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4-11 大半島戦争 家曳

8/27 誤字修正。

 その後、三島は無事に引き渡しを完了。

 襲ってきた連中は、ミシマさんが「女神に逆らったらどうなるか」をしっかり教育してくれるとの事で、任せて来た。


「雨降って地固まる」

「なんじゃ?」

「人族と魔族の敵対関係は、ひとまず収束。エルンストとマリーの関係も邪魔されることは無くなった。ミシマさんはちゃんと侯爵領に影響を及ぼせるようになった。結果として見れば、良くなった事の方が多いなって」


 戦いで命を落とした人も居るだろうから、その人達にとっては良い事では無かったにせよ、僕らは僕らに見える人々の幸せを確保するところまで。世界人類が幸せでありますようになんて、そんな大風呂敷に有言不実行よりは、身近な人が幸せになる事が大事。


 全部片付いたって事で、エルンストとマリーを熱海に運んで、また僕らの用事を成さなくてはと思ったけど、引き留められた。


「私達の式に参列していただけませんか?」

「叶うなら式に参列したい。運んでは頂けないか?」


 娘のお願いはまあ良いとして、お父さん?

 まあ、三島から熱海まで、冬でも歩いて通れるルートは御殿場線ルートで350km。いや、これを機に丹那トンネルを再開できれば、70kmくらいか。魔族との講和で船で石廊崎の南をまわる事もこれから可能になるだろうけど、外洋航海に慣れてないから、まだ難しいだろう。


「侯爵様、私たちの挙式に合わせて、トンネルの再開について父と話し合っていただけませんか? 開通したトンネルを通る事も出来ましょう」


 エルンストが言う通り、トンネルが通じれば侯爵を運ぶ必要も無いし、友好親善も一層深まる様に思える。


「派手にやってしまったんじゃが、すぐ直るかどうか」


 トンネルそのものは女神の力で再生できるとしても、トンネルを便利にするための付帯設備はまた構築しないといけない。また、水道としての使用と両立させるためには、以前のトンネルと同じ状態では不都合もあるだろう。


「式は春に行うつもりです」

「そうか、では、伯爵殿とトンネルについて話し合いたいが、その為にもアタミに行かねばならぬか」


 結局侯爵を運ぶことになるらしい。運ぶと言うけど、実際は僕の部屋を通じての移動。


「ではいつにするのじゃ? 今日でも構わぬぞ」

「ミシマの安寧が先であるので、1月後くらいにお願いしたい」

「分かりました。連絡方法は……」




 色々打ち合わせを行って、今日はエルンストだけを連れて熱海に帰って来た。マリーはまだ話をしたいのだそうで、明日迎えに行くとなった。


「なんとも濃い日々だった。これ程の激闘は、もう遠慮したい」

「エルは戦って無いじゃない」


 マルレーネはエルと呼ぶのか。エルンストにとって年齢が近く頼りになる親戚って事で、思った以上に仲がいい様だ。


「父上に経緯を報告してくる。今日はアタミに留まってくれるよな?」

「まだマリーを迎えに行く用事があるからのう。豪華な晩餐にお呼ばれされても良いぞ」


 ハコネが要らないことを言う。その晩餐で、あの手この手で取り込みを願う伯爵にウンザリして、やめときゃ良かったと後悔することになるのだろうけど、もう祝勝会でその攻勢に遭ったのを忘れたのか。熱海での戦い後の時点でも伯爵は僕らに礼をしたいと言っていたのに、三島の件まで加えたら貴族に列する位のことが考えられる。

 異世界に来て貴族になりましたとか、どっかで読んだ話に幾つも見かけたけど、どこかに領地を持って組織を切り盛りとか、宿屋のオーナーだけで手いっぱいの僕らには荷が重い。


「面倒な事にならない様にお願いするね」




 翌日のマリーは、まとめた荷物をいくつか運ぶのだろうと思ってら、違った。


「屋敷の移築?」

「子供時代から過ごした屋敷を、解体してアタミに持って行きたいのです」


 マリーって控えめに希望を言う子かと思ってたけど、仲良くなると結構アグレッシブ。僕とハコネの部屋を繋いで一瞬で移動できるのを体験したから、解体して屋敷を運ぶなんてのも可能と思ったらしい。確かに可能だけど。


「屋敷の部材を運ぶのは、職人が行います。3日程お時間を頂ければ、運ぶのは完了すると思うのですが…… ダメでしょうか?」


 職人が熱海で屋敷を解体、それから僕とハコネが道を開いて職人が行ったり来たりして運ぶ。壁とか扉とか、僕の部屋から外へ扉を通れない様な物があるのは、工夫が必要そうだ。


