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4-4 大半島戦争 潜入

 城は多少壊れたけど、優秀な大工と魔法使いの連携で大広間は使える状態になった。そして、伯爵含め城の主だった人達で祝勝会。


「素晴らしい援軍に恵まれ、期待以上の完勝であった。マルレーネ殿、ハンス殿、サクラ殿、ハコネ殿、この4名には感謝してもし足りない」

「素晴らしい活躍でした。サクラ殿が居られなければ、私は命を落としたかもしれません」


 宴の席は、マルレーネとハンスはアジロ男爵の姪と甥という事で、貴族側の席に連れて行かれた。

 僕とハコネはと言うと、それとは別の特別席。隣に居るのは、アタミさん。特別な祝いという事で、引き続き顕現して頂いているとの事。


「トンネルは暫くあのままにしますわ。水源としては役立っていたので、惜しいのですけれど」

「もっと奥の方で炸裂させて、手前だけでも水源に使えた方が良かったじゃろうか?」

「いいえ、水が出ているのはミシマ寄りの方ですから、手前だけ無事でも使えそうにありません」


 トンネルを粉砕したハコネの一撃は、こちら側からはアタミさんの風魔法で爆風を向こうに向けさせたおかげで、熱海側では見物人が地響きに衝撃を受けただけに対し、三島側は大変な状態。三島側のトンネルを抜けた所から直線上は何も無くなっていた。何か建物があった痕跡が残るだけ。トンネル内に居た人、出た辺りに居た人はおそらく無事である筈が無い。今回の戦いで最大の犠牲はここで生じたのだろう。


「ところで、エルンストはマリーに取られてしもうたが、良かったのか?」

「何を仰いますやら。私は女神、人ではありません。こうやって見守ることが出来れば良いのです」

「そうか、大人になったら興味が無くなるのじゃな」

「違いますわ! 青年のエルンスト君も素晴らしいではありませんか!」


 フォローの方向がおかしいアタミさん。尊敬される女神様が倒錯してるのを見られて良いのかとちょっと心配したけど、もうこれは昔から知られていて、誰も気に止めないらしい。それでいいのか、土地の女神。


「エルンスト君に少し手柄を立てさせたかったと思わないでもありませんが、無事で何よりです」

「手柄か。ミシマの奪還でもしに行くか?」

「それもアリですわね。上手く事が運べば、侯爵の座に納まるかも知れませんわね」


 奥さん(予定)のマリーがミシマ侯爵の娘だから、滅ぼされた家の再興という形かな。いや、滅んで無いかもしれないけど。


「アタミ様、お楽しみいただいておられますか?」


 アタミさんとハコネが捕らぬ狸の皮算用をしていたら、伯爵が登場。一家の人達も一緒に。


「マリーさん、故郷を取り戻したくはない?」

「もちろん、取り戻したいです」

「女神様、そうは言いましても、こちらから攻め込むなどそんな余裕はありませぬ」


 熱海の人を動員しても無理だろうね。一部が攻めて来ただけで、押し戻すのがやっとっだったのだし。それにトンネルも無いから、僕らのように飛べるのならともかく、攻め込む手段も無い。

 僕らだけで攻め込むのは、意味が無い。城を空襲は出来るけど、ある場所を制圧するには人数が必要だ。もっとも、誰も居ない状態(・・・・・・・)にしてしまい制圧という方法はあるけれど、更地になった三島を取り返すことにあまり意味が無いから却下。そこまでの状態になると、ミシマさんと拗れそうだし。


「ミシマの人々は、ゴテンバとフジに避難していると思います。父上と連絡が取れたら、連携して何か出来そうに思うのですが」

「侯爵か」

「父上はきっと無事です。何が起きてもしたたかに生き延びられるしぶとさで、父と並ぶものはありません」


 娘にこういう評価を受けるお父さんって何なんだろうと思わないでも無いけど、無事でいてくれたら反撃の機会を窺っているかもしれない。


「サクラよ、侯爵を探しに行くのはどうじゃ?」

「僕もそう言おうと思ってた。行けそうな所は御殿場か富士。両方を周ってみようか」

「ぜひお供させてください」


 エルンストも乗って来た。そういえばエルンストは侯爵には挨拶しないといけないよね。娘さんを下さい!って。ついでに領土も下さいって言わせようか?


