3-13 失われた僕を探して 遺跡オタと鉄オタ
8/19 後半を少し改変しました。
「ナイトロフリーズ」
巨大なネズミを氷漬けにして倒す。焼くと臭いが嫌、雷撃系はレールに吸収されてしまうため、届かない。試行錯誤の結果、氷像量産中のマルレーネ。
ヨコハマの地下鉄、もといダンジョンを進む。小田原熱海間で見たトンネルはレールはどこかへ持ち去られた後だったが、ここはそのまま残って居る。馬車が通るためとか撤去する必要性がないからだろうか。ちなみにレール2本と、横に1本。第三軌条方式と言ってパンタグラフでなくレールから電気を供給だったらしい。そんなところまで本物の横浜市営地下鉄と一致してるのか。なお、電気は来てない。
「次の出口で一旦上がるのはどうでしょう?」
「飽きて来たわね」
昨夜は関内駅で中断したけど、今日もダンジョンを進んでいる。地下鉄らしくちゃんと駅があり、そこから地上に出ることが出来る。地上は本物の横浜市と違って、関内の時点で街はずれ。さらに3つ先の駅で階段を上ると、階段の踊り場に鍬とわらが置いてある。
「シュール」
出た所の景色を見て、思わず独り言が。出口は、畑の脇でした。さっきの場所はこの辺を耕す人の倉庫代わりらしい。
「上の長閑さに、下のダンジョン。次の出口はどんな所に出るのか、その驚きもこのダンジョンの特徴、だそうよ」
はい、驚いた。でも飽きた。
「一休みして、続けるかやめるか決めよう」
昼食時なので、戦略ビューで見つけた近くの川に行くと、地元の人も昼食中だった。
「冒険者さんかい? そこの出口から出たのかね?」
「そうじゃ。ダンジョンを出たら畑だったのは、初めての経験じゃ」
「今日は西に大物がおるそうじゃ。気を付けるんじゃぞ」
西ってのは、ここらかさらに進む方向。
「西は何か?」
「あなた方が来る少し前、大きな魔物が出たそうでな」
大きな魔物って、地下鉄トンネルサイズを考えたらたかが知れてそうだけど、どんなやつだろう。
「金属で出来た魔物と聞いたぞ」
「それは気になりますね。見に行きましょう!」
ハンスはこういうのに乗りやすい。金属で出来たってのが、遺跡に関係しそうってのもある。
「そういう事ね」
戦略ビューで確かにそれらしいのが居る事を確認して、地下鉄トンネルを進んだ先。いた、ではなくあったのは、列車。線路の遺構があるのだから、列車の遺構があってもおかしくない。
「俺は倒せません。こんな貴重な遺構を壊すだなんて出来ない」
遺構好きのハンスにはヒット。
「そもそもこれは魔物なのでしょうか?」
「いや、違うね。列車だよ」
「列車? 聞いた事無いわ」
列車用のトンネルはあちこちにあるけど、列車は見かけなかった。ここは特別なんだろうか?
