エピローグ Fly Me to the Mars
『おはこね、なのじゃ。今日も湯加減は良い塩梅。ハコネと~』
『今日も姉さんは可愛い。オダワラです』
ハコネとオダワラさんの、いつもの変な番組が始まる。
特定の層には刺さるというこの女神姉妹が行う番組は、視聴人数60万人超とオンラインではかなりの人気番組。
『今日は100年祭を私達ハコネ5が見て回った話をしましょう』
今日はハコネ、オダワラを初めとしたハコネ5でお祭りに行った話をするみたいだ。
ハコネ達が戻って来て、100年。
電気、テレビ、IT。そんな文明の進歩を、この世界では早足で成し遂げてきた。
神様は見えない物というのが確定した世界で、神様達は民衆との新しい交流方法を探してきた。
色々試した中で、人が作ったマイクは彼女達の声を拾えず、ラジオに声を乗せるのには失敗。同じくテレビカメラにも写らなかった。
しかし、技術に興味を持った女神達が苦心の結果、声の代わりに魔法によってマイクを振動させる方法で、自身の『言葉』を取り込むためのマイクの作成に成功。そのマイクで取り込まれたデータを人間の機器でアナログに戻せば、人間にも聞こえる音声になる。そうやって、言葉を伝える方法を得た。
そしてさらなる進歩は、彼女達が魔法を組み合わせて実現した。物理魔法を使い人形を動かすことで、自分の身体の代わりに人形を動かす。音声と映像が組み合わさり、テレビ番組が作れる様になった。
最初は人形を動かしていたけれど、やがてその人形をモーションキャプチャーしてアバターを動かす様に進化。キャラクターが動いて話す事が出来る様になり、まるであの世界のバーチャルライバーの様に振る舞える様になった。
アバターの語源はサンスクリット語で神の化身だそうだから、これぞ本物のアバター。
スタジオになってるハコネの空間では、ミシマさんが放送を手伝っている。お互いの放送を手伝うのが彼女達のルール。
モニターに映るのは、ハコネとオダワラさんのアバター。デザインはリンとみさきちで、ハコネはほぼ実物のまま、オダワラさんは見た目年齢を下げて、ハコネの妹と言われて違和感が無い感じに。
こうなってくると、民衆にはこちらのデジタルな姿が神様の姿で、本物をもし見ることが出来てもオダワラさんは気付かれないだろう。ハコネはほぼそのままだけど。
そしてそんな女神達を、僕は部屋のベランダから眺める。
元の身体で。
ハコネが戻って来たて、他の女神が戻ってくることに願い事を使った後のこと。
次の願い事として、2つ目なのに3つ目だと言う奇妙な願いは、何?
「え? なんで!?」
さっきまでハコネの前に居たのに、今はベッドに居る。と言うことは……
「あの時の我もそうじゃった。これはお主が願った、3つ目の願い。それを元に戻した訳じゃ」
当時僕が願ったのは『僕とハコネを入れ替えて欲しい』というのだった。
ハコネが願ったのは、僕が元の身体に戻る事。とは言っても、見た目は同じながら、本来はジョージBが使うはずだった身体。また僕の部屋に持って帰りベッドに寝かせられていたので、ハコネの願い事が成就すると同時に、僕の意識はそっちへ飛ばされたのだ。
「2番目は、お主が最初に願った事。そなたの身体が不老不死となる様に、としておこう。末永く、我らと共にあれ」
じっと手を見る。ハコネサイズの小さい手ではなく、一回り大きな手。
ハコネを見る。満足げに頷いているけど、何をしたいんだ?
「そなた、最初は4番目の願い事で、戻る気じゃったよな? 他に願い事を使い切って、果たせなんだが」
ハコネは僕が果たせなかった願いを代わりに達成してくれたのか。
「さて、次は我がやりたい事をするとしよう」
「ハコネのやりたい事に使うのも、良いと思うよ」
「よし、了解を得たので、次の願い事は……」
なぜかちょっと顔を赤らめるハコネ。
「女神も子を成せる様に」
ん?
