11-26 科学と魔法の相撲戦
かたや武田丈二、武田丈二、こなた武田丈信、武田丈信。そんな行司のふれが聞こえそうな、対決前の風景。
場所は国技館では無く、大阪城の西の丸に当たる場所の広場。見守るのは、私と丈信さんに仕える人が3人、そしてラジオの関係者。即席の実況席みたいなのが作られ、私以外はそこにいる。
そして私はと言うと、行司役として広場に立っている。実況席に近いところに立って、対決する2人を見守る。
どうしてこうなったのか? それは「どちらが統率者に相応しいか、勝負する」なんて事になったから。
統率者の力量を測るための腕力勝負、と言う訳では無い。自らが統率して創り上げた物は、何でも使える。ただし他の人を巻き込むのは無し。それをやると、軍隊と軍隊で戦争をすることと同じになってしまう。
丈信さんは彼らの技術を結集した赤い甲冑を纏い、陸上型ゴーレムを従えつつ、周囲の低空には浮遊ゴーレム戦闘機を飛ばせている。それに対して武田丈二Bは、見たところ何も変わらず、手に武器さえ持っていない。だけどもそれこそが、彼の本気の構え。手の内を見せずに、突然アイテムボックスから武器を取り出して攻撃する。その手でサクラは1度やられてる。
ルールは広場の外側へ出るか、足の裏以外が地面に付くか、降参したら負け。土俵を広場に置き換えた相撲と思えば分かりやすい。武器も魔法も何でもありだけど。
行司役を私がやるのは、立候補した訳では無く、私の立場を説明したら相手側から推された。正直なところ、巻き添えになっても死なない、というのが最大の理由。あと、丈二Bを応援する理由もない。こいつ負けた方が、世の為とすら思う。
巻き添えを食らって大変な事になるのを防ぐ為、シスターズを呼んで合体した状態で事に当たる。この状態なら防御魔法で自分の身だけで無く、実況席を守る余裕も出来る。
対戦する両者、実況する人達の準備が整ったという事で、実況席からの合図で音楽が流れ始める。この音楽はどこから? メロディーはどこかで聞いたような…… あ、あのゲームの外交画面で流れる、国歌かな?
その音楽が終わったら、銅鑼の音を合図に、ついに始まる。
見える訳じゃ無いけど丈二Bは物理魔法を行使して場外に押し出そうとしている模様。それに対して丈信さんは陸のゴーレムで物理的に押しつつ、浮遊ゴーレムを突撃させて、これらも押し出そうという作戦に見える。派手に撃ち合われるより周りに被害が出ないからありがたいかな。
丈信さんは攻撃に防御にとゴーレムを駆使して、文字通り押しているように見える。それに対して、丈二Bが単純な行動しかしてないというのが、まだ何か手の内を見せていない感じがする。
「先代は押されているのでしょうか?」
「上様が従えるゴーレムは力に特化した機種ですので、あの程度で留めているだけでも先代の力は驚異的です」
「先代はあえてゴーレムと力比べして見せているのでしょうか」
実況の人が解説するのが聞こえる。
ゴーレムの足下が重量でめり込んでいて、そのゴーレムは前傾姿勢。相当な力が掛かっていそう。
その足下に異変が起こると同時に、ゴーレムが前のめりに倒れる。ゴーレムの足下が濡れている。押されているように見えて、同時に水の魔法を仕掛けていたのか。
「おっと、上様のゴーレムが倒されました!」
その実況では、転倒だという事が伝わらないけど、余計な言葉を足す間も無く展開が進む。
「行けっ!」
陸上のゴーレムを立て直す時間稼ぎを狙って、浮遊ゴーレムが丈二Bへ突進する。
しかし浮いてるゴーレムでは物理的な力で押しづらいから、掴まれて投げ飛ばされてる。
それでも時間稼ぎ出来て、陸上のゴーレムは姿勢を回復して、再び丈二Bを抑えに行っている。
「お前のゴーレムは中々だった。次はお前の力を見せてみろ」
そう言うと、丈二Bに立ち向かっていたゴーレムの上半身だけが後ろに倒れる。立ったまま残されたゴーレムの下半身は、大きな金属板が載った状態。アイテムボックスから取り出す金属板をゴーレムの腰に出現させた、前にも使ったことがあるアイテムボックス応用技。
対する丈信さんは、前に出る。手にはどこからか取りだした、身長の半分もありそうな槌。
「力学と魔法の融合で実った、自慢の槌です。人が神に挑戦するための」
「面白そうなハンマーじゃないか」
ハンマーを振り回すと、それを持つ丈信さん予想外の動きをする。何らかの物理魔法を同時に発動して、動きを読みにくくしてる?
