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5-21 続大半島戦争 結末

「詳しく教えてください!」

「箱根西部の仙石原で、オダワラさん、アタミさん、ミシマさん、ハコネ、そして僕の計5女神で、相手方女神13と交戦、最終的に女神エドが降伏勧告を受け入れ、勝利しました」


 色めき立つ司令部。


「良くやってくれた! だが、他の女神様は?」


 真っ先に飛んできたのはエルンスト。しかし、他の人達は、余り表情が冴えない。追加で彼らが恐れる知らせを伝え無くてはならない。


「オダワラさん、アタミさん、ミシマさんは、残念ながら破れました」

「何という事だ……」


 アタミ伯が特にショックを受けている。熱海が女神の恩恵を最も活用しているからね。


「それで、この戦いはどうなるのだ?」


「エド王は戦いから手を引きました。相手しなくてはならない相手は、この戦場にいる諸侯だけです。この戦いは、相手方女神が抜けて、継続されます」


「この戦いですが……正直、限界が近い。神官の治癒も、従軍神官の方々に限界まで頑張って治療をお願いして、やっと持ちこたえている状態だ」




 司令部に集まっていたのは、状況が悪くなっていたかららしい。勇者がチガサキ軍を倒したにせよ、元の数が違う。


「治療に関しては、僕らも手伝いましょう。でもそれより、戦いを終わらせることが必要でしょうか。この戦役の落とし所、どうなれば良いとお考えですか?」


「条件など、どこかの領地を寄越せなどとは考えておらん」

「我々を認めろ、攻めて来るな、それだけで良い」


 多くを求められないのであれば、これからの犠牲と天秤に掛けてもらえるだろうか。



「それでは、講話の交渉に臨席して、女神達の件を話しましょう」

「それは心強い。よろしくお願いいたします」




 交渉の担当に選ばれたのは、エルンスト。事の発端であると同時に、最後まで残った女神に守護される領主という立場。

 マルレーネとハンスも連れて来た。エルンストの護衛担当と言うことで。2人を迎えに行った際、マリーは僕らの帰還をとても喜んだ後に、エルンストが交渉に赴くことをとても心配した。エルンストの安全と無事の帰還は、絶対条件だ。

 交渉の使者を示す白い旗をハンスが、ハコネ男爵を示す旗をマルレーネが持ち、敵陣へ進む。



「なんなら吹き飛ばしてやるから、必要なら言うのじゃぞ」


 ハコネの言うことも、本当にそれしか無ければ仕方がない。敵陣の中央、盾を構えた兵士達の顔がわかる所まで来て、段取りどおりエルンストが名乗りを上げる。


「ハコネ男爵エルンスト・フォン・ハコネだ。同盟4邦を代表し、交渉に来た。司令部に伝えよ」


 長槍を持った兵士が僕らを囲むが、さすがに交渉の使者に手を出さない規律は保たれている。


「よくも! 戦友の仇め!」


 1人だけ暴れているのが居るけど、取り押さえられてる。


「あれはチガサキ伯軍の生き残りでな。私はフジサワ侯の家臣、オオバ準男爵フィリップだ。案内しよう」




「将自ら乗り込んでくるとは、その心意気には敬意を表しよう。それで、この状況で聞くまでもなかろうが、問おう。どのような交渉をお望みか?」


 僕らの前に居るのは、フジサワ侯爵。前線近くに構えるだけあり、武人という風情の将だ。


「同盟4邦を講話の使者として参った」

「何? 降伏を伝えにではないのか?」


 取り巻きがそんな事を言うが、フジサワ候が手を翳しそれを収める。


「私のみでというわけには行くまいな。諸侯を呼ぶので、しばし待て」





 続々と集まる諸侯。ずっと待つ僕らに椅子くらい出してくれても良さそうなものだけど、結構待たされてやっと集合完了なようだ。



「では条件を聞こう」


「同盟4邦の王国に対する独立、そして両陣営の200年の不可侵」

「今の戦況でその強気の条件、我らが納得すると思うか?」


 怒るでもなく、淡々と若者に間違いを諭す様に語る。若者であれ4邦の代表だからか、フジサワ侯は軽んじる扱いを示さないが、取り巻きはそうでもない。さっきのがあるから口には出さない様だけど。


