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11-16 記憶の実

 いつか見た景色をまた見ている。何もない青空、芝の様な草が覆う地面。

 2回目となれば、周りの物を観察する余裕が出来る。


 太い枝を伸ばした巨木、枝にぶら下がる大きな果実、地面に転がっている無数の種。

 そして、枝に腰掛けている少女。以前は僕と同じ見た目だったのが、今回はリンと同じ見た目をしている。

 ウルモズルという神様(?)は特定の決まった姿が有るのでは無く、僕の記憶にある何かを模した姿で現れる。それが彼女(?)について、前回学んだ事だ。何故今回はリンの姿なのかは分からないけど。


「ようこそ、ここへ。そなたと再び会えてうれしいよ」

「あそこで倒されて、復活の前にここに呼ばれた?」

「そなたの解釈で、良いだろう。面白い試みを見て、機会があれば呼ぶつもりだった」


 世界の境界を越えてしまったのが、目に付いたのだろうか。それを(とが)められても、変えるつもりは無いけど。


「そなた達の試みを、止めるつもりはない。世界群を繋ぐ仕組みは我が意志であり、実施できるようにしてある事も我が意志である。そなた達の試みは、何度も行われたありふれた物だ。もしそれが試行の価値を落とす物であるなら、仕組みを書き換えて再度走らせるのみだ」

「ありふれているのに、僕をここに呼ぶくらいの興味を持ったのは、なぜです?」

「本当にそれで良いのか、聞きたかったからだ。世界の大多数を連れていこうという試みに、本当に連れて行きたい者を残して行く。それで良いのか、と」


 連れて行きたいが残して行く者。それはハコネ達、あの世界の女神とされている者達だ。

 なんちゃって女神になっている僕、権限だけ借り受けているみさきちは別として、ハコネ達は異世界に行かれない事が分かった。理由が分かっている訳では無いが、僕らの推測としては、土地の名を冠する女神はその土地と切り離しては存在出来ないのかも知れない。


「さて、折角だ、君達のやり方でもてなそう」


 そう言うと、巨木の下に焚き火とキャンプ用の椅子2脚が現れる。


「キャンプ? そんなのんびりしてる訳には」

「急いでも急がなくても、そなたの世界の同じ時へ戻す。こことそなたの世界で、時間の流れは繋がってはおらぬ。気にせず、知りたい知識を幾らでも持って帰るが良い」


 そう言われて、リン姿のウルモズルと並んで座る。キャンプ、リン、って、それは違うリンじゃないか~という突っ込みたい。

 いや、焚き火とキャンプ用の椅子も、そしてリンの姿も、僕の記憶から作られた物だというから、突っ込まれるべきは僕の方か?


「前に来た時は、再生された世界に僕らを連れて行く事が出来ないと言われました。それなのに、僕らがその世界に行こうとするのは、構わないと?」

「連れて行ってくれと言われたら、それは断る。しかし、すでに決めた仕組みの中で、自ら道を開いて進む事を妨げる物では無い。私は何も与えない。何も奪わない。仕組みを動かし続けるのみだ」

「でも、知識はくれると?」

「我は与えはせぬが、自由に持って帰るが良い」


 ここに居て、ウルモズルから聞く以外に、どうやって知識を得るのだろう?

 何かをすると、この世界の記憶が本として現れたりするだろうか?


「記憶の実を拾い、そこへ()べるが良い」

「記憶の実?」

「幾つも落ちているだろう。そなたは前回来た時、持って帰っておきながら、役立てないだろう? ここで試して、役立て方を身に付けて行くが良い」


 記憶の実というのは、地面に転がる種の事か。それに持って帰った種の事がバレてるし。

 それで、焼べるという事は、この焚き火はそのためにあるって事かな。一番近い所のを拾い、恐る恐る焚き火の近くへ。この焚き火、見た目に反して全然熱さを感じないや。

 そのまま記憶の実を焚き火の中に入れる。




 記憶の実をいくつ焚き火に入れただろうか。

 焚き火はその度に煙を吐き、僕を包んで実の中にある記憶を見せた。


「どうだ?」

「正直良く分りません。幾多の人達が、世界の終わりにそれを回避しようとして、失敗した事しか分かりませんでした」

「得る物はあったではないか。記憶の実から記憶を読み出す方法を知れた。それに、そうやって拾い上げた記憶の実に、そなたが望む結末(・・・・)が記憶されていないのは仕方が無い。もしここ(・・)にある全てを見たとしても、無いはずだからな」


