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5-8 続大半島戦争 KとX

 作ってもらう物は、完全に僕に合わせた仕様だ。細かい調整も僕が付き合うしかない。

 暇になるハコネは、早速試射をするそうだ。場所はあの空洞。反射して来た魔法に被弾しないと良いけど。




「この角度、この厚み。これで良いはずだ」

「今度こそ大丈夫なはず!」


 かなり難しかったらしいが、それでも果敢に挑戦するアリサとマリ。マリが計算と設計を、アリサが加工を担当している。


「じゃあ、撃ちに行こう」


 2人とも結構お疲れの様子。試射したら、続きは明日にしよう。


「ファイアボール!」


 打ち出されるファイアボール、ただし多数。


「何番目まで成功だ?」

「12!」


 何をやったのかと言うと、多連魔法発動器の作成。

 この魔道具内部には、薄くしたヘイヤスタをずらっと配置。この板は、僕のファイアボールを大部分反射し、ちょっと吸収し、残りが透過する。

 透過分を魔道具で再増幅して、次のヘイヤスタにぶつける。そこでも反射、透過。これを繰り返すと、ヘイヤスタ枚数分のファイアボールが生じる。これで1つの魔法が多数になって発射される多連魔法の出来上がり。多数の魔法になって、点でなく面で制圧する。ずれても当たるし、小さな的でなければ複数当たる。

 ただし僕の透過率に合わせてあるので、透過率が違う人が使うと増幅不足で減衰、または増幅しすぎてヘイヤスタ板を破壊する。絶妙なバランスで成り立つ、僕専用のカスタム魔道具。

 エーテルX。これを新兵器に使うとどうなるのか。

「これは行ける! まだ増やせる!」

「次は分岐方式? いや、もっといい方法が!」


 技術者魂?に火が点いてしまい、期待以上の物にするべく、暴走するマリとアリサ。気持ちはよく分かるけど……

 名前は2番目でカクシにするって決めてあって、Kって刻印してある。




「サクラ」

「ジオフロント」


 戻って来たハコネと、例の空洞に名前を付けようという話になり、両者の案は当然割れた。創造主が何のつもりで作ったのかを考えたら、ジオフロントと呼ぶ方が良いじゃない。そもそもジオフロントってのは固有名詞じゃなくて、あの場所を指すには丁度いいし。


「ハコネの地におる我がハコネ、アタミやミシマも都市の名と女神の名は同じ。であれば、サクラの領域であるのだから、場所もサクラと呼ばれるべきじゃ。ジオフロントと名付けたら、サクラの名がジオフロントに改名になるかも知れぬぞ」


 こんにちは、ジオフロントです。それも嫌だ。


「改名したくないのなら、あの場所の呼び名もサクラじゃ」




 カクシを試作する合間に、ヘイヤスタについての疑問は増えていた。魔素の供給を阻まれた仕組みは分かったのだけど、吸収された分はどこへ?

 ファイアボールの魔法として吸収されたら熱になるのは分かった。冷やす魔法なら吸収分でヘイヤスタは冷えるのだろう。でも、魔法として性質が付いていない魔素が吸収された際はとうなるの?

 折角気付いた疑問だから、寝る前に1つ実験を仕掛けておこう。


 翌朝。休戦も今日が最終日。今夜には国府津に戻った方が良いかな。残った課題は、今日終わらせないと。


「なんじゃそれは? ニヤニヤして、朝から何事じゃ?」


 僕と手にあるのは、ヘイヤスタを密閉型容器に入れたもの。ハコネの部屋に置いたのは変化なしだけど、僕の部屋に置いたのは表面が少し濡れてる。これが喜ばずにいられますかって。


「面白い事って何ですか?」


 アリサとマリを起こして、昨夜の研究成果を見せる。


「これ…… エーテル?」


 ヘイヤスタの表面に僅かにある液体はエーテル。昨夜の疑問、吸収された魔素の行方は、エーテルの生成として収支が合うみたいだ。どんな実験をしたのかをアリサとマリに説明する。