不思議な動きで迫り、丈二Bを水平に殴り飛ばそうとするも、ぎりぎり避けられる。
「その動き…… 質量可変か」
「あれだけで見抜くとか、どういう頭してるんですか」
「その手の魔法は、要塞を飛ばすために調べ尽くしたからな」
重量を減らして軽くしたハンマーを振りかぶり、勢いがついたら重量を増して攻撃したり、ハンマーに振り回されるようにして自分が移動したり。
相当に訓練を積まないと、うまくコントロールできなさそうな、トリッキーな動き。丈二Bはどうするのか?
「これならどうだ?」
丈二Bの魔法で、またしても足元に水と氷。
しかしこのハンマーと舞うような動きは、足を踏ん張らずハンマーを軸として動くため、足元が凍ろうがあまり関係ないみたいだ。
ゴーレム切断に使った手を使えば、丈二Bは勝てる。しかし、どうも倒せばそれで良いと考えているのでは無さそうに見える。
どれだけの技術を作り上げたか、それを確かめたいという様だ。
そして丈信さん側もそれを分かって、次の手を繰り出している。
「この程度では、俺を倒せんぞ」
「では次は、これを」
そう言うと、切断されたゴーレムと空中に居たゴーレムが合体し、人間の背丈から5倍はあるサイズの巨大ゴーレムになる。
ただ大きさで言えば、これと似たようなのはこれまでに見たことがあるような……
「そして、これが合わさる」
そう言うと、振り上げたハンマーの勢いで飛び上がり、ゴーレムの頭の上に乗る。
そして、ハンマーをゴーレムに叩きつけると、ハンマーはそのままゴーレムと一体になる。
「巨大ロボットはロマンだが…… それだけか?」
「いや、こうなるんです」
ゴーレムは丈二Bに向かい走ると、質量可変のハンマーの力がゴーレムに備わったように、異常な動きをする。
慣性を無視したジグザグで側面に回り込み、その腕に丈二Bを捕らえた。
「こんな物は、こうしてしまえば」
前と同じく金属板を出現させて腕を切り落とすが、丈二Bを捕らえたまま腕は落ちる。
「簡単には出られないでしょう? 質量だけでなく、強度も変えてます」
「そうしないと、自重で壊れるだろうからな。うまいこと出来てやがるな」
掴む指のところに金属板を出現させて切断。バラバラになった指はさすがに丈二Bを捕まえていられない。
抜け出した丈二Bは、掌で来い来いというジェスチャー。次にどんな攻撃が来るのか、楽しみで仕方がない様子。
「では、次はこれで」
ゴーレムから打ち出される散弾をまた金属板を出して受け止めるも、散弾を受けた金属板が押し戻される。速度を保ったまま質量が増えるってのを1番役立てられる方法。
「これ、使いてぇなぁ。やれる事が多すぎて、ワクワクする技術だ」
「そんなことを言ってる間に、終わってるじゃないですか」
「うおっ、しまった!」
えっ?
そう言えば、押された丈二Bは片膝をつき、地面に手をついてる。
「考え事をして、勝負に集中しないからです」
「なら、もう1回だ!」
「もちろん、ダメです」




