6-2 魔王の封印 龍神の山
「ああ、あいつか。教えてやらんでもないが、我もお主らに聞きたい事がある。大いなる山の南麓にて待つ」
どこかにいる元の身体に戻るより、身柄を確保した上で事に臨めれば安心ってことで、ジョージBの事について龍神に問い合わせた。外交を通しで話を聞きたいと頼んだ所、富士山の南側山麓に居るから会いに来いと。
「大いなる山とはフジサンじゃ。とにかく大きい。南と言っても、どこか分からぬぞ」
「それくらいは自力で見つけろってことかな」
僕の部屋で地図を見ながら考える。この大陸は、日本地図を時計回りに25度回した配置だったはずだから、富士山の南には……愛鷹山。
「龍神は飛龍達と一緒にいるんだっけ?」
「そうじゃな。我らに人の信仰が大切なように、龍神は龍達の信仰を必要とするのじゃ。群れの長という役割どころじゃな」
人の社会の長は世俗君主で女神じゃないけど、龍の世界は違うらしい。
「飛龍って何か食べる?」
「食べるんじゃろうな。獣じゃろう」
「なら、同じく狩りをする人達なら知ってるかも」
「時々見かけますけど、降りてきて害を及ぼすことは稀なので、討伐依頼は出てません」
翌日、予想する生息場所に近そうな三島で、ギルドの受付さんに聞いてみる。昼過ぎという事もあり、訪問者が少なく受付さんも余裕がありそう。
「どの辺で見かけますか?」
「何が目的か、教えてもらえるかしら? 飛龍にちょっかい出して、報復に遭うのは近くの街ってこともあるからね。この街に馴染みがない人には、事情がなければ教えられない情報なのよ」
こうやって警戒するってのは、これまでに何かやった人がいるんだろうね。僕らのデコイ偽装上、今は人族の高レベル冒険者として来てるから、戦いを挑めるレベルと思われたんだろう。
「龍神に会いに行きたいのです。大事な仲間が行方不明になった場面に龍神が居たのです。居場所を知るために、龍神に会って何があったか聞きたい」
「そう。正当な理由と認めるわ。何かあった時のために、所属を確認させてもらえるかしら?」
仲間ってのは仲間になって欲しい相手ということだから、嘘じゃない。所属確認ということで、小田原のギルドで作ってもらった証明書を出す。
「オダワラのサクラとハコネね。じゃあ、こちらへ。地図で説明するわ」
どうやら教えてもらえることになったみたいだ。奥の部屋は書棚に囲まれてテーブルが1つのシンプルな部屋。書棚の脇から受付さんが取り出したのは、板に貼られた1m四方はあろうかという広範囲の地図。御殿場、三島、富士までカバーして、富士山も南側は含まれてる。「魔物の集団が襲来!」とかあれば、この地図を囲んで作戦会議でもするのだろう。
「この街の北にあるアイタカ山、その北にあるフジサン。2つの山に挟まれた場所が龍達のねぐらよ。そこから東西の高原が飛龍の狩場ね。獣や魔物を狩りに降りてくるわ。さっきも言ったけど、飛龍と争うのはダメよ」
あちらの富士山は3,776mだから、ここの富士山はその5倍で18,880mという事になる。成層圏まで飛び出る標高を持ち、頂上の少し下にシャンプーハットのように雲が囲んでる。創造主さん、なぜ富士山まで5倍にした? おかげで全体を8割は氷河に覆われてしまい、夏なのに真っ白。そんな富士山の南にあるのは、愛鷹山。これも5倍にされて高さ7千mを超える高山になり、上の方は白い。
北も南も白い山に囲まれた高原。草はいくらか生えてるけど木はない。そんな場所が、今回の目的地。
「ここらのはずじゃが…… あれじゃな」
緑の高原に、黒い岩が点在する。それに紛れて、飛龍を確認。宙を舞っていれば分かりやすいけど、地面にいる飛龍は案外目立たない。
「こらこら、怒るでない」
近づこうとすると、気付いた飛龍がこちらを威嚇するように翼を広げる。両翼を広げた飛龍はバス程の大きさ。
「GRRRRRR……」
「龍神に会いに来ただけじゃ。お主らを害する気はないぞ」
飛龍には言葉が通じていないらしい。近付いたら襲ってきそうなので、少し離れたまま様子を見る。
「こいつじゃ話が通じぬ。龍神と話してくるので、しばし待て」
そう言うとハコネは扉を呼び出し、龍神と外交のために中へ。消える扉を見送り、僕はそのまま飛龍の様子を見る。
飛龍はこちらを警戒するものの、向かって来はしない。立ち上がり翼を広げるだけだ。もしかして、動けないから群れから置いて行かれた?
