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11-14 戦力の逐次投入は失敗の元

「姿が無いが、逃げたか?」


 見回しても、大魔王という女、それとお供の連中は見当たらない。

 跡形も残さないほどの威力がある魔法なら、倒せたという証拠も残らないが、倒したのが逃げられたのか。


「フフフ…… この力、素晴らしい」


 その声の方を見ると、司祭とその頭上に巨大な火球。これを司祭が?

 司祭は攻撃に適した魔法をあまり使えないような事を言っていたが、この火球はこれまでより数倍大きく、マルレーネが作り出せる限界を超える。


「これ程の力が手に入ったという事は…… 原因は魔王か。あの魔王を、この手で倒せたのだな」

「レベルアップか。だが、俺には何も変化は無いが」

「私の魔法で倒したからだろう」


 この司祭の魔法が、大魔王を倒したという証拠になるかも知れないが、これで城に帰って良いのだろうか?


「奴らがこの地に築いた拠点が気になる。それを調査してはどうか?」

「私は特に反対はせぬ。急に増した力にまだ慣れぬ事もあるので、色々試したい。夜までには船に戻るように」


 そう言うと、司祭は兵士達を引き連れて来た道を戻っていく。砂浜で魔法の実験でもするつもりだろう。


「マルレーネはどうする?」

「……行く。この世界に来る前の私について、分かる物があるか探す」


 そういえば、俺もそう言うのは知りたい。大魔王が言っていた事が本当なのか、それが知れたら良い。知れたからと言って、大魔王を仲間と思うかは分からないが。


―――


 サクラが倒されるという予想外の事が起きたので、一時撤退して各所に外交を繋いだ。お兄ちゃんと武田丈二、美咲と魔王。そんなメンバーで、これからどうするのかを話し合う為。

 美咲が向こうで起きた出来事を簡単に説明する。


「あっさり負けてんじゃねぇ。まったく。しかしまあ、若返ったあいつら(・・・・)か」


 武田丈二はそんな事を言っているが、表情は何やら楽しそうだ。そう言えばあの子は彼の元奥さんだから、そっちの無事が嬉しいのだろうか。その元奥さんに、その記憶は無くなってそうだけど。


「見た目はああでも、サクラの力はかなりの物だったんだろう? 倒されるってのは思いもしなかったな。あの2人はそれ程強かったのか」

「いや、こっちではそんな人間離れした人達じゃ無かったわね」


 お兄ちゃんに疑問に美咲が答える。

 厳密にはその2人に倒されたのか分からないけど、あと1人が何をやったのか良く分らないので、暫定的に相手はその2人。


「サクラはまた来月まで出てこれないんじゃ、その間の事は俺たちで何とかするか」

「月末だったらすぐ復活だったのに、まだ月初めなこの時期ってのが痛いわね」

「いや、そもそも、復活出来るのだろうか?」


 復活出来ない? そんな魔王の疑問に、忘れていたその可能性を思い出す。倒された場所がこの世界で無い場合、復活が可能なのかは誰にも分からない。

 あちらにはターンの概念が無いのだから、次のターンに復活なんて出来るのだろうか? 思っても居なかった永久の別れの可能性に、雰囲気が沈む。


「向こうで、召喚で呼び出してみるのは?」

「それもやってみるのが良いだろう。だがその前に、問題の2人をどうするかだな。元が元だけに、倒してしまうのも気が引ける」


 魔王にとって気が引ける相手は、倒す対象の2人で無くサクラだろう。自らに危険を顧みず説得したのに、不在の間に倒されてしまったとあっては、何の為にやったのかと言う意味で。


「だったら、俺が行こうじゃ無いか。元嫁でもあるしな。で、ちょっと手伝って欲しい奴がいるんで、魔王は後で宜しくな」


 何を手伝わされるのか怪訝そうな魔王を残し、この場は解散。翌朝、再度あっちの世界に行く事になる。


―――


 森の中にひっそり建っている、石造りの建物。かなり手前から塔の先が見えていたが、近付くと要塞らしき建物な事が分かった。たしかこの島には魔王の復活が無いか見張る為の元要塞があったと聞いていた。あまりに長い時間が過ぎて、やがてその任務は放棄されてしまったそうだが。


