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4-9 大半島戦争 庶民

「どこ行ってたの?」

「ちょっとハダノまで、小道具を取りにじゃ」


 準男爵が帰った後、夕食までマリーさんの案内で屋敷の探検をした。戦うための城と言う役割は全く無く、侯爵の威厳を示す宮殿。大きなホールへはこの前来たけど、鏡の間なんてのは初めて見た。どこかで読んだフランスの宮殿の様だ。

 その探検ツアー、ハコネは不在だった。夕食までには戻ると言って出て行ったのが昼過ぎ。暗くなり始めたら夕食と言っていたのに、そろそろ顔が見えない程に暗くなった頃、やっと帰って来た。ちょっと遅刻。

 僕の扉は秦野のまま、ハコネの扉がこちらに開かれているので、秦野へ行くなら移動時間が全く掛からない筈だけど、何をして来たんだろう。


「この前の射撃、あれの応用を、マリと相談じゃ」

「相談だけでこんなに時間掛かる? 何か作って来たんじゃないの?」

「それは、出て来てのお楽しみじゃ」


 そのお楽しみが、無関係の人まで巻き込む悲劇じゃ無い事を祈る。マルレーネがやったように、エーテルでブーストした破壊的な魔法だったら、ハコネがやると町が消し飛ぶかもしれない。


 夕食は館の設備を使うにも人が居ないので、一同で三島の魔族がやってみる店に。


「ハコネ、またカレー?」

「我とサクラ以外は、カレーパンを食べただけじゃろ? これを食べておくべきじゃろう」

「本当に魔族の店に行くのか?」


 エルンストはまだ抵抗があるらしい。しかし和議もなったし、これからは共存するのだからと、連れて来た。

 生まれる前からの仇敵だった人々だ。和議を結んだからと、2日後にはその人々の店で食事をすると言うのは、まだ抵抗があるのは分かるけれど、こうやって直接三島でやり取りする機会はこれを逃すと交流の機会が無いかも知れない。




「いらっしゃいませ」


 店に入ると、前は魔族7に人族3くらいだったのが、逆転していた。


「フ族のお客さんが減りました?」

「兵の方たちは姫様とゴテンバに向かってしまわれましたからね。でも、アニ族の方も来てくださって、助かります」

「俺達もここを離れようかって話し合ったんだが、引き留められてな」


 女将さんや旦那さんと話していると、人族が話に加わって来る。


「折角、人族魔族って言ってもよ、うめえものは、うまいんだ。残ってくれたら嬉しいって、俺達が頼んだのさ」


 ここは三島が陥落するまで空き店舗で、女将さん夫妻が新たな借り手になった。そして、今話をした人族は、オーナーだそうだ。


「侯爵が逃げちまってどうなるかと思ったが、魔族の大将は人族の貴族と違って庶民の事も気にかける御仁でさ、あのまま居てくれても良かったんだけどな」


 取り戻したのは、間違いだったかな? 短期間の占領でも、この町の人に好印象を残して行った魔族の人達。魔族全体と言うより、シンクロウさんが出来た人だったのだろうけど。


「結局、ミシマに残ったのは、私達含め12家族。ほとんどは、姫様に付いて行くとか、南に戻るとかしてしまいました」

「心配ではあるからな。門に近い、この一角に集まって住んでる。何かあったら助け合えるからな」

「何かあった時は、俺達も力になる。この地区は、そういう場所になったんだ」


 白人系の民族である人族の町に、日本人系の顔立ちの魔族が住む区画がある。リトルトーキョーって感じだ。


「それはともかく、お食事ですか?」

「カレーライスを6人、じゃ」

「はい、お待ちくださいね」


 ハコネが勝手に決めてしまったけど、メニューはカレーのトッピングバリエーションがあるだけなので、それでいい。


「はい、どうぞ」

「早いな」

「たっぷり作ってありますから」


 貴族の食事は、戦地でもない限りは、前菜が出たりしてメインでディッシュまで時間が掛かるものだけど、ここはもちろんそんな流れは無い。頼んで1分で全員分出て来る。

 マルレーネとハンスは御殿場で食べた事があると言っていた通り、マリーも御殿場にも行った事があるそうで、初では無かった。当たり前のように食べ始める。


「これをライスと一緒に食べるんです」

「見た目があまり綺麗でないが……」

「はい、あ~ん」


 口にするのを躊躇っているエルンストに、マリーが必殺技。同じテーブル内で、目の前でこれをやられるのは、見ているこっちが恥ずかしいって。


「どう?」

「うまい……」


 エルンストの皿は、減り始めるとマリーを追い抜いて、すぐに空になる。なんだ、気に入ってるじゃない。そう言えば、カレーパンも食べてたよね。


「はい、どうぞ」


 途中でマリーが頼んでくれていたので、エルンストの皿が空になったのに合わせておかわりを持ってきてくれる。2皿目も平らげつつある所で、4人から見られてることに気づくエルンスト。ハコネは自分の皿に集中していて見てない。