「怪我でもしてるのなら治せるけど、近付けないしな」
そんな事を考えてると、西の空に幾つもの影。飛龍の群れが戻って来るようだ。
「このまま居たら…… 群れに襲われる?」
眼の前に居る飛龍はレベル27とあるけど、飛んでくる飛龍はまだ遠くてレベルも見えない。
「迎え撃ってしまったら龍神のご機嫌を損ねるかもしれないし、ここはちょっと引いた方が良いかな」
地上の飛龍を狙う曲者と認識される前に、飛んで来る群れと反対方向に移動。様子を見ると、群れは地上の飛龍の周りに降り立つ。近くなったのでレベルを見ると、上は65から。そんな集団に襲われたら、この身体も大丈夫なんだろうか?
「話はついたぞ。すぐ来るーー うわぁ」
「GYYYAAAA!」
ハコネが扉を出現させた位置は、まさに飛龍の群れのど真ん中。ハコネも驚くが、飛龍も驚く。
「おい! ちょ! やめ!」
「ハコネ! こっち! 群から離れて!」
群れでもレベルが高い飛龍3頭がハコネに襲いかかる。ハコネが本気で反撃でもしたら、これからの話しが良くない方に行きかねない。
「邪魔じゃ!」
あ、1頭を蹴り飛ばした。
「リカバリー! ハコネ、大人しくこっちに来なさい!」
ハコネが飛龍を殴り、僕がその飛龍を治す。龍神が来た時、血まみれの飛龍が転がっていてはまずいから。それ以前にハコネが止まらないのが悪い。
「何をしておるのじゃ、お主たちは!」
状況が混乱したまま、人の言葉を話す大きな龍が現れた。やっと龍神の登場だ。
「状況は分かった。雛を護る者に近付いたお主らが悪い」
「そいつがそう言わぬのが悪い。そういう事は早く言わぬか」
人の言葉をしゃべれない飛龍にそれは無理。地上に居たのは、飛べない雛を守る役目の飛龍だったらしい。
「皆も女神相手によく戦った。後は我に任せよ」
「KRRRRRR」
飛龍達も龍神が来てからは大人しく従っている。
「さて、そちらのハコネとサクラ、先日の女神達の戦い、見させてもらったぞ。その時の事で聞きたい事があるのだろう?」
龍神は岩の上に座り、翼を畳んで僕らを見下ろす。僕らの周りは先程まで大暴れした飛龍が囲んでいる。
「その前に、お主らに問う。我らのように空を飛び、持ち得ない力で女神達を倒した。あれは、何なのだ?」
「それを教えれば、あの男がどこに行ったのか教えるんじゃろうな?」
「知ることは教えよう」
あの戦いを既に見られてるんだし、何なのかを教えるのは問題ないかな。
「空を飛んだのは、そう言う魔法です。物を動かす魔法を、自らに使うと、この様に」
ふわりと飛んで見せる。予想外の動きに飛龍が驚いたのか、近いところの数頭が飛び上がる。
「うむ。つまり、我らが飛び立つ時と同じという事か」
「なんじゃ、お主ら、翼で飛んでいたのではないのか?」
「翼で飛ぶのは、良い風が得られる空でに限られる。大地から飛び立つには、この力も必要だ」
確かに先程飛び上がった飛龍は、飛び上がる際に羽根を動かしはしたけど、こちらに強風が吹いたりはしなかった。風の力でその巨体を浮かしているのであれば、ヘリコプターの真下の方に僕らは吹き飛ばされそうなものだ。これが魔法で飛んでる状態か。
「では、大きな魔法は何だ?」
「あれは、魔法の威力を高める魔道具の力じゃ。エーテルも消費するが、おかげであれだけの力を発揮できる」
ハコネが宙に浮かび、富士山目掛けて魔法を放つ。巨大な火球に、地上の飛龍が身を屈める。
「その力、危ういのう。与えられた以上の力を使う過ちを繰り返させるでない」




