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5-18 続大半島戦争 王と女神

「ネヴィル様! 宮殿が!」

「何だあれは!?」


 屋敷を出て宮殿を見ると、王宮が見えるべき場所に石壁が立ち塞がっている。


「何だと思う?」

「魔族が西から攻め寄せておりますれば、防御を固めるための物かと」 

「なるほど、そうか。そうであろうな」


 魔族がそこまで迫っているとなれば、我らも王の身許に駆けつけ、共に戦わねばならん。魔族側に裏切ったミシマ侯の元から来た我らを拾い、我らの訴えをお聞き入れ下さり、裏切り者を廃して正しき者をその地位に就けるため、共に立ち上がってくださったエド王。御身のみ城壁の中とは、水臭いではありませんか。




「入り口はどこだ?」

「探させておりますが、見当たりません!」


 門を作ればそこを狙われるのは確かだが、これはあまりにも臆病では?

 それに、魔族には空を飛ぶ者まで居ると聞く。果たしてこの対策は正しいのか?


「これほど高くては、はしごで登るのも難しい。お前達、中に入る方法を探すのだ! 私は屋敷に戻る」


―――


「何が行われているんですか!?」


 戦略ビューはそこに存在する人々だけでなく、地形も参照できる。その地形の情報が、予想外の事態を示している。なんと宮殿とその周りが水域になっている!


「宮殿は丘の上です。そこに水域!? 魔法で何かをしているというのですか!?」

「水域じゃと? そうか、水攻めか。やっておるな」


 水攻め? 何ですか、それは?


「周りに壁を作り、そこに水を生み出しているのじゃろう。我らの魔法の増幅は、攻撃のみに限定されるものではない。宮殿が沈むぞ?」

「そんな方法が…… でも中にいる人は?」

「クリエイトウォーターじゃろうから、逃げる時間はあろう。じゃが、モタモタしとると、沈むぞ?」


 宮殿は丘の上にあり、その周りの平地にはエドの街が広がっている。宮殿が沈んだ後は、その水が溢れて街を襲う?

 城壁に囲まれた町が、宮殿から溢れた濁流で、まるごと水に沈む。それはエドの町が壊滅することを意味する。

 



