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5-10 続大半島戦争 第三勢力

 戦いが始まったのだろう。絶え間なく続く叫び声、たまに聞こえる爆発音、けが人が近い野営に運ばれてくる喧噪。外の喧騒から情報を得ようと、小屋の扉は開け放たれたまま。

 僕はマリーさんの護衛と言う役目を付けられて、野営に居る。誰かを害することに戸惑いがある事を心配して、また派手な事をやって問題が起きる事を懸念して、エルンストが配置を決めた。まあ、マリーの護衛も本当に必要って事なのだろうけど。


 そもそもこの戦い、僕の立場は良く分からない。ハコネによると、相手方の女神は僕を女神と認識してない。デコイの通り、人族レベル85と認識しているのだとか。

 なぜ女神が騙されるのか? それは長年の先入観に因る。2千年の付き合いで女神は互いを知っており、また女神は創造主の時代が終わって以降増えた事が無いから、新顔女神との遭遇を想定していないと言う。オダワラさんが僕とハコネの入れ替わりに気付いたのは「愛ゆえに」だそうだけど、まあ姉と姉の皮を被った別物くらい、すぐ見分けられるか。

 あまり意図してやったのでは無いけど、神奈川諸国を飛んでいたのはハコネ、アタミの戦いでトンネルを破壊したのもハコネ、ミシマで魔族戦や侯爵軍で威嚇したのもハコネ。家曳で僕もハコネと働いたけど、ハコネの力によるものと思われた様だ。

 そんな訳で、人族らしからぬ事をしなければ、僕は正体を隠していられると期待してる。人族らしからぬ事をして女神とバレると、途端に女神不参加の違反となり大変な事にもなってしまう。


「手加減して参加しても良いんだけどね」

「サクラさんの助けが無くても、3人は無事に帰ってきます。無理はしないと言ってましたから」


 出陣前、心配して同行を願ったマリーに対して、無理をしない事を約束して行ったエルンスト、マルレーネ、ハンス。「この規模で3人無理した所で戦況は変わらない」と冷静な判断をアピールしたがエルンストだが、心配なのはあとの2人。マルレーネ、ハンスはきっと何か仕出かすに違いない。聞こえる爆音も、マルレーネのせいかも知れない。


 護衛の役目があるから小屋を離れるわけに行かないけど、マリーの視界の中ならと扉のすぐ外まで出てみると、東で煙が上がっているのが見える。野営よりも外だろうから、攻め込まれては無いのだろう。

 願わくば、このまま、災いが無い事を。




 戦いが始まったと言うののに、平穏とはこれいかに。7日間、3人の誰も大怪我をするでもなく時間は過ぎた。

 アシガラ軍と5日後に到着したアタミ・ミシマ軍により戦線は維持されている。


「これ、どうぞ」

「何でここに?」

「ミシマの兵士さんが、お土産に持って来てくれました」


 腹が減っては戦は出来ぬという事で、昼にマルレーネが戻って来た。そして食べてるのは、カレーパン。

 今日もどこも怪我した様子も無く、ブーツが汚れている以外は朝出て行った時のまま。


「エルンストは司令部に行ったわ。ハンスもね」


 エルンストもレベル18と兵士並には戦える技量の持ち主だが、単独行動は危険という事でハンスが護衛についている。レベル48のハンスは、なんとか無双の猛将の如く活躍できそうな技量で、最高の護衛になれる。


「私も回復魔法は使えるんですが……」


 マリーは攻撃的な魔法は出来ない。良くゲームに居る僧侶タイプってやつなのか、回復魔法は得意。立場が無ければ、前線で衛生兵をやっていたかもしれない。


「いいのよ。マリーはサクラのお目付け役なんだから」

「僕を見張ってるんですか?」


 別に、戦場に行きたいとは言ってないのに。眼鏡かけたら魔法が当たる様になったからって、人に向けて撃ちたいって事は無いよ?


