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1-5 そして運命が転がり出す

「宝箱は、記念にハコネが開けて良いぞ」


 ボスを倒したら出るらしい。アリと骨のどっちがボスだったのだろう?


「これは…… 指輪じゃな。2つ入っておった」


 見せてもらうと、きれいな指輪だ。


「鑑定してみましょう。えっと…… 次代の指輪って」

「どういう効果があるって?」


 イーリスさんの鑑定結果にギードさんが興味津々。


「この指輪を嵌めた夫婦の間には、両親の良いスキルが受け継がれるた子が授かるですって」


 子宝に恵まれます、じゃなくて、子にスキルが付きますってのか。この世界らしい。


「誰のものにするか、決めるか」

「あれ? (われ)のって話では無かったのか?」

「記念にハコネが開けて良いとは言った。ハコネにやるとは言ってねえ」




「くやしい……」


 厳正なるじゃんけんの結果、手にしたのはギードさんだった。最後にイーリスさんと競った上の勝利だった。

 

「この指輪の効果は夫婦で付けないと仕方がないからな。ばらばらで渡すわけにもいくまい。イーリス、残念だったな」

「じゃあ、ギードが誰とも結婚できなさそうだったら、私にください」

「おいおい、それじゃいつまで独身でいるつもりだ?」


 ビリーさんの中では、ギードさんは結婚できない人って評価のようだ。




 往路でがんばった分、帰路は何も現れない。ビリーさん達が進む後ろをハコネとついて歩く。


「本当のレベルはいくつなんだ? 隠したいなら秘密にしてやるから言ってみな」

「単にレベルがどうこうでは無く、言えない事情がありまして……」


 レベルの偽装に関しては失敗だったらしい。レベル21じゃなく、50くらいを自称すれば良かった。あまり高レベルが無職ってのもおかしいと思ってこうしてたけど、自称無職がレベル65を倒してしまったのだから、同じ事だ。

 ここは話を逸らさないといけない。


「ハコネのレベルは今いくつ?」

「レベル13になったのじゃ。上がりやすいのは良いのう」


 また危険なことを言う。高レベルになって上がりにくい体験をした人でないと持たない感想じゃないの?


「もう少し弱いやつが多ければ、(われ)も訓練になったのじゃが」

「犬のスケルトンがちょうど良いんだっけ。そういうの出る場所、近くにないですか?」

「そうね、ギルドに帰れば、調べてあげられるわよ。だからさっきのマスターのお願いにも付き合ってね」


 これまで見た魔物では、犬を除いてすべてハコネ以上のレベルだから、ちょっと危ない。


「ハコネ、犬のスケルトン以外は僕が倒すってことで、また2人で来よう」

「そうじゃな、それが……ぐっ!」

「!?」


 何かを言いかけて止まったハコネを見ると、青い光がハコネから生えている。何が起きた?


「スケルトン! まだいたのか!」

「ハコネ!?」


 スケルトンが手に持った槍。

 青く光る穂先は、なんとハコネを貫いてる。

 ハコネに刺さった槍を引き抜き、それを構え直すスケルトン。それに対して、ビリーさんが突撃する。


「イーリス!」

「リカバリー!」


 イーリスさんが治療魔法をハコネに掛ける。


「だめ、足りない。これじゃハコネさんが!」

「僕もやります。キュアー!」


 習っておいた初級の治療魔法。傷は即座に塞がり、流れる血は止まった。


「キュアーなのに、どういう事!? 上級魔法じゃないとこうならないわよ」


 治療魔法の威力もマシマシらしい。助かった。


「傷は綺麗に元通りです。お見事です。あとはハコネさんが目を覚ますかどうか」 




「ここの神殿の術師は国内最高の腕前よ。大丈夫、ハコネさんは助かるわ」


 ハコネを背負い、急ぎ地上に戻る。神殿へ向かう途中、イーリスさんはショック状態の僕を励ましてくれる。


「全く傷がありませんが、これはどなたが?」

「僕がすぐにリカバリーを使いました。使える事については、出来ればご内密に」


 初級魔法でここまで治るのはおかしいとのことで、上級魔法を使ったことにした。


「聖域における我らの仕事は、人を救う事であって詮索する事ではありません。ご安心を」


「それで、ハコネは?」

「彼に人の身で出来ることは、もう…… あとは、祈りましょう」


 出来ることはない? 体はもうどこも治っているのに?