「アタミでも」

「ん?」

「店を出せないものか」


 彼が食べながら考えていたのは、これを熱海に戻っても食べられるようにしたいと言うこと。つまり、とっても気に入ったらしい。


「やってみますか?」

「アタミの方も和議が結べれば、出来るかもしれないな。すぐには難しいかもしれないが」


 魔族方の幹部にその意思があるのだから、熱海の方だって何とか出来そうではあるけど、これについてはエルンストがどうこうすることでなく、アタミ伯が動かないといけない。三島の問題に関しての交渉権限はエルンストにあるけど、熱海についてまでは任されてない。


「戻ったら、アシカガ・マサツナ氏とシンクロウ氏について父上に話そう。交渉できる相手だって」

「どこかの貴族より、魔族の方がまともってのはどういうことなのかしらね」


 マルレーネのいうどこかの貴族ってのが、思い当たる人物が多すぎて誰なのかわからないけど、まあ同意。


「これ、夜食に欲しくなるわね。ちょっとお持ち帰りしようよ」

「器なら、ほれ、ここに」


 話に加わってなかったハコネが実は聞いていたことが判明。見覚えのある器だと思ったら、僕の部屋にあった鍋じゃないか。まあいいけど。


「女将さん! 持ち帰り、出来る?」




 カレーの入った鍋をエルンストが持って、帰路につく。あの後、材料の流通についてや熱海に店を出せそうな人がいるか聞いたり、すっかりカレーを熱海に導入する気満々のエルンスト。熱海の方でも和議が成立したら話は楽になるけど、そこまで出来なくても熱海の商人が三島に買い付けに来て、人族が熱海で店を開くというのが無難そうだという話に落ち着いた。魔族に先日攻撃されそれなり犠牲を出した熱海は、魔族が住んで店を出すには時期尚早という判断だ。


「我も貰って良いか?」

「ハコネさんもお気に入りなんですね。いいですよ、夜食会にしましょう」


 まさかすぐじゃないよね? あれだけ食べたんだし。

 そんな気楽なことを考えながら、大通りに向かう路地を6人でぞろぞろ歩く。結構遅くなってしまったのは、ハコネの遅刻で開始が遅れたのと、ハコネが食べまくって中々帰れなかった事による。全部ハコネのせい。


「エルンスト・フォン・アタミだな」

「マリー様」


 見るからに怪しいのが、路地の前と後ろから現れる。来るんじゃないかとは思ってた。魔族から町を引き渡され、侯爵が戻るまでの間、町の出入りを見張るものが居なかった。熱海から兵士を連れてきていないから。だから、こういう怪しい輩が来るだろうとは思っていたし、そんなのを送り込まれる理由も思い当たる。


「何者だ」

「名乗る程の者でもない」


 代表の男が、前に出る。1人だけ鎧を着ている所を見ると、指示役か。


「確かに、名乗る程の者でもないな」


 ハコネのツッコミは、ステータスを鑑定した結果についてだろう。エルンストやマリーだけならともかく、マルレーネやハンスと比べて明らかに格下。


「おとなしく侯爵様に明け渡せば良かったものを、妙なことを言い出すからこうなるのだ」


 勝ち目がないことなど気付かず、ペラペラ喋る男は置いといて、戦略ビューで確認すると、別の場所がまずいことになっている。さっきまで僕等がいた、魔族の人達が住んでいる地区だ。侯爵の手下(?)が、地区を囲んでいる。


「フリーズ!」


 まだ何か言いたそうなペラペラ男を、マルレーネの冷凍魔法が襲う。あっけなく足元を凍らされ、身動きが取れない。


「出来るやつが居るようだな。だが」


 そこまで言った所で、後頭部をハンスに一撃殴られ、昏倒する。何しに出てきたの、この人。


「一撃!?」


 道を塞いでいた手下(?)に驚きが広がるが、そいつらが何かする前に、マルレーネの同じ魔法は制圧を完了した。




「大丈夫ですか?」


 さっきの店に戻ってみると、制圧済みだった。女将さんと旦那さんの手によって。


「ここの兵士、弱すぎないか? もしかして、俺達12家族で、攻め落とせるなんてことは……」


 庶民だから甘く見たのだろうが、魔族の庶民で人族の兵士よりも強い。魔族の庶民なんて攻めて来たこともないから知らなかったのだろうけど。


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