5-14 続大半島戦争 オダワラの守り
彼女らが女神の戦いを宣言してから発ったから、さすがに間に合いませんでした。
嫌な予感はしていました。多勢に無勢、力量にも差があるのに女神の戦いを受けて立つなど、何か仕掛けがありそうな話です。
チガサキさんが外交リストから消えました。やはり予想外の事が起きていそうです。行ったら全滅なんてことは無いと良いのですが。
油断無い様に気をつけて下さいと言ったのに。
ーーー
装填してあったエーテルXを使い尽くした所で、撃ち方止め。戦術ビューには、マーカーが無い。咄嗟に脱出した可能性もあるけど、だとしたら再登場すれば狙い撃ちだ。
オダワラさん達と戦っていた2柱は何事かとこちらを見上げているけど、まだ状況を分ってないだろうから、今のうち。エーテルXを再装填。狙いを付けて、一気に。
BABABABABABABABABABA
BABABABABABABABABABA
BABABABABABABABABABA
「無駄なことはやめなさい」
大騒音の中でも聞こえる、声。
BABABABABABABABABABA
BABABABABABABABABABA
BABABABABABABABABABA
「これがチガサキさん達を?」
「いいえ、チガサキはまた別の魔法に。ヨコスカ達が、これに」
「そう。逃げられた子は…… あなた達と2人だけなのね」
あれ? 効いてない?
「これならどうじゃ。プロミネンス!」
ハコネも僕の部屋から出てきて、目一杯の一撃。
「これは大変ね」
やはり効いてない。何か対策を発見された?
土埃が収まると、1人増えてる。ここに居るのだから、きっと1柱と呼ぶべき相手なんだろう。
「ハコネさん、お久しぶり。ハコネさんに似た人、初めまして」
ゆったりとしたローブ、長い銀髪に、優しげな青い瞳。
祈る子のように両手を胸の前で組み、その前に幾重もの光る壁を纏い、悠然と立つ。
これまで会った女神達と比べて、「これこそ女神」というべき気品がある。
「新顔の女神なんていつ以来でしょう。出来ればこんな形でなく、新しい仲間を迎えたかったのに」
ハコネもオダワラさん達も何も言わない。誰なのか説明してくれてもいいのに。
「来訪早々これだけ撃たれたのだから、私も参加してよろしいのですね。新顔さん、あなたはどなた?」
「サクラです」
「サクラさん、チバ方面の方と名前が被ってますが、それはともかく」
チバのサクラ? 佐倉?
「私はエド。あなた方が戦っていた女神の盟主です」
「エド…… 江戸の女神……」
戦術ビューで見える情報は、レベル200の女神。ハコネと僕は女神最低のレベル101からスタートだったけど、レベル200ってのは上限なんだろうか。
そしてこのレベル差があると、エーテルで増幅した魔法さえも届かない程なのか。新兵器で最強なんて思ってたけど、数日で打ち砕かれるとは。
でもそうであれば、次の手は?
「私を慕う皆さんが出陣だと言うので応援に来たのですが、よもやこんな事になっていようとは。多分あなた方、魔法の威力を増幅する魔道具を使いましたね。あれだけの魔法に耐える素材が見つかるとは思いませんでした。それほどの素材、出来れば戦いに使って欲しくありませんでした」
「勝てない相手に勝つには、これしかありませんでしたから」
「そうですか。でも、何も消し去るまでやらなくても。こんな事をされたら、10年間困る方が沢山出てしまわれます」
物理的に勝ち負け着くまでやらなくても良かったの? でも負けを認めて貰えそうにはなかったよね。
「ですが、済んでしまった事は仕方がありません。今後の教訓のために、倒されてしまった人数分、皆さんを倒します。ルミニス・クアトレ」
言うやいなや、手に光る槍が現れると、4つに分裂し僕らに襲いかかる。咄嗟に扉の裏に隠れると、僕には何事もない。見ると、さっきまで居たアタミさんとミシマさんが居ない。アタミさんとミシマさんって僕らよりも強いのに、一撃で倒されてしまうの?
