5-12 続大半島戦争 仙石原合戦
話は少し遡り、サクラがマルレーネに勇者発見の報を聞いた頃。
ここは戦を監視するための山の上。この戦に参陣している全勢力の守護女神が一堂に会し、壊滅したチガサキ伯軍の生き残りがもたらした情報について、討議が行われる。
どこからか持って来た机を挟み、こちら側には西軍の我とオダワラ、アタミ、ミシマ。向かっては東軍、ヒラツカ、イセハラ、アツギ、フジサワ、アヤセ、ヤマト、ザマ、カマクラ、ヨコスカ、ズシ、ミウラ。チガサキは説明者として立つ。
「チガサキ伯軍の壊滅について、女神の介入ありとの疑いがある」
まさか、サクラが何かやらかしたか? いや、サクラは慎重すぎる程であるゆえ、それはなかろう。
「我らがここに居た事は、言うまでも無かろう。何かの間違いでは無いか?」
「生き残りに鑑定持ちが居り、チガサキ伯軍を攻撃した者を鑑定した。その結果、その者は勇者であった」
勇者?
「勇者は女神の加護を受けた者。それが諸侯間の戦争に参戦するのは、女神の介入に準じる扱いとなることは、先の勇者ウィリアムの時代に定めた通りだ」
「なに? そうなのか?」
あれ? オダワラ含め皆の視線が…… 知らないの、我のみか?
「ハコネ、そなたの加護を与えた勇者では無いか? 今から調べに行っても良いが」
ここは「知らぬ」と答えるべきか? 調べられたら、サクラの勇者と判明するかもしれない。このまま我が加護を与えた勇者としておく方が都合が良いか?
「その勇者は我の言うことを聞かんやつでな。そもそも戦争に勝手に入ってくるとも聞いて居らんかった。勢力を持つことも勇者を持つことも何分初めてで、手違いがあった様じゃ。今回だけという事で、水に流してはくれぬか?」
「そうよ、姉さんはバカなんだから、1回くらい大目に見てよ」
おい、オダワラ!
「そうね、バカですわね」
「バカよね」
アタミとミシマまで!
「ならば、勇者の称号を剥奪し、一般人として倒される事でこの場は治めよう」
そもそもあの勇者、サクラの奇跡で生じた、サクラの勇者。我があの身体にあった時も、サクラの勇者となっておった。称号の剥奪は、サクラにしか出来ぬ。
あの身体の不老不死は勇者になった事による物ではない。しかし勇者の称号と一緒に不老不死も失う恐れは無いか? もし不老不死も奪われて倒されると……
「それはならぬ!」
我は最終的にサクラを元の場所に返してやらねばならん。その時戻るべき身体が無いのでは、それが果たせぬ。
それに……
「よろしい。我が介入したとして、我が勝負受けて立とう」
「ちょっと、姉さん!」
「そうか。それでも良い。しからば、ここでは麓の者たちを巻き込みかねん。場所を移そう」
我を侮り続けた女神達に、新しき力を見せつけようではないか!
「やらかしたのは我単独じゃと言うに、お主らまで来ぬとも良いものを」
「何言ってるの。姉さん1人じゃ、チガサキ1人にも勝てないでしょうに」
「フフッ、言っておれ。我の力を見て驚くでないぞ」
オダワラ、アタミ、ミシマ。そのままでは勝ち目が薄いと思い我と共に戦ってくれるとは、良い奴らじゃ。じゃが、まあ、我は普通に勝つ積もりなのじゃがな。その為の準備も万端じゃし。
ーーー
ハコネを罰する事が決まり、そこで始めては麓の将兵にも被害が及ぶため、場所を移す。女神の戦いに民を巻き込まないのは、昔からのしきたり。
場所はオダワラから西へ、我の領域の北西、センゴクバラ。住民が居ない場所という事で指定された。場所の指定はハコネとオダワラだ。
低い草が生えるだけの草原に、遠く山々が囲む盆地。視界を遮るものがなく、数の差、力の差が出やすい。誤魔化しが効く場所につれて行くかと思ったら、意外。
「あの中で、オダワラはそれなりの力を持つ。ヒラツカ、お願いできるか?」
「良いでしょう。あちらでオダワラの民と戦う我が民と同様、ここでも私が当たりましょう」
「では残り3人は私が」
フジサワが残り全部を引き受けようとするが、事の始まりである私を蚊帳の外に置かないで欲しい。
「いや、ハコネは残してくれ。事の発端は私とあいつだ」
「そうか、ではアタミとミシマを」
こちらの陣営は数が多いので、人数が余る。
しかし、弱い相手を多数で囲むような戦いは、女神戦の流儀として相応しくないとされる。オダワラとヒラツカ、アタミミシマとフジサワ、そうやって力の均衡を作り、対戦するのが良いとされる。ハコネの相手をすることだけは例外とさせてもらおう。
余った女神達は出番が来るまで見物だ。出番があるとは思えないが。
私とハコネでは、余りに力量に差がある。レベルが20違うというのは、容易に覆せない差がある。この様な場合、やれるだけの事を先にやらせてやり、打つ手が無いと分かった所で一撃やり返し、降参という流れが良い。
この様な作法をエドやヨコハマが定めたのはいつだっただろう。終わった後に遺恨を残さないように、秩序ある女神の作法として定められてから、私達の間では長く守られている。
ーーー
「私はヒラツカ、アタミとミシマでフジサワ、姉さんはチガサキだそうよ。姉さんは適当に逃げ回って、私達が何とかするまで時間を稼いで」
「倒してしまっても良いのじゃろう?」
「はいはい、言ってなさい」
我の新しき力を知らぬのはオダワラ達も同じ。確かに以前の我であれば、チガサキに勝つのは難しかろう。だが、今の我は、かつての我ではない。
「ハコネ、あなたの相手はこの私です。無残に倒された兵のために。しかし、あなたと私では力の差は歴然。まずは好きなだけ撃ち込んでくれて良いですよ」
「それは良い! 我を侮りしこと、10年後に後悔するのじゃな」
「では、始めましょう」
早速オダワラとヒラツカが始めた様じゃ。魔法の打ち合いからの、防壁を造ったりそれを打ち壊したり。アタミとミシマは思いの外連携が上手い様で、常に片方がフジサワの背中を取れるように動いておる。
余ったあちら側の女神達は、適当に散らばって様子を見ている。
チガサキのレベルは……124か。どの程度通じるのか試すのに良いな。
「では、遠慮なく行かせてもらおう。ファイアボール!」
避けるまでもなく、手をかざして受け止める。そこで爆発し、消える火球。
「やはり効かぬか」
「当たり前でしょう。その程度の事のために、ここに立っているのではないのでしょう? やる気を見せなさい!」
「ではこれじゃ。スモーク!」
煙幕を出す魔法。これで連中は、これからの攻撃を見逃すはず。
「サモンユクシ」
濃い煙幕の中、我の新しき力を召喚する。
「ホーミングフレイムアロー!ホーミングフレイムアロー! ホーミングフレイムアロー! ホーミングフレイムアロー! ……」
煙幕の中、魔法の火の矢を撃ちまくる。チガサキ目掛けて何発も。我の魔法を侮ったチガサキは避けもせず受け止めるか?
「チガサキ!?」
見物女神の誰かが呟く。煙幕のせいで見えぬが、戦略ビューが結果を示す。
「ついでにお主らもじゃ! ホーミングフレイムアロー!ホーミングフレイムアロー! ホーミングフレイムアロー!」