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4-14 大半島戦争 討伐

 開拓が始まって、3か月。道が引かれ、家が建ち、畑が作られ、村になって行く。


「良い領主が来てくれたものじゃな」


 何百年と開拓が行われてこなかった箱根が、1人の領主を得て開発が進む。なんだか異世界から来た主人公が領主になりましたって話みたいだけど、エルンストは間違いなくこの世界の住人で、僕は大した事をやっていない。

 異世界人がもたらした知識で発展する。そんな話はあまりに都合よすぎる。ジャガイモがあるのに、これまで栽培していなかった? 芽を取れば毒を避けられることを知らないままだった? そんなの、異世界人の助けが無くても気付くでしょう。地球人だって、神様の助けを無しに成し遂げられたのだから。


「ここは何が植わるんじゃ?」

「ダイズですよ」


 ユモトと名付けられた温泉街エリア。そこから川を渡った先にある畑は、大豆を植えるのだそうだ。食べ方色々、そして家畜の餌にもなる便利な作物。そして、マメ科の作物だから、土に肥料を与えてくれる。


「その後も作物を色々変えて、畑を有効活用するのです。ダイズを収穫する頃に、コムギが植えられるって聞きました」


 ネットで調べたらいい栽培方法が出て来るんじゃないかって話もありそうだけど、ネットで得られる情報は現代日本の栽培品種に限った情報が多い。今のところ全然違う事は無い様だけど、彼らのやり方に任せた方が良いんじゃないかと思う。先入観で冬小麦と思い込んだら、異世界では夏小麦なんてのが主流かもしれない。ハンスの話からすると、冬小麦みたいだけど。


「あっちも見に行くとするか」




 芦ノ湖の南岸には、4家族がやって来た。来て早々、畑を作るからと開墾を手伝ったりしたっけ。そろそろ夏になろうかと言う時期だけど、高地なおかげで暑くならないから快適。視察を口実とした避暑にハコネ共々来てるわけだけど、こっちにも夏用の屋敷を立てたらなんて話をしてる。屋敷の人達によると、これまで山には魔族が出るから避暑に行くなんてとんでもない、というのが常識だったそうだ。そんな理由なら、その常識はこれから変わるだろうし、夏に高原で避暑がてら交流すると言うのが新しい夏の過ごし方になるんじゃないかな。


 芦ノ湖の北岸には広い湿地帯があり、そっちも開拓したらという案はあったけど、それは却下された。10年前の夏、そこで飛龍に襲われたから。今の僕らなら何とかなるかも知れないけど、開拓民の人達は大変な目に遭うだろう。


「ジャガイモ、育ってくれると良いのじゃが(・・・)

「そういうの、ここでも親父ギャグって呼ぶ?」




 夕食は、三島まで足を延ばして、いつもの店へ。


「嫌いじゃないけど、1日おきは、さすがに多すぎない?」

「ちゃんと載せる物は変えておるぞ」


 何を食べているのかは、言うまでもない。


「旦那さん、嫌がらせとかはその後起きてない?」

「大丈夫ですよ。そういう人達は、見掛けなくなりました」


 ミシマさんの教育の成果なのか、魔族に敵意を示す人は居ない様だ。この町を出て行ったと言う話もちらほら聞くけど、そういう人が移住するのに、魔族との和約で使えるようになった航路が役立っていると言うのだから、彼らにもこの良さがいつか分かるだろう。