「ハコネを救えないんですか?」

「申し訳ありません。これは体の傷の問題ではありません。その証拠に、ちゃんと息もしており、脈もあります」

「それでは何が?」

「落ち着いてお聞きください。これは魂の問題です。心臓に大きな傷を得て、そこから魂が旅立ってしまったのなら、その魂を戻すのは神の奇跡に頼るしかありません」


 そうだった。この体は不老不死だ。僕の願いが聞き遂げられたと言ってたから、そうなってるはずだ。だから死なない。

 しかし、死なないのと今の状態に、何も矛盾がない。生きているけど、魂がない。


「ハコネさんの魂を呼び戻してもらえるよう、一晩祈りを捧げ続けます。かつて勇者王は、その様にして助かりました。女神は冒険者の味方です」


 僕がその神なのだけど、何をどうすればハコネを助けられるのだろうか。


「神官様がこう言ってくださっているのです。ここは神官様にお任せして、一旦ギルドに戻りませんか?」




「あんた凄く強いんだな。スケルトンエリートを倒したって? ビリーさんの次のギルドマスター候補だな」


 ギルドに着くと、僕らの話を聞いた他の冒険者が声をかけてくる。ハコネに何があったのか知っているのは、一緒に行った3人だけ。ここにいる冒険者は、僕がこの上なく落ち込んでいることなど知らない。


 そのままビリーさんに付いていく。付いて行ったとて、何かすることがあるわけでもない。イーリスさんが回収した遺骨を取り出すのをぼんやり眺める。


「サクラのレベルの件は、落ち着いたらでいい。ハコネは戻ってくるさ。待ってな。勇者王の伝承は同じような場面で復活したって話がある。希望を持て」

「私はその伝説をよく知らないんですが、勇者王はどのように復活したんでしたっけ?」


 ビリーさんとイーリスさんがそんな話をしている。


「身分を隠して同行していた女神が祈ったんだったな、確か」


 それは!?


「それで助かったんですか!? ビリーさん、ありがとうございます。神殿に行ってきます!」


 さっきの神殿に走る。ハコネの状況は、過去の勇者王と同じなのだとしたら?

 女神が祈って助かったのなら、僕が祈れば良いんじゃないか?


 ああ、ハコネ、あんなフラグを立てるからだ。帰ってきたら、死亡フラグについて大好きな漫画でみっちり勉強してもらうよ。

 僕の世界では、心臓が動いてたら生きてるって言うんだ。こっちの常識なんか捨てて、さっさと帰って来い。



--------


 ダンジョンで不幸に見舞われた若者のために、祈りを捧げる。


 一緒に来た少女には申し訳ないけれど、このような場面で魂が帰ってくるというのは伝説にあるばかりだ。

 女神オダワラは、ダンジョンで亡くなった方には特段の慈悲を下さるから、もしかしたらという思いはあるけれど、ここで神官をして40年、そのような場面は一度も見掛けたことはない。


 今はただ、彼の魂が、良き親の元に、良き友の近くに生まれ変われる様、祈りましょう。




 祈る私に、駆け寄ってきた足音。


「僕が祈っていいですか?」


 先程の少女が戻って来た。やはりそうだ。こういう時、自分にも何かが出来るのではないかと、人は一緒に祈るのだ。


「共に祈りましょう。女神オダワラに、願いが届きますように」


 少女は少年を抱き寄せて、その手を握る。私が少年時代にカヤマの大聖堂で見た、私が神官を目指すきっかけとなった、伝説の場面を描いた絵画の様な美しさだ。

 これだけ美しい姿を、女神様は見て下さっているだろうか。この思い、女神オダワラに届きますように。


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