「それでこうなったのか。呼び名はどうする? この見た目で、サクラは無い」
「固有名詞扱いの魔王が居るんだから、大魔王?」
「暫定的に、さくらお、ね」
身体が変わっても問題無く使えた外交で、長尾やリン達を呼び出して会合中。
説明するべき事が多すぎて、結構長い時間話した。
それぞれがやりたい事をやり始めてて、その行く末への期待から表情も明るい。
ちなみに『さくらお』は、検索するとイケメン女子が出るのは何故だろう。城娘って何だ?
外交を終えて戻って来たけれど、ハコネが幼児の手を引いてる。
「ハコネ、その子は?」
「我の子じゃ」
その子を見る。ハコネを見る。その子を二度見する。
「私の子でもあるのよ」
そしてニコニコしてるオダワラさん。
女同士、姉妹、即日出産、もう幼児。色々と情報の大渋滞。
「我らの身体は、意識に付随して作られる。新しい意識が生まれたなら、胎児や赤ん坊を経る必要は無かろう」
「情報と情報が掛け合わされて新しい命が生まれるのなら、姉妹も性別も関係ないですよね」
世界のあちこちに残る神話では、兄と妹から子どころか、自らの肋骨から出来た存在が配偶者だったりするから、何だろうとアリな気もするけど。
「さて、次はお主に期待して居るぞ」
「何を?」
「お主の子じゃ。お主が望むじゃろうというのもあるが、それに期待して、元の身体に戻したのもある。そうせぬと、無理じゃろう? お主の子がどんな未来を作るか、楽しみじゃ」
その為か! 戻したのは。
子どもか…… 確かに、相手がお父さん、自分がお母さんってのは、無理。
そんなやりとりがあったのが100年前。
ハコネとオダワラさんの子であるハヤちゃんは、情報を吸収するごとに成長して、もうハコネの背丈を抜いている。
ハコネ5なるユニットのメンバーでもあり、魚料理とそれに合う酒に詳しいハヤちゃんとして人気がある。
「お疲れ」
「メンバー100万人まであと少しじゃ」
「大事なのは数字じゃ無いです。信仰に繋がらないと、私達の力が使えませんし」
ハコネよりハヤちゃんの方がしっかりしてると感じるのは何故だろう。後から生まれた神様であるハヤは、前時代に貯めた信仰力という貯金が無い為、力を欲している。
配信する神様は、信者なのか何なのか分からない人達を通じて、少しずつ信仰力を蓄えられる。これがIT時代の宗教。そういえばどこかの法皇様も動画配信で信者に語りかけてたっけ。
時代に敏感なハヤちゃんが居なければ、この配信事業も無かっただろう。
他にも神様の間にベビーブームがあり、沢山の新顔女神達が登場したけど、問題がある。
ハコネ達の世代は、領土に関係している。しかし次世代は貰える領土が無く、電脳世界を開拓したり、惑星探査だったり、テラに行って布教したり。神様が増えた分、テリトリーが増えないと困るのだ。
「それで、面白い話があるって事じゃったが」
今日は大発見があって、リン達ともこれからの事を話し合ってきた。その結果について、ハコネ達に説明するのが今日の用事。
「難しい話は抜きにして簡単に言うと、行ってみたい星が見つかったんだ」
「ほう、それは、どんな星なんじゃ?」
「故郷かな」
太陽があり、その周りを小型の惑星が4つ、その外を大型の惑星が5つ。3番目の星がハビタブルゾーンにあり、酸素分子の存在を示すスペクトルが見えている。違う点は……4番目の星にも酸素分子がありそうな事だけど、その位の違いは許容範囲だろう。
「それは我も行ってみたいのう」
「新天地があるなら、そこの神様とも交流したいです。新しい可能性を探せそう」
交流という名の、異星の神による侵略。いや、みんな良い子だけど、良い子なりの侵略をするんじゃ無いかと。異星の神がやって来て、Youtubeのスパチャを稼ぐ、とか。
そんな神様の領土拡張の問題はともかく、いつか恒星間航行が可能な宇宙船が出来たら、あの星へ行ってみたい。
子や孫の世代には、宇宙技術を知ってる転生者が現れるだろう。もっとすごい世界からの転生者で、ワープ航法を引っ提げての登場って可能性もある。
または、僕らの扉を解析して、自力でワープを開発するかも。
そんな星の上の時代から、星の外の時代の始まりを感じる。
僕らのHistoria Civilizationは終わり、僕らのInterstellarisが始まる。




