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2-1 女神にもっと信仰を

「そうだ、僕もオダワラさんと話したことを言っておくよ」


 オダワラさんから、ハコネへの信仰を高める事を請け負ったと説明する。

 ハコネは嬉しそうな表情だったり悔しそうな表情をだったり、オダワラさんの話をすると色々な感情が渦巻くみたいだ。


「奴に保護者面されるのは口惜しいが、(われ)への信仰を集めねばならん事に異論はない」

「それをどうやって実現するかだよね」


 この件に関してハコネの意見は当てにならないかな。聞いた失敗談は「そうりゃそうなるよね」ってレベルのが多かったし。再利用したい失敗作もあるけど、飽きっぽい性格なのか完成形まで行く前に放棄されてる物が多くて、どれもすぐには使えない。


「オダワラについては、町でこんな言い伝えがあるんじゃ」


 小田原を根拠地として10年勇者として活躍していたハコネは、小田原の伝承にも詳しくなった。


”昔むかし、ある所に、二柱の女神がおりました。

 女神達は人々の信仰を集めれば自分の力が増し、その力を使って人々を幸せにしてさらに信仰を集める、そんな循環を望んでいました。

 高原の女神は、素晴らしい(・・・・・)女神でしたが、人々は信仰を捧げてもらえませんでした。平地の女神は、性格が悪い(・・・・・)女神でしたが、人々は信仰を捧げていました。

 高原の女神は疑問に思い、平地の女神に信仰が集まる理由を調べに行きました。平地の女神を崇める町には、彼女が造ったダンジョンがありました。

 そこで高原の女神は見ました。平地の女神に祈っていたのは、命懸けの戦いに赴く冒険者、その帰りを待つ家族、魔物に襲われ今にも命を奪われそうな冒険者、死者の冥福を祈る者だったのです”


「悲劇を糧にする悪い女神じゃろ?」


 あれ? オダワラさんに聞いた同じ話から、ハコネの駄目エピソードがごっそりカットされてるよ。それに性格の良し悪しとか、後から付けた足したっぽいよね。


「なんか捻じ曲げたでしょ? オダワラさんの性格、悪くなかったよ」

「お主見る目が無いのう。いつか奴の様な悪女に引っかかり、身ぐるみ剥されるぞ」


 それより酷い異世界への誘拐をしでかした女神がそれを言う? まあ僕も報復(?)として、その体を奪ったけど。


「うちもダンジョン経営する?」

「それは無しじゃ。少々良い財宝を置いたとて、うまく行かぬ。そもそもオダワラと同じ手でなんぞ、姉としての威厳が失われようぞ」


 そんな威厳がどこにあるの? まあこれは一応聞いただけ。

 財宝の品質競争を仕掛けるには自己資金が無い。あと小田原には救命活動が出来る神殿、店や宿屋の様なダンジョンに潜る冒険者を支えるインフラも整っているけど、箱根には何もない。それではとても追いつけない。オダワラさんから聞いた、作って諦めたダンジョンが埋もれてる件は、突っ込まないであげよう。


「うちは冒険者以外もお客さんに迎えられる作戦で行こう」

「何かいい案があるんじゃな? 異世界から折角呼んだんじゃ、そう来なくては」


 ハコネが読んでた本に幾つか有るもんね、そう言う話。




 吹雪が止んだ雪原をハコネと歩く。二人でここを歩くのは、僕にとっては二日ぶり、ハコネにとっては十年ぶり。


「そんな事もあった。あの時はスケルトンに後れを取ったが、今の我は勇者ハコネじゃ。びくともせんぞ」

「そういう油断はやめようね。レベル100の勇者がアンデッド化してたら、ハコネ負けるでしょ」

「そういう特殊なのは、ネームドモンスターって言うんじゃ。居たら有名になっておるわ」


 小田原のダンジョンでハコネを殺めたのはネームドでは無かったが、それなりの冒険者に由来するアンデッドが良い武器を手に入れた奴だったそうだ。女神を殺した槍なんで、ロンギヌスとか呼ばれたりしてないかな。