そしてハコネも吹き飛ばされて倒れてる。
「跳ね返した!? 一体何が? ヒラツカさん!?」
片腕を失った女神がそこに。そうか、僕の扉はヘイヤスタ加工になったおかげで、魔法の槍を反射。反射された魔法の槍が不運にもヒラツカさんに当たったと。で、扉に隠れもしてないハコネが無事なのは?
「さすがはオダワラじゃ」
「防御魔法だけは誰にも負けないわよ。1人にしか出来ないけどね」
アタミさんとミシマさんが一撃で倒される魔法でも、オダワラさんはかなり防げる。まさに小田原城。
「ヒラツカさんとフジサワさん、離れていて下さい。反射で巻き込みたくありません。そしてオダワラさん、あなたハコネさんに防御魔法を掛けるって、ご自分には来ないと何故分かったんですか?」
「来ても良かったわ。ああやれば、私が姉さんの倒されるところを見なくて済むもの」
普通いい話だよ、姉を庇って自分が犠牲になる妹とか。でも、この人は他のいろいろで台無しなんだけど。
「これは姉さんじゃ無理だろうから、サクラさん。何かいい策を考えてください。姉さんが無事で済むように。いつか助けた借りを、ここで返して下さい」
そのいつかってのも、ハコネを助けるためだったんだけど、今は助かる方法を考えよう。倒れてるハコネを担いで、あの場所へ。
「オダワラさん、僕らに時間を」
「分かったわ。姉さんをよろしくね」
ハコネを背負い、ダンジョンに駆け込む。
「ハコネ、起きろ~」
背負われるハコネは意識が無いまま。ハコネも自分で魔法を使えたら、扉の反射で対応できるのだけど、意識がないままでは何も出来ない。
勝手知ったるハコネのダンジョンを潜る。単に下に降りるだけの簡単な構造だから、大した時間稼ぎにもならないだろうけど、ハコネが目覚めるまでの時間が取れたら良い。
「ここはどこじゃ?」
「ああ、起きた。ここはハコネのダンジョン。エドさんがすぐに追って来るだろうから、先を急ぐよ」
ハコネを地面に降ろし、先に進む。
「目覚めてよかった。エドさんの魔法もヘイヤスタで反射できることが分かった。次は扉で防いで」
「ほう。あの扉、そんな便利な使い方もあったのじゃな」
今のうちにやっておきたいことがある。ダンジョンをドンドン潜り、行き着く所は僕の領域を包む装甲板。装甲板は前に降りた場所に穴を開けてあって、下に降りられる。
「さて、作戦だけど」
扉と同じくらいの大きさにヘイヤスタの板を切り出し、工作魔法で加工する。
「これを身につけて戦う」
「扉じゃいかんのか?」
「魔法は後ろからも来る。特にここでは」
ーーー
「皆さん、2人を追いかけて下さい」
「分かりました。先に行きます」
「あの魔法はあなた方でも危険です。戦うのは、私が追いついてからに」
追いついてから、ね。すぐに私が倒されて追いかけると思ってのことだろうけど、サクラがなんとかする準備の間、時間は稼がせてもらう。
「さて、防御では定評のあるオダワラさん、力比べとしましょう」
「エド様にそうまで言って頂けるとは、光栄ですわ」
「では行きますよ。頑張って耐えて下さい。ファイアボール!」
姉さんのファイアボールより大きいじゃない! 横に跳んで避ける。
「力比べがしたいのに、避けてしまうんですか?」
「私はしたくないですわ」
「では仕方がありませんね。避けれない様にしましょう。フリーズ!」
私を凍らせるのかと思ったら、地面を凍らせられてしまった。
「これで、跳んで避けることは出来ませんよ。では再び。ファイアボール!」
覚悟を決めて、目一杯の防御魔法で壁を張り、魔法を受け止める。受け止めた反動で氷の上を滑ってしまい、姿勢が崩れる。
「さすがです。ではさらにその上を。フレイムランス!」
1点を突破する収束された炎の槍が、私の守りを貫こうとする。これは無理。でも姉さんの時がこれでなくて良かったと思ったりした。




