11-18 空前絶後の大魔法
「時間だ。覚悟を決めろ」
「分かってる。始めよう」
そう言うと、空中から触手を伸ばしたゴーラが、僕らを包み込む。
これからやる事は、各個の持つ魔力では到底達成できないような、巨大な魔法。そんな時に魔力の供給速度を上げるには、巨大スライムになったゴーラに取り込まれた状態だと良いって分かってる。僕らの消費した魔力の穴埋めを、包み込むゴーラが速やかに行ってくれる様なのだ。
ゴーラはこの世界と元の世界にまたがって存在しているけど、こちらの世界に居る割合を増やして、飲み込んだ月にあった源泉の魔力を僕らに供給して貰う。ついでにここはこの世界にある源泉にも近い。そんな時のゴーラは、もはや全身がエーテルと言って良いくらいに膨大な魔力を持った存在になる。そんな源泉2つ分の魔力で、空前絶後の大魔法をやってのけようという狙いだ。
異世界5号でジョージBたちと始める、巨大な召喚の魔法。
見上げると、その果てが水平線の彼方に消える巨大な魔法陣の一部が見える。サイズが大きすぎて、正確に書けたか分からないのが難点だけど。
ゴーラの膨大な魔力と、この巨大な魔法陣。リンの計算上は、これで可能であるはず。
さあ、地球の召喚を始めよう。
少し遡り、元の世界でハコネ達を連れて行く覚悟を決めた後。ハコネとオダワラさんに、僕が何をしようとしているか説明した。
「待て待て。それはあまりに無茶じゃ。人間を多量に連れて行くのさえ難しいというのに、大地も全て持って行くなぞ、その何倍も大変じゃ」
何倍なんて物じゃないとは思う。60kgの人間を1億人運んだとして、総重量は6の後に0が9個の60億kg。それもすごい数字ではあるけど、地球の重さとなると桁違いの、6の後に0が24個。1億人の総重量と比べて、1000兆倍にもなる。米粒とピラミッドくらいの差だ。
「可能かどうかは、向こうでリンと計算してみる。何回かの召喚で、この世界から向こうの世界へ召喚するのに必要な魔力が分かってる。足りない魔力を補う方法もね」
「そこまでせずとも、1億人を連れていくだけでも、充分すごかろうに……」
「うまく行かなかったら、私達のために他の人達まで犠牲になってしまうでしょう。考え直した方が……」
そう言うハコネとオダワラさんの言葉を遮って、1番重要な事を伝える。
「ハコネもオダワラさんも、箱根の山も、一緒に作った宿も、この街も、城も、僕は何もかも全部持って行きたい。連れて行く何億もの人達だって、本当は思い出の場所があって、何もかも持って行きたい。アリサとマリは先に召喚されたけど、彼女達が最後まで迷ってたのは、この世界での故郷との別れ。実験の為に先に行くか、どうしても離れなきゃ行けない最後の時まで秦野にいるか、考えた末に来てくれたんだ」
「そうか…… だったら皆の為、やるしかない、ってわけじゃな」
そう言うと、ハコネは笑みを浮かべた。
異世界5号に戻って来て、記憶の実の話と元の世界の様子を少し説明。時間が無いので、やるべき事をテキパキと進めなくてはいけない。
「地球をまるごと召喚したい」
「また無茶を言う」
「無茶かな?」
まずは、それによって得られる物について、そしてそれを足し遂げる為の基本構想について。
とにかく膨大な魔力が必要だろうけど、それは月のエーテル全てを取り込んだゴーラが頼り。そして巨大な魔法陣の構築は、ゴーレム飛行機に相当する物を多数作り、それらを光線魔法でつなぎ合わせて空中に魔法陣を描き出す。
コンセプトを説明したら、リンが頬に手を当てて考え始めた。
「今までの実績で計算式が立てられる。ゴーラがどれだけの魔力を蓄積してるか、どれだけ供給を受けているか、それは調べてある」
異世界5号に戻って来て、リンに相談。リンは敵に侵攻に備える為、ここから離れられないけど、持ち場を離れず出来るサポートはしてくれる。
ここには計算機も何も無いけど、どうせ0の数が多すぎて6E+24とか書くのだから、計算機が必要な計算にならない。
地面にすらすらと計算を書き、桁数があってるか確認して、結果が出た。
「ギリ、セーフ。地球重量と同じという想定で、足りる。実際に同じなのか、測れていないから、その点は不確定要素」
「少し足りないと?」
「地球の大部分は来るけど、一部来ないとか。例えば…… 地球の表面側1000kmは持ってくるのに失敗とか」
それ、1番重要な部分を置いてきてるよね?
