1-4 女神のダンジョン、初の共闘
今夜は部屋が使える。まずは夕食。冷蔵庫も電子レンジも使えるので、しばらくは食べるに困らない。
「ハコネもご飯要る?」
「我は要るぞ。保存食とやらは飽きた。お主こそ要らんだろう? 我が体は、食わんでも平気じゃ」
神様は食べなくても平気だが、食べてもいい。なら食べよう。おいしい物は心も満たす。
ちなみに「女神は〇〇〇なんてしません!」なのか、トイレに一回も行ってない。食べた分、どこ行ったの?
「うまい! なんじゃこれ?」
「カレーライス。でも在庫限りだから節約するよ。明日報酬貰えたら、小田原で買った食材に変えるからね」
「同じものが作れんかのう。材料が分からん」
香辛料が手に入れば可能かもしれないけど、果たしてこの世界で揃えられるかな。
食事の後は、風呂。昨夜は遺骨の置き場だったので避けた。過去にないほどキレイに掃除した。骨の欠片一つ見逃すまいと。
さて、1つ問題がある。
「えっと、お風呂、入っていい?」
そう、入れわかりで問題と言えばこれ。お風呂タイム。
うちの風呂は今時のユニットバスで、浴槽にシャワーに大きな鏡。僕が風呂に入れば鏡に誰が写るのかは、言うまでもない。
「身を清めるのじゃろう? 我に許しを得る必要もないぞ」
「だって、ハコネの体だよ。見ないと洗えないよ。良いの?」
「暫くこのままなのじゃ。見るなとは言えまい。身綺麗に保つ様に。それに……」
ちょっと赤くなるハコネ。何?
「我も主の体で、手洗いに何度も行っておるし」
「あー、そうだね」
僕の体は人間だし。男のトイレは、まあ、そうだね。そこに触らないと難しい。先に触られたんだし、お相子ってことで。
「ハコネ、苦労した?」
「聞くでない!」
ハコネの体での風呂、大変堪能させてもらいました。僕の体は背も低く体毛も薄くて「女の子みたい」なんていじられてたけど、本物は違いました。言うと怒られるだろうけど、発展途上って感じ。髪が長いので洗うのは手間だったけど、柔らかい金髪を洗う時、シャンプーのCM気分が味わえた。
翌朝、ハコネと冒険者ギルドへ。受付のお姉さんは昨日と同じ人と、あと一人。忙しい時間は二人体制なのかな。
「証明書と報酬ですが、奥でお渡しします」
そして連れて行かれた奥の部屋には、ギルドマスター。
「ほら、証明書だ。町の出入りは、これを見せるだけで良い。それと、ダンジョンの出入りも許可が出る」
「ダンジョン?」
ダンジョンと聞いて、なぜかハコネが嫌な顔をする。
「聞いてないか? オダワラにはダンジョンがある。冒険者ギルドが置かれているのも、ダンジョンがあるからだ」
ダンジョンには何故か定期的に財宝が出現し、冒険者に良い稼ぎをもたらす。ただし、魔物もいるので危険が伴う。
「それはともかく、報酬は3件分でこれだ。どう分けるかは、相談して決めてくれ」
報酬は金貨6枚。多いのかどうかも分からないが、金貨というのだから高額貨幣だろう。
「渡した分以外で、遺族からお礼を言いたいって話が来てるが、会いに行くか?」
「もちろんじゃ!」
妙に食いつくハコネ。お礼言われると良い事あるの?
「では、私が案内します。参りましょう」
「ギードさん、お連れしました。遺骨回収をして下さった、サクラさんとハコネさんです」
「君たちか。ようやく親父も眠りに就ける。ありがとう」
この人のお父さんだったのか。このギードさんは見たところ30歳くらい。会う男性陣は皆が体格がいいけど、これが普通なのかな。
「お悔やみ申し上げます」
「気にしないでくれ。もう10年も前の事だ。俺も探したが、見付けられなかった。こんな若い二人がそれを成し遂げるとは、お前も頑張れって女神からの激励だな」
「女神に感謝するんじゃ」
その女神が目の前にいるとは言えないけど、激励になったのなら良いかな。
受付さんことイーリスさんが手続きをやってくれる。ギードさんからの報酬は金貨2枚。これが相場らしい。
「ところで、君たちはダンジョンには行かないのか?」
「ダンジョンですか? 財宝は少し気になりますが」
「スケルトンの大群を相手に出来るなら、ダンジョンの英霊たちも眠らせてやれないか? 俺の仲間だった事がある奴も、まだ彷徨ってる筈だ。一緒に潜れたら心強い」
「私からもぜひお願いします。ギルドからの依頼として処理させていただきます」
どうしようか? ハコネの様子を窺う。
「余り気乗りはせぬが、お主が行きたいなら行っても良いぞ」
「わかりました。行きましょう。どんな準備が必要か教えてください」
出発は翌朝、ギードさん宅に集合になった。
イーリスさんはギードさんに用事があると言うので、二人を残して町へ買い物に。食材は野菜や肉などは色々あるようだが、調味料は種類が全然足りない。カレーは無理そうだ。
貰った報奨金の半分を使って、二人分の防具を揃えた。どちらも鎖帷子。ハコネは重装備だと動けないと言うし、僕は重装備が不要な基本スペックがある。あと、鎖帷子ならゴスロリの中に着れる。見た目重視だ。武器はハコネに長剣、僕には棍を。振り回せば良いってのが、戦いの心得のない僕にも良さそうだなと。あと、女神ルックに剣とか槍はどうかと思うし。これで今日の買い物は終わり。
「サクラはダンジョンの事を知らぬだろうが、ここのダンジョン程度では後れを取ることはあるまい。昔の事だが、我は最奥まで行ったのだが、どうという事は無かった。一日あれば行って帰れるじゃろう」
「そんな事を言ってると、ポカすんだよ。死亡フラグって言うんだよ、そう言うの」
「よく来てくれた。すまん、あれから2人増えた」
翌朝、ギードさん宅へ行くと、3人が待っていた。ギードさんが居るのは当然としても、イーリスさんとギルドマスターのビリーさん。
「私も魔法で修羅場を超えて来ました。足手纏いにはなりまませんので、ご一緒させてください」
「このメンバーなら、英霊たちを全て連れ帰ってもお釣りが来るぜ。サクッと行こう」
ギルドの2人には実力の一端を見られているので構わないし、スケルトン退治が上手な冒険者って事になってる筈だ。色々見られても、平気でしょう。
「久しぶりに来たら、えらくアンデッドが増えたな。ダンジョンの女神様はお疲れか?」
「倒された者は、冒険者だけでなく魔物もアンデッドになる事があるのですが、アンデッドが女神様に間引かれないと、新たに発生する魔物とアンデッドでダンジョンは溢れてしまいます」
イーリスさんが解説してくれる。
「オダワラめ。サボっておるな。ちょっと出世したからって、足元がお留守とは情けない限りじゃ」
ハコネが僕にだけ聞こえる小声でボソボソ言う。知り合いなのか、このダンジョンの主と。五人で次々狩って行く。犬のアンデッドが骨を咥えて出て来るが、その骨はお前のなのか他の誰かのなのか。
「英霊の成れの果てのお出ましだ。イーリス、こいつらのレベルは?」
「左から、28、35、45、20です」
「なら右から二番目は俺が行く。その左は、ギード任せた。左端はイーリス、残りを若手二人で」
「了解」
任せられた一人を僕のワンパンで沈める。すぐに ホーリーフィールドで再生を阻害。
「一撃!?」
「それをやって貰えると、私の仕事が減って助かるわ」
「嬢ちゃんはやっぱり早いな。俺が片づけて振り返ったらもう終わらせて次の仕事をしてやがる」
イーリスさんもホーリーフィールドを使えるらしい。ビリーさんは軽く撃破。ギードさんも中々。
「遺骨の回収はイーリスが担当でいいよな?」
「その積もりです。もし満杯になったら、サクラさんお願いします」
冒険者のスケルトン相手はハコネには難しいが、犬のスケルトンは何とかなる。体はともかく、中の人は元々実力者なのだ。攻撃を全て回避。当たらなければどうという事は無い。
「またレベルアップじゃ。こんなに簡単にレベルアップする感覚、楽しいのう」
それ、元々が高レベルな事をばらしてる様なもんだから、言っちゃダメ。今のハコネは鑑定通りのレベルで偽装無しだから、何かがばれる事もないのだけど。
「次の部屋が最奥だが、財宝の出が悪いな。これじゃ冒険者稼業は上がったりだぞ」
「こればかりは女神様に祈るしかありませんね」
「祈らない方が良い。財宝を出さずとも祈りを得られるとなると、奴はさらに財宝をケチるぞ」
ハコネさん、やめて下さい。誰かが信じる神の悪口は。僕の世界ではそれで人が死んでます。
「さて、今日は何が出るかな」
「普通はどうなんですか?」
「キマイラやアント系だな。スライムが出たら外れだ。あれは倒しにくい」
現れたのは、戦車の様に大きな蟻だった。アント系ってやつか。そしてお供の一回り小さいのがワラワラと。
「アント系でも大物だな。ギガントアントだ。狩り甲斐のある相手だが、俺に任せてくれんか?」
「どうぞ」
お供の数が多い。背後を取られない様にボス部屋の入り口付近で待ち構える。前衛をビリーさん、僕とギードさん。イーリスさんとハコネは後衛。大物を倒すまで、ハコネは前に出させない。
「ていやっ」
結構固いが、棍を振り回すと数匹がまとめて飛んで行き、壁で潰れる。
「何だそれ。サクラ、レベル隠してるだろ」
「蟻退治もコツがあるんです」
「どう見てもコツじゃない。力技にしか見えん。うっ」
ギードさん、よそ見はいけません。あ、言ったそばから。
「討ち取ったり!」
ビリーさんが大物を仕留めた。あとは雑魚ばかりだから、ハコネも行けるかな。
「ハコネ、後のは雑魚だから―――― 後ろ!」
「うわっと。まだスケルトンがおったか!」
ゲームだと、ボス部屋で戦ってる際に関係ない魔物が乱入はしてこない。ボスに呼ばれたりでなければ。でもここはそういう制約はないのか、僕らが来た道からのそっと現れた。
戦術ビューで確認。名称はスケルトンエリート「サバス」、レベル65!? ここまでのと比べて格段に高い。サバスってのは名前だろうか。剣盾鎧を身に着け、戦士の気配。そしてボスと戦ってる最中にバックアタックとか、知能もレベルに比例するのか。
「ネームド! これは勝てないわ! 急ぎ撤退を」
全力ダッシュで、ハコネに襲いかかろうとするスケルトンエリートに突撃。少なくとも、敵とハコネの間に入って、ハコネの安全を確保したい。
ところが、慌てたから勢いが着いて、体当たりになってしまった。そのまま壁に激突。
「あれ?」
体当たりを受けたスケルトンエリートは鎧が潰れて薄っぺらくなってる。撃破出来たの?
「さすがはスケルトンキラーね」
「お前、レベル絶対に嘘だろ。他のやつには秘密にしてやるから、レベル偽装の仕掛けを教えてくれよな。そういう手段が出てくると、ギルドとしては困るんだ」
初の大物退治は、ついやり過ぎてしまいましたとさ。