 扉を呼び出し、私の領域へ。宮殿内の神殿から、私への祈りが届く。


「召喚!」


 私の前に現れたのは、エド王。神殿で祈る者を、こうして呼び出すのは戦争が始まった時以来。


「エド様、大変な事になっております。急ぎお戻り下さい。このままでは宮殿が、街が沈みます」

「王よ、今の私は囚われの身、助けに行くことが出来ません」


 王の表情が驚愕に染まる。


「囚われの身!? エド様にその様なことが出来るなど、天上の神までが敵に回ったのですか?」

「いいえ、これはある女神が、手を尽くし編み出した策謀。私はその罠に掛かってしまいました」

「何という事だ…… それで、これを行っている女神は、一体何なのですか? 他の女神様の助けを呼び、倒す事は?」


 何なのか、私もそれ程分からない。しかし、起きたことは伝えられる。


「我が方の女神7人を倒す力を持ち、私の魔法に耐える術を持ち、私をここまで追い詰めるだけの知恵の持ち主です」

「つまり……」


 王の落胆。策に嵌り動けない私を攻めるのでもなく、ただ肩を落とす王を助けたい。しかし……


「破局を避けねばなりません。決断が必要です」


―――


「これ以上の秩序の破壊に、私は耐えられません。条件を受け入れます」

「分かりました。では、あなたの署名はハコネが、エド王の署名は僕が受け取ります。その様にお願いします」


 女神の約束は、天の神が効果を保証する仕組みがある。それを違えたら、女神は女神としての力を失うそうだ。ハコネが1回それをやらかしてて、知った。

 僕が受け取る方の王の署名は、それ程のものではないけど、違えたら女神が制裁を加えるそうだ。


 僕は宮殿3階のバルコニーに降り立つ。プレートメイルで固めた騎士達が集まって来て、部屋の入口を塞ぐ。


「エドさんと話はつきました。王の所へ案内して下さい!」

「魔族の手先が! 覚悟しろ!」


 もう穏便に済ませられる状況になったのに、そんな無駄な事をしなくても。世が世なら、玉音放送がラジオで流れてる状況なのに。

 押し寄せる騎士達を触らずに投げ飛ばす。湖と化した庭園へ。彼らが鎧を着ても泳ぐ技術を持ってる事を祈る。


「クリエイトウォーター! もう一度言います。無駄な抵抗はやめて、王の所へ案内しなさい。急がないと、屋上で王と会う事になりますよ?」


 一旦止めてるクリエイトウォーターを再開してみせる。バルコニーの外に滝の様に流れ落ちる水を見せ付け、決断を迫る。




「エド様から伺っております。エド王として、女神サクラとの契約を」


 そろそろ3階に水が入ろうかという頃、ようやく現れたエド王。


「ただその前に、お聞きしたい。なぜそれ程の力がありながら、魔族に味方する?」

「僕は誰かの味方をしたかった訳ではありません。あなたが魔族と呼ぶ人々も、あなた方も、大きく異なりません。共に暮らすことを決めただけ」


 というか、売られた喧嘩を買っただけだけど、喧嘩を売られた理由を辿ればこういう事だ。


「奴らは人族5000年の仇敵。共に暮らすなど、出来ようものでしょうか?」

「それを試しているのです。確かに、共に暮らすとは言え、それぞれで固まって暮らしています。適度な距離感は取りつつの共存、これは達成できると考えています」

「私はそうは思いません。奴らと我々は、個々が持つ力も、生きる時間の長さも違います。共にあれば、我らは奴隷の様に扱われるでしょう」


 なるほど、受け入れられない理由は、コンプレックスと恐怖心か。これは僕の世界でも同じことが起きてるから、仕方が無い事なのかもしれない。かつて自分達を苦しめた強者に対するコンプレックス、自分たちの社会に入り込んでそれを破壊されるという恐怖心。あっちの人類も受け入れ過ぎた所では結局破綻してしまったくらいだから、ここの人も同じであっても仕方がない。


「では、あなた方がそれを受け入れるのが無理でも、それを受け入れようとする者を邪魔するのはやめてください。いつか彼らがやり遂げた時、それに学んでもらえれば良いのです」

「今回の契約は200年続くと伺いました。200年後、その結果を私の子々孫々が見ることになるでしょう。その時私は居ませんが、あなたは私を思い出して、誤りに気付く事になるでしょう」


 彼が差し出した紙、200年と言っていたけど、20ターンとちゃんと書いてある。

 エド王の署名がある、その上に、1行あけて、僕も署名をする。


「それで、この水は?」

「すぐにエドさんを呼び出し、片付けますので」




 僕の部屋に戻ると、エドさんの署名を持ってハコネが待っていた。僕が持って来た紙をハコネに渡し、ハコネからエドさんの署名を受け取る。


「あ、ハコネ、それ、エドさんの署名だけ?」

「そうじゃ。最後に立っておったのはお主じゃから、我の署名ではいかんのでな」


 エドさんの上に僕も署名する。あとは1番下にエド王の署名が入れば完成だ。


「ハコネの方も、あとエドさんの署名で完成だから、完成したら僕の方にエドさん達を連れて来て」

「了解じゃ」



 

 戻り差し出したエドさんの署名が入った条約文。エド王がじっとそれを見て、止まる。


「本当に、エド様は負けてしまわれたのですね」

「謀事多きは勝ち、少なきは負ける。あなたが恐れる相手との戦いも、同じ事です」


 すると、僕の扉からハコネに続いてエドさん達が現れる。


「不甲斐ない私をお許し下さい。エド王」

「いいえ、私も貴方様に頼ってばかりでした。それは子々孫々まで、これからの教訓と致します」




「さて、あとはこの水の片付けですが、全く、なんて事を……」

「1階くらいで諦めて貰えると思っていたのですが」

「いきなり水が来たら、逃げられないものです。サクラ様、知らずにその様な事をなされたので?」


 あれ? そうなの? 確かに、腰まで水に浸かったら走れないか。


「では、町に被害が出ない様に、掘割を海まで作り、そこから水を捨てましょう」


―――


 報告を聞いた時はそんな馬鹿なと思ったが、実際に岩壁を登って見た景色は言葉を失うものだった。

 庭園の木が先端だけ出ているのが見える。宮殿も低くなり、2階まで水に浸かっているようだ。


「ネヴィル様、宮殿までは船を使うしかありません。準備してありますので、お乗り下さい」

「この船か?」

「はしごを伝い、水面に近付きましたら船に飛び移り下さい」


 全く、無茶をさせる。だが、今はこれしかないか。ゆっくり降りて行き、最後は船に飛び移る。船は4人も乗れば満員という小舟で、全員を宮殿に移すにはあと何度か行き来しなくてはならない。


「宮殿にバルコニーがある。そこへ向かえ」

「分かりました」


 波もない穏やかな水面を進む。この庭園で船に乗ったのは私達が初めてだろう。これもまた面白い経験とも言える。


「ん? 全然進んでおらぬではないか」

「それが、急に流れが!」


 流れは、宮殿とも先程居た岩壁と異なる方へ。その先は……


「なんだ、あそこに岩壁の切れ目があるではないか。そこから入ればあの昇り降りはせずとも」

「いえ、違います。あれは先程までありませんでした。そしてこの流れ……あの切れ目から水が流れ出し、この船はそこへ流されています!」


 宮殿が遠ざかる。


「何をしておる! 目一杯漕げ!」

「これでも全力です! あっ!」


 船が庭園の木にぶつかり、傾く。


「ネヴィル様!」


 転覆した船に捕まり難を逃れるが、もう漕ぐことは出来ず、ただ流される。流れは切れ目に近づくにつれ速まり、そして、


「落ちる!」


 切れ目の先は滝となっていた。


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