3-3 失われた僕を探して ちょっとジェラシー
「サクラさん! 今までどこに!」
「ご無事でしたか」
3日後、待っていた二人がついにやってきた。
つばの広いとんがり帽子に黒いローブという魔法使いアピールの強いマルレーネ。
ハンスは剣技メイン? 動きやすそうな出で立ちだ。
10年の歳月を最も感じさせる二人。小学生から高校生への変化だし、大きく変わるのは当然だね。
「サクラさんが無事って事は、ハコネさんも無事なの?」
ちらっとハコネを見ると、お主から言うのじゃというジェスチャー。
「マルレーネちゃん、実はね」
「待って」
急に背を見せ、頬をパシパシやって振り返る。気合を入れないと聞けないと思ったのだろう。
「よし来い」
僕はハコネの後ろに回り、両肩に手を置き前に押し出す。
「これがハコネです!」
「えっ!?」
予想と違う答えに、固まるマルレーネ。
そして、プルプル震えて、顔が真っ赤になる。
「何バカなこと言ってんのよ! 私だって覚悟を決めて聞こうって言うのよ! ちゃんと言いなさい!」
「姉さん、落ち着いて」
「ずっとハコネさんの事好きだったのに! それを連れてっちゃって、そして殺されちゃったって聞いた時、サクラを恨んだのよ。お父さんやお母さんにそうじゃないって言われて、せめて仇討ちはしたいからって訓練して、なんとかここまで来て。それなのに、一人で生きて帰って来たですって!? それでこれがハコネ? 冗談じゃないわよ!」
掴みかからんばかりに怒るマルレーネ。
でも、そうじゃないかとは思ってた。マルレーネは青年のハコネの事を好きなんだろうなって。
そうか、僕がハコネを奪ったって思われてるのか。確かにこの子の立場ではそういう事になるね。もうちょっと言い方があったかな。
「いや、我がハコネというのは、本当の事なんじゃが」
「コレのどこがハコネさんだって言うのよ!」
「ほう、我を捕まえて、コレか。そうか、そうか」
ん?
「おねしょを水の魔法に失敗と誤魔化したり、おねしょを火の魔法で乾かそうとして布団を焼いたり」
ビクッとするマルレーネ。
「新しい魔法を発明する夢は叶ったのかのう。エターナルフレ」
「ストップ、ストップ!」
「ハンスは、そう言えば」
「俺は信じます! 言わないでいいです!」
飛び火を急ぎ消火するハンス。
「本当にハコネさんなの?」
「思い出話が足らんか?」
顔は赤いままだけど、プルプルしてるけど、目元にも変化が。
その後は会話にならなかった。会いたかったとか早く言えとか言ってる様だけど、大部分は何言ってるか分からない。でもハコネには分かるらしい。
「心配を掛けてすまんかったのう。語りたいことも沢山有るじゃろう」
ハコネは彼らが生まれて物心付いた時には近くに居た存在だったからね。熱海往復一緒に居ただけの僕との扱いの差は仕方がないけど、ちょっと寂しい。
部屋に移動してテーブルを囲む。重ねた歳月の差でちょっと距離感を感じて、僕がお茶を淹れる。
二人はハコネと僕の仇討ちを目指して修行していたそうだ。マルレーネは上級魔法までマスターし、ハンスは剣技を磨いていたのだとか。
レベルはマルレーネが48、ハンスが46。小田原のダンジョンに一緒に潜った頃のギードさんやイーリスさんと近い。
「ハコネさん、サクラさん、私達とパーティーを組んでください」
マルレーネが僕らに頭を下げる。さっきまでとのギャップが。
「知らない所でまた何か起きてたりとか、嫌なの。一緒に行きたい」
「俺もです。二人の仇を取ることがこれまでの目標でした。二人が生きているなら、もうその仇討ちはやめです。次の目標は、二人がやりたいことを一緒にやることです」
二人が一緒に来るとなると、野営でニートホイホイが使えない。それを考えるとやりにくくはなるけれど、どうしようか?
「姿が変わった以外にも、我らには山程の秘密がある。それを守れるか?」
あれ? ハコネ、二人は巻き込む路線?
