3-15 失われた僕を探して そして鐘は鳴る
8/19 分かりにくい言い回しなど、少しだけ改変しました。
「エーテルの消費は…… 半分か。高くつく魔法だ」
「威力抑え目で節約出来るようにならない?」
「工夫してみよう」
エーテルは未使用側タンクから使用済み側タンクへ一部移っている。マリがマグカップで補充作業をしている。消費はちょうどマグカップ1杯分。
列車に積んであった量が風呂1杯分だから、あれの千分の1くらいか。
「エーテルの値段ってどの位?」
「知らないの? あれはハイエーテルだから、今使った分で金貨10枚分」
金貨10枚って、100万円!?
翌日、いい加減帰れとハコネに言われ、ヨコハマさんは帰って行った。まだ未練がありそうではある。マリとアリサは飛行用アンプを製作中。このアンプってのは、魔法を増幅するからって事で、アリサが名付けた。
元のメンバーに戻った所で、4人でハコネの扉を出て、熱海へ。
「お城? 神殿?」
「今回は母さん居ないから、城は無理かもね」
やって来た神殿は、以前と同じ。
「マルレーネ、ハンス、サクラさん!」
来て早々女性に呼び止められたけど、服装はシスターっぽくない。誰だっけ?
「マリー! 久しぶり。こっちに来た時以来?」
マリー? だれだっけ?
「ミシマから来たマリーですよ」
ハンスに言われてやっと分かった。三島から熱海へに来ていたんだっけ。マルレーネやハンスが知っているのは、その旅路の護衛を依頼されてしばらく一緒に居たからとの事だった。
前回会ったのがまだ一桁の頃だけど、もう見た目の年齢は僕よりも年上だ。
「エルンスト君は元気?」
「はい。元気です。実は…… えっと……」
ん? どうした?
「私達、結婚します」
「おめでとう! いつ?」
「ありがとございます。少し前にお父様と手紙をやり取りして、夏なら式に出られると返事をもらいましたので、その頃になります」
この世界に来て20年。最初に出会った人たちは結婚してその子供世代が活躍して、その子供世代が結婚するのか。30年、50年と経てばどうなるのか。女神たちは何十世代と見守って来たんだろうね。
「ところでそちらは…… サクラさんの妹さんですか?」
「ハコネじゃ。訳あって前と姿が異なるが、こちらが本来の姿じゃ」
「性別が変わるなんて、そんな事があるんですか!?」
「訳は言えんのじゃが、普通は無いので心配はいらぬぞ」
旦那様が突如女性になりましたとか、困るだろうからね。
「それで、ここの女神に用事があるのですが」
「サクラさんとハコネさんは女神様とお話しできるんでしたね。どうぞ奥へ」
「ハコネが元に戻ったのに、サクラさんはなぜそのままなの? あなたの体は切ったら増えるタイプでしたっけ?」
「そんなわけあるか。不死の体とリンクした関係で、おかしなバグが出た様じゃ」
「まあいいわ。ハコネが何人いても、娯楽が増えるだけでしょうから」
ハコネは女神界のおもちゃ。
「ところで、その元ハコネの体、本来は僕の体の事なのですが、どこかで見かけませんか?」
「私はあなた方の様に出歩くことはほとんどないわ。見かけるって事はないけれど、なぜそれを私に?」
そこで、体を失った経緯と、ヴェンツェルが僕の体に乗り移ってないかという推測を説明したのだけど……
「それは無いわね。ヴェンツェルは体と記憶を失い、名も家族も失い、別人になったわ」
「亡くなった訳でじゃ無いんですね?」
「あのまま死ぬとね、呪いを生み出す恐れがあったの。いや、呪いが愚かな人格を作ってしまったのかもしれないわね。だからその呪いを祓い、同時に体と記憶は封印されたわ」
その別人になった元ヴェンツェルが横浜で発見されたのか。ってことは、僕の体とは無関係なのか。
「そもそも魂の抜けた体があったとして、どこか遠くから飛んできた魂が乗り移るとか、考えにくくは無くて?」
