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11-19 ワイラスの空

 これは少し前の話。


「ここは…… どこだ」


 ワイラスは小さな(・・・)魔王のしもべに倒されて後、気付くと荒れ果てた聖堂にいた。


「誰か居ないか!」


 起き上がったワイラスは大声を上げるも、何の反応も無い。ここがどこなのか、ワイラスは理解していた。子供の頃によく来た、村の聖堂。

 人里離れた丘の上に建つ、多くの村人が集まったその場所には、壊れた天井から1筋の光が注ぎ、ワイラスを照らす。


 その村は既に無い。無くなった時のことを、悪夢として思い出す。魔物の大群が襲来し、逃げる者のために時間稼ぎとして村に残り戦う者と、村を捨てて逃げ出す者。子供だった自分は後者だった。

 そんな場所に、なぜか1人で立っている。残された記録によると、勇者は倒された際に、拠点にて復活する。

 そうか、魔王を倒した自分は、勇者と同じ死なない者になれたのだと理解した。そして、身につけた巨大な力は保持したままである事を確認する。


 この村を存在せしめていたのは、周囲の森。強い魔物もおらず、特別な力を持つ者で無くても収穫物を持って帰ることが出来る豊かな森だった。

 その森は昔と変わらずそこにあるが、森から漂う気配は同じでは無い。いつもあった鳥の鳴き声は無く、弱い生き物が捕食者から隠れるために息を潜めているかのような静けさ。そして遠くから聞こえる魔物の鳴き声。

 ある時を境に、豊かな森は危険な森に変貌した。神が与えた試練だとか、魔王復活の前兆だとか、自然現象だとか、噂だけが勝手に一人歩きした。本当の理由は、誰にも分からない。


 そんな危険な森だが、今のワイラスには危険では無い。故郷の村を滅ぼした魔物への復讐をするかのように、見つけ次第倒していく。前世の記憶を呼び覚ましたワイラスにとって、故郷はもう1つあるのだが、庶民として暮らしたこの村の思い出は、より深い。


 ここの魔物を全て倒せれば、村を再興できるのでは無いか? いや、今の力を持ってすれば、この滅びた場所に新たな国を立ち上げることも出来よう。そんな輝かしい未来の事を考えたが、それは大きな問題が片付いた時でいいだろう。

 今は、あの魔王のしもべを倒して、魔王軍を追い出さねばならない。その為には、今よりも強くならねば。そう思い、少しでも多くの魔物を狩ろうと、足を進める。

 広範囲の魔法により、群れをまとめて狩り尽くす。狩った物を素材とするには向かない方法だが、今はそれが目的では無い。やればやるだけ、自分が強くなっていく事を感じる。




 魔物の群れをいくつも殲滅する事を数日続け、もう狩る獲物も見付けられなくなってきた。探す時間が惜しいと思った時に辿り着いたのは、所属する教団が異端とする者達が住む都市だった。

 昔のワイラスは、故郷の村から逃げた他の者達と共に、相当長い時間をかけてこの都市にたどり着いた。そんな救いを求めてやってきた避難者達に対して、この地の領主は宗派を理由に市民権を与える事を拒んだ。その領主だけが狭量なわけではなく、大陸の他の地域でも常識的な振る舞いだったのだが、この時の印象が後のワイラスが異端に対して悪感情を持つ原因となっている。異端は、人として扱う必要が無いと思う程に。


 そしてワイラスは、この都市を魔物の群れと同じに扱った。

 姿を見るまでも無い距離から放つ魔法は、罪悪感を生み出さなかった。そして、この方法が魔物の群れを狩るよりもとても効率的に自らの力を増す事に気付いてしまった。

 異端狩りの跡地で、瓦礫となった倉庫で程よく焼けた獣の肉を食べる。ここ数日食べた魔物の肉より、人が食べるために集めた食材の味は美味である。このやり方こそが、自分には適している。