 外周を見て回ると、数百人は滞在出来そうな規模だが、大部分は使われている様子が無い。厩舎らしき部分は荒れたままになっている。しかし建物には雨風が入らないように修復してある部分があり、それらは建物と比べてかなり新しい。最近使われたようだ。中に何かあるかも知れない。


 建物に入ると、人の気配があった。探ってみると、中年の男、そしてエルフが3人。


「何者だ?」


 中年の男が問いかけてくる。その男は武器を持たず、俺たちと来た司祭と似た服装。

 話を聞くと、男は前の偵察で来て魔王に捕まってたそうだ。そう言えばそんな事を司祭も言ってたな。生きている(・・・・・)とは聞いてなかったが。


「彼女達が来ないで君達が来たというのは…… 倒したのか?」

「倒したのは俺たちじゃ無いが、似たような物だ」


 それから、この捕虜が魔王達と何を話したのか、奴らの素性について色々と聞き出した。

 捕虜になったにもかかわらず、魔王達への悪感情がほとんど無さそうな彼は、むしろ魔王が倒された事を嘆いていそうな感じすらある。

 ともあれ、彼は俺たちと一緒に船に来てもらう事にしよう。


「それでそっちのエルフ3人は?」

「俺は……」

「私達は、ここで魔王様のお世話をする為に連れて来られました。その魔王様がおられないのなら、もうする事もありませんが、そのまま忘れて頂ければと」


 この島が気に入って、3人でそのまま住むつもりらしい。それを禁じるルールがあるのか俺は知らない。今夜船に戻ったら司祭に相談するか。ダメなら、明日の朝迎えに来て、大陸に連れて行けば良いだろう。


―――


「アリサさんのとっさのお芝居、見事でした」


 俺が別の事を言おうとして、それをアリサさんがとっさに止めた。そして、連れて来られた一般人の振り。不審がられてはいたけど、害は無いと思って彼らは帰ってくれた。マルコは連れて行かれてしまったが。


「それにしても、サクラさんが倒されてしまうなんて、そんな事があるんですね」

「詰めの1番大事な時期に不在とか、(たる)んでる」


 母さんと感想を言い合うも、考えないと行けない事は多い。

 とっさに連れて来られた一般人の振りをしたけど、あちらの大陸に連れて行かれても厄介だ。夜の内にこっそり山に隠れようか?

 1ヶ月隠れていれば、サクラさんが戻ってくる。いや、本当にそうだろうか?



「これでどうだ?」


 リンさんがやっていたスライムネットワークとの通信を、自律魔道具に蓄積させる実験。向こうの戦闘機に搭載されていたゴーレムの中枢部分を、リバースエンジニアリングして作った試作機。マナの消費効率を改善出来ず向こうでは実用化出来なかったが、こちらはマナが濃いのか稼働出来ている。


「アリサさんも、読めます?」

「問題無いわね。ところでこの通信網、あっちの世界にも繋げられないのかしら?」

「ふむ。源泉を通過するスライムなら、情報をパケット化して運べそうだな」


 戻る事は出来ないが、情報のやり取りは可能にしたい。


―――


「準備は良いな?」

「ああ」


 魔王に続き、他の4人も頷く。


「では一時的に、お前達の力も借り受ける!」


 円陣を組んで中央で手を重ねる。特に決まった形は無いそうだから、雰囲気で決めた。


 目を開けると、5人が消えて残ったのは俺1人。初の合体に成功だ。


「この状況だと、21人分のリンが最強だろうな」

「俺は6人でも、それ以上の事をやってみせるさ」


 長尾、リン、美咲、そして俺が、分身達と合体して可能な限りの強化を行い、立ち向かう。

 小出しにせず、最大戦力をぶつける。これで勝てないというなら、お手上げだ。


「じゃあ、征くか」

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