「それなら、我とサクラで持って飛んだ方が早いじゃろう」

「家を持って飛ぶの?」

「運ぶ途中に崩れたりせぬよう、手当はしてもらわねばならんな。じゃが、アレ(・・)を使えば出来そうだと思わぬか?」


 アレってのは、エーテルによる魔法のブースト。列車を魔法で動かせるのだから、部屋を運ぶ事も出来そうか。いや、レールを走る列車を動かすのに必要な力と、家を輸送するのは効率がかなり違うと思うけど。


「飛んで運べそうならそれで良し、無理そうならマリーの言う方法にしようぞ」


 僕の意見を出す間もなく、ハコネがそう決めてしまった。まあ、出来る事ならやってみても良いけど。




「少し浮かせたままで止められますか?」

「少し歪む。ここに補強の棒を入れよう」


 日本の木造家屋を移動させる家曳ってのは動画だ見た事があるけど、木造じゃない建造物を運ぶのは橋を作る際に橋げたを船が運ぶのを見たくらいしか知らない。

 職人と一緒に、小屋を一つ運べるか試験。僅かに浮かせた状態で静止して、職人が補強を施す。持ち上げた際に変な場所で重さを支えてしまうと崩れてしまう恐れがあるので、上げたり下げたり慎重に行う。


「数回に分ければ、屋敷全体も可能じゃな」

「大変な事をお願いしてしまったようで、申し訳ありません」


 今になって現実が分かって来たマリーだけど、職人や僕らが真剣にやってるからやめるとも言えず。僕もここに来て以来の一大プロジェクトに、楽しくなって来たし。


「やると決めたからには、やって見せるよ」


 それとこの作業は野次馬が増えて来た。家を持ち上げるとか、前代未聞だろう。ギャラリーの驚きの声が、ハコネには心地良いそうだ。ドヤるの大好き、ハコネさん。




 そして、屋敷を運ぶ当日。僕とハコネは屋敷の屋根に上ってスタンバイ。


「もし崩れたら危ないから、この線の中には入らないでください」


 屋敷周囲と進行方向で人避けをお願いした。それ以外の方向は、人だらけ。町の人が全員来たんじゃないかって程に、人だらけ。


「解体して運ぶのかと思っていたが……」


 移設にOKを出した侯爵も様子を見に来て、最前列に見物席が出来ている。


「ハコネとサクラさんは運ぶのに専念して下さい。けが人が生じた際は、私が何とかしますので」


 ミシマさんも手伝いなのか見物なのかやって来た。何か事故があった際には、助かる。

 依頼人のマリーはエルンストと一緒に熱海側の設置予定場所で待機しているから、ここには居ない。職人さんもこちらに残る1人を除いて、熱海に待機。


「では、お願いします」

「いっせーのー、で」


 職人さんの合図で、僕とハコネが家を動かす。実はほとんどハコネが動かして、僕は補助。同じくらいに力を及ぼすと、姿勢の制御が難しい事が分かったから。


「お-!」

「飛んだ!」


 見物人の反応。ハコネは嬉しくてニヤニヤしてるだろうが、脇には事故の元。前を見て作業に集中する。


「では、前進!」




 山を越える所で風が強くなり少しふらついたが、もうすぐ熱海。

 着陸場所は、トンネルに近い丘の上。水の問題があり丘の上に住むと言うのは不便するけど、魔法が使えるマリーはそれで補えるから問題ない。


「ゆっくり前進しつつ、高度を下げよう」

「了解じゃ」


 高度を下げて来て、目的地に近づくと、エルンストとマリー、マルレーネにハコネ、あと伯爵一家やアタミさん、他にも多数の人が集まってるのだ見える。


「念のために離れて下さい。ハコネ、移動停止。ここからは職人さんの誘導で」


 前もって土台を設置してあるから、そこに正しく置けるように慎重に。傾いて降ろすと1点に力が掛かって変形してしまいかねないから、水平を保って徐々に下げる。


「あと50センチ」

「あと15センチ」

「着陸!」



 着陸の際にミシって音がしたけど、壊れたような音は無かった。


「完璧!」


 見物人からの拍手。今日はたくさんドヤれて、ハコネも大満足。


「位置は完璧です。あとは我々にお任せください。お疲れさまでした」


 ミッションコンプリート。僕らの便利さが一層知れ渡った1日だった。


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