そんな話をしていたら、ゆっくり列車が動き始めた。
「ほう、動く列車を見るのはいつ以来じゃろう」
「ハコネは列車を知ってるの?」
「創造主の時代、末期にはあちこちを走っておったからな」
列車用のトンネルがあるのだから、列車も当然創造主の時代にはあったのか。それはハコネが知ってて当然だ。
「電気来てないよね。なぜ動くの?」
ここまで来る途中、第三軌条 にも普通に触っていたけど、感電してない。何人かの冒険者にも会ったけど、第三軌条に触って感電した経験がある人は居なかったから、電気は流れてない物らしい。
「このままヨコハマの方に行かれるのはまずいわね。昨日の区間には、何人も居るでしょうから」
「そこに行くまでに、止めねばなるまい」
「壊すのは、壊すのはやめましょう」
ハンスに言われるまでも無く、壊すのはやめたい。何かに使えそうでもあるし。
「中に乗り込んで、止める方法を探すのはどう?」
「姉さん、それだ!」
扉は手動で空いた。そこから4人で入る。
「反応が幾つかあるな。敵対も非敵対も多数じゃ」
車両を後方に進むと、今朝も戦ったネズミが3匹居たが、すぐさま処理。それでも少しタイムロス。
「動かしてるやつを倒せば止まる?」
「加速は止まるじゃろう」
「それ、早く元凶を見つけないと、途中の人達に被害が」
少なくともネズミが探す魔物ではないだろうけど、おかしなことが無いかは確認しながら進む。窓の外を見ると、普通に電車が走る時の様なスピードが出ている。これでは関内駅まですぐについてしまうかも。戦略ビューでみると、もう2駅過ぎ、関内が間近。
「急ごう。人が居そうな所まで、近付いてる」
ネズミチェックは省略して、どんどん進み4両目。ここも何もおかしな物は無かった。列車はカーブに差し掛かり、遠心力で左側に引かれる。
「末端まで3分の2は来た。あと少しじゃ」
ハコネも戦略ビューで確認している。
「おっと!」
ブレーキがかかる。後ろに倒れかけ、いや、あとの3人は倒れている。
「止まるのか?」
見ると、昨日の探索をやめた場所、関内駅に止まる。
「ここまで進めたかったの? 何かあるのかしら? 反転?」
また動き始める。今度は進行方向を反転して、来た方向に戻る? 戦略ビューで見ると、今通ったルートを離れている。そんなルートあったっけ?
「ハコネ、さっきのルートに枝分かれってあったっけ?」
「無かった筈じゃが、隠された道が開いたのか。これはどこに向かっておるんじゃ」
列車が反転したため、さっきまで最後尾を目指していたけど、今は先頭を目指す。
「ここが先頭ね。あれ、何?」
運転席には、人の姿。運転士風の帽子と制服。運転士の幽霊が列車を操ってる?
「ハンス、壊さないって言ったけど、ここの扉だけは我慢してね」
「ああ」
運転席への扉を強行突破。すると……
「折角の遊覧走行を邪魔しないで!」
良く見ると、女性。
「何をしとるんじゃ、お主は?」
「ついに未成線のホンモクルートを開通させたのよ。運転したいじゃない!」
「何を言っとるんじゃ、お主は……」
この人は、魔物でも幽霊でも無く、ヨコハマさん。制服姿を見てすぎに分かったのだけど、レベル124の女神。
「創造主時代は、向こうのルートしかなかったの。こっちのルートは、計画されたけど中止になった幻の路線。私達はダンジョンを拡張出来るのなら、このルートを作ることも出来ると思ったの」
「レールじゃったか、それも同じものを作ったのか?」
「無いと走れないからね。実物を残してあったから、再現は簡単だったわ」
昨日の中断時にパソコンで調べたのだけど、この鉄オタ女神が言うように、横浜の地下鉄は関内から本牧に向かうルートが計画されていたらしい。中止になってそのルートはみなとみらい線が引き継ぐかも知れないそうだけど、この女神はそれを作ってしまったらしい。そしてそこを走るために、この列車を動かした。
「この列車、どうやって動いてるんですか? 電気来てないですよね」
「魔法よ」
僕らは自分が飛ぶのに魔法を使ったけど、この人は列車を走らすのをやってのけたのか。でも、どんな魔法? マジックハンドは普及してないだろうし。
「ハコネが使ってた魔法よ」
「我のじゃと?」
ハコネ、何かやった?
「私の管理範囲を高速移動するのが居ると思ったらハコネが飛んでたから、どうやってるか調べたのよ。そうしたら見た事無い魔法だったもんで、早速解析させて貰ったわ」
「解析って、見ただけで魔法が分かるんですか?」
「余所から来た物の仕組みを調べて応用。そういう特技を持ってるのよ」
教わっても出来ない僕からすれば、見ただけで出来るなんて何という羨ましい能力!
「それで調べたら力場生成の魔法みたいだから、応用してこれを動かしてみたのよ」
そんな話をしている間に、終点に到着したのか、列車は速度を落とす。
「この電車の終点、ホンモク駅です」
鉄オタ女神は、やり切った良い笑顔でそう言ったのだった。




