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4-6 大半島戦争 条約

8/27 最初の方を少し改変しました。

 東のフ族を攻略する戦いの筈が、女神たちと戦う。そしてこのザマだ。


「勝ち目はございませぬ」


 強気な言葉で檄を飛ばしていた彼が、今やこの弱気。しかし誰が咎められようか。こちらの魔法は届かない遠方から一方的に撃滅される絶望感を、ここにいる者たちは味わった。

 ミシマ様の治療により一命をとりとめた弟で副将の弥次郎と他多数。戦場で女神の力を借りた者はその戦から退場する定めがあるため、弥次郎はもう戦えない。その定めのため、命にかかわるものでなければ従軍の治療師に託すのだが、手に負えなかった。


 並の(いくさ)であれば、白旗を上げるのは取り返しがつかない程に犠牲が出る寸前、2割が負傷したら撤退する。今回は女神様が重傷者の救護に当たってくださったため命を落とした者は居ないが、戦える者は半分になってしまった。


「一旦、引く」


 負けを認めざる得ない状況だが、追撃される可能性は? 殿軍を誰に任せるかだが、誰もそれが出来そうに無い。


「ここは俺が留まる。 弥次郎、兵を率いて城に戻れ。されど、勝ったかのように、堂々と入場するのだ」

「兄上、殿軍であれば、それがしが」

「負けは俺が背負う。もし俺が戻らねば、公方様を連れてゴテンバへ向かえ」


 東国奪還をここで潰えさせてはならない。あんな別格とやり合うのを避け、アニ族だけと戦う分には負ける事はない。


「ミシマの女神よ、女神とはこれ程なのか」

「力で言えば、ハコネは最下層の女神よ。でもあの遠距離攻撃は、魔法の能力だけで出来るものじゃないわね。私にもあの距離から当てるのは難しいわ。あの子たち、やるわね」


 結論、女神とやり合うのは愚策。触らぬ神に祟りなしとも言う。迂回して東を目指そう。


「和睦の交渉をしたいのだが、お伝え願えないか」

「引き受けましょう。でも伝えると言うより、一緒に行く方が早いわね」

「かたじけない。弥次郎、後は任せる」




 ミシマの女神と俺が前に出ると、一発だけファイアボールが来たが、ミシマの女神に当たると霧散した。魔法に対する防御力が我らと圧倒的に違う事を思い知らされる。もし砦に近付けたとしても、何も出来なかったのだろうと分かる。


「あの子たち、私と分かって撃ったのかしら。ちょっとだけおしおきの、スプリットファイアボール!」


 女神の放つファイアボールは、細かく分かれて砦の前面に幅広く着弾した。それぞれが一流の狙う事は難しいけれど、全面にばらまいてどこかで当たる。一つ一つがフ族の上位魔導士が放つファイアボールに匹敵する物が、何十と降り注ぐ。


「それ程の力を持って、女神はなぜ世界を統べない?」

「私達は見守るのが仕事だから。あの子たちはちょっとその理から外れてるみたいだけど」


-----


 さっきのは危なかった。僕とハコネだけならどうと言う事は無いけど、マルレーネ達4人に当たると大変だった。


「ミシマめ。ちょっとしたお遊びで、大人げない」

「あら、他に4人いたのね。うっかり巻き込むところでしたわ」


 うっかりで死にかねなかった4人は僕らの後ろに庇ってある。


「今の戦、我らの負けを認める。そしてミシマを返すことについては、条件を付けさせて貰いたい。条件は、ミシマの通行と商売の自由。女神の力で、その約束をアニ族に守らせること。それで良ければ、ミシマを引き渡そう」

「つまり、ゴテンバの様な取り決めに、ですか」


 僕らとしては構わないけど……


「ミシマ侯爵が何と言うか次第ですね」

「いや、我らはミシマの領主に負けたのではない。お主らに負け、お主らに引き渡すのだ。ミシマ領主に返すのも構わぬが、何にせよ約束を守ることが条件だ」


 僕らが奪還して、条件を付けて返すのか。まあ受け入れないと言うなら、返さずエルンストとマリーに引き渡しと言う選択肢もある。


「それを受け入れないとしたら?」

「ミシマに籠城する」

「「それは困る」」


 僕とミシマさんがハモった。犠牲が出るのは避けたい僕と、そもそも三島の町を守りたいミシマさん。


「受け入れなさいな。さすがにミシマの町で攻防戦をされるとなると、私もちょっと考えるわ」


 この戦いを始める前にハコネとアタミさんに聞いた、この世界の戦争ルール。

 この世界の戦争には、ルールがある。守護女神は人と人の戦いに参加しない。

 戦争は基本的に、人と人が戦う。これは熱海での攻防戦がそうで、あの時もミシマさんが攻めて来たりはしなかった。だから、アタミさんも見守るけど実力行使には出てない。ただし、女神の力で作られた恩恵は使ってよい。トンネルだったり、城壁だったり。

 しかし、守護女神が出る場合もある。それは人と人の戦いでなくなった場合。相手も守護女神を出すなら、守護女神同士で戦って良い。

 先程までの戦いでは、ミシマさんは参加しなかった。参加できないのではなく、参加しなかっただけ。ミシマさんが望むなら、僕らとミシマさんの間で決着をつけることも出来る。

 そして、ミシマさんの「ちょっと考える」ってのは、町で戦うならミシマさんが出る、という事を仄めかしてるんじゃないかと思う。その戦いは、アタミさんも巻き込む大変なものになる。通常兵器の戦争が核戦争にヒートアップする様な感じ。


「僕も町に被害を出したくはないから、先の約束を付けて三島を返してもらうのが良いと思う」

「お父様の説得は私がやります。町に犠牲が出るのは私も嫌ですし、お父様も分かってくれるでしょう」


 ちょっと空気になってたマリーもそう言ってくれてる事だし、これで良い。


「では、双方よろしいですね」

「うむ」

「了解した」


 こうして、キューバ危機じゃなく三島危機は回避されたのだった。




 正式には、彼らの総大将は軍代の伊勢左京太夫長氏さんではなく、東の公方ことマサツナさんだそうだ。こちらも僕が軍代で総大将はエルンストと言う事にしたので、その両者が調印する。その為に、三島の侯爵御殿に向かっている。


「今朝はそのマサツナさんは不在だった?」

「奥の間に居られた。そう軽々しくお出ましいただくわけにはいかぬ」


 上様とやらの妹だと言うマサツナさん。彼らが言う上様ってのは人族が言う魔王。つまり魔王の妹か。真っ黒いローブに包まれた威厳のある美人が出て来るのだと思ったら……


「お久しぶりです、サクラさん」


 和装の着物を着た、見た目20代の姫様。会った事ある?


「以前、芦ノ湖でお会いしたではありませんか」

「もしかして、チャチャさん?」

「はい。今は足利政綱です」




 講和の条件は、政綱さんことチャチャさんは大賛成だそうだ。エルンストとマリーに続いて署名して、条約として確定させた。熱海を出る前に、そのような権限を彼らはアタミ伯から付与されている。というか、その為に来ている。


「我らの望みは、熱海でも三島でも無く、そのさらに東へ行く事です」

「でもオダワラで戦うのはやめて欲しいのじゃが。そこで戦うとなれば、また我らが出ねばなるまい」

「お2人はそちらの方でしたね。お2人とまた戦うだなんて、だれも望まないかと思います。きっと迂回することになるでしょう」

「秦野も駄目だよ?」


 そんな奥座敷での茶飲み話。軍代の新九郎さんも、芦ノ湖に一緒に来ていた人だった。新九郎さんは僕らの事は忘れていたそうだけど、チャチャさんは覚えていたのか。

 そんな茶飲み話中、チャチャさんは僕を手招きして、他の人から見えないところに連れて行く。


「なんですか?」

「なぜ私がサクラさんの事を覚えていたのか。本当の事を明かしたいと思いまして」


 10年前に旅路で出会った旅人。僕の見た目は変わってないとは言え、良く覚えていてくれたものだと驚いたけど、覚えていた理由は……


「サクラさんの事は前に会った時にとっても注目していたんです。だってサクラさん、私と同じ日本の人でしょう?」


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