6-1 魔王の封印 もう1人のサクラ
「本当にそれで良いのか? 女神の力を手放すことになるのじゃぞ?」
「いつかはあの身体に戻るつもりだったからね。それを引き伸ばして犠牲が増えるようなら、戻るのを早めてもいいよ」
エルンストや他の首脳陣は会議。マルレーネとハンスは護衛ということでエルンストと一緒にいる。暴漢に襲われたところでもあるし、護衛は必要。そんなわけで、彼らの用事が終わるまで、戦勝のお祝いは延期。
彼らのが仕事を終えるのを待つ間、他の用事を済ませよう。今解決したい問題は、乱暴狼藉が激しかったジョージBの確保。僕が元の体に戻ると言えば自動的に確保できるんじゃないか? そんな考えで、ハコネに残った願い事を使おうかと相談中。
「しかしじゃな、奴の中身がサクラの身体に宿るのじゃぞ。さらに暴れるかもしれぬ」
それが危惧されるところ。勇者の身体で大暴れも困るけど、女神の身体で大暴れはもっと困る。だけど、その対策は見付かった。エドさんのお陰で。
「そこで、魔王に使われたって言う封印だよ。効果は神族限定らしいから、この身体に彼が入ったなら封印できるはず。サクラって名前の女神が他にいるはずだから、この女神の体もろとも、魔王のように封印してもらえば良い」
「魔王扱いとは、えらいことじゃな」
魔王に匹敵する悪事をするなら、ジョージB入りサクラは封印。
「そのための準備は、女神サクラに僕を封印する儀式をやってもらうこと。もしジョージBが暴れた時の事を考えて、倒す準備をしておくこと。大人しくしててくれるか様子を見るってことだね。ただし、その時僕はどこに居るか分からないジョージBと入れ替わってここには居ないから、全部ハコネにやってもらわないといけないけど」
「任せておくのじゃ。我の一撃は、お主でも葬れるじゃろう」
なんか嫌な表現だけど、ヘイヤスタの鎧でも身に着けなければあの威力を食らったらそうなるだろう。
「であれば、まずはもう1人のサクラに会ってみよう」
「それで私の所に来たのですね」
「魔王の封印について、もっと知りたくて」
エドさんの所にやって来た。サクラさんに封印の方法を伝授して貰わないといけない。そうなると、何をしようとしているのかの説明から始めないといけないわけで、事のあらましを説明した。召喚、入れ替わり、複製、などなど。
「召喚された人が女神になった事ってのは、歴史始まって以来でしょうね。その上、その女神が複製されてしまうなんてのは、初めての出来事で発見された脆弱性という事になるのでしょう」
「脆弱性って直せるんでしょうかね?」
「ちょっと聞いてみましょう…… 出来なくはないけど、うっかり世界が壊れるかもしれないから、やりたくないそうです」
見えない神様と相談。一瞬エドさんが上を向いたけど、神様ってやっぱり上に居るの?
「サクラさんが考えた方法の方が、今動いてる世界の枠内で実行できるから、良い方法だそうです。そういう事なので、私もお手伝いします。東のサクラさんに封印のやり方を伝授しに行きましょう」
「外交でぱぱっと教えることは?」
「難しいです。直接お話した方が確実かと」
エドさんを連れて行く方法は、僕の扉をこのままエドさんの所に設置、ハコネの扉を佐倉に開く事にした。エドさんはハコネからここへの転送で一度見せてるから、隠す意味はないし。
サクラという名の女神が居るはずの場所は、佐倉。江戸という名の品川から東に45×5km。
「この街かな」
それらしい場所に着いたのは夕方。上空から見るこの世界の佐倉の街は、湿地帯に囲まれた丘の上。お米作るのに良さそうだけど、水田は無いみたいだ。目立たない場所に着陸して、歩いて佐倉の街へ。
「ハコネ様とサクラ様。女神様から、そのお2人が来た際には通すように言われております」
僕らが移動中に、エドさんが連絡してくれていたので、話はすんなり進む。
門から案内もついてきてくれて、街の神殿へ。
「神殿、ですよね?」
「はい、女神様は、ここにいらっしゃいます」
連れてこられたのは、レンガ造りの普通の建物。建物の前にはテーブルがあり、一見カフェのような佇まい。
「女神様、お客様です」
「いらっしゃい。こちらにどうぞ」
中も普通のカフェ風。そして戦術ビューで見ると、眼の前に居るショートカットなウエイトレスさんが、女神サクラ。他のスタッフも見ると神官となってる。
サクラさんは白いシャツの上にピンクのベスト。膝下までのスカートも似合ってる。そんなカフェの女神が、トレイを片手に挨拶してくれた。
「どういう事なんですか?」
「うちの女神様は変わり者でしてね。カフェをやりたいって、普段はここでこうしてウエイトレスをされているのです」
「だってこの方が楽しいよ」
変わった女神も居たものだ。まあ、僕らが言えた事じゃないけどね。
さすがにカフェで話すのはどうかと思い、2階に上がらせて貰って、ハコネの扉からエドさんを呼び出す。
「エド様が出てきた!? どうなってるの?」
「サクラさん、しばらく見ない間に、変わったことになってますね」
変わったことになってるサクラさんは、あっちのサクラさん。前はカフェじゃなかったんだろうか?
「僕らも自己紹介を。サクラです」
「女神のハコネじゃ」
「へぇ、私と同じ名前」
語尾にハートが付きそうな感じで、サクラさんから抱きつかれる。何これ? こういうスキンシップが好きな女神?
「エド様から聞いてるよ。サクラさんに危険な存在を宿して、そのまま封印したいって。一体どういうこと?」
「はい。危険かもしれない、ってとこなんですが、危険だったら封印出来るように準備をしておきたいのです」
エドさんが事前に説明してくれたみたいだけど、僕からも説明する。色々驚きの内容だったようだけど、納得してくれた。
「その儀式、やり方だけ教えて、実施は必要になってからにしましょうね。そうしないと、万が一サクラさんが倒された際に、封印されてしまいます」
「うっかり僕が封印されてしまったら、封印解除は……」
「封印の解除は、封印者のこっちのサクラさんが倒される以外には無いのです」
うん、危ない。エドさんが言うように、状況が生じてから封印って手にしよう。
エドさんはそのまま儀式の手順を教えるということで、僕らはカフェの方に戻る。カフェにはイエロー、グリーン、ブルー、オレンジと色とりどりのベストを着た店員さん兼神官さんが。戦隊モノ?
「お2人も女神様なんですか?」
「そうじゃ」
「だったら、ぜひこれを着てください」
そして渡されたのは、カフェの制服?
「なんか嬉しそうだね」
僕は丁重にお断りしたけど、ハコネは何故かノリノリで着てる。色はピンクで、サクラさんの予備かな?
「お主の部屋で視た中に、こんなのがあったのじゃ。こんな経験中々出来ぬぞ。ほれ、お主も着てみたらどうじゃ?」
「だから、着ないって」
「お待たせしました、サクラさん。ハコネさんは?」
「ようやく終わったか。待ちくたびれたぞ」
エドさんに口でそういう割には、楽しそうなハコネ。実はこういう生活もしたかったんだろうか。宿屋の手伝いとかしてみたらどうかな。続いてサクラさんも降りてきて、そのままハコネに突撃。
「私じゃないピンクが居る! 私リストラ!?」