3-12 失われた僕を探して あれっ!?
「えらく楽な旅になったのう」
僕が飛べるようになった日の夕方、僕の部屋を経由し秦野に戻って来たハコネも飛ぶ魔法をマスターした。
そこでハコネ以外は全員部屋に入り、ハコネが飛んで進むという事になった。速く飛ぶと息苦しかったので全速力では無いけど、馬が走る以上の速度は出せる。元々のルートは宿や食事の便利さから平塚まで南下して東海道に相当する街道を行くはずだったけど、半日で横浜まで飛べるとなれば遠回りも不要になった。
現在地は、横浜市の三ツ沢付近。周りは丘と森で、人目に付かずに着陸できた場所だったとの事。
「町があるのはどっちの方向だろう?」
「南の方じゃな。ヨコハマの町とダンジョンがある筈じゃ」
人の目があるので、4人で歩く。丘を降り、川を渡ると門がある。4人それぞれ証明書を出してチェックを受け、町に入った。
町に入ると、店が並ぶ通りが始まる。位置的には、横浜駅付近。
「この町は交易差が盛んな港町じゃ」
そう言えばこの世界で船を見てない。小田原には港が無かったし、熱海もそうだった。
「船って小田原に無かったよね?」
「海は魔族が牛耳ってますからね。奴らの大型船とやり合ったら、勝ち目はありません。だからオダワラでもアタミでも、船には乗りませんね」
「私も船には一度も。こっちは魔族の船は来ないのかしら?」
相模湾や駿河湾の様なそのまま外洋に至る場所と、東京湾は事情が違うのかもしれない。
「ヨコスカの女神様が海を守ってくださってるからな。魔族は近付いて来れないのさ。ありがたい事だ」
さっきの疑問をマルレーネが水夫さん聞いたら、そんな理由だった。
「信仰を集めるのがうまいのう。実際にあやつが追い払ってるわけでもあるまいに」
「実際はどうなの?」
水夫さんから聞こえないところで、こそこそ聞く。
「魔法使いに戦い方を教えたのじゃ」
「どう戦うんですか?」
戦い方となるとハンスは興味を持って乗って来る。
「夜、魔法使いが、見つからんように静かに泳いで敵の船に近付くのじゃ。そしてフレイムランスを水面の下に叩き込む」
「水面の下ですか?」
「フレイムランスは、船を燃やすためじゃなく、船に穴を開けるためじゃ。穴を開けたい位置は、水面の下。その穴から水が入り、船は沈むって訳じゃ」
砲撃じゃなくて魚雷の様なやり方。しかし、人間魚雷? 無事に戻って来れるのかな。
「無事に戻る者もおるじゃろうが、難しいじゃろうな。これが流行ってから、泳いで船に近付けるような静かな海には奴らは来ないのじゃ」
「なるほど。波が高いオダワラでは使えない手ですね」
船との戦い方談義から目を向けると、マルレーネは水夫さんと話をしている。そして、来いと手を振りだした。
「姉さん、どうした?」
「船を見せて貰えるって」
可愛い女の子に頼まれたら受け入れてしまう水夫。海の男は女に弱い?
見せて貰えたのはマスト1本に三角の帆が付いた船。甲板から下に降りる階段を大荷物を持った人が下りて行く。
「この船でどこと行き来してるんですか?」
「ヨコスカ、それに王都だな」
王都ってのは、品川から目黒の辺りらしい。昔の勇者が国を作ったとも言われる地域の中心地。人探しするなら人が多い所へという事で、行くこともあるかも知れない。
あまり邪魔しても悪いので、早々に船を降りる。寄り道してしまったが、ここへ来た目的を忘れてはいけない。人探し、僕探し。
小田原でもらった情報がギードさんからだったから、ここもギルドで情報を得よう。
「小田原のギルドから来ました。人探しをしているのですが」
ギルドが持つ情報を提供してもらうために、ビリーさんから名目として依頼を出してもらってある。ビリーさんからの協力を求める手紙を差し出す。
「確かにギルドからですね。9年前の情報についてですか。少しお待ちください」
待つ間にギルドを見回すと、小田原より少し大きく、カウンターによっては順番待ちをしている人も居る。居る人々を見ると、誰一人黒髪が居ない。黒髪の人物を探すのは、案外簡単なんじゃなかろうか?
「お待たせしました。非公開の情報もありますので、奥の部屋においでください」
「情報は、アタミのヴェンツェル氏と同じ魔素の特徴を持った人物が9年前に現れたと言うものです。これはオダワラで伺っていますね?」
「はい」
「証明書がない人物の確認として鑑定が行われたのですが、ヴェンツェル氏と思われる方は手配は出ていなかったために取り調べなどは行われておりません」
それは、この人物がどこかに現れたら連絡をなんて、いるはずない人物に対してしないだろう。
「特徴などは記録されていませんか?」
「銀髪の若者」
「あれっ!?」
髪の色はかつらでどうにかしたかも知れないけど、若い男性?
元の僕の年齢に+20歳だから、若い訳は……
「お主、忘れてはおるまいな。不老、じゃぞ?」
そうだった。不老ってのは、20代で老化が止まるそうだ。つまり、ハコネが僕の体でいた頃の外見の筈。でも若者かなぁ?
「年齢は13とあります」
「「あれっ!?」」
13? 30じゃなく? サーティーンとサーティンの聞き間違いじゃなく?
「30歳では無いのじゃな?」
「13とありますね。それについてコメントが無いので、おかしい所は無かったのだろうと思います」
本当に13歳で現れたのか。はずれかもしれない。
「アタミさんに話を聞くってのはどうだろう? 何か知ってるんじゃない?」
「そっちを当たってみるべきだったか。そうじゃな。行ってみるか」
「アタミまで行かねばならん」
ギルドの大部屋で待って居た2人に説明。
「来て早々戻るの? せめて1泊くらいはして行かない?」
「ダンジョンくらいは行きませんか?」
そうだね。折角来たのだから、何か面白いもの、おいしい物が無いか散策くらいはして行こう。ダンジョンはちょっと……
「この町の名物は何ですか?」
「ヨコハマと言えば、ダンジョンだろ」
受付さんに聞いたつもりが、列に並んでいた男性が答えてくれた。
「ダンジョンは小田原でも潜ったのでそれ程興味は……」
「ヨコハマのを1回見ておいて損は無いぞ。特に遺構好きには最高なんだが、あんあんたらの中にそういうの好きなのは居ないのか?」
遺構?
「行きましょう!」
ハンスがやる気になった。そう言えば、彼は子供時代もそういうのに興味示してたよね。
ダンジョンの入口が町に何か所もあるとは予想外だった。そしてその入口の形状は、見るからに地下鉄の入口。
なるほど、遺構でもあるな。地下鉄がダンジョンなのか。
「女神ヨコハマが遺構の維持と兼ねてダンジョンにしたそうです。曲がりくねっていますが長く伸びているそうで、途中随所に先程の様な出口があるのだとか」
そりゃ、地下鉄だからね。路線も同じなのかな? 延々と進むと湘南台?
「町の付近は何も出ませんが、進むと魔物が出るそうです」
「右と左があるが、どっちに行くんじゃ?」
ハンスが満足するまでダンジョンと言う名の地下鉄探索となった。電車だったらすぐの距離を徒歩、さらに5倍に伸びてるので、半日頑張って行った先が関内でした。これは明日1日費やしても、終点まで行けない。




