6-7 魔王の封印 女神的インフラ整備
小田原へ向けての道と小田原の港を整備する仕事は、ハコネの担当。ハコネだけでは心配だと、エルンストが着いて行った。エルンストが行くならと、マルレーネとハンスも。僕の方にマリーが着いて来るかと思ったけど、体調が悪いからと屋敷で留守番。一人寂しく……というよりは、移動に制限が掛からないから1人の方が楽だったりもする。
旧東海道を沿って、箱根湯本から芦ノ湖にかけて道を引く。邪魔な木を伐採し、道にするべき場所を平らにならし、道を通す場所がない所では岩を削り、川を渡る場所には石橋を架ける。石畳の設置だとか手間の掛かることは後回し。そんな作業をする事3日、芦ノ湖への中間地点、畑宿の台地にたどり着いた。ここまで26キロ、湯本から徒歩1日分と見込んだ場所だ。
土塁で囲んだ場所を作り、小屋を幾つか設置。ここは野営場所となることを想定しているので、水場を作ったりもする。ついでに温泉も出れば、第2温泉街に出来そうだけど、そんなにあちこちを開発できる程に人は居ないので、ここは勝手に泊まれるようにしておく。
「ちょっとやりすぎたか」
獣に襲われないための土塁のつもりが、ちょっとした砦になってしまった。山賊が住み着いて悪さしたりが無いといいけど。そういうのの退治も、冒険者に依頼するとかすれば、お金が循環するんだろうか。
翌日は砦から先。今日もせっせと道作り。ここからは急傾斜になるので、人が登って行く急勾配の階段道と、馬車が通れる勾配にしたジグザグ道を作る。高低差600mのかなりしんどい坂だけど、所々に休憩場所も作って置く。その先で大きな池。ここも休憩場所に良さそうなので、砦もどきを作っておく。
「もうそんな所まで出来たんですか」
「何処に道を通せば良いか、参考になる資料があるからね。あと石畳は後回し」
毎晩館に戻ると、ハコネ達も戻ってきていて状況の報告会。同行者3名をハコネの部屋に移して、ハコネがひとっ飛びで戻れるから、現地で野営なんてことはしなくて済む。飛べるってのは本当に便利。
「そろそろオダワラまでの石畳が繋がるが、問題はその後じゃ」
「オダワラに港を作るってのが、大仕事になりそうで」
小田原までの道は宿屋を建てた頃に一度ハコネと作った事もあり、そこを修復しつつ石畳で整備していく作業。魔法がある事で、土木工事の速さは十分に速い。しかしその魔法を持ってしても、港を作ろうというのは大変な作業。小田原に来ているアシガラの大臣と僕らが相談して作った図面には、沖に港を包み込むよう囲う防波堤を建設、その内側数カ所を埋め立てて岸壁を作る計画が示されている。特に防波堤は、荒波に耐えて港の船を護れる様に、しっかりした物が必要。そのレベルで土木工事をする魔法は、ハコネに頼らなくては無理だ。
「あれ? サクラさん?」
標高が高く木が生えない場所なため、芦ノ湖への下り坂を作っていると遠くから僕を見つけた人がやって来た。魔族特有の黒髪に、日本人的な顔立ち。湖畔に移住してきた4家族19人の1人、孫九郎さんだ。
「道作りですか? ユモト側へ私達は行かないので、必要性は感じていないですが」
「皆さんに非常事態かあった際は、湯本から救援が来ることになると思うので、そんな時のための備えです」
「私達も護る対象にしてもらえるのですか。東のアニ族も変わりつつあるのですね」
彼らとしては、まだ東にいるアニ族には受け入れられてなく、三島側としかやりとりが無いまま。それはハコネ領の発展に向けては宜しくない。
「あと、三島に向けての道ももっと通りやすくしますから、そうなれば便利になるでしょう」
「それは楽しみにしておきます」
