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11-20 星と海

 天に浮かぶ巨大な魔法陣と影。夜の面で暗い地球を背景に、点々と光を放つ魔法陣。

 向こうの世界の地球を召喚する事に成功した…… はずだ。

 一刻も早く、様子を見に行きたい。何か問題が起きてないと良いけれど。


「一大イベントがあっさり成功して、何だか拍子抜けだな」


 長尾が気楽に言っているけど、リンは首を振る。


「まだ終わってない。軌道修正が必要」

「軌道? あれを動かすのか?」


 召喚をやり遂げて気が緩んだところで、リンが空を見上げながら、これからやるべき事を示す。


「あの魔法陣には、目的の位置まで地球を移動させる物理魔法も組み込んである。狙った位置で正しい速度でリリースしないと、この星とあの星で衝突の可能性がある」


 原始の地球に火星サイズの惑星が衝突するCG映像を視た事がある。それみたいな事が起きたら、両惑星は融けたマグマの塊になって、全ての生命は蒸発してしまう。そんな事にならないために、これからやる事が重要という事だ。

 結構有名な動画だったから、同じ事を思う浮かべたんだろう。微妙な表情で長尾がこちらを見る。


「大丈夫なんだよな?」

「やるべき事はやったし、多分」

「魔法陣の効果が失われなければ、問題無い」


 それを言うやいなや、まるでフラグだと言わんばかりに、魔法による攻撃を受ける。


「リン!」


 リンを狙い撃ちして来た。リンは…… 無事な様だ。

 この魔法、どこか遠くから狙ってきており、相手の姿は見えない。この世界で狙われる理由はいくらでもあるので、誰が相手なのかは不明。とは言え、これだけの事を出来る相手はこの世界にほぼ居ないため、予想は出来る。

 そう言えば僕が前回倒された後に、あの司祭というのを倒したのはリンだったそうだ。今回真っ先にリンを狙ったというのは、これもそいつの仕業か。


「奴か?」

「多分そう。癖が似てる。前よりも相当、力を増して戻ってきた」


 手の空いている皆が魔法を発動し、足下の地面に何重かの大きな円が描かれる。地面の円をさらに上へ伸ばした球面内に僕ら全員が入り、魔法の効果を最大限に生かそうとする。

 別の大陸での虐殺以降、ここしばらくの奴の行動をスライムで追跡してきた。それで得た奴の行動傾向から、巨大な魔法で遠距離から攻撃してくる事が予想出来ていた。この魔法は球面内に外からの攻撃を受け付けないための、結界のような物。積極的に攻撃して戦うより、まずは召喚関連を完結させるための時間を稼ぐ事に専念する。

 結界はダメージによって削られるが、複数人の重ねがけで多層になっているため、1枚破れても大丈夫。球面の外が熱で揺らいで見える程の魔法の奔流に包まれるが、びくともしない。これなら任せておいて大丈夫そうだ。


「この程度なら、何て事は無い。ただ、結界を出るのは止した方が良い」

「あっちの様子を見てきたいけど、任せといて良い?」

「私も見に行きたい」


 空を指さして、尋ねると、リンが頷く。リンが大丈夫というなら、大丈夫だろう。みさきちも一緒に来たいそうだ。


 さて、これまで出来なかった事を1つ試そう。


「ニートホイホイ」


 すると、予想通り、扉が現れた。

 これまでこちらの世界で、扉を呼び出す事は出来なかった。出来ない理由は定かではなかったけど、扉の向こうの世界はあちらの世界に有ったからじゃ無いかと予想してた。そしてあちらの地球を呼び出した今、この魔法が発動できるようになった。つまり、あちらの地球と一緒に、僕の部屋が有るハコネの空間もこっちの世界に存在する様になったと言う事だと思う。多分、ハコネも一緒に。