「しかし、ミシマの敗残兵といくらか応援があったとしても、勝つ見込みはあるのか?」

「下見をしてきます。勝ち目が無いとなれば、中止です」

「下見?」




 夜の峠を飛んで越える。


「2人で一緒にって初めてかな?」

「暫く役割分担じゃったからな」


 今回はこれまでより危険度が勝るので、2人で来た。どちらかが動けなくなっても、撤退出来る。


「あれがミシマの町じゃな。何も変わった所は無さそうじゃ」

「前は町の外に宿舎を作ってたけど、僕が毎晩狙い撃ちするから、町に入ったのかな」


 闇に紛れて、こっそり町に降りる。路地を歩いて行くと、普通に店もやってるし、人族の住民がそのまま暮らしている。


「拍子抜けするくらい普通だね」

「占領された町と言うより、支配者が変わっただけで元通りの町じゃな」


 魔族と呼ばれる人たちのやり方は、思いのほか穏やかな様だ。人類の敵と言うのは大げさに言っているだけの様だ。


「この匂いは、カレーじゃ!」

「ハコネ、夕飯は食べたでしょ」

「別腹じゃ、別腹」


 暢気に食堂に入り、そこで情報収集。

 魔族のコックが調理して、魔族と人族が食べている。


「奴らの料理、俺達のより味付けがうまくてな。最初は毒でも盛られるんじゃないかと怖がって来ないやつも多いが、俺は気に入った」


 食べてる人に聞くと、種族の垣根を簡単に超えている人たち。そもそも魔族が調理ってのは、少数精鋭の魔族が毒を盛られないように自ら調理をしているとのことだけど、それが結果として垣根を取り払う方に役立ってるみたいだ。


「ここの様子を見ると、占領されようと全然構わぬ気がしてきた」

「貴族が置き換わるだけで、庶民には関係ないのかもね」


 昨夜までの宴が貴族中心だったから彼らには大変な事だけど、もし熱海が占領されていてもこんな感じになってたんだろうな。そもそも戦う必要さえないのかもしれない。


「ミシマを占領した大将は、種族に関係なく悪事を働くものは取り締まる立派な方。若いのに大したものだ」


 コックさんにも聞いてみたらこんな感じ。魔族に支配された場所がどこでもそうなのかは分からないけど、話が分かる人の様だ。


「会いに行ってみる?」

「大胆じゃのう。まあ危なくなったら飛んで逃げれば追われぬようじゃし、行ってみるかのう」


 さすがに夜訪問するのもどうかと思うから、一旦戻る事にする。土産にカレーパンを買い込み、ひと気のない路地裏から僕の出した扉で熱海へ。




「戻りました」

「なんだ、もう戻ったのか?」


 エルンストの部屋を尋ねると、エルンスト、マリーに加えて、マルレーネとハンスも居た。


「ほれ、ミシマの土産じゃ」

「揚げたパン?」


 取り出したカレーパンをさっき散々カレーライスを食べたハコネが食べ始める。土産なのに最初に持ってきた本人が手を出すって……


「カレーを入れたパンか」

「ハンスは知ってるのか?」

「私も知ってるし、マリーも旅の途中に食べたから、知らないのエルンストだけよね」


 やり取りに以前より壁がなくなってる感じがする。同年代の若者同士、親交を深めるのは良い事だね。


「うん、うまいな、マリー。これミシマの名物なのか?」

「いいえ、魔族の料理です」

「えっ!?」


 これから戦う相手のと聞いて、エルンストだけは躊躇いが出る様だけど、僕含めあとの5人は気にしない。


「中立地のゴテンバで、これをコメにかけた料理が流行っててね。あの町は色んな種族の料理が食べられて、楽しい街よ」

「魔族の食べ物を買って来たって、ミシマはどんな状態なんだ?」


 食堂で聞いた三島の話を掻い摘んで話す。

 そもそも、三島は攻め落とされたと言うより、守り切れないと悟り開城した。だから町に破壊の爪痕も無いし、人々も平穏に暮らしている。

 開城の際に侯爵と家臣は西から門を出て去って行った事までは分かっている。富士に行ったのではと推測。


「父上も皆さんもご無事そうで、安心しました」

「昔、イトウが落ちた時は悲惨な事になったと聞いている。どういう事だ」

「あちらの大将は立派な人だと、町の人族も言ってました。そこでなのですが……」


結局、カレーパンを一番食べたのは、エルンストだった。

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