 見回すと、巨木の根元に無数にある記憶の実。それらが全て、望む結末を得られなかった世界なのか。


「さて、そなたへ問いたい事は問うたし、帰りたいならばいつでも帰そう」

「あと1つ。この焚き火は何ですか?」

「焚き火とは、何かを反応させて熱や光として取り出す変換反応を維持している場所だろう。そなたがこれをその様な物と認識したから、焚き火に見えている」


 じっと焚き火を見る。見た目には焚き火だが、先程から炎は動かず、音も発しない。これは焚き火の様に、木が燃えている訳では無い。


「もう良ければ、道を開こう」


 そう言うと、扉が現れて開かれる。その先は、また僕の部屋みたいだ。


「そなたが望む結果になるか、ここから見守っている。そなたらの残す記憶の実が、希なる物にならんことを」


 希な記憶の実、それはすなわち、望む結末を迎えた世界。その為に、この扉の向こうへ帰ろう。




 巨木の下の扉をくぐると、玄関。部屋に入ると、ハコネが待ち構えていた。


「何かあればお主がここに戻る。それもこれが最後じゃろうな。この部屋も、この世界の一部じゃ。次はこの部屋に復活なんて事も出来まい」

「もう本当に最後のターン、って事か」


 僕が不在の間に起きた事を聞く。ハコネが知らない情報は、別途リン達から聞くとして、まずはこの地域の状況。

 異世界に行きたいと言う人々は、かなり増えたらしい。割合としては5割を超えるくらい。今の生活で不自由が無いのに、来る実感の無い終末に備えてというのは、なかなか受け入れがたいか。どちらかというと、今不満を抱えた人が、一発逆転を期待して異世界に行きたいと言っている様で。そう言う人ばかりで、新世界は大丈夫か、という懸念も出て来た。


 続いて、外交を繋ぐ。リンに繋ごうとしたが繋がらない為、みさきちに繋ぐ。

 僕が倒された原因のアイツは、リンが仕留めた。しかし、勇者に相当する存在になっているそうで、本拠地で復活している事が分かった。すぐ行って倒そうというジョージBと、倒しても復活するから再び害を成すまで放置のリンで意見が分かれたが……


「各地で強大な魔法による被害が散見されているわ。昨日までに、20もの国が滅びた」


 リンに倒され、さらに強くならねばならない事に気付いた。その方法として、良からぬ事に気付いてしまったらしい。経験値稼ぎをしてレベルアップを上げるのに、強者との戦いを行わずとも、弱者を大量虐殺する事でも可能である事に。

 異教徒征伐という名目を掲げて、暴虐の限りを尽くした。アリサ達が居るあの島も、リンが不在になれば攻撃を受けかねない為、リンは離れる訳に行かない。妹に全てを任せる気は無いという長尾、戦う意志が固いジョージBプラス(魔王などと合体した状態)もそこに居る。みさきちだけがこちらの世界に連絡役として戻って来たそうだ。


「それでも計画は進行中よ。外は……まだ出てないか。こっちの世界も大変よ。こういう世界の終末って、想定外だったわ」




「こういう事か……」


 外は箱根。景色は雪景色。って、まだ9月なのに。標高が高いとは言え、普通はこうはならない。

 真っ白の少し薄暗い空から、雪が降ってきている。

 世界全体が、秋を飛ばして冬になろうとしていた。


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