「じゃあちょっとだけ、行ってくる」


 そう言い残して、僕らは扉をくぐった。


―――


 2撃、3撃と攻撃魔法が来てから、攻撃が止んだ。


「どうなった?」


 魔力切れで攻撃を止めたのか、別の事をやろうとしているのか。ただ、あの威力の魔法だけに、結界を出た所で狙い撃ちされるのは避けたい。あれは、リン以外にはつらい物がある。


「私が見てくる」

「気を付けてな」


 妹頼みの兄という無様を感じつつも、余計な手出しをして邪魔をする訳にも行かない。魔法攻撃に対する耐性で大きな差があるのは確かなのだから。

 リンが結界を抜けて、魔法が来ていた元である浜の方向に歩いて行く。ゆっくりとした歩みで、向こうの出方を探りながら。


「なあ、そもそももう戦う必要も無いんじゃないのか? 軌道の変更が終わったらあっちに帰るために、この星を去る訳だし」


 武田が言う通りだろう。侵略者として迎え撃たれたが、それももう終わる訳だ。


「あの地球を呼び出せた以上、この星に居座る必要は無い。それで向こうさんが手出しをやめて、引き上げてくれたらそれでも良いのだが」


 そんな話をしつつ待つと、リンが戻ってくる。


「見当たらなかった」

「居ない?」

「そう。魔法が来た方向に居ない」


 攻撃対象になるのは俺達だろうから、他の場所に行っても仕方ないだろう。


「別の側から攻撃してくるつもりか?」

「俺達の結界が全方向かどうか、奴は知らない。裏側から攻撃してくる可能性があるが…… 俺達は急ぐ理由もない。このまま様子を見るか」


 サクラが扉を出した場所がここである以上、この場を動く訳にも行かない。俺達が移動した後、サクラが戻る為に扉を出せば、その時に彼女達は無防備。それは避けたい。


 何も動きが無いまま、時間が過ぎる。空を見上げても、あっちの地球が移動しているのか、見た目には分からない。

 リンが言うには、少しずつ移動して目的地となる約300万km先まで移動するのに、10日掛かる予定。その位離れても、あちらの地球で起きる潮の満ち引きは、月が起こしていたより少し高いと計算している。

 今はその目的地点よりかなり近い場所にあり、本来は双方の星に巨大な潮汐力が働くため、海面上昇に襲われる。そうなっていない理由は、あの魔法陣。あちらの地球を動かすための魔法は海水にも働くため、結果として双方の海面上昇を防いでいる。




 何事も無い膠着状態が続く事、数時間。

 次の魔法は、先程までと比べてかなり威力を増した物だった。ここまでの平穏は、魔力を貯めていたのか。

 そしてその魔法が放たれた先は、結界に守られた俺達では無く、空。


「何だ?」

「魔法陣が狙われた」


 すぐにリンが調べる。


「どうだ?」

「急ぎ修復が必要」


 魔法陣を構成するゴーレムは遙か高い高空に居るが、そんな遠くへも先程の魔法は届いており、ダメージにより魔法陣の機能が停止。


「もうすぐここも海に沈む。一旦山の上に避難して、そこからゴーレムの修復を行う」

「サクラ達に連絡は?」

「ゴーレム対策が先。それを私がやってる間に、やっておいて」




 急いで要塞に向かうと、既に水の浸食を受けていた。アリサ達と合流して、山に登る。この山は高さがあるので、水没は免れるだろう。


 奴は再び魔法陣に攻撃を加えた。それが自分に何をもたらすかも分からず、愚かな事をやっている。

 既に島の多くの部分は水没した。ここから見ると、奴は船から魔法を放っている。行って止めてくるか迷うところだが、それが奴の狙いかも知れない。


 リンが余ったゴーレムの素材を使って、不足分を作り始める。それを待つ間に、外交でサクラを呼ぼうとしたら、サクラから着信があった。


「海面が!」


 サクラは小田原に居る。幸運にもこの星に面した側ではない様で、引き潮の場所にあたる。海面が下がり海底が遙か先まで剥き出しという、見た事も無い景色が拡がっているという。


「すぐに避難させないと、同じだけの満ち潮が来る。そっちの事は、お前達に任せた。頼む!」

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