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11-25 武田の流儀

 今回は武田丈二Bと私が行くという、とても珍しい組み合わせ。足利家で接点があったかと言えばほとんど無く、サクラを介しての繋がりばかりなので、不慣れな感じ。

 サクラがやって来て、私と武田丈二Bで行ってとお願いされた時には「何故私が?」と思ったけど、私じゃ無いといけない理由がある。サクラの空間と私の空間が廊下経由で繋がった今、行った先で私が扉を出せば皆を呼び出せる。その点でサクラだと、行った先で扉を出す訳に行かない。サクラの扉がこちらに移動してしまうと、リンがこちらの星に帰る手段が無くなってしまうから。

 そんなわけで、不本意ながら私が行くしか無い。


 これから会いに行く相手は、彼の息子で武田丈信という。文明再興同盟という名で反乱を起こした張本人。

 武田信玄は父に謀反を起こし、信玄は息子に謀反を起こされかけた。武田丈二Bも、私の兄(・・・)に対して謀反を起こし、息子に起こされた。因果応報。


 兄の件は置いて置いておこう。

 そもそも丈信さんが謀反を起こした原因は、科学を捨てるという決定へ不服。理由があって仕方ないことだと説明したそうだけど、結局こじれてこうなった。

 そして星が世界を渡った今、科学を進められない理由はなくなった。今度は科学を進めて良いのだから、もう一度味方になれ、って。


 でもそう言われたって、味方をするだろうか。決定への不服だけでなく、それは最後の一押しで、積もり積もった反発があったのだとしたら? そして、謀反を支持する仲間が居て、もう後戻り出来ない状態だったら?

 そもそも、一度科学を捨てさせたリーダーを頂かなくても良いくらい、新しい国として出来上がっていたら?

 そうなった時、彼らは親子で殺し合うの? 戦争になるの?


「相手は丈信だ。奴は馬鹿じゃ無い。力学も理解するし、むしろ俺よりも科学を分かっている」

「分かることと受け入れることは、別じゃ無い?」

「……完全に受け入れることが出来ないとしても、利害が一致する部分では協力出来るだろう」


 そんな打ち合わせを済ませ、西の空へ旅立った。




「供を1人連れただけで乗り込んで来るとは、さすがの豪胆さ」

「俺より弱い者を連れてきて、盾にするような事は好かん。それにお前と話が出来れば、それで良い。人数連れてくる様な話では無い」


 大阪城の位置から少し下った場所にある、彼らの政庁の建物群。

 多くの市民が住む街自体はもう少し西にあり、政治の中心と経済の中心が数km離れた2つの街として独立している。


 それらを作ったのは、ここにいる武田丈二Bだったらしい。西へ進出する際に使おうと整備した拠点だったのだとか。

 この建物は、立派だけど豪華という事も無い、実用性重視の頑丈な石造り。そこの1室で、親子向かい合って話す。お供扱いされた私は、少し離れた席に座り、2人の様子を眺める。他には丈信さんに仕える人が並ぶけど、彼らも私と同様に少し離れた席に座ってる。

 丈信さんは30歳くらいの見た目で、太くも細くも無く、少し丈二と似た感じもある。


「この度の謀反のこと、目的は理解している。そして状況が変わり、その謀反で成し遂げようとした事を、受け入れてやれる時が来た。これからは科学を存分に進めて良いし、むしろ奨励する。ここへ来たのは、それを知らせる為だ」

「いいえ、謀反の目的は、科学を進めることだけではありません。神の一声で政治が変わる様な、理不尽な事をさせず、人の手に決定権を取り戻すこと。神の力を使わなくても困らない為に科学が必要なのであり、科学は目的であって手段では無い。そして…… 神無き世を作らねば、いつかまた元に戻されてしまう。神に私の考えが受け入れて貰えるか否か、それさえも考えずに済む事が望み」

「なるほどな。誰にも(はばか)らず、世の中を俺が望む形にする為、俺は先の将軍を倒して、政権を奪った。そして神を頼らず、人の手で動く世を作ろうとした。お前がやろうとしている事は、俺がやろうとしている事と同じ。それに異論は無い。あとは…… それを成し遂げる者に、誰が相応しいか。それだけの問題だ」