 おかわりをしているハコネを放置して、掲示板を見に行く。ここには僕らが移民を募った様な募集事項、壁新聞の様な物、行政からのお知らせなどが掲示されている。


「八王子まで行ったのか」


 壁新聞には、チャチャ(中の人は美咲)とその一行が八王子を攻め落としたと言う記事。関東へ攻め入るとは聞いていたけど、そっちに行ったという事か。


「エドを落とすなんて言ってたが、本気なのかもな」

「江戸?」


 そう言えば東京がどうなっているのか、気にしてなかった。この世界では、東京箱根間は駅伝するどころか異国と思えるくらい遠い場所。


「エドは国王陛下がおわすからな。王を倒せば、他の諸侯は従うと期待してるんだろうな」

「フ族は数では劣るが、それぞれの戦闘力は高い。面で制圧より、点を押さえるのが手っ取り早い」


 そんな解説をしてくれたのは、すったもんだがあった頃からここに来ている常連客の男性と、店の旦那。常連さん、この人もハコネ並みの感性なんだろうか。


「ハチオウジまでは良いだろう。コウフもオオツキもフ族の地。後ろを気にせず進んで行ける」

「どんなに魔族が強かろうと、飯は要るだろ? そんな遠くまでの遠征、どうするんだろうな」

「空間魔法が使える魔導士を兵站に使うそうだ。飛行魔法も使えるものが居るから、それを組み合わせれば敵中に居ても必要な物は運んで来られる」


 あれ? もしかして、僕らがこの遠征を後押ししちゃった? 結構な事をやらかしたかもと、ちょっと冷や汗。




「男爵にという話、障害が多そうだ」

「国王陛下? 辺境伯閣下?」

「国王陛下です」


 本格的な夏を迎え、エルンストやマリーを芦ノ湖に連れて来た。もちろん、エルンスト達を護衛するマルレーネやハンスも一緒だ。いつものメンバー芦ノ湖に船を浮かべて、人の耳がありそうな所では出来ない話。ここなら偉い人の悪口も言い放題!


「どうも、和約に不満を持つ者が出奔して、エドに行ったらしい」

「そんな小物の言葉と、アタミ伯の言葉。重さを比べるまでも無いでしょうに」


 貴族社会にうまく入り込めつつあるマルレーネも、どこかの貴族を捕まえて小物扱い。いいぞ、もっと言ってやれ。


「告げ口の内容が、『アタミもミシマも、魔族と手を組んだ』だそうなんですが、その証拠と言われているのが」

「飛行魔法による襲撃と、大魔法の一発攻勢。サクラやハコネと同じだ」


 うん?


「それか。じゃが飛行魔法は、あのチャチャとやらしか使えぬと思ったんじゃが」

「何人も使ってるらしいぞ」

「ほほう、それほどの手練れが他にもおったか」


 途中の八王子を攻めてたという事から、それでも大部分は使えないのだろう。全員が使えるなら、一気に江戸強襲の方が効率が良いし。


「ん?」


 ハコネどこ見てる? 何もない所を見つめる家猫状態で、幽霊でも見えてるのかと…… あ、別のビューか。


「何かあった?」

「つい今しがた、エルンストが男爵となったようじゃ」

「本当か!」


 エルンスト、立ち上がると危ない。小さな船だからバランス崩すとひっくり返るよ。


「ハコネ、どこで見たの?」

「戦略ビューじゃ。これまでここの領主が空白じゃったが、エルンストになった」


 つい今までしていた話との整合性がおかしいんだけど。


「おお、これが外交ビューか。見るのは初めてじゃ」

「ハコネ、そこんとこ詳しく」


 戦略ビューとか戦術ビューってのがある事は、ここのメンバーには伝えてある。索敵とかその辺の話をしやすくなるし、ミシマさんとの約束の用水路なんて話もあったし。


「これまでは領主が居らぬ無主の地という扱いじゃった。上位君主であるところの国王が認めた正式な男爵じゃなかったからのう。正式な男爵になれば、一勢力として外交が可能になる。そうなると、女神も外交ビューが見えるようになるのじゃ」


 そういえば、外交ビュー経由で、ミシマさんとアタミさんが情報のやり取りをしてたなんて話もあったっけ。


「だが、正式な男爵に任じられる状況に無かったのだが」

「うむ、それはじゃな…… あぁ、そうか、正式に任じられる以外にも、外交が出来る条件があったか。今回はそっちじゃ。何が起きたか説明するが、落ち着いて聞くのじゃ」


 どんな条件? 何が起こったの?


「ログにはこうある。『ハコネ男爵僭称者エルンストに対して、国王は討伐を宣言した』だそうじゃ。戦争の1勢力じゃから、外交が出来るようになったのじゃ」


章タイトルが戦争のままだった事を、ついに回収。

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