「目に見えている状況はそうでしょう。目に見えていない状況を確認いただきたい。各領邦の女神に」 


 これがこちら側の切り札。これがあるから、幾つかの前線に並ぶ中で、フジサワ侯の陣を選んで来た。


「女神様は出征されてお戻りで無いと思うが」

「女神の戦いは決着が付いた。そして、エド王は和平を受け入れる。それを確認されたい」


 フジサワ侯が指図して神官が何処かに向かう。女神と話す簡易的な神殿でもあるんだろう。


「待つ間に聞かせてもらおう。その決着は?」

「それは、こちらに居るその当事者から話してもおう。サクラ、お願いする」

「では、僕から」


 ハコネが「なぜ我じゃない?」というリアクションだが、それは無視して続ける。


「アツギ、アヤセ、イセハラ、エビナ、カマクラ、ザマ、ズシ、チガサキ、ミウラ、ヤマト、ヨコスカ。以上の女神は戦場に倒れた」

「何だと? それ程の数をか!?」



 それぞれがどこの偉い人か分からないが、最後に反応を示さなかったのが女神の名が出なかった諸侯だろう。

 一呼吸置き、すぐもたらされるはずの情報を伝える。



「女神ヒラツカ、女神フジサワ、女神エド。これらは降伏した」

「馬鹿な!」


 大声を出したのはヒラツカの人? フジサワ侯は黙って聞いている。

 そこに、神官が走って来て、フジサワ侯に耳打ちする。


「分かった。女神様の言葉も、貴殿の言う通りであった。信じざるを得まい」


 信じられないという声、信じないという声。


「確かに、女神様は矛を収めた。理由は追って聞くとしよう。それで、先程の条件には、まだ足りぬ。納得せぬ者は、ここだけでも幾人か、チガサキの者にはさらに多いだろう。我らの軍は2万を越え、貴殿らの軍を遥かに凌ぐ。それが覆るわけではない」


 数字の比較。それは、もはや意味が無いと知ってもらうしか無い。


「同盟軍の3000、そこに100万の軍が加わる」


 何人かはその言葉の意味を理解しないかもしれないが、フジサワ侯は理解した様だ。


「女神でありながら、人の戦いに介入するというのか?」

「介入しないという取り決めは、エドさんの定める秩序。それは失われた」


「死ね!」


 そこへ、乱入して来る者。その槍の先はエルンストを狙う。とっさに飛びついて身柄を確保。人としては優秀なレベル40の戦士と言えどその程度。



「この様に受け入れられない方がいることは理解します。ニートホイホイ、そして、クリエイトロック!」

「あれじゃな。クリエイトロック!」

「なんだ!?」



 地響きとともに現れる壁。連合軍の陣営を囲む様に、城壁ほどはあろうという壁が出現する。何をしようとしてるのか察したハコネが、エルンストの後ろに壁と同じ高さの四角い岩を出し、エルンストたちをそこに運び上げる。



「クリエイトウォーター!」

「狼藉者には、特別なのをくれてやろう。クリエイトウォーター!」



 膨大な水が現れて、四方に流れていく。水の勢いに立っていられず足をすくわれた者は、流されていく。壁の内側に水が溜まり始めるとともに、僕より細かい魔法の制御ができるハコネは、乱入者だけを包む水柱を出現させる。苦しむ乱入者が静になる頃には、周りも膝上まで水に浸かった。一旦そこで、水を出すのを止める。



「これが江戸の宮殿で起きたこと。江戸の宮殿は2階までが水に沈み、ようやく抵抗を断念してくれました。2万の軍がこの乱入者の様になるのを望まれるなら、このまま続けましょう」


 江戸の宮殿と違って、高低差があるため低い所は人の背丈を超えてる。少しでも高い所に逃れようと急ぐ兵士達で、秩序は失われた。これで戦う言うなら、兵士でなく諸侯のみを沈めるべきかもしれない。


「求めるのは、降伏ではありません。和平です。ご回答は?」


 顔を見合わせる諸侯。いや、流されて何人か減ってる。再度集まらないと相談できないかな?


「少し待ちます。この人はお返ししますので、助けたいのならお早めに」


 諸侯のいる場所を避けるように山側に移動していく兵士達。


「江戸もこんな事にしたのか?」

「宮殿だけね。街にはやらないよ」

「それでもとんでもないわ」


 湖の島になってる僕らの居場所で、ここに来て初めてハンスとマルレーネが言葉を発する。諸侯が集まる前ということで緊張してたんだろうか。



「これで良い回答がない場合は、どうする?」

「倒すしか無いじゃろうな。それは致し方ない」

「宮殿って美術品とかあったんじゃない? きっと駄目になっちゃったわね」



 人命以外は重視してなかったけど、あの宮殿に知的な財産があったかもと考えると、蛮族に破壊されたローマ、モンゴルに破壊されたバグダットの様に文明を後退させかねなかった。あと一歩で文明滅ぼしかけたのだけど。




 そんな話をして様子を見ていると、話がまとまったらしい。


「ご回答は?」

「条件を受け入れよう。同盟諸侯にそう伝えてくれ」

長い章が終わりました。


11/4 ちょっと毛色の違うのを挟みます

11/5 次章開始

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