 途中ニートホイホイして一泊。次の日の午後に小田原に到着した。まずは知り合いに会いに行こう。


「ハコネさん、今度の成果は何ですか? その子の救出ですか?」

「後ろの子、かなり昔見たような気がするんだけど、そんなわけ無いか」

「お時間ある時で良いので、ぜひまたパーティーを組んでください。その子も一緒でもいいので!」


 最初に僕とハコネでここに来たときは、ハコネが僕のおまけみたいなポジションだった。それと比べて、ハコネの扱いがとても良くなってる。そして2番めの方、あなた正解。


「すまんが、ビリーはおるか?」

「ハコネさま、お疲れ様です。今回の成果はいかがでした?」

「今回は人探しじゃったからな。無事会えたぞ」

「それは良かったです。ギルドマスターは奥におります。どうぞ」


 ギルドの中は、相変わらず。掲示板を見る冒険者に、受付さん。ただし、受付にイーリスさんが居ない。これが十年経ってはっきり分かる変化。ついでに、ハコネの扱いがとても良くなってる。




「サクラじゃねえか。久しぶりだな。旅に出てると聞いていたが、いつ戻った?」

「さっき戻りました。お変わり無いようで」


 ちょっと歳を増したビリーは、少し貫禄が付いた。奥の部屋も前に来た時のまま。


「次はハコネを守れるように修行の旅だとか、良い話じゃねえか。って、そう言う事にしといてやったぞ」

「あれ? ハコネ、どう説明したの?」

「ありのままじゃ」

「ハコネを責めてやるな。知ってるのは、神殿まで一緒に行った俺らだけだ。他の連中は、今の説明通りだと思ってるさ」


 このストーリーはビリーさんが考えたそうだ。良い仕事してくれる。ハコネにはできない芸当だ。でも僕の存在はどういう設定に?


「サクラは修行して強くなって帰って来た。そういう設定だ。あの強さなら、レベル80くらいだろうから、誤魔化すならそんな感じでな。ところで、そろそろ本当の事を言わないか?」


 この人は信用して良い様な気がする。居なくなった僕の事を理解して、助けてくれた。既に秘密の一端を知ってしまったのだから、このまま引き込んでしまおう。




 受付さんはカウンターに戻って貰って、ビリーさんだけに説明した。実は女神なんです、って。


「それは言えんな。隠そう」

「そうして貰えると助かります」

「女神伝説のバカ女神だなんて、この町で口が裂けても言いたくないよな」


 そういう理由じゃないんだけど。隣で言われた本物のバカ女神は「ぐぬぬ」って顔をしてる。


「それを聞いて安心した。鑑定の抜け道があるのかと心配してたんだぞ。神だけ使える抜け道なら心配ないな」




 他の関係者はギードさんと受付のイーリスさん。イーリスさんは退職済みだそうだ。ギードさんに会いに行こうと言うと、ビリーさんとハコネがニヤッとする。何を隠してる?


 ギードさん宅そのものは特に変わらない。でも隣に大きな建物。ここは空き地だったっけ?


「ギードさん居ますか?」

「どちらさまで、サクラさん!?」


 イーリスさんが出て来た。


「ニヤニヤの原因がわかったよ。ハコネは知ってたんだ」


 ギードさん宅にイーリスさん。そういう事か。


「良く来ておるからのう。ギード氏とは師匠と弟子の間柄じゃ」

「俺が教える側だったのは最初の半年だけだったがな。勇者は俺が育てたなんて噂で、今やなぜか道場主だ」


 隣の建物、あれはギードさんが教える道場らしい。


「私達が一緒になったきっかけ、今の生活を築けたきっかけは、ハコネさんとサクラさんです。人生を変えてくれたお二人がやっと再会出来たのですから、今日はお祝いをしましょう。ぜひ食べて行ってね」


 勇者の師匠と言う道場運営に役立つ立場のギードさん。そして安定した職の旦那をゲットしたイーリスさん。僕らは縁結びの女神。感謝の祈りを捧げてくれてもいいんだよ?


「今度はどこに行ってきたの?」

「あ、ハコネさん、お帰りなさい。この子誰?」


 少年と少女が後ろから外から帰って来た。


「わたしはハコネの仲間 のサクラと言います。修行の旅から帰ってきました」

「あのサクラさんね。そうか、ハコネは年下好みだったのね」


 後半は小声で。ハコネ、中身は同性とは言え、同意の上だとしても、ノータッチだよ?

 ハコネはギードさんの一番弟子って事で道場で手伝う事もあり、この二人を生まれた頃から知ってるお兄さん(・・・・)だそうだ。

 子供たちは、お姉さんがマルレーネで弟がハンス。二人とも勇者ハコネを大好き。普通は身近に居たら幻滅しそうなものだけど、ハコネは上手く騙せてるらしい。あるいは、ダメな部分含めての親近感?