「サ、サクラ、それ、えらい事」


 マリがちょっとおかしいが、マリがおかしくなるくらいのインパクトがある。これまでエーテルは女神による神秘の力でしか生成しないと思われていたのに、女神の力を借りずとも作れることが分かった。これは有機物が化学反応で合成できることをフリードリヒ・ヴェーラーが発見したのに相当する出来事だ。


「1晩でこうなった。では、悠久の歴史を経た、あそこの底には、どれだけあるんだろう?」

「悠久って、いつからあるんですか?」

「創造主が去って以降に作られたとは思えぬ。少なくとも800年じゃな」


 800年って、鎌倉時代から現代までに相当する。あの遺物、鎌倉の大仏並に古いんだ。


 外側に行くほど多量の魔素を浴びてるのだから、最も溜まっていそうなのは再外層の内側。上に穴を開けた際にエーテルは無かったから、液面はそれよりも下だ。


「真ん中で底へ向けて掘り進むか?」

「それは危ない」


 形状からすると、直径10キロくらいはある。たっぷり高さ10キロ分溜まってたら、底では1000気圧分くらいの水圧。高さ数キロの大噴水。それも深い所だから熱湯、それは危ないから、どこに液面があるか確認して、液面近くから採掘したい。


「外面を天井付近で掘って、出なかったらもう少し下。それでちょっとずつ進もう」

「面倒じゃな…… 誰がやるんじゃ?」


 3人がハコネを指さす。


「アリサとマリは僕のお願いした物を作る仕事、僕はそれをテストする仕事があるんだ」

「そういう事です。お願いします」

「ユクシの代金だと思って、やっといてくれ」




 球体の外側に掘削用の坑道を掘るハコネ。新作のテストはまだだから、それまでは僕も手伝う。掘った土砂を運び出すのは僕の役目だ。

 穴を掘って、ヘイヤスタを掘る。これを高さで100m分ごとに繰り返す。飽きっぽいハコネにはとてもつらい作業だけど、ユクシでエーテルが使い放題と言う餌に釣られ、文句を言いながら頑張ってる。


「12番目…… どうじゃ!」


 開けた穴の先は、次のヘイヤスタがあるだけだった。


「終わりが見えんのじゃが、本当にあるのか?」


 精神的疲労が濃くなるハコネ。


「こら~ 居るなら居ると言え~」


 開けた穴に向けて叫ぶハコネ。まったくそんな…… いや、それだ。


「液面が近ければ、音の反射で分かるかも。掘る回数減らせるよ。ハコネ、それ行こう」

「そ、そうじゃろう。そんな事も気付かないとは、まったく」


 100mおきから、500mおきに変更して、叫びを追加。そしてさらに5か所目で、反響が変わった。


「近い!」

「ついに来るか!?」


 上端から3.8キロ。ついに液面に到達。


「ハイエーテルよりさらに高い魔素を持つエーテルじゃ。ユクシに使えば、一体どれだけの威力が出るじゃろう。汲んで行って試そう!」




 ハコネの扉を呼んで、僕の部屋にあるあらゆる容器に入れる。試作に終わったド〇〇〇ん型容器までも動員。浴槽にもエーテル風呂だ。


「これを汲み続ければ、繁栄が築けるんじゃなかろうか」

「アシガラ19番目の郡になるかも……」


 持って帰ったスーパーハイエーテルは早速アリサとマリに渡す。


「こんなの見た事無い。これが流通したら、魔導士は魔法使い放題。影響が大きすぎます。しばらくは秘密にした方が良いでしょう」

「エルンスト達だけは教えておくか。どう使うかは、あやつが一番頭も回るじゃろうし。ところで、呼び名はサクラエーt」

「エーテルXとしとこう」


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