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1-3 女神は嘘つきの始まり

 骨に囲まれて寝るのは嫌だったので、トイレで寝た。台所も、風呂も、置ける所は全て遺骨置き場になっていたから。


「そこで寝られるハコネはおかしい」

「襲ってくるわけでもない。此れしき気にしては、この先やって行けんぞ」

「襲ってはこないけどさ……」


 やれやれという顔をするハコネ。その表情、ちょっとイラッとくる。僕の顔でこんなにイラッと来るとは。


「全ての存在は神の(しもべ)であり(あるじ)である。ここに命があるから、ここに命があったから、神がある。ここにいる彼らは、ゆえ在って物言わぬ体になっておるが、我らを支える大切な存在であることに変わりはない」


 良い事言ってるのだろうけど、一緒に寝たいかと言えば、それはそれこれはこれ。


「ともかく、この状態が嫌だと言うなら、さっさとオダワラまで行くことじゃ」




 朝明るくなったら、さっさと出発。遺骨だらけの台所で調理する気にならなかったので、保存食を食べて出発。

 ハコネの歩くペースは、一般人だった僕の体力だから、遅い。このペースで行くと二日かかる。負ぶって行けば速いとか考えたけど、実はハコネを歩かせなくても良いことに気が付いた。遺骨部屋が平気なハコネには部屋に居てもらって、僕がさっさと歩こう。


「それでも良いぞ。お主だけ歩かすのは仲間としてどうかと思ったんじゃが、お主がそうせいと言うなら異論はない」


 一人で歩くのは話し相手がいなくて寂しいけど、今夜のトイレ寝生活解消のためだ。我慢して歩く。

 単体で登場のスケルトンを見かけては殴り、部屋に入れて行く。もう玄関まで遺骨置き場。


 それ以外の魔物や獣が現れることも無く、順調な旅路。そのまま歩き続けると、景色は谷から平地に変わり、川幅がぐっと広がった。そして初めて人の手が入った場所を見つけた。畑だ。何も育てていない様だが、この辺りに町がある?

 戦略ビューを見ると、北に町がある様だ。今は小田原へ急ぎたいので、この辺を調べるのはまた今度。




「ハコネ、もうすぐ小田原だけど、このまま入って良いの?」


 部屋に戻ってハコネを見ると、ベッドにコミックが散乱。骨が積みあがるベッドで大層お寛ぎの様で。悪の総帥って雰囲気だ。でも日本語の本が読めるの?


「そのまま行って良いぞ」

「いや、そのまま行ってじゃ無いでしょ。女神登場って騒ぎになるんじゃないの? 隠さないの?」

「隠したいのなら方法を教えるが、何を隠すのじゃ?」


 サクラ

 Lv:101

 種族:神族

 職業:守護


 そうだな、名前はサクラでいいとして、レベル100超えは神の域だと言うから隠す。種族はもちろんアウト。職業は良く分からない。


「神であることを隠すのなら、レベル、種族、職業じゃな。であれば、こうじゃ」


 ハコネが紙に書きだす。


 サクラ

 Lv:21

 種族:人族

 職業:無職


「無職? 旅人とか商人とか冒険者じゃなく?」

「無職じゃろう。魔法の名前も無職ホイホイが良かったかのう」

「良くない!」


 どうも無職とかニートとか煽りに来る。思い返せば、なぜハコネがニートって言葉を知ってた?


「まあ職業は、どこかのギルドに登録すれば変わるから、今だけじゃ。ここらは種族間の関係が不穏じゃから、種族は人族にしておく。レベルはこの辺で活動して不審に思われないのはその辺からじゃ」

「高いのか低いのかわからないから、ハコネに任せるよ」

「それで実際に隠す方法じゃ」


 教えてもらった魔法は「デコイ」。初級魔法だから僕にも安心。

 普通の使い方は、攻撃を引き受けたり警戒を引き付けるためのおとり(・・・)を作る魔法。そこそこ使える。名前、種族、職業は好きに設定できるが、レベルは自分以下で設定可能。

 今やるのは、不可視のおとり。魔法に掛かったふり(・・)をすることが出来る。例えそれが、鑑定の魔法であっても。鑑定に対しておとりに設定された偽の情報を見せる事になる。