湖畔の村まで道を作り、領主の館に戻った所、アタミ伯が僕を呼んでいた。熱海の神殿でアタミさんを呼ぶと、僕に呼び出しが掛かるシステムらしい。アタミさんの部屋に移動して呼び出しに応じる。権限を移譲された際に、アタミさんの部屋に入る魔法も伝授されていたから、そこに行くのは簡単。でも、留守中に他の女の子の部屋に入るってのが、ちょっとイケナイ事をしてるみたい。
「サクラさんが女神アタミの代わりを引き受けてくださると聞き、安心しました」
「アタミさんの代わりが務まる様に頑張りますので、成すべきことをおっしゃって下さい」
アタミさんの部屋は、来客(?)を出迎えるためのスペースとアタミさんの私室的なスペースが有り、その間は衝立のようなもので仕切られてある。衝立の前に応接セットのような物があり、衝立を背にした場所が僕が座るアタミさんの席。物だらけの僕の部屋に比べて大人しくまとまってる。
事前に話し合ってあった港と市場の整備プランを説明する。あと、馬車の車輪の件も。
「港の件、馬車の件は、商人たちに検討させましょう。特に港は、オダワラと言わずさらに遠方との交易も考えて、大型の船が入れるように出来ればと思います」
「では、纏まったらまた連絡下さい。ちなみに小田原の港は、この様になる予定です」
「この様な大掛かりな物を…… 参考にさせて頂きます」
「エレベーターが欲しいのですが」
アタミ伯達が港の設計をしている間に、秦野に来てマリとアリサに頼み事。丹那トンネルの出口は標高350m、そこから港に行く道は、かなりの急勾配。そこを馬車で下る時、ブレーキが壊れたら大暴走で海へドボンだ。
「その前に、私達も聞きたいことが山積みだ」
「どちらの魔道具も、格上の女神達とも戦える戦力になりました。ですが、あれは危険なので、あまり作らない方が良さそうです。龍神にも窘められました」
「それは私達としては大成功です。材料が貴重だから元々沢山作るつもりは無いですよ」
矛と盾、盾に当たる鎧はこれからだから、それまで矛が出回るのは避けたいというのもある。
「それでエレベーターが必要というのは?」
2人をはるばる熱海まで連れて来た。温泉で接待するためじゃない。現場を見せるため。
「確かにここにエレベーター、というよりは、ケーブルカーが欲しいな」
あ、傾斜地でなら、ケーブルカーが良いのか。
「ハダノ式魔導エレベーターは魔力の大きな者による同行が必要だ。里への出入りを制限する目的もあるのだ。誰でもが使えるようにしたいここでは、同じ方法では難しかろう」
「折角上に水源があるのですから、水を使って重さのバランスを取るケーブルカーで良いでしょう」
アリサが図面を書いてくれた。複線の線路に2台の車両、それらを上の駅に設置した滑車を介してワイヤーで繋ぐ。車両には水を入れるタンクを設置し、上り車両の水を抜き下り車両より軽くすることで、車両は移動する。水力で動く鉄道。
「1区間で海までとなると長すぎますので、何区間かに分けた方が良いでしょう。街づくりと合わせて、どう分割するか決めて貰わないといけません」
「工学的な知識は、アリサにはかなわん。レールやワイヤーの作成には鍛冶屋も必要だろう。私は鍛冶屋の手伝いをさせてもらう」
「レールは…… 一石二鳥の作戦があるので、明日までに準備するよ」
ハコネに真鶴・根府川間の鉄道遺物に維持費を投入させて、鉄道を復活させる。そして、そこに湧いてきたレールを切り出す。1本25mもあるから、枕木から外してずるずるとアタミさんの空間に押し込む。僕の部屋は狭いから。
「これでどう?」
アリサをレール満載の部屋に案内。
「これなら大丈夫です。それで、枕木も必要なんですが……」
再度、枕木の回収にトンネルを回る羽目になった。