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5-9 続大半島戦争 再戦前夜

「こちらも完成だ。試射に行こう」


 出来上がったのは、魔道具の魔法放射口が7つ円形に並んだ形状の、新型多連魔法発動器。

 連続で発射する数だけ増幅構造を作るなら、円形にして2週目に入る様にすれば構造が簡単になる。1射ごとに必要量なだけエーテルが消費されるので、質の良いエーテルがあれば連射数が増える。

 ファイアボール試射の結果、普通のエーテルを使うと2週まで。ハイエーテルを使うと、10週したところで問題発生。エーテルが尽きる前に、発熱でエーテルが沸騰してしまう。エーテルXで撃つのは、この問題が解決が出来たらという事で。


「次戻って来る時までには、対策を考えておくからな」


 ちなみにハコネの方はエーテルXで問題なし。ハコネが言うには、自分の身も危ないほどだとか。自爆オチは勘弁してね。




 多い…… あの閑散とした陣地が、人だらけに。

 国府津に着くと、ちゃんと陣地になっていた。延々と並ぶテントが人数を物語る。これ以上の数だと狭いこの場所に陣地を形成するのは難しい。


「アシガラ歩兵1902、アシガラ騎兵170」

「アタミ騎兵55。歩兵は追って534が移動中」

「ミシマ騎兵56。歩兵は655が移動中。西方に警戒が必要で、半数を残した」


 司令部の中央はアシガラ辺境伯、ミシマ侯爵、アタミ伯爵の3人が並び、アタミ伯爵の横にはアドルフさん、そしてエルンストも居る。

 そして場違いな優雅なティータイムを楽しむオダワラさん、アタミさん、ミシマさんが司令部の横に。


「私達と姉さんは、今夜から山の上に観戦所を作って見守る事になるわ」

「さっきまでヒラツカが来てそんな話をして行きましたの。他の東側女神たちも、そこで一緒よ」


 前夜に僕らが何か仕込むのではないかと警戒して、夜から陣営とは離れた場所に集まれって。裏手には500mくらいの山があるので、そこから離れるなという事らしい。で、僕はどの参戦勢力に属するのでもない野良女神なので、そこに居る必要はない。でも何か手を出したら後々もめそうだから、大人しくしててね、という事だった。


「姉さんは3日間なにをやってたの?」

「新兵器の開発と、発掘じゃ」


 ハコネ、発掘は言わないでって。


「ほれ、こんな素材を発掘して来たんじゃ」


 エーテルの話でなく、ヘイヤスタについてか。それは見せても良いかな。エルンスト達に盾として持たせてあげたいから、見せて置いても良い。


「見とれ。ファイアボール!」

「跳ね返すのね。触っても良いかしら?」

「でもこれを姉さんが持って来たのなら、今これで武具を造ったら、女神の不介入に違反することになるわね」


 あ、そうなんだ。だったら、わざわざ人の手で運んで盾とか作って貰わないといけないか。時間掛かるから、今回の戦いでは使えないか。


「敵方はどれほどじゃ?」

「まだヒラツカのみよ。2500程度ね」

「もう人数はあちらが多いのよ。まだまだこれから来るのにね」




 ハコネ男爵軍の野営と言う名の小屋、そこにマルレーネとハンスは居なかったが、別の人が。


「お主も来ておったのか」

「私はもう、ハコネ男爵夫人です。ここでこれから起きる事は、私にとっても重大です。だから、一番よく見える場所で見守りたいのです。そう言って、ここに居る事にしました」


 留守は任せたって名目で箱根に留まってたマリーも結局来たのか。マリーは回復魔法が少し使えるから戦力になるとは言え、マリー並の回復魔法使いは珍しくない。だったら立場を考慮して後方と言う事だったんだけど。