「こんな魔法、鑑定の意味なくなるでしょ」

「不可視に出来るのはレベル101以上限定じゃ。神以外は出来ない方法じゃ」


 初級魔法の超上級な使い方だったけど、問題なく出来るみたいだ。




 少し暗くなりかけた頃に、小田原が見えて来た。門に続く道に居るのは、この世界で初めて会う生きた人間。ハコネに続き、欧米系の人種か。

 ファンタジーの立派な城があるかと思ったら、木の塀で囲まれた町だった。でも登って越えるのは難しい高さ。


「城壁に囲まれた大きな町かと思ったら、そうでもないね」

「都はここでないんじゃ」


 ハコネも出て来させた。出入りを管理されてそうなので、姿を見せて入った方が良いだろうって事で。




「二人とも証明書無しか? では、こちらへ来て鑑定を受けてもらう」


 特に邪険に扱われるでもなく、門の内側にある詰所らしき場所に通される。


「男は、ハコネか。レベル9、人族、無職」

「あれ? レベル9?」

「パーティー扱いになってたんじゃろう。スケルトン戦の時」


 ハコネ何もしてなかったよね。寄生ってやつ? まあ仲間扱いで構わないけど。


「女は、サクラ、レベル21、人族、無職」


 後ろの役人が、何かと照合している。


「手配者との照合が終わるまで、少し待ってくれ。ところでサクラさんはハコネさんの護衛かい?」

「そう見えますか?」

「スケルトンって言ってたろ。レベル9でスケルトンを倒すとは思えないしな。レベル21でも、よく無事だったもんだ。そのレベルでギルドにも登録してないってのは珍しい。どこかに登録して証明書を持てば、門の出入りは楽になるぞ」


 それは登録した方が良さそうだ。事務的な話だけでなく、どうすれば便利に過ごせるか親切に教えてくれるとは、ここの役人は温かみがあるね。暮らしやすそうな気がする。


「スケルトンを倒したって話だが、どこに出た?」

「西の川を一日遡った辺りです。倒して、遺骨は持って来てあります」

「それは良い事をしたな。冒険者ギルドで遺骨を引き取ってくれる。いくらか報奨金も出るぞ」


 そう言えばお金も無いんだった。日本円を出しても仕方が無いし、金貨とか価値のありそうなものは持ってない。


「よし、問題なしだ。ようこそ冒険者の町、オダワラへ」




 門をくぐると、中世のような街並。門から続く道は舗装も石畳も無いけど、整備されてる感じはする。今日寝る場所を取り戻す事を考えたら、まずは遺骨返還。お礼が出るならなお良い。冒険者ギルドへ行こう。


「冒険者ギルドに登録しよう。ハコネも一緒で良い?」

「別に構わんぞ。あのギルドは無害そうじゃからな」


 通りに居る人に話を聞くと、ギルドは直ぐ見つかった。弓矢のマークの下に、ギルドと書いてある二階建ての建物。日本語?


 中に入ると、カウンターと掲示板。掲示板を見ている人が数人。

 見回していると、カウンターにいる女性から”おいでおいで”される。


「お嬢ちゃん、ギルドには何の用かな? 何か依頼?」

「冒険者登録と、旅先で見つけた遺骨の引き取りを」


 遺骨と聞いて、掲示板を見ていた人が振り向く。


「登録作業を先にやりましょう。この用紙に名前を書いてください。鑑定は奥の部屋でさせていただきます」


 サクラ、ハコネと書く。書いたら奥に案内される。そこには木のイスとテーブルがあるだけ。受付さんの向かい側のイスに座らされる。


「それでは鑑定を行います。鑑定では、名前とレベル、種族に職業、あと個人を特定する情報を読み取ります。個人を特定する情報は一般には馴染みが無いでしょうが、体内の魔素の特徴を記録します。個人の特定に使えますので、犯罪者が逃げてもこの情報で手配が回り、どこの町でも捕まえることが出来ます」