「ある時は神とも交渉し、またある時は神と戦う。ある時は魔族の食べ残しを食い、またある時は男と風呂に入る」
前半が壮大だけど、後半は矮小。でも全部僕らがやったことだ。食べ残しはハコネがカレーを食べただけでしょ。
「そんな道中じゃが、厭わずついてくる覚悟はあるのじゃな?」
「行きます」
「俺も」
二人がどれ程の覚悟を持ったのか分からないけど、一緒に動ける仲間になってくれるのなら、楽しくなりそう。僕はここでハコネ以外との繋がりが薄いから、仲間が増えるのは嬉しい。
「そうか。では二人の力を試そう。我らに付いてくるに相応しい力が無くてはな」
ギードさん一門が訓練していた場所を借りる。ハンスの剣は訓練用の物に交換した。
「準備が出来たら、掛かって来て良いぞ」
すぐにハンスが動き、マルレーネとハコネの間に入る。魔導士を敵の攻撃から守るのが彼の役目か。
「行きます」
ハンスはハコネに接近するが、ハコネは動かない。動かないハコネを狙ってハンスが打ち込んだけど、ハコネは最小限の動きで避ける。
「スピードアップ、スロウダウン」
マルレーネが魔法を使ってハンスの動きが速くなったが、ハコネの動きは変わらない。
「レジスト? だったら、クリエイトウォーター、続けてフリーズ!」
ハコネの足元に水たまりが出来、すぐ凍った。しかしハコネの動きは落ちない。
「速く動けば滑るようにか。良い考えじゃ。攻撃魔法でも良いぞ?」
「ではお言葉に甘えて。ホーミングフレイムアロー!」
その名の通り炎の矢がハコネに向かい、それをハコネが避けても反転してハコネに向かって行く。魔法がノーコンな僕も出来たら便利そうな魔法だね。
「さらに追加で、ホーミングフレイムアロー、ホーミングフレイムアロー、ホーミングフレイムアロー!」
「それだけ出すとは、頑張るのう。それでは、デコイ! デコイ! デコイ!」
戦闘にこれを使うのは初めて見たけど、なるほど。炎の矢はおとりに向かう。何も無いので突き抜けるが、その後の矢はまたおとりに向かう。常に近くにあるターゲットに向かう様で、必ず本人より近い所におとりが配置されていて、ハコネには向かわない。必要な所におとりを追加しながら。
そんな器用な制御を、ハンスの攻撃を避けながらやってのける。
「なるほど、力は見せてもらった。これだけ出来れば問題なかろう」
「魔法はレジストされるし、ハンスは手も足も出ないし、散々でした」
「あれはレジストではないぞ。それもこれから教えることと関係しとるんじゃ」
偽装に使ってるデコイは、鑑定だけじゃなく他の魔法も代わりに受け取ってくれる。そんな、部屋に戻っての反省会。
「秘密は色々あるけど、何から明かそうか?」
「そうじゃな、我らの不可視デコイを消してじゃな」
今まで付けてた偽装を解除。これでレベル101の女神になってるはず。
「魔法のレジストに見えたのは、不可視のデコイが最初から有ったからじゃ」
「不可視のデコイ? 聞いたことありません」
「まあこれは特別じゃ。今から知ることと関係しておる」
普通は使えないものだからそうだろうね。
「ハンスは鑑定が使えるのじゃろ? 我とサクラを鑑定してみると良い」
「はい…… 二人共、レベル101の神族です」
驚くマルレーネ。レベルってのは100を超えないと言うのが普通の認識だからね。
「我とサクラは、女神じゃ。二人共この地域を担当する守護女神じゃ」
「女神様って、町の神殿に祭られてる?」
「オダワラの女神は、我の妹じゃ」
「あの女神様のお姉さんなんですか!?」
これはさすがに2人とも驚く。
「我はお主らの前に男の勇者として居ったが、今の姿が本当の姿じゃ」
「以前のハコネの姿は、元々僕の体なの。入れ替わってハコネの体になってたんだけどね」
「サクラさんが男の人で、ハコネさんが女の人?」
「今となってはどっちも女神じゃ」
泣きそうな表情を見せたかと思ったら、赤くなって僕の方を指差すマルレーネ。
「男の人なのに、母様や私、ハコネさんと一緒にお風呂に入りましたよね」
痛い所を。
「だから覚悟はあるかと聞いたじゃろう。ある時は男と風呂に入る、と」
「その事だったんですか?」
ハコネがちゃんとフォローしてくれる。でもマルレーネが覚悟が有っても、イーリスさんに言われると辛い。
「まあその時は女だったんじゃし、あの体で男風呂に入らせるわけにもいかんじゃろう」
「それはそうですけど」
もう一つ大事な話をしないといけない。
「僕らの旅の目的なんだけど、元のハコネの姿、勇者の体についてなんだ」
「あの体は、不老不死なのじゃ。ところが龍神と戦った結果、我はこの体で復活してしまい、あの体は行方不明なのじゃ」
「体が行方不明? アンデッドにでもなったんですか?」
おなじみスケルトンとかそういうのを想像したかな?
「いや、元の姿のままで霊魂だけが抜けた状態だったはずじゃ。起こり得るのは、悪霊がとりついて悪さをすることじゃ。レベル80の勇者の力を持ったままでな」
「それは大変じゃないですか。それに不死身なんですよね?」
まだ発見時の対策は無いんだよね。どうしようか考え中。
「見つけて回収したいのじゃが、どこかでそんな勇者の話を聞かぬか?」
「東はヒラツカ、ハダノくらいまでは行ったのですが、そこでは聞いたことはありません」
「まずは情報収集だね」
勝手に情報が届くくらいに悪名が轟いたら色々手遅れかも。そうなる前に見付けられたら良いのだけど。
それから、4人で仲間として行動するなら、もっと近付きたい。特に僕は姉弟とも関わりが薄かったから、親交を深めたい。
「一緒に旅する仲間になるなら、僕とハコネみたいに呼び捨てにしよう」
「いいの?」
「そういう遠慮はなくすのじゃ。我とサクラの様なのが一番やりやすい」
生まれた時からいる人との接し方だから抵抗あるだろうけど、壁を無くしていきたい。
さて、親交を深めると言えば、まずこれだね。
「さて、親交を深めるということで、4人で温泉に入ろう」
「「「えっ!?」」」