「一部だけ来るという事例は例がないから、多分失敗するとしたら何も起きない。ただ1%足りなくても、その分さらにため込むには数十年かかる。今ある分で無理なら、この方法は諦めるしかない」
数千年の間、月のどこかにため込まれていたエーテル。それをゴーラが月もろとも取り込んだから、ストックがある。それを全部使って足りないと、増えるのを待つ間に世界が終わる。そもそも世界が終わるまでの間、魔力の供給だっていつ途絶えるか。
「ゴーレム飛行機の制御技術は、一応出来てる。直線部分に36機、曲線は24分割でそれらしくするとして、あとは文字部分と…… 合計すると、120機欲しい。戦闘能力は不要、制作は簡単で材料もこの島にある。足りないのは、人手」
そう言うと、リンの姿がぶれて、12人に分裂した。
「言う事聞かないのも居るから、この人数が限界」
それを見て、みさきちがツッコむ。
「1人10機も作るの?」
「なぜ全部私が作る? みんな、同じ事をやる。出せるだけ、人数を出して」
広い場所にいくつもの人の輪。こっちのは、リンが2人にみさきち1人、長尾2人。あっちはリンが1人にジョージBと魔王と、あと長尾が1人。見た目的に、わけが分からない。
「我らは敵襲に備えて、見回りをするという事で……」
「こっちも大事よね。大事な作業を邪魔されたら困るし」
元が同じ人でも個性があり、あまり器用でないのも居る。リンは全員器用だけど、ガイウス、ルイ、オットー、ヨリトモの4人は戦力外になった。あとみさきちシスターズの3人ほど。
あと、アリサとマリも合流して、ゴーレム作成に勤しんでいる。
僕とまとめ役のリンは、完成したゴーレムを魔法陣のどの部位に配置するか決め、方向と距離を示して出発させる役目。早く出来たゴーレムを遠くに指定して、少しでも早く全てが持ち場につける様にする。これを自律的にやらせるとゴーレムのプログラムが難解になるので、そこは自動化しない。自動でやるとコスト高になる部分は手動。自動実験装置のセオリーだ。
そんな作業を行って、全ての配置が完了した。
すぐにでも召喚を始めたい所だけど、その前に元の世界の人々に決行を伝えないと行けない。ハコネにも、まだ可能かどうか計算してみるとしか伝えてないから。
守りの要であるリンと、連絡役のためにガイウス達4人を残して、皆でスライムのゴーラに飛び込む。世界を繋ぐ流れを通り抜けて、元の世界へ、ハコネ達が待つ小田原の神殿へ。
ジョージBや魔王、はそれぞれの支配地域に急ぎ連絡。長尾やみさきちも同様だ。あとは、在来の情報網に載せるべく、必要箇所に伝える。
「どうじゃった?」
「大丈夫、やれる」
そう言うと、ハコネが少し涙ぐむ。
「まだ早い。うまく行くかどうか、これからだから。決行は明日の朝」
「その時、どこに居ればいいのでしょう?」
オダワラさんの質問はもっともだ。でもこれも、記憶の実から得た情報で、答えがある。
「上空6000km以内の場所なら、大丈夫」
「そんな遠い所に、誰がおるか。って、ゴーラの一部が居るから、呼び戻さねばな。急がねば!」