「そうか?」
「魂が乗り移れるなら、その近くで他に亡くなった方が乗り移る方が起こりそうではないかしら」
体を失ったときに近くに居たのは、フ族と飛竜か。
「乗り移る魂が元の記憶と共にその体に居るなら、フ族の地域か竜の里を探すべきでなくて?」
行くべくは、東より西だったか。最初にここに来るべきだったかな。
「さて、西へ行く事を考えるお二人に、お知らせが」
「なんじゃ?」
「ミシマの戦況は悪いですわ。当然ね、女神の力を使おうとしないのだもの」
三島? この前ミシマさんが敵が攻めて来るって言ってたけど。
「お供の2人を連れて行くのは、よしなさい。彼らには荷が重いわ」
「そうじゃな。気を付けさせよう。さて、今のところの用は、以上だ。戻るとしようか」
「そう。ではごきげんよう」
神殿の部屋に戻された。マルレーネ達は…… いた。男性が1人増えて4人になってる。
「エルンストだ。勇者ハコネと聞いたが、見事な変装だ。ここは偽物か?」
ハコネに触ろうとするエルンストに、マリーの肘が入る。
「事情は分かった。折角だからゆっくりして行ってくれ。勇者の目撃情報も、調べさせよう」
「お願いします。でもアタミさんに、西へ行ったんじゃないかと言われて、困ってるところです」
「でしたら、私も知り合いに連絡します。父上に伝えれば、情報はあるかもしれません」
さて、ここで出来そうなことはもうなさげだけど、折角だから温泉旅館に泊まるかな。そう思って神殿の重い扉を開けると、外では鐘を連打する音が響いている。
「この鐘は、敵襲か! どっちだ!」
マリーの手を引くエルンストだが、こちらを振り返る。
「4人に一緒に来てもらえないだろうか? 臨時で護衛をお願いしたい」
「改まって言われなくても大丈夫よ、ね?」
「もちろんじゃ」
まずは情報の確認。僕の戦略ビューでは1回行った場所は見える。僕が行ったことがある場所の1点から、放射状に赤い点が幾つも動く。
「敵は、南のある1点から出現中。そこにあるのは…… 水源のトンネル!」
「トンネルから? 奥は閉じていたはずだが……」
「ミシマがトンネルを? もしや!?」
再び神殿の中へ。ハコネを追いかけて僕も。アタミさんと話せるエルンストも一緒に来る。
「アタミに尋ねる!」
「戻って来たわね。状況は知ってるわ。ミシマが彼らの手に落ちた。そしてミシマはトンネルを再び開いた」
ミシマであり三島。三島の新たな支配者ことフ族は、女神ミシマに維持費を払い、丹那トンネルを再開させた。
「前の支配者と違って、今度の支配者は女神の価値を分かってる」
「それにしては早い。ミシマが落ちたのはいつなのですか?」
「分かりません。最後に連絡を取ったのは昨日でしたが、その時は変わりはありませんでした。戦況が悪いとは言ってましたが」
陥落して1日未満。それでもうトンネルが使えるようになり、そこを通ってフ族が攻めて来てる。
「こちら側のトンネルを閉じられませんか?」
「トンネルを閉じるのは、維持費カットで機能が失われるまで掛かるから、すぐには閉じないわ」
こちらが閉じるまでに一気に攻め落とすつもりか。でも兵站が遮断されて、彼らはどうするつもり?
「アジロ側の動きも激しくなっている。おそらく連動している作戦ね」
神殿に戻ると、騎士団が迎えに来ていた。
「皆さんを巻き込むのは本意ではありませんが、もし手助けをお願いできるならありがたい」
「サクラ、ハコネ! 助けましょう!」
「もし駄目なら、僕と姉さんだけでも行きます」
こういう状況で、どうするべきか。加勢する?
「我らは本来、本拠地を支配する側を応援する存在。しかし我らの本拠地は、誰にも支配されない、無主地」
「つまり? 中立でいなさいって?」
「いや、中立の勢力が支配するのならそうなる。しかし、無主じゃ。つまり…… 好きにして良い」