 本拠地の王都に行くには、魔王と戦った島とは反対の方角へ行かねばならず、時間が惜しいワイラスにはその考えは無かった。そもそも今の自分に、教団の承認など無くてもよい。そんな対話に値する者と出会う機会が無かった事で、ワイラスは自分の行いに疑問を感じる機会を得なかった。

 幾つもの都市を襲い、迎え撃つ軍勢を襲い、国を1つ消し去った。自らが異端にとっての魔王以上の脅威となるに至ったが、ワイラスの中ではそれは正当な行いだ。魔物を倒し、異端を倒し、魔王のしもべを倒す。教団が作り出した英雄と比べても、さらに世界に貢献していると感じる。


 記憶にある異端の都市を全て消し去って、やるべき事はあと1つ。魔王の手先を倒しに行こう。

 滅ぼした都市に寄港しようとしていた船をその力で支配下に置き、あの島に向かわせる。あの時と比べて遙かに増した自分の力なら、宿願も成し遂げられる。そう信じて、最後の仕事として、魔王のしもべを倒すべくその島に上陸しようとした矢先、空に異常は起こった。天が闇に包まれる。


 これも魔王軍の仕業だろうと、ワイラスは解釈する。これほどの異変を起こすのに、どれだけの力が必要なのか。自分の起こせる魔法の力は、これには及ばない。何か、途方も無い事が行われている。

 この異変がどのような物なのか、危険な物なのか、教えてくれる者は居ない。しかし、これを起こす者を倒せば、異変は終わらせられるだろうか。

 そんな事を行う者がいる場所へ、急ぎ向かわねばならない。


―――


 天高く、もはや空では無く宇宙と呼ばれる場所で、小さな物が光を放っていた。

 しかしそれらは、太陽に照らされても遠くから見えるほどの光は無く、地上の人々が気付けるのはその図形では無くそれが起こす現象。

 無数のゴーレム達は、大地から数千キロ上空に散らばって図形を描く。それは呼び出される物が巨大である事を意味する、召喚の魔法陣。

 巨大な物が、天体サイズの図形の上に呼び出され始める。


 呼び出される物のあまりの巨大さから、何が呼び出されているのか、地上からは分からない。なぜ明るい昼が、星も無い夜になったのか。

 地上の人々は、これも魔王の仕業かと恐れ、祈りを捧げた。




 呼び出された巨大な物に乗っていた人々は、不思議な光景を見た。

 日頃雪が降らない場所まで、冬でも無いのに雪景色になった寒さが、突然季節を変えた。太陽はそれまでより強く輝き、夏が戻ったような暑さを感じる。

 その時何が起きたのかを知る者は多くない。ほぼ全ての民は、神殿から布告された『世界の終わりが到来するときに救いを求める者は申し出よ』というよく分からない話を思い出し、世界の終わりが始まるのかと不安を払うために神殿に集まり始めていた。


 わずかな知る者にしても、伝言ゲームのように知り合いから伝わってきた内容は荒唐無稽で、何人かを経て伝わってくる間に嘘や大げさな言葉に置き換わったのでは無いかと思ってしまった。そして、伝言がほぼ正しいことを伝えていたことを知った。それを説明するため、自らを祭る事になっている神殿に姿を現し、不安顔の民を慰撫しなくてはらない。


―――


 混乱が始まっているオダワラの神殿。何事が起きたのかと、城に向かう者も居れば、神殿に向かう者も居る。


「本当にやり遂げてしまうとは、やる事が大きすぎて理解が追いつかぬな」


 サクラ達がやった事の大きさを考えながら、民に説明する妹の姿を見る。少し殺気立っているが、よく見かける光景だ。


 だが、何かがおかしい。

 民がオダワラの方で無く、天井であったり壁であったり、あらぬ方向を見ている。

 どういうことかと近づいていっても、誰とも目が合わない。


「姉さん…… これは、どう言うことでしょう?」

「……我らの事が、見えておらぬのか?」


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