「さあ、召し上がれ」

「頂きます 」

「頂きます? 食事の前に言う言葉か?」


 頂きますは無いのか。代わりに神に感謝する祈りでもあるかと思えば、それもない。聞くと感謝の祈りは食べる時じゃなく屠殺の時にするそうだ。


「ギードさん、この近くで温泉が有名な場所はありますか?」

「近いのはアタミだな。ツルマキってのもあるが、アタミの方が近い」


 今回の遠征目的はこれだ。やはり熱海は温泉地か。これは温泉が出る場所も日本と同じって可能性が高そうだ。


「よし、ハコネ、熱海に行こう」

「温泉か。面白そうじゃ」

「アタミへ行くなら野営も必要だ。二人じゃ足らんから、仲間を見つけた方が良いぞ」


 地図を出して説明してもらう。道中、真鶴と湯河原に集落がある。小田原から真鶴まで60km(リアル日本で12km)あり、徒歩では頑張っても一日30kmが限界と言われるので、中間点の根府川付近で野営が必要だ。野営は見張りを二人ずつで交代とすると、最低四人、出来れば六人欲しい。まあ、僕らの場合は野営なんてせずとも、良い手段があるけど。


「私も行きたい!」

「僕も」

「私たちも行きましょう」

「え、マジか!?」


 野営があるような旅を子供連れで? 大丈夫?


「頼もしい護衛が二人も居るんですもの。この機会を逃すと行く機会は無いわよ」


 中々に強かな奥様の様で。熱海への旅路はそんなメンバーで行くことになった。




「それでは、明日の朝、ここで」

「泊まってくれても良かったのに。久しぶりの再会で、お二人だけが良いのかしら?」


 外見的には20代男性と10代女性。カップルだと思われてるかな。




「あれ、どうするんじゃ?」

「適当なところで撒こうか」


 バレバレの尾行をするのは、ハンスとマルレーネ。

 ニートホイホイを見られたく無いので、人気のない場所へ歩いて行く。


「どこ行くんだろうね」

「こんなに人気(ひとけ)のない場所にって、まさか…… 帰るわよ、ハンス」

「姉ちゃん、なんで?」

「これ以上は、お子様はダメなの!」


「諦めてくれた様じゃな」

「マルレーネ、あれ誤解してそう」




 今日もいい天気だ。雨や雪に降られた覚えがしばらく無いけど、冬に降らない地方?

 熱海への旅路は、道が整備されている。大雨で崩れて通行止めとかはあるらしいけど、領主がすぐ修理するのだとか。


「アタミはアシガラ辺境伯にとって前線基地だからな。(いくさ)の際には一刻も早く駆け付けられる様に、手を掛けているのだ」


 この世界にも戦争があるのか。ターン制SLGの世界なら、そうなるか。道に(わだち)があるから、馬車の行き来もありそうだ。


「アタミの先、アジロを過ぎたら魔族の地よ。さらに南西にイトウって町があったけど、私が子供の頃に魔族に滅ぼされてしまったわ」

「勇者王ウイリアムの御代は遥か先まで俺たちの領域だったそうだが、お隠れになられてからは削られるばかりだな」


 魔族ってのは聞かないワードだけど、2人だけの時にハコネに聞いてみよう。




 その日は予定通り根府川付近で野営。お子様2人はもちろん見張りは免除。明日も頑張って歩いてもらいたいので、ちゃんと寝て欲しい。見張りは、ギード夫妻が先、僕たちが後だ。

 今日ばかりはニートホイホイな訳にも行かず、ハコネが持ってた携帯テントで寝る。


「昼間に聞いた話だけどさ、魔族って何?」


 夜中、交代の時間になり、夫妻が寝たのを確認してから、質問タイム。


「創造主が造った別の種族じゃ。そのうち会う事もあろうが、魔法や体力に秀でた者が多い。ただ、数自体は人族より少ない」


 この大陸では歴史の始まりから争いが絶えない人族の宿敵。山がちな地域を多く支配しているのは、高地で農業が出来る特性があるからだそうだ。ゲームでも文明ごとに特性ってあるよね、山岳の隣で収穫アップとかさ。


「人族の特性ってのもあるの?」

「出生率が多い事じゃな」


 ゲーム的には最強の特性でしょ、それって。


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