―――


 ジョージBとみさきちが上手くやってくれる事を期待しつつ、僕らは街頭ラジオを設置しようと画策中。

 なぜラジオの普及活動なんてのをしようとしてるかというと、このラジオを介して民衆にお願いを伝える為。民衆が受け取ったはずの願い事の作用力を、女神に魔力として届けて欲しい。直接話しかけるだけでは、発信力が足りないと踏んだからだ。

 西の旧武田支配地域はラジオが普及してるので、反乱軍の放送局を使わせて貰えば話が済む。東にはラジオが普及していないので、足りていない地域には街頭ラジオを置こうという作戦。


 ラジオ受信機は空中の魔力を使う魔道具として設計されており、放送も単なる電波では無く、魔力が乗った良く分らない物になってるそうだ。

 装置をいじる系の作業は僕には無理なので、アリサ・マリ・スロにも頑張ってもらってる。家庭用のを街頭用にするために、音量を増す様に改造。


「ひかりで~ 包み込むように~」


 試し聞きすると、誰の歌声が聞こえる。


 発信機は以前使われていた物が小田原の城に仕舞ってあったので、それを貰ってきてマリが解析。エーテルがあれば使える事が分かった。発信器は1台あれば良いので、それを高出力化するために頑張って貰う。エーテルなら最高のを用意するから!


 僕は何をするかというと、出来た受信機を設置しに行く担当。扉を出す訳には行かないので、手で持って行けるだけになるけど、小田原から橫浜までの各都市に1台ずつ設置して戻ると、次はもう少し北寄りの町田や八王子方向へ向けてのルート。それも終われば、次は江戸まで持って行く。


 そんな風に、毎日1ルート。

 関東の各街道沿い地域については、その様にルート単位で設置して行ける。残念ながらそれより先は断念。隅々まで普及させなくてはならないのでなく、なるべく多くという感じなので、そんな感じで無理なく出来る範囲。


―――


「本人は任せた。教会は任せろ。建物から引き離す様に頼む」

「分かった」


 あの男のリスポーン地点は、ある村の教会。

 それが判明して、1つの可能性を試す事にした。この教会を運んでしまえば、リスポーン地点が変わるだろうかと。


「倒してもまた復活するとは、手に負えない……」


 わざと弱気そうな事を言い、少し押され気味に見えるように手加減して、この男が戦いを放棄しない様に誘導。そして押されている風を装い、少しずつ教会から離れた場所に戦いの場を移していく。


「もう諦めたらどうだ? 何度でもやり直し、そして強くなっていく俺に勝つ方法など、ある物か!」


 視界の隅にちらっとお兄ちゃんが見えた。大きな建物を持ち上げて、東の空へ飛び立つ姿が。

 作戦では、目的地にお兄ちゃんが着くのに1時間程度掛かる。それまでは私が時間を稼ぐ。




「そろそろ終わりか?」

「……この位で、そろそろ良いか」

「降参する気にでもなったか?」


 私に呟きを都合良く解釈した男がニヤリとするが、その笑みも気色悪いから終わりにして貰おう。


「準備は完了。茶番は終わりにして、眠って貰う」


 そこから一気に攻める。これまで我慢してた分を、一気に吐き出すかの様に。


「そんな、当たらぬ。なぜその様な速さを」

「これが本来の速度」

「くっ!」


 勝てないと思い逃げようと飛び経った男に対し、それ以上の速度で飛んで行く手を塞ぐ。


「知らなかった? 大魔王並みの私からは逃げられない。逃がす気が無い限り」




「お待たせ、待った?」

「デートの幼なじみに言われたい台詞だが、妹に言われるのも悪くない」


 念のために教会があった場所にリスポーンしていないのを確認して、待ち合わせ場所に移動。

 たまにやりたくなる待ち合わせネタ、ただし兄以外とやりたい、を済ませて、状況を確認する。


「何も見えない」

「そりゃそうだ。海面から恐らく4000mは下にある」


 お兄ちゃんと合流したのは、私達がいた島との間に有る広い海。そこが、教会を沈めた場所。

 リスポーン地点が海面下4000mの海中だったらどうなる? 呼吸が要らない人外ならともかく、これではリスポーンしても海面まで来るまでにダウン。


 作戦名、*うみのなかにいる*


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