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5-7 続大半島戦争 ユクシ

 翌日、前日夕方に完成した新兵器の試験。マルレーネが試験した場所は町に近すぎて危ないので、秦野の北、6000m級の山々に囲まれた人が住まない秘境へ。僕らは実験の着弾予定地から1キロ離れた尾根に陣取る。


「やってください」

「ハコネ一門の覇道がここから始まるのだ」

「これは外すでないぞ」


 マリだけ変なテンションだけど、まあいい。3人より少し前へ。さあ、試射だ。

 ここで以前ならニートホイホイと唱える所だけど、長くて時間が掛かるという事で呪文は変えてもらった。古エルフ語で1を意味する言葉に。


「では、行きます。ユクシ! そして、ファイアボール!」


 これまでのファイアボールも、増幅した際のマルレーネのと同じくらい、直径50センチはあった。このファイアボールは、それよりもさらに大きく、5メートルくらいはある。体積として1000倍くらい。

 火球は谷底へと飛び、着弾すると同時に爆発、一瞬顔に熱を感じる。着弾地点では土砂や石が舞い上がる。


「伏せて!」


 遅れて爆発音と熱風。細かい砂がパラパラ降って来る。


「どうじゃ?」

「見えない」


 まだ着弾地点は煙って見えないけど、その手前で灌木が燃えているのが見える。

 このまま山火事になっても困るので、降りて行って火を消す。


「中々の効果じゃな」


 降りて行った先、谷底には直径100メートルはあろうかと言う大穴。そこへ沢の水が滝となって注いでいた。


「我にも作ってくれるんじゃろう?」

「それだけど…… これ、ハコネが使わない?」

「何か気に入らない部分が?」


 作って貰って早々だけど、僕に考えがある。


「メガネ補正で何とかなってるけど、メガネを失ったら外すと思う。だったら、まずはハコネが持った方が良い。僕の方は、メガネ無しでも問題なく使える方法を考えてからでも良いかな。それに、別に作って欲しい物があって」




「我の扉はここに呼ばんでもいいか?」

「サクラさんの部屋から行きます。大丈夫です」


 翌朝、僕の扉からユクシを外す作業。呪文の名前だったけど、魔道具の呼び名もそれになった。ハコネの扉に付くのは1を意味するユクシ、僕に付けるのは新たに作って貰う方は、古エルフ語で2を意味するカクシになった。隠し〇〇って言葉と被りそうだ。


「では、よろしく頼む」

「任された」


 僕の部屋を色んなものを持って行き来するだろうから、通り道は片付けておこう。

 僕は依頼内容の説明に使える資料をネットで探して、マリに渡しておいた。武器だから設計図は手に入らなかったけど、概念を説明する資料には事欠かないし、火器を魔道具で再現するのだから、概念の説明のみであとはお任せ。




「ヘイヤスタを追加で持ってくるついでに、修復され具合を見てみよう」


 自然修復については未確認だったけど、前回ハコネが壊してから翌日に修復されてたから、自然修復が起きるという説ならそろそろ直ってるかもしれない。


「昨日剥した場所は直っておるな。じゃがこれは、自然修復か判断できん」


 ハコネと空洞に行ってヘイヤスタを引っ剥がす。魔法を直接当てても壊せないけど、魔法で加速したつるはしで叩いたらちゃんと壊れる。魔法で作った炎は魔法だけど、つるはしは違うようだ。


「魔法って、何なんだろう?」

「魔法の仕組み? それこそ、アリサやマリが喜んで話してくれるじゃろう」


 この世界以外の魔法体系がここでも通用する。基盤は同じなんだろうか。まあ人間の遺伝情報がDNAに刻まれてるとか、生物の仕組みも共通みたいだし、魔法の実装方法も世界間であまり違わないのかもしれない。


「上の穴を見に行こう」


 高さが1キロくらいあるので、地面からは穴が見えない。昨日はわずかにあった魔素補給が、今日は無くなってる。そんな中で飛び回って探すと、昨日のハコネと同じ様に墜落してしまうので、地上を進む。上の穴があった場所は、穴を開けた際に落下したものが目印になって、探せるはず。この空洞は風が無いから、落下物は真下に落ちただろうから。


「これじゃな」


 走り回ってやっと発見。次探す時のために、何か遠くからも見える目印を起きたいけど、光を反射する様なもので塔でも建てておこうか。まあそれは追々やるとして。


「よし、行こう」




「やはり自然修復したのじゃろうか」


 天井に到達するも、昨日の穴は見つからない。垂直に飛べなかったかと周囲も確認したけど、穴は無い。


「素材が自然修復するんなら、剥した板はどうなるんだろう? 剥した板から再生して、大きな板になったりするのかな?」

「そんな変化はしておらんかったのは見たじゃろう。素材そのものに自然修復は備わっておらぬのじゃろうな。次は、お主が修復したのか確認しに行こうか」


 一度秦野に戻り、空路ダンジョン入口に戻る。ここから潜って、上から穴を確認するため。


「ん? 穴は開いておるな」

「そうだね。22層分、順に降りて行って、確認しようか」


 降りて行くと、ついに穴がふさがりかけの層と、その下で塞がってる層を見つけた。


「21層目は塞がりかけ、22層目は塞がってる」

「では、目の前で修復を試すのじゃ」


 昨日と同じように、維持をオンにすると、21層目の穴がすぐ塞がり、20層目が閉じ始めた。 


「えらく修復が早いのう」

「でもこれで、昨日の一瞬の修復が22層目を塞いだって可能性が高くなったね」


 急いで維持をオフにしつつ、この下が僕の領域なのだと確認できたことが少しうれしい。


「とりあえず、行き来が面倒じゃ。また穴を開けておくのじゃ」




 作業が終わって再びハコネの扉を見ると、換装済みだった。僕の方はすっかり元通り。


「作業終わった所で、聞きたいことが出来たんだけど」

「何だ? 何でも聞いてくれ」

「魔法って、どこまでが魔法で、どこからが物理現象?」


 僕は朝の疑問について、教えてもらう事にした。魔法を反射するとは何なのか。そもそも魔法とは何なのか。


「ファイアボールは、なぜ反射できるのか、それは私もここの魔法の仕組みを完全に解明した訳では無いので、仮説どまりではあるが、その仮説を説明しよう」


 マリの仮説によると、ファイアボールは対象を高温にする変化情報が発射される事らしい。理想的なファイアボールは、対象に到達するまで情報が一切劣化することなく飛び、対象にぶつかってそこで対象を加熱する。途中で何も加熱せず、火球が飛ぶような事は無い。

 ところが、実際に理想的なファイアボールは実現できず、高温にする変化情報は少し漏れて、対象に到達するまでに触れた物にも変化を与えてしまい、そこで情報は量として劣化、つまり減ってしまう。

 ヘイヤスタでの反射は、この情報を跳ね返している。理想的なファイアボールなら完全に跳ね返る筈だが、漏れがある現実のファイアボールでは、少し漏れた分がヘイヤスタを加熱してしまう。


「魔法の技術が低い人間がファイアボールを撃つと、ヘイヤスタも加熱される。ただし魔法の技術が低い者は威力も出せないため、少し温まる程度だ」


 この世界の人々は高威力の魔法を使えるようになるための訓練で、漏洩を減らす技術も自然に身についている。

 技術は低いのに威力だけはなぜか出るというアンバランスな人が居れば、魔法でヘイヤスタを壊せるかもしれない。僕の事だ。


「昨日の試射で予想外に傷んでいたんだが、サクラの魔法は反射率が低いんだろうか」

「僕は技術は無いに等しいからね」

「だから多少透過するんだな」


 反射、透過。ん? 増幅を組み合わせると……


「思い付いたことがあるんだけど、僕の話を聞いて可能と思ったら、その魔道具を作って欲しい」



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