「あ、お帰りなさい。どうでした?」


 最初に気付いたマリーに続いて入り口を見ると、エルンストとハンスが小屋に入る所だった。


「敵軍にも増援が来た。多い。とにかく多い」


 エルンストが聞いて来た司令部情報によると、フジサワ、イセハラ、アツギなど東方の諸侯の軍が続々と集結しつつあるのだとか。ここは立地的にも山と海に挟まれて狭いから大軍が来ても生かしにくいけど、消耗戦になれば数の不利も出て来る。


「チガサキは来てないのですか?」

「その旗は見えないらしい。ヒラツカと同じ戦場に立たないと言いたいのか、まあ助かるから良い」


 前に聞いた通り、ヒラツカとチガサキの親分が不仲らしいが、大親分エドの言いつけでも来ないなんて、そこまでなのか。


「あれだけ数が増えると、暇になる部隊が増える。そうなれば、別動隊が迂回してくる恐れもある。そこで、北の山向こうにも偵察を送るとの事で、少数精鋭を送ると言う。そこでご指名だ、マルレーネとハンス」

「それは偵察だけなの? それとも」

「勝てる程度の数相手なら、任せる。それでも、偵察の仕事は生きて帰る事だと忘れないでくれ」


ーーー


「居るわね」

「数百? これは戦える相手とは言わないか」

「え? そう?」


 陣地から北へ10キロ。緑生い茂る山中の一角。偵察に出て暫くして、山中で人が付けたであろう目印を発見。人や魔物だけでなく、実は物にも使える姉さんの便利な鑑定魔法があるから、それが何だか分かった。慎重に辿って行くと、思った通り見知らぬ軍勢を発見した。

 目印は敵軍の斥候が山越え可能なルートを後続の軍勢に知らせるための物だったのだろう。軍勢は山中を縦列で進んで来た様だが、今は休憩中と見える。


「マリに貰ったアレを使えば、一仕事やって帰れるわ」

「姉さん、相手は縦列だし、もっと密集したときに使わないと勿体ないよ」


 ハダノで実験したアレは耐久性に難があったから、姉さんの魔法で派手に使うと1回で壊れてしまう。ハコネさんとサクラさんが動けるなら予備を持って来てもらうのだけど、軍事物資の補給活動も禁じられるとの事で、この戦いが始まる前に持って来た分しか手元にない。


「ハンスが真ん中に突入、敵が集まった所でどっかーん、は?」

「俺はどうなるのさ?」


 ちょっとニヤッとして言う姉さんの冗談は置いとくとして、この情報を伝えに帰るだけじゃなく、何か出来る事は……


「偽の目印で、違う方向に誘導」

「面白いじゃない、それ」


 目印は、麻紐を枝に結んである。1つの木に2つ結んであり、それがルートの折れ曲がりを示していた。冒険者が使う目印でこの方法も見た事があったので、あちらの斥候も冒険者が雇われたのだろう。こんな事に動員されて、ご苦労様だね、お互いに。


「北に誘導するのが良いわね」


 北へ行けば行くほど山脈が高くなり1000m越えにもなる。上り下りも大変になり、遠回りになり、物資も消費する。北へ誘導してしまうのは、ここでの最適解だ。




 偽目印を付ける事10を越えた時、後方で大きな音がした。


「今の音…… 何かしら?」

「あの部隊が来てるとしても、ただ事じゃないね」


 部隊と鉢合わせは困るので、ルートを外しながら戻ってみる。そこで見つけたのは、倒され伏す兵士。それは列を成し、いくつかは胴が上と下に離れた惨たらしい姿となっている。その戦いに巻き込まれたのか、大きな木さえも切断され倒れている。切断面は木目も見える綺麗な断面。この太さの木を切り倒すなど、並の力量ではない。

 ある兵士の身に着けた紋章から、この軍勢はチガサキ伯の軍だと分かる。ヒラツカ伯と仲が悪いって話だから、別ルートを進軍して後方から奇襲、より大きな手柄を狙ったのか。


「暴れてるのは味方みたいね」

「味方にこんなことが出来る人が居るって聞いたことないけど」


 やられているのが敵軍と分かったが、状況が分からない。俺達を味方と気付かず襲い掛かってくる恐れもあるため、身を隠しながら慎重に進む。


 進んだ先、そこでは惨劇は終わっておらず、現在進行形。森の中、こちらに背を向け戦う何者かと、刈り取られていく命。


「あれって、まさか……」

「何でこんな所に……」

「姉さん、確認のために、鑑定を」


 見間違えるはずもない。だけど、一応確認しておく、他人の空似だって無いわけじゃない。


「レベル89、種族は人族、職業は勇者」


 勇者。あの時勇者ハコネだった、その姿。かつて見た背中。姉さんが追い求めた背中。それが今そこにある。


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