「エルンストは?」

「危なくなったら逃げるならと、納得しました」


 箱根でのやり取りを見てたら、マリーがどうしてもやるという事に対して、エルンストは大抵勝てない。今回の様に、大部分はマリーの言い分に沿った妥協点に落ち着く。


「ところで、マルレーネとハンスはどこ?」

「山に入って偵察だそうです。明るい内に戻るって言ってました」


 まだ停戦期間だけど、偵察に行って捕虜なんて事もあり得る。まあ、あの2人はそんなへまは無いだろうけど。


「戻りました。ハコネさん、サクラさん、おかえり」

「新兵器を携えて帰って来たぞ」

「それ、ここでは使えないけどね」


 ここ3日の出来事は取り立ててなし。マリーが来た事くらい。


「あちらは遠征軍だから、輸送に掛かる人数が多い様です。後方と荷馬車の行き来が続いてます。また、長弓兵は1割、騎兵はそれよりも少ない程度です」

「山から見張ってたのはお互い様だったわね。帰りにこちらの陣地を見張る連中を見かけたわ。停戦があるから隠れて何もしなかったけどね。そいつら、レベル30前後の冒険者よ」


 冒険者はこの様な場でレンジャー部隊の様な扱い。レベル30もあれば、一般の兵士に囲まれても脱出して帰還できるくらいの実力差がある。そこに来て、レベル40台後半のマルレーネとハンスは、捕まえようというのが無理と言うレベル。だから偵察任務と言う危険そうな仕事でも、任せられる。誰かが行方不明という事件から向かい合った両軍が戦いを始めてしまう事だってあるのだから、行って帰れることは重要。


「全員揃うのは久しぶりだな」

「司令部の方はいかがでした?」

「アタミとミシマの兵は、到着が遅れそうだが、時間のかかるアタミの兵もあと10日あれば着くそうだ」


 なぜ1番遠いミシマよりアタミの兵が後になったのか、アタミの全軍が出た後にミシマの兵が通る事に不安があるかららしい。良好な関係になって日が浅いから、市民や兵士の中ではまだ信頼してるとは言い難い。市民感情は一朝一夕に良くならない。


「我は、明日は山の上から見学だそうじゃ。何かあっても助けに行けんから、慎重にな」




 これまでの慣習で、停戦の日数は日の出で1カウントだそうで、まだ暗い内から準備が始まる。そのため、前夜は早く寝静まる。今夜はなんとなく、ハコネ男爵軍の野営に1泊。夕食はハコネが久しぶりにカレーを食べたいというので、僕の部屋から持って来た。小屋の前で、6人で火を囲む。


「この戦いが終わったら結婚すると言った兵士は、その戦いから生きて帰れないってジンクスがあってね」

「私とマリーは、その点は安心だ。それを言えば、ミシマに行った時が危なかったのか」

「あと、恋人が待ってるってのも」


 一同、ハンスを見る。


「いや、なぜ俺? 誰の事を?」

「ほら、ハダノの」

「姉さん、それは違うって言ったじゃないか」


 ハダノ? 接点から言うと、栢山から秦野まで同行したアリサ?


「この戦いが終わったらってフラグ立てるのは禁止ね。でも終わったら、秦野に行こう。最近見つけた素材で、魔法を反射する装備が出来そうなんだよ」

「その装備、詳しく!」

「姉さん、魔法避けるの、得意じゃないもんな」


 発見経緯の地下探索の話から始める。創造主があれを作った元ネタについては、ハコネ以外は知らないから伏せておく。


「俺はハダノよりその遺構を見に行きたいです!」

「あそこは危ないよ? 長年閉じられてて、呼吸が出来ない場所になってたし」


 僕らはなぜか酸欠になろうが関係ない便利な体をしてるけど、探索中に目印にしようとしたたいまつが着火しなくて酸素が無い事が分かった。そもそも酸素という概念がアリサとマリ以外には通じないから、説明するのは難しい。


「いつかあの場所も使い道を見つけられたら良いのじゃがな。せっかくサクラの領域が出来たのじゃ」




「さて、何かあったら、知らせるのじゃぞ」


 ハコネは予定通り、山の上へ向かった。野良女神、いや、相手側に女神と認識されてない僕は、こちらに残る。

 戦いが終わった後に楽しみを残しつつ、戦いが再び始まる夜明けを迎える。


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