた方がハコネじゃった。そこに遣わされたのが我とオダワラ。名は都市から付けられた。2000年以上前の事じゃ」


 1年が360日、1ヶ月が30日。月の満ち欠けはぴったり30日サイクル。太陰暦も太陽暦も分ける必要がない便利な暦、というか便利な天体運行。それがこの世界。今日は12月30日。1年が終わる日だ。

 この日は、はるか昔に世界が作られた日であると伝えられている。世界が作られ、創造主達が世界に降り立ったのが1月1日。その時から文明が始まり、都市を築いて大きくなり、黄昏と呼ばれる悲惨な時代も何とか生き延びた人々の末裔がここに居る。

 女神達が教えられたという歴史の始まりは6690年前。世界の起源にまつわる伝説の領域。


「このハコネの地は、平地が少なく山も険しい。湖の北にある平地は冬は雪に閉ざされる上、夏は飛龍の狩場じゃ。暮らすには適さぬと、創造主も早々に諦めた地であった。されどこの地には創造主が苦闘した時代に遺した多くの遺物が埋もれていることが分かった。中には女神の力でも作り出せぬ物が得られる遺物もある。それらはオダワラ、アタミ、ミシマにも探せばあるのじゃろう。今後それらを大いに活用し、皆が豊かになることが我の望みじゃ」


 今日のハコネは、神々しく見せるためか純白のロングドレスに何処かから見付けてきた銀のサークレット。宝石を身につけるような華美には走らないのが個性、というより懐事情。神々しさ10ポイントアップだけど、元が中学生な感じでマイナスだから、ジャージでオダワラさんが出てくるくらいの神々しさだろう。今日は遠くから見られる立場なので、僕はハコネとの違いが分かりやすいように昔作った巫女服を着ている。


「戦乱は収まり、開墾が始まり、交易路を整備し、繁栄の礎は築かれた。来年も、再来年も、その先も、ここに居る皆の力でさらに発展させよう。10年後、3女神が戻って来た時、見違える発展で驚かせよう」


 身振り手振りを交えて盛り上げるハコネ。そんな演説技能をどこで覚えたのかと言えば、昨夜僕の部屋で動画サイトを漁ったうちの1つ、ドイツの独裁者の映像からだ。映画のMADじゃなく本物の方。その人のマネは死亡フラグだけど、人民の人民によるナンチャラとか、立てよ国民!なんてのと比較したけど、有名な演説は死亡フラグばかりだ。まあ良いじゃない、一時の別れはあっても、死は無縁であるようだし。




 長過ぎない演説が終わり、テラス後ろの特別席にハコネが戻る。下のホールは宴会に入り、賑やかになった。今日はたくさん料理が必要ということで、料理人をかき集めた。普段は温泉宿で働いてる人も手伝いに来てる。


 エルンスト達はホールに居なくてはならず、僕ら以外にここに居るのはアタミの仕事が終わり戻る途中のアリサとマリ。特にお正月に戻る習慣は無いそうだけど、長く留守にしてるのでそろそろ一旦帰宅、しばらくしたら他のやりたい事を携えてまた来るそうだ。


「アタミで聞いたのだけど、この前地震でミシマからのトンネルが壊れた場所があるんだって。あれの担当はサクラさんよね?」


 この大陸は日本を真似たからか、時々地震がある。地形が変わるほどの大変動は無いそうだけど、構造物の破損は時々起こる。それで遺物も維持費が消費されるのだけど、そう言えばアタミさんとミシマさんから引き継いである遺物。維持費の設定を確認してない。

 維持費は無しになってる。きっと陳情があってから直すことにしてたんだろう。何も言わずともやって貰えるより、お願いされてから動く。打算的だけど、遺物の維持費を寄進から賄うため、アピールは重要なのかもね。


「そもそも街に神殿があったあやつらの場合と比べ、我らの所に陳情に来いというのは時間も掛かって酷じゃろう。全て自動にしておくとしよう」


 ハコネと僕は自動にしてある。陳情に行こうにも、ブラブラしてて居場所が見つからないだろうし。まあ維持費が掛かる遺物は、ハコネは御殿場方面のトンネルと芦ノ湖から西に伸びる用水路のトンネルでこれはゴテンバさんとミシマさんから費用負担して貰えることになってるから構わない。僕は地下の球場空間だけで、あれは丈夫で普通壊れない。


「それにしても、下が盛り上がってるね」

「アタミの人たちだね。何かあったのかな」




「来年からはオダワラ、アタミ、ミシマで交代になった」


 エルンスト達も上がってきて席に着く。エルンストが言ったのは、この行事の開催場所。今回はここでやったけど、次回からは交代。3女神の復活までの暫定処置だ。

 従来はそれぞれの神殿で開催されたので庶民の入る余地もあったけど、4国合同開催で器のサイズが足りない。今回は合わせて80人位。4年後のために、箱根にも大きな神殿が必要だろうか?


「今回は場所が狭いから参加者を限定したけど、本来はどのくらい?」

「アタミは300程度だな」

「オダワラもそのくらいです」


 マルレーネに先を越されたけどマリーが三島の事も話すかと思ったら、そう言えば三島は女神信仰が薄れていたんだった。マリーなど僅かな人で、こじんまりとやってたらしい。


「ところでマリー、あの件を」


 エルンストが促す。あの件?


「はい、実は、私達に赤ちゃんが」

「おお、おめでとう」

「ハコネ男爵領で産まれる最初の子じゃ! 健康と幸運の祝福を。その前に、安産の祝福じゃな」


 言葉が出てこない。同級生が結婚して子供が生まれってのも経験がないし。頭では領主の家だから跡継ぎが必要とか思うけど、こういう時に祝うことについての経験値がなさすぎて。普段頼りにならないハコネの方がうまい感じ。

 ハコネはマリーさんのお腹に手を翳すような仕草をする。特に魔法を掛けるとかではなく、おまじない的なものだろう。


 僕らより先にアタミとミシマの家には伝えて来たそうだ。それで下はうるさかったのか。




「これでどうだ?」

「動きやすいし、軽い。これでも魔法を弾くのか?」


 年末の行事が終わり、年始は1日休んで通常体制に戻る。正月に大した行事が無いってのは、欧米みたいだ。

 そして今来てるのは、御殿場から来た鍛冶屋のゴヴニュの工房。ヘイヤスタを扱いたいからとやって来て、これまでにエルンストに鎧と盾を作った。今は3作目、ハンスの鎧を作ってもらった所。

 早速外に出て行き、マルレーネに軽く魔法を掛けられその効果を確認する。期待通りの出来だ。


「次は誰のだ?」


 全員に鎧を作るかというと、そうでもない。この装備には問題が見つかった。魔法を反射するだけでなく、魔素の補給も阻害してしまう。まあ、あの遺物の中がそうだったから、当然といえば当然。身体の守られてない部分から吸収できるから全身鎧のようにしなければ全く魔法が使えないわけではないけど、開口部が多いほど守りも弱くなるわけで。


「次はこれだな。エーテル生成器だ」


 マリとアリサの手による僕らの武器は秘密にしてある。あれは人の手に余るものだ。伝えても良さそうな物としてアリサ達と決めたのは、エーテルを作る道具。月からの魔力をエーテルとして取り出すための器具。小型の物はアリサが試作したけど、面積が小さいと生成量も小さい。実用的に使うには、持ち運ぶようなものでなく、建物の屋根全体を利用するような大掛かりなサイズが必要と分かった。言うなれば、屋上に設置する太陽電池の役割。


 そんな鍛冶場工作の最中、わざわざエルンストが来たから何かと思ったら、大事な用事だった。


「ここに居たか。サクラとハコネに来客だ。フ族の姫だ」


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