5-20 続大半島戦争 大いなる災いの種
気品溢れる女神様を僕の部屋に迎えられて、恐悦至極。罠にはめて勝ちはしたけど、この人の方が格が高いという雰囲気は相変わらずで、隣の格が低い女神共々、座って話を聞く。
魔王の復活? そんなの初めて聞いた。魔王が居るって事はハコネに聞いてたっけ。
「まず、サクラさんは新顔の女神ですが、魔王のことはご存知で?」
「いいえ。名前しか」
名前しか知らない。どこで何をしているのか知らない。いや、復活と言うからには、居ないのかな。
「では、歴史から始めましょう。かつてこの街の北には、創造主の都がありました。創造主という方々が昔いらしたことは、聞いていますか?」
「はい、色々な遺物を残し、去った方ですよね」
「そう。私達女神は、創造主の時代に作られた都市に配置された、創造主の代理人でした。創造主はこの大陸を栄えさせましたが、ある時に何処かに去りました」
それも聞いたことがある話だ。
「創造主の都は創造主が直接管理したため、女神は置かれていませんでした。創造主は去りました。女神を置かず。その都に、創造主の力に依らず新たな管理者が生まれました。それが魔王です」
創造主の時代に代理人として置かれた存在は女神となり、創造主後の時代に置かれた存在は魔王となった。そう言う違いか。
「その都の名が、エドですね?」
「そうです。それが滅びた都の名です。この街も一度は滅びましたが、再建する際に名を変え、今に至ります。この街の元の名は、シナガワ。それが創造主に頂いた名です」
場所と地名の不一致がこれで解消した。やはりここは品川か。
「この街を再建する前に話を戻します。創造主の時代に築かれた世界遺産級の遺物、広大な地下鉄道網。それを魔王はダンジョンに変え、魔物を生み出しました。魔物は地に溢れ、多くの町を滅ぼし、人々の生活を奪い、歴史さえも奪いました。生き延びた人々はそれまでの繁栄を忘れ、原始的な生活に戻ってしまいました。それから長い月日を経て、人々は魔物と戦えるまでになりましたが、この地を取り戻せるまでにはなれずにいました。そこでこの地を取り戻すため、元凶である魔王を排除するため、2つの事をしたのです」
ダンジョンで戦った勇者、さっきまでの話と繋がる。
「1つは勇者を生み出し、魔王を倒させる。勇者は魔王に対して実力以上の力を発揮するという能力が備わっています。それで魔王は倒せますが、この地を取り戻すには足りません。なぜなら魔王も神族。次のターンには復活してしまいますから」
無いそれヒドい! その復活を繰り返してる僕が言うのも何だけど。
「復活を封じるため私が行ったことが2つ目。私とこの街を、エドと改名しました」
「それで復活出来なくなるんですか?」
いや、それだと、佐倉にいるであろうサクラさんのおかげで、僕が復活できないはず。
「同じ名の神族が居るだけでは、復活は妨げられません。復活を妨げるのは、封印。封印は同じ名の神族に対してのみ、行うことが出来ます。だから私が改名する必要があったのです。また勇者は、自分を生み出した神族の近くではその神族の力を吸って強化される」
それ、ジョージBは僕の近くでは力が強まり、無双できる? もしかして国府津の惨状は、それが原因?
「勇者の強化は名で管理されるらしく、エドという名の神族が生み出した勇者は、エドという別の神族の近くでも力が強まるのです。それが魔王エドでも」
女神シナガワがエドに改名し、魔王エドを封印する能力を得ると同時に、勇者が魔王と戦える力を引き出す。
「そして封印の効果は、永続的です。封印を施した神族が居る間は」
「それでは、もしエドさんが倒されてしまったら?」
「魔王の復活を妨げるものは無く、次ターンに魔王は復活します」
うわぁ。大惨事。
「それが、私が降伏を受け入れた理由でもあるのですよ?」
「あ、エドさんの力を弱めて倒すって僕が言ったから……」
「そう。大変な事になるところでした」
そうか、実際やらなくて良かった。
「でも、この先の私は、うっかり倒されてしまうかもしれません。私のレベル、見えるでしょう?」
エドさんは、レベル150に下がってる! レベルって下がるの?