 それは便利な仕組み。その情報を使えば、名前を変えようが魔法で姿を変えようが、ちゃんと個人を特定できる。どこかの国も欲しがりそうなシステムだ。


「サクラさんですね。レベル21、種族は人族、職業は無職。そちらはハコネさん。レベル9、種族は人族、職業は無職。お二人とも、間違いはありませんか?」

「はい、合ってます」

「うむ」

「それでは、証明書の発行は明日になりますので、明日取りに来てください。それから遺骨の件、今から担当が来ますので、そのままお待ちください」


 受付さんは書類を持って奥の部屋へ。


「遺骨、今のうちに出しておくよ。部屋を見られたら面倒が増えるかもしれないし」

「そうじゃな。すぐやるか」


 部屋に骨の山を積み上げる。何人分あるのか分からない。




「俺がこの 何だこの数は!」


 受付さんと一緒に奥から出て来たゴツいオジサンが、自己紹介し切らない内に良いリアクションをする。


「すまん、俺はビリー、オダワラ冒険者ギルドのマスターだ。これは一体何があったんだ?」

「西の山中でスケルトンの群れに襲われました。遺骨は回収して持って来たんですが」


 ギルドマスターはあまりの骨の多さにあっちを見たりこっちを見たりと忙しない。受付さんは冷静に骨を見て回ってる。頭蓋骨の身を手に取ってるので、何人分か数えているのかもしれない。


「西か。行方不明の者と照合させよう。家族が行方探しを依頼しているものがあれば、報奨金も出る」

「それでは、遺骨を鑑定してリストと照合します。結果は明日になりますので、証明書をお渡しする際に報奨金もお渡しします」


 これで部屋で寝ることも出来る。お金も入れば言う事無しだ。


「ところで、これだけの数を二人だけで倒したのですか? 少し見ただけでも、お二人よりレベルが高い方も混ざっているのですが」


 鑑定は、骨になっても名前、レベル、その他情報が分かるらしい。


「主に私が倒しました」

「レベル21でこいつらを? どんな奥の手を持っているのかギルドは探らん。ただ、この話は遺族を通じて広まるだろうから、怪しむ者は出るだろうな。なんと答える?」


 レベル21は低すぎたのか。レベル35のスケルトンとか居たんだっけ。自称レベル40とかにすべきだった。


「サクラは、スケルトンと戦うのは得意なのじゃ。故郷の村でスケルトンを復活するたびに倒すを繰り返しておったからな。スケルトン一筋でレベル21、スケルトンならレベル50のでも倒して見せる、そんなスケルトンキラーなんじゃ、こやつは」

「スケルトン特化か。このレベルでここまで出来たって説明は、ぎりぎり納得が行くな」


 ハコネの嘘八百。納得するのか、ビリーさん。


「まあ嘘だろうが、口裏合わせはしておいてやろう。で、その代わりなんだが」




 裏手にあるあまり広くないスペース。訓練場だそうだが、ここで腕を試すのだそうだ。


「お手柔らかに」

「あれだけのスケルトンに襲われて無事な奴に、手加減がいるとも思えん」


「よし、来い」


 来いと言われたので走り込み、訓練用に柔らかい素材で作られた杖を打ち込む。手で受けようとして、それをやめて避けるビリー。


「おおっ!」

「えい」


 杖の底と先で攻撃を加えつつ、足払いも入れて回避の邪魔をする。


「いや、おい、どうなってんだ」

「何がです?」

「お前、速過ぎるだろう。レベル50でも此処までならん。ありえん」


 ちょっとやり過ぎだろうか。少し手加減しないといけないかもしれない。


「じゃあ俺からも行くぞ」


 ビリーは布を巻いた木刀。当たると痛そうだが、これなら避けられる。避けにくいのは腕で弾き、一撃も加えさせない。


「やはり、お前の素早さは達人の粋だ。これならあの成果も納得だ」

「もういいですか?」

「ああ、充分だ」


 ビリーさんの体からは湯気が登ってる。冬の寒さの中でもそれだけ温まる様な激しい運動だったことを物語る。


「でもお前、魔法の方がメインなんだろ?」

「なぜですか?」

「その魔法使いですと言わんばかりの服装だが、まさか、欺いて奇襲を掛けるためか?」


 そういえば、ゴスロリを着てるんだった。魔法使いに見えるらしい。


「魔法も出来ます」

「遺骨、サクラの空間魔法で運んだのよ」

「あの量ならそうだろうと思ったよ」


 空間魔法ってのは一般的なのか。これからはそれで説明しよう。




 ギルドマスターからの用事も終わり、受付さんに声をかけてギルドを出る。

 誰にも見つからない場所でニートホイホイしたい。町外れの人目につかない場所でニートホイホイした。



ーーーー


 その夜の某所にて


「そんな事があるのか? イーリスが鑑定をした上に、最新の回避手段にも対応した鑑定器でも調べたんだぞ?」

「俺が手合わせしたが、どう見てもレベル80以上だ。解明しないと、悪用されたら秩序が保てん」

「何か口実を付けて、もう少し探ってみるか」


 早速、波乱を招きつつあった。


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