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4-5 大半島戦争 砲戦

「頼もう!」


 館の前。侯爵の根拠地だった御殿が、今は敵方の拠点。門の前には黒髪の兵士が構えている。これまでもそうだったけど、やっぱり魔族方が和風。食べ物はとにかく。


「この様な朝早くに、何用か?」

「アタミから来たハコネとサクラ。城を貰い受けに来た! この城をモガモガ」


 ちょっと、ハコネ、何喧嘩売ってるのさ!


「違う、違う。話が分かる大将と聞いて、話があってきました。お取次ぎください」

「話に来たのか、喧嘩売りに来たのか、どっちなんだ?」


 警戒心を見せつつ、襲って来るでもない。規律が守られている。良い門番。1人が奥へ誰かを呼びに行って、もう少し偉そうな人を連れて来た。


「何者か? レベル85とは、ただの使者ではあるまい」


 鑑定スキル持ちか。そう来ると思って、デコイでレベルは詐称してある。


「使者です」

「荒事もこなせる使者か。おかしな真似をしないのなら、案内しよう」




 館の中には、魔族が多数。索敵で見ると、館に居る70人が魔族でレベルは40台が大部分、50オーバーもちらほら。上は70台。。


「そのレベルであれば、2対2であれば我らが負けようが、おかしなことをすれば無事に帰れるとは思わぬように」

「分かってるよ」


 僕らを人族と思ってる筈だから、レベル85でも魔族のレベル50くらいが束になって掛かれば押し込める。そう、人族なら。

 つまるところ、おかしなことをすれば、無事じゃないよね。彼らが。


「左京様、アタミの使者と名乗る者、連れて参りました」


 左京と呼ばれた人物。


「伊勢左京太夫長氏である。東の公方様を支える軍代である」

「東のクボー? 聞きなれん呼び名じゃな」

「上様の妹君、マサツナ様の事だ」


 女? 妹って言ったよね。男っぽい名前だけど。まあ、いろいろ事情があるのだろう。


「さて、アタミからの使者となれば、降伏の条件についてかとは思うが、相違ないか?」

「降伏ではない。降伏するのは、お主の方じゃ。我らをここに入れた時点で、この城は落ちたも同然」

「何を言っておる。確かにアニ族にしてはつわものであろうが、2人でこの城を落とせると?」


 早速ややこしくしてるから、ここは僕が何とかしよう。


「この城を落とすことは出来ますが、僕は犠牲を出さずに事を収めたい。一連の戦いが始まる前の状態で、和平に出来ませんか?」

「何だそれは。ミシマを返して引き上げろと? そんな事を言いに来たのなら、さっさと帰って戦の支度をするのだな」


 さて、切り札を出そうか。


「トンネルの爆破。あれと同じ事を、ここでやったらどうなるでしょう?」

「ほう、お主らがやったと? 人の身であれ程の威力を魔法で出すなど、ありえまい。事故だろう」

「新九郎さん、その2人は人ではありません。とっても危険な子達ですよ」


 どこからともなく現れた、その人は……


「その2人、私と同じで女神よ。本気でやれば、城を吹き飛ばすことくらいはやってのけます」

「おや、ミシマ、元気そうで何よりじゃ」


 ミシマさんに会うのは、一緒に温泉に入った時以来だから、1か月も経っていない。それなのに、以前会った時よりも顔色が良い。


「ミシマさん、本当に、元気そうですね」

「それはそうよ。久しぶりにちゃんと崇めてくれる領主が来たのだもの」


 元のミシマ侯爵は、女神の力を頼らないことを目指してたけど、それが防衛で力を発揮できなかった原因。城郭の魔術的な防御機構が女神の力無しでは働かない。アタミさんとハコネから聞いた、なぜ三島が簡単に陥落したかの種明かし。


「城を吹き飛ばすことくらいは出来るけど、したくない。町の人に迷惑を掛けたくないから。だから引き上げてもらえませんか?」

「お主ら…… 町人を人質に、降伏を迫るか。何と卑怯な。同族であろうが!」


 いや、同族じゃないって。女神だし。


「私もこの町でやり合われるのは迷惑。では、こうしましょう。町の外で、雌雄を決するという事にしてちょうだい」

「それでは我らが不利では無いか」

「それが嫌なら、私が相手になるわ」

「仕方が無い、外でやるか」


 あっけなく折れるハコネ。そりゃ、ちゃんと信者付きの女神となんちゃって女神じゃ、勝負にならないからね。




 場所は町から5キロほど東。箱根峠から三島に降りて来る途中。

 ミシマさんが治せる程度で叩きのめせば犠牲は出ない。それを聞いて、安心して魔法を撃ちまくれる。

 為すべきことは、三島に居る全軍をもってしても、僕らを倒せない事を思い知らせること。


「こんなもんかな」


 即席の城砦は、半円形に石を積んだ壁が1段。ここを攻め落としたら、彼らの勝ちと決めてある。僕らが使って良い攻撃魔法は、ファイアボールに限定してある。一撃で全部を吹き飛ばすとかはダメってこと。


「我らが城攻めするはずが、なぜ守る側になっておるのじゃ?」

「守るだけじゃないよ。城を拠点に、攻撃するんだ」


 標高はこちらが少し高い。緩やかな上り坂。攻め上がるってのは守る側にとても有利。

 そろそろ戦闘開始だ。


「それに、僕らが攻める側だと、戦意を無くした人含めて殲滅しちゃうからね」


-----


 2対1090。相手は女神だと言うが、この数を投入すれば龍だって狩れる。そう考えていた。


「奴らはあの砦に居るのだろう? あんな遠くから、なぜ撃ち込んで当てられるんだ!」


 即席の砦に待ち構える2人、そこに近づいて魔法を撃ちこむ。そんな攻撃をするつもりだった。砦を射程距離に捕らえる場所まで進み、魔法を撃つ。あちらから我が軍も撃たれるが、数で圧倒するなら、それで砦を崩せる。

 ところが、我が軍が砦に魔法を当てられる距離に届く遥か手前の時点で、山なりに飛ぶ魔法で我が軍の者に当てて来る。


「同じ魔法を使って飛距離がこれ程までに違う。なぜだ……」


-----


 ファイアボールは、重力の影響を受ける。小さければ、風の影響まで受けてしまう。それが原因で、有効射程距離はあまり長くない。

 今回はそれを、曲射にしてみた。斜め上に魔法を撃ち、重力に従って落ちて来る。直射より命中させるのがとても難しい。


「こんな撃ち方で当たるとは」


 今日のハコネは固定砲台。ハコネの隣には、角度の目印として目盛りを刻んだ板が立ててある。そして、見物人としてエルンスト達4人も見ている。


「右9、上37。左2、上34。左6、上35」


 僕の魔法はノーコンなので、観測班として砲撃する方向と角度を支持する役。

 ハコネの魔法は銃撃じゃなく砲撃と言うレベルの威力。本来この距離では当てるのが難しいけど、僕の部屋から持ってきた双眼鏡で、着弾位置を見ながら砲撃指示を出す。これで当たる。魔素は補充量の方が大きくて底なしだから、延々と続けられる。もう30分くらいだろうか。

 距離は1キロ以上あると思うけど、半分くらい命中してるんじゃないかな。数えてる暇は無いけど。


「抜けたのが居る。右7、上23」


 彼らの射程距離も同じ方法を使えば伸びるし、彼らは動く的、こちらは動かない的だから、彼らが同じ事をしたらこちらが撃ち込まれそうなもの。しかし、彼らは止まるわけに行かない。止まれば確実にハコネの砲撃が当たる。そして、止まらないとこの曲射は出来ない。


「迂回あり。右13、上29」


 そしてとてもずるい事に、戦略ビューで迂回する敵も見逃さない。


「こんな魔法の使い方、見た事無いよ」

「2人が味方で良かった。これじゃ、城なんて動かない的でしかない。普通のファイアボールで試し撃ちして、魔道具強化ファイアボールで本気の一撃。私の魔法でも、城が落とせるわね」

「どうやってるか、魔族たちが覚えないと良いのだが」


 マルレーネには確かに出来そうだ。そしてハンスの懸念も、多分正しい。目印の板は彼らには良く見えないとは思うけど、終わったら僕の部屋に隠そう。




 結局1時間くらい続けて、彼らが白旗を上げた。後で聞いたら、ミシマさんはリカバリーを使い続けで、僕らがどうやってるのか調べる余裕も無かったらしい。秘密は守られた。きっと。


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