「前より下がりました。これに気付いたから、あなたを呼んだのです。先日までの私は、人々からの信仰に加えて、私を支える女神の皆さんからの信仰も受け取っていました。それにより本来よりもレベルが上っていた状態でした。今の私は、ハコネさんの魔道具込みの最大火力でなら、倒されるかもしれなくなりました。そういうわけなので、あの魔道具は出来るならを広めないでくれると助かります。もちろん、私を倒すのもダメですよ。お願いですよ?」
微妙に弱気なエドさんは可愛い女神になってるけど、言ってる事はとっても重いです……
「あやうく魔王復活させる所だったよ」
「まったく、そういう話なら、先に言えというに」
「エドさんも倒される可能性があるなんて思ってもみなかったんだよ」
ひとまず、やってはいけない項目が1つ発生。エドさんを倒しちゃダメ。世界が危ない。
「でも、魔王が復活したら、また封印したら良いんじゃない?」
「誰が封印するんじゃ? 一度やられたら、次は魔王自身も改名するなり手を打って来るじゃろう」
「それでも、エドさんと同じ手で封印できない? 女神の誰かが改名して」
現に僕は改名出来たし。
「いや、女神の改名は、無制限じゃないぞ。住民が居ないことが条件じゃ。その時のエド、いやシナガワには、住民は誰も居らんかったのじゃろう。街が滅びておったそうじゃからな」
「街がない女神がいれば……僕くらいかな?」
「ほほう。魔王が同じ手を食らうまいと、どんな酷い名になっても、それに改名するのか。もし魔王が、ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレカイジャリスイギョノスイギョウマツウンライマツフウライマツクウネルトコロニスムトコロヤブラコウジノブラコウジパイポパイポパイポノシューリンガンシューリンガンノグーリンダイグーリンダイノポンポコピーノポンポコナノチョウキュウメイノチョウスケと名乗ったらどうする?」
あ、ちょっと嫌だ。縁起は良いらしいけど。
「あるいは、กรุงเทพมหานคร อมรรัตนโกสินทร์ มหินทรายุธยา มหาดิลกภพ นพรัตน์ราชธานีบุรีรมย์ อุดมราชนิเวศน์มหาสถาน อมรพิมานอวตารสถิต สักกะทัตติยวิษณุกรรมประสิทธิ์とか」
「もう1回言って?」
「何度も言わすでない!」
これも凄く縁起の良い名前らしいけどね。通称バンコク。なぜハコネが言えたのか、ここのネットのおかげらしい。
翌朝、どちらかが飛んでもう片方は扉からでも良かったけど、折角の凱旋ということで一緒に行く。
「ハコネ、レベル上がってるね。レベル105か」
「チガサキに勝った分じゃな。お主の方が戦果が大きいから、上がりも大きいか。レベル113、あれだけやっても、まだ小田原にも届かぬか」
勝ったから上がるというのは単純だけど、エドさんみたいに下がる事もあるというのはちょっとした驚き。僕らは信仰の上乗せ分はほぼ無いから、信仰のロスによる低下は無いのだろうか。
「どうやって凱旋するかのう」
「まず、誰の所に行こう? エルンストで良いのかな?」
「そうじゃな、総大将ではないが、我々が守護する相手。そっちで良かろう」
大物領主の人達がすねないと良いけど。
国府津にたどり着くと、野営にエルンストの姿はなかった。
「あれ? エルンストは?」
「2人とも、帰って来たって事は、何も無かったのね」
「何も無くないけど、それは後で話すとして、エルンストは?」
エルンストは司令部で他の領主と会議中だそうで、そっちに行けと言われた。ごめん、マルレーネ、一応順番があるだろうからね。
司令部の前には、何人かの兵士が居るけど、ハコネはちゃんと女神と認識されているので、通してもらえる。僕はお供扱い?で通してもらった。
「勝ったぞー!」
「何だ!?」
ハコネが開口一番、色々考えてたのを全部ふっ飛ばす。




