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6-8 魔王の封印 異世界の技術、在来の技術

 レールの設置作業は重機がないから僕が手伝った。枕木の固定は、アリサの指示で地元の人達を駆り出し、進む。ボルトとナットを知らない人に、アリサが一から説明する。おかげで時間は長く掛かるけど、重量物を運ぶ作業以外は僕の出番はなく、待ち時間にアリサが描いてきたデザイン画を見ている。


「サクラさんに頼りっぱなしですけど、私も頼らず何とかしたいとは考えてます。それが完成したら、こんな作業にサクラさんを引っ張り出さなくても良くなる予定です」


 アリサが見せてくれたのは、何だか分からない機械のデザイン画。何となく、手足がある何かの様にも見える。


「私の前世にあった支援装備です。人が中に入って、腕と足を動かせます。数体いれば、このレールをで運べるくらいです。それを魔法で動くような設計で作ろうと思ってます」

「ロボット?」

「ロボットじゃないよ。自立性はなくて、あくまでも乗用の機械。人の力では足りない時にそれを補助するための、力の増幅のための機械。あとは重量物を動かすから、軽い事故の際に人を保護する役目もある。問題は、それだけのことをさせるには強度の高い鋼が欲しいけど、それを大量に作る技術はここにはなくて、ボルトくらいなら私が魔法で」


 急にスイッチが入り砕けたアリサのマシンガントークを聞き流しながら、レール運びと固定作業を進める。


「エルフの長老の話では、あちこちで魔王が暴れた”黄昏”より前の時代は、鋼鉄は大量に作ることが出来て、船にも家にも使われてたらしいんだよね。もう800年くらい前の話だけど」

「あちこち? 江戸だけじゃないの?」

「あちこちです。近いところだとスンプ、ジョウエツ、スワとか」


 そんなあちこちに魔王? どんなカオスな世界だ。


「魔王は周辺の人族勢力を打倒し、ついには魔王たち同士で戦い始めました。そして覇者と成ったのがエドの魔王です。それにより、大魔王と呼ばれました」

「魔王は倒されても復活するって聞いたけど、他の魔王はどこへ行ったの?」

「どうなんでしょう。他の魔法に倒された魔王が復活したとは聞きませんが」


 前にエドさんに聞いた話だと封印しか方法が無かったって…… あ、そうか。魔王に倒された魔王は復活しないけど、最後に残った魔王は残るのか。それをエドさんが封印したと。


「各地に魔王が出現したのがおよそ800年前、エドの魔王が倒されたのが300年前。その500年の間に、人の文明が滅亡寸前まで追い込まれたのが、鋼鉄を作る術が残っていない原因です」

「あのう、アリサ様、次の作業についてですが……」

「すみません!」


 僕との話に気を取られてアリサがしなくてはならない作業の指示が滞ってた。職人さん達が僕らの話を止める機会を伺ってたみたいだ。仕事中に話し込んじゃいけないね。




「サクラさん、今日はあの件ですか?」

「はい、何か情報が入ってきてないかなって」


 今日は小田原のギルドに立ち寄り。

 朝だけど以来を見に来ている人が少ない。カウンターのレアクーマさんも暇そうだ。理由は掲示を見ると分かる。警備依頼が多いのだ。僕やハコネが手伝うインフラ、港湾、農地の改良。その手の事業には大量の資材と人材が必要になるけど、今回は旅慣れない人までも事業に動員されて、旅慣れた冒険者に道中の警備の仕事が多く回ってきた。戦争帰りの兵士をまた動員するのは避けたらしい。

 それと、ジョージBがやらかしたチガサキ軍の壊滅。その穴埋めのために、人材が流出してしまったなんて事も起きている。

 そして、戦争に参加した冒険者には特別報奨金も支払われており、今は小金持ちになってるもんだから、単価が元と変わらないギルドの依頼仕事をやってくれる人が居ない。その結果が、暇なレアクーマさん。


 それはそれとして、今回の要件はジョージB探索。先日箱根に戻った後、ギルドの情報網を介して、ジョージB探しを依頼してあった。ただし大陸中を覆う情報網とまでは行かず、西はスンプ(静岡)までのエリアからの情報が入る。その先にあるギルドとは同盟関係にないそうだ。


「この人相書き、どなたが描いたのですか? これだけの技量があれば、犯罪者探しがとても楽になりそうです」

「ちょっと特別な方法でね。他の人を描くことは出来ないんです」


 渡してあるのは、僕の元の姿が写っている写真を模写したもの。諸都市を探し回った時は急いでたから写真を持ち出したけど、ギルドに渡してしまうのだと写真はオーバーテクノロジーだと思って、写真を紙に手描きでトレースした。ちなみに写真は運転免許のために撮ったやつの余り。


「人相書きはそろそろ各地に届いてるはずです。情報は追々入ってくるでしょう。でも情報が入った時は居場所が変わってるかもしれませんよ?」

「彼を捕まえるのは、並の冒険者に出来ることじゃないですからね」

「先の戦争で活躍した勇者って事でしたね」


 名目は、勇者に報奨を渡すために見つけて欲しいというハコネ男爵ことエルンストからの召還になってる。連れてきてくれたら連れてきた人にも寸志という条件付き。捕まえるのは彼の能力からして難しいし。




 寄り道の後、ハコネ達の仕事場へ来た。

 場所は日本で言う酒匂川の中流で、この平野を北から南へ流れる大河(・・)

 酒匂川は大河という程ではないけれど、日本とそっくりな地形、ただし東西南北高さ各5倍という事で、まず流域面積25倍のおかげで水量が多い。そして高さ5倍で平均5000mという巨大山脈に成った丹沢山地の懐で、雨がとても多くなってる。だから水運に使えるように改良しようなんて話になったのだけど…… 川沿いに道を作ってる?


「水運じゃなかったの?」

「下りは良いが、上りは厳しい。上りは川岸から引くので、道が必要なのだ」


 大阪と京都を船で行き来したというけど、京都側の港があった宇治は内陸だけど標高10m。そこまで40kmちょっとだから、1キロ進んで25cmくらいの勾配。ところがこの川は、50キロ進んで標高200mで、勾配はかなり急だ。川を下るには良いけど、上るのは大変だ。

 この水運がどう使われるのかを考える。農産物や木材を人口が少ない上流から下流に運ぶ。その目的ならこの川を船で下るのは正解。帰りは空の船を、ロープで川岸から引っ張る。もちろん馬など家畜の力を頼って。

 それでも流れが急では引くのも難しいので、岸沿いに穏やかな流れになるように深さを調整した部分を作り、岸には道を作る。


「道を作るなら馬車で運べばよいのではないか? どうせ馬も使うのじゃろ?」

「運べる量は船の方が多い。上りで働かせた馬を下りは休ませられるので、長く働かせられるのだ」


 この地域は水運は発展してなかったけど、この工事のために水運が活用されてる地域の人材も連れてきて、ここまで設計したらしい。ハコネの知恵よりは役に立つ。


「ハコネさん、お願いします」


 ハコネは肉体労働、じゃなくて魔法労働。大きな岩などを人力では撤去が難しい物があれば、ハコネの出番だそうだ。破壊した石は川岸に配置して、道を侵食しないように補強するのに使ってる。


「川の問題が終わるのにあとどのくらいの期間がかかる?」

「ここの仕事は大雨で川が荒れると止まらざるをえない。これ以外に新開拓地に用水路、カヤマに港、河口に海船に積み替える港が必要だ。何年も掛かるが、サクラやハコネにやって欲しいことだけを先に片付けるとして、それに2ヶ月というところか」


 まだまだ先は長い。その間に、ジョージBの